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抗不安薬

  時折,精神科医は子どもが不安に対処するのを助けるためにベンゾジアゼピン系抗不安薬を処方することがあるでしょう。エチゾラム,アルプラゾラム,ジアゼパムなどといった薬は,すべて抗不安薬です。それらはたいてい、子どもの不安経験を軽減するのに非常に有効です。しかも圧倒されるような不安に対処する,手頃で一時的な解決策であることがしばしばです。


  不安に圧倒されるというのは恐ろしい感覚です。しかも私たちが不安に思うものは,心配する理由がほとんどないか,あるいはその心配と状況とが不釣り合いな場合が多いのです。例えば,知っている人が二、三人しかいないであろうパーティーに行くことを不安に思うのは当然の範囲でしょう。しかし,心配にあまりにも圧倒されて家から出られなくなってしまうのは問題です。心配に圧倒されて抗不安薬を服用すれば20分で気分が改善し,そのパーティーへ行けるでしょう。

  しかしながら次に同じ状況が生じたとき,再び薬を飲まなくてはなりません。私の個人的な治療哲学としては(これは全くの私見ですが),不安は人生の一部です。不安を管理するスキルを発達させることが重要です。これには認知療法が役立つでしょう。


  激しい不安に駆られた時に抗不安薬が非常に有効となりうることは間違いありません。しかしこれらの薬には習慣性というマイナス面があるのです。したがって,これらの薬を長期にわたって定期的に用いることはできません。皆さんの子どもがこれらの薬の一つを処方された場合は,明確な終了計画が用意されているか,あるいはその薬が差し迫った必要時のみ服用するよう,制限されていることを確認してください。さらに,これらの薬は,脱抑制効果を持つ可能性もありますーーつまり,子どもによってはこの薬によってより衝動的になり,それが自傷の回数を増やす結果となりかねない場合があるということです。この副作用はアルコール依存の強い家族歴がある場合に,より生じやすくなるようです。



  皆さんの子どもが精神科医から薬物療法を勧められ,皆さんの質問に対してもすべて納得のいく回答が得られたならば,それらの薬を試してみることをお勧めします。その際,皆さんと子供は,そのメリットとデメリット(副作用)を慎重に天秤にかける必要があります。例えば,子どもは過去に早まった判断をしたことで危険な行動を取ってしまった経歴があるとします。その場合,薬を使用するメリットはデメリットを上回るかもしれません。その一方で,子どもは学校、運動,友人関係に積極的に関わっており,自傷は対人的な衝突があったときに限られるとしたら,その場合は薬を使用するデメリットがメリットを上回ってしまうこともあります。


  DBTと薬物療法を併用しても皆さんの子どもにとって十分な助けにはならない場合には,より集中的な入院または外来の治療プログラムを考慮すべきかもしれません。

  皆さんの子どもがこのレベルの介入を必要としていると言われると動揺してしまうかもしれませんが,より集中的なプログラムはうまく利用すれば非常に有効となり得ます。



「自傷行為 救出ガイドブック ―弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著

気分調整薬

  気分調整薬は,まさに名前通りの作用を及ぼします。すなわちこの種の薬は,これらの子どもたちにしばしば見られがちな,気分の極度な変動を調整することで気分を安定させます。


「まるであの子はジキル博士とハイド氏のようなのです」

ブライアンの母親は私に言いました。

「ある瞬間には世界は何もかもが良いかと思うと,次の瞬間には,息子は自分自身とすべてのもの,他のすべての人々に恨みを抱いているのです」



  気分調整薬として用いられる薬には基本的に三つの種類があります。最も長く使用されてきたのはリチウムです。痛風の患者をリチウムによって治療していた医師たちが,二百年前にその気分安定効果に最初に気づきました。しかしこの薬は,1970年代後半まで気分障害の治療に承認されませんでした。リチウムを服用している患者は,血中薬物濃度が高すぎないことを確認するために定期的な血液検査を行う必要があります。血中薬物濃度が高すぎると人体に有害となる恐れがあるからです。その他の副作用としては,顕著な体重の増加が見られます(残念ながら,これは子どもの気分を安定させるために用いられる薬の多くに存在する副作用です)。


  第二の種類は,バルプロ酸ナトリウム,ラモトリギン,トピラマートといった抗けいれん薬です。定期的に血中薬物濃度を調べる必要があるものもありますが、その必要がないものもあります。これらの薬には体重の増加を引き起こす傾向が幾らか見られますが,トピラマートは例外で,食欲を抑制します。子どもたちに時折見られるトピラマートの副作用は,動作がゆっくりになる,あるいは思考が緩慢になることです。


  第三の種類は,低用量の抗精神病薬です。特に比定型として知られている種類が用いられます。この種の薬には,リスペリドン,クエチアピン、オランザピンが含まれます。気分安定効果に加え,これらの薬は不安,睡眠困難,および衝動性の治療に用いることもできます。他の気分安定剤の場合と同様,非定型抗精神病薬も体重増加を引き起こす恐れがあります。また糖尿病の増加とも関連づけられてきました。低用量でも,これらの薬は子どもに一種の無気力と意欲のわかない気分を引き起こすことが時折あります。



次回は「抗不安薬」を紹介します。


「自傷行為 救出ガイドブック ―弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著

抗うつ薬

  抗うつ薬にはいくつか種類がありますが、最も一般的に処方されるのは選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)です。SSRIにはフルオキセチン、パロキセチン、セルトラリンなどがあります。SSRIは不安を改善する効果があると考えられ、抑うつ状態と不安がある場合に処方される可能性があります。抑うつに苦しむ人々は脳内のセロトニンの量が十分でないと考えられることから、SSRIは、より多くのセロトニンを脳が利用できる状態にすることでこれを改善します。これらの薬は通常、効果が出始めるまでに46週間かかりますので、即効的な結果を期待してはいけません。SSRIは抑うつの治療における非常に強力なツールとなり得ます。以下に二つの重要な副作用について簡単に説明しますが、それを除けば、比較的穏やかです。しかし最も重要なことは、皆さんと皆さんが一緒に取り組んでいる治療チームが、皆さんの子供が真の抑うつ状態にあるのか、それともありふれた深刻な不幸に包まれているのかを区別することです。


  副作用はどのような薬物療法にもある問題です。SSRIも決して例外ではありません。副作用には不眠、嘔気、および軽い筋肉痛があります。これらの症状は一般に、穏やかで一時的なものです。注意すべきは、診断はされていなくても双極性障害を持っている子供がSSRIを服用すると、より深刻な問題に直面することになります。この種の薬は躁病エピソードを誘発することがあります。観念奔逸(考えが次から次へと浮かぶこと)、不眠、焦燥やイライラの高まり、誇大思考、そして過剰なエネルギーなどがその症状です。過剰なエネルギーなどは、最初は抑うつ気分と対照的で歓迎されるものと感じられるかもしれませんが、すぐにより多くの問題に至ります。皆さんの子供が抗うつ薬をほんの数回服用しただけでエネルギー過剰になってるように思われた場合には、処方医に連絡してください。


  2番目の深刻な副作用はこれまで随分と議論され、今でも論争の的になっています。それはSSRIが自殺思考を増大されることがあるというものです。これらの薬には「ブラックボックス警告」【訳註:薬の外箱に印刷される黒枠付きの注意書き。米国食品医薬品局の要請による警告のこと】が添付されてさえいます。抗うつ薬はなんであれいくらかエネルギーを増すということは知られており、時折この新たに増したエネルギーが自殺的思考に向けられることもありますが、SSRIが大人よりも子供にしばしばこれをもたらすという根拠をめぐって議論が交わされています。自殺念慮を増すという副作用は、この種の処方される子供たちの2〜4%に存在するように思われます。皆さんの子供が抗うつ薬を服用し始めた後、自殺思考を経験しているように疑われたら、即座に医師に知らせてください。



次回は、「気分調整薬」を紹介します。


「自傷行為 救出ガイドブック ―弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著

薬物療法

  薬物療法(向精神薬の使用)は、自傷を行う子どもたちにとってしばしば外来治療の一要素となります。精神科医への紹介は、たいてい個人セラピストからなされます。薬物療法が皆さんの子どもにとって有効かどうか聞きたい人はセラピストに尋ね、精神科医を受診することをお勧めします。どのような薬を勧められるにしろ、そのメリットとデメリット(副作用)についてよく理解してください。最善の方法は、資格を持つ児童精神科医か、子どもの患者を多く診ている精神科医に皆さんの子どもを診せることです。恥ずかしがってはいけません。副作用についてよくわからなければ、何を期待し、どのような心構えをすればいいか、確信が持てるまで質問を続けてください。

  現在、自傷を直接の対象にした薬はありません。しかし感情的な苦悩を軽減し、気分を高揚させ、衝動性を軽減し、さらにこれらの青年期の子どもたちに特徴的な感情の揺れを安定させるために間接的に働く薬は幾つかあります。薬はそれだけで単独で十分であることは滅多にありませんが、子どもがDBTセラピストと治療に取り組むうえで素晴らしいサポートとなるでしょう。

  残念ながら、子どもに処方される向精神薬の多くは子どもに対する厳密な臨床試験を経てきていません。これらの薬が大人に効果があることはわかっていますが、子どもに対して長期的にどのような影響があるかを明言することは本当にできないのです。しかし抑うつや、その他の精神疾患は子どもを無力にさせかねません。臨床場面で、私たちは適応があるときに薬を使用しないと状況をますます悪化させることがあることを経験します。

  次回以降、比較的一般的に用いられている薬について簡単に説明します。皆さんが処方医にどのような質問をしたらいいかを検討する際の、あくまで参考のためのガイドラインとしてください。


次回は「抗うつ薬」を紹介します。

「自傷行為 救出ガイドブック ―弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著


グループ療法

  一般的な青年期の子どものグループ心理療法では、48人の子どもたちが一緒に、1人か2人のセラピストと定期的に会います。グループには時間制限が設けられるーーたとえば12セッションのみーーこともあれば、グループのメンバーが自分を価値あるものと感じるようになるまで継続されることもあります。グループによっては、現代の米国文化において男子であるというのは何を意味するのか、といったようにテーマを設けることもありますし、あるいは社会的なスキルを教えるといったように特定の目的を定める場合もあります。ほとんどの子どもたちにとってグループ療法はとても役立ちます。なぜなら、彼らは大人よりも同年代の仲間からの方がフィードバッグを受け入れやすいことが多いからです。しかし、自分の問題についてフィードバッグを受けるということは、それがどのようなものであれ感情的に負担のかかる経験であることに違いはなく、青年期の子どもたちのグループにおいても決して例外ではありません。


  高度に構造化され、スキルに基盤を置き、感情表現を制限されたグループは、自傷を行う青年期の子どもたちにとって最も有益なものとなるでしょう。これこそがDBTグループ療法が行おうと努めることです(ときおり、DBTセラピスト以外のセラピストにかかっている子どもたちが、DBTのグループ療法に紹介されることがあります。これは何ら害はありませんが、このような子どもたちは、個人DBTDBTグループ療法の両方を受けないと治療の恩恵を完全には得られないでしょう)。



次回は「薬物療法」をご紹介します。


「自傷行為 救出ガイドブック ―弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著

DBTを補完する治療

  DBTセラピストは、DBTを支えるために追加治療を勧めることがあります。どのような治療が推奨されようとも、それは当の子どもが自分の感情を管理することで熟達するよう助けることを目的としたものである必要があります。以下に皆さんのセラピストが提案する可能性が最も高い補足的治療について簡単に紹介します。

家族療法
  家族療法は、最もよく処方される追加治療の一つです。これは、家族内の要因が個人の問題を発症させる一因となるという前提に基づいています。これらの要因を同定し改善できれば、その家族システムはそれらを解決する助けをすることができるというわけです。しかしながら、家族療法は、それが有益であればあるほど、強力で挑戦的な感情を呼び起こします。今までに家族療法に参加したことがある方なら、私の言わんとしていることがわかるでしょう。参加したことがない場合は、ちょうどセッションで皆さんの子どもと他の家族の人々と一緒に座り、自傷やその他の敏感な家族の問題について話し合おうとしているところを想像してみてください。家族療法は、自傷を行う子どもに対して彼らが最も甚だしく欠けている能力の一つを用いるよう求めるのです。

  驚くべきことではありませんが、自傷する子どもたちの多くは家族治療を一般的に次の三つの方法で対処します:①まるで死んでしまったかのようにほとんど沈黙して過ごす、②最もありきたりな話題についての話し合いにしか進んで関わろうとしない、③逆上し、飛ぶような勢いで出口のドアへと向かう。

  家族療法を勧められた場合、それをより有効に用いるのに役立つ可能性のある提案をいくつか紹介します。第一に、個人療法と家族療法のそれぞれが治療のタスクとして想定していることは何かを明確に把握してください。そのセッションは家族メンバーが自分自身の感情を表現する、あるいはコミュニケーションの道を拓く機会である、というようなことを聞かされた場合は要注意です――これは原則的には素晴らしい考えですが、制限のない話し合いは、現状では皆さんの子ども(あるいは皆さん)の手に余ることがあります。自宅で制限のない話し合いをするときにいつもめちゃくちゃになってしまうとしたら、セラピストの診察室でうまくいくとはもっと考えにくいでしょう。その一方で、セラピストが治療のタスクを効果的なコミュニケーションと感情調整に必要なスキルを学習し、練習するための非常に構造化された機会として概要を説明した場合には、即座に同意してください。

  第二に、タイミングがすべてです。皆さんの子どもがいくらかの感情調整スキルを発達させる前に家族療法を受けることに果たして意味があるかどうか、考えてみてください。家族療法に参加することは重要ですが、反面皆さんの子どもを混乱させ、帰宅後に自傷することにもなり得ます。このような精神的に負担のかかる話し合いに、メリットはほとんどありません。

  家族療法の代わりに、家族ガイダンスなど、家族への教育に参加する方がより役立つことがあります。一般に、子どもの治療の訓練を受けてきた精神保健の専門家は、親の役に立つために必要なスキルも学んでいます。このようなセッションは、皆さんがよりうまく皆さんの子どもの苦痛に反応し、問題に対する皆さん自身の心配に対処するとともに、子どものセラピストとうまく取り組んでいくことができるような助けとなるでしょう。


次回は「グループ療法」について紹介します。

「自傷行為 救出ガイドブック ―弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著

DBTセラピストの見つけ方

  DBTは比較的新しい治療法であるため、トレーニングを受けたセラピストを見つけることは必ずしも容易ではありません。

  皆さんが関わる医療機関や精神保健センターのソーシャルワーカーに、DBTセラピストを知っているかどうか尋ねることができます。時折、心理学者とソーシャルワーカーから成る地域の協会が良い情報源となってくれることがあります。また、皆さんの地元の精神科クリニックや、児童精神科外来を有する病院に尋ねることもできます。

  DBTのセラピストとなってくれそうな人を見つけたら、皆さんが尋ねるべき、ある重要な鍵となる質問があります。

1、そのセラピストは集中トレーニングコースを受けたことがありますか?

2、全体的なコンサルテーション・チームが存在しますか?

3、治療時間外にスキル訓練のためのきちんとした機能が存在しますか?

4、そのセラピストは青年期の子どもに広範囲にわたって取り組んできましたか?

セラピストが集中トレーニングに出席したことがあると非常に有益ですが、そうでないからといって交渉決裂とすべきではありません。しかしこのような場合には、上に挙げた質問の2番目と3番目が皆さんの決断を下す際にいっそう重要となります。


ふさわしいセラピストを選択するためのガイドライン

まず間違いなく、子どもとセラピストとで行われる個人治療が中心的治療計画となるでしょう。

したがって、子どもと皆さんの両方がそのセラピストと良い関係を築き、満足に感じられるようにしてください。皆さんはその人物を信頼し、協力できると感じる必要があります。また、治療前にも治療中にも皆さんの質問に答えてくれる人物である必要があります。しかしながら、そのセラピストと良い関係を持つことだけでは十分ではありません。


理論的志向

セラピストは、治療を導く助けとするための理論を持つ必要があります。自分は特定の理論的志向を持っていない、あるいは自分は「うまくいくことをするだけだ」と言うセラピストには、不安を覚えます。心理学的理論はセラピストが有効で関連のある介入をするために、自分の患者の行動を理解しようとする上で役立ちます。皆さんがDBTセラピストではない人と話をする際には、そのセラピストがどの理論的志向に基づいて自傷を行う子どもたちを理解するのか、尋ねてください。治療を行う上でそのセラピストが用いる心理学的理論が具体的にどのように実践されるか、皆さん自身ができるだけ完全に理解するようにしてください。


学位と経験

私の経験では、学位は、次の事柄と比べたらさほど重要ではありません。


1、セラピストは自傷を行う人々に取り組んだ経験を少なくとも数年間は持っているべきです。

そしてその特定の治療が、子どもの自傷の問題に対してどのように取り組むことになるのかを説明できなくてはなりません。

2、セラピストは青年期の子どもの治療に熟練しているべきです。

3、セラピストは、治療における親の役割と、セラピストと患者間の秘密保持の範囲と限界について明確な考えを持っているべきです。



次回は「DBTを補完する治療」を紹介します。


「自傷行為救出ガイドブック ー弁証法的行動療法に基づく援助ー」マイケル・ホランダー著

DBTは『これまでの治療と同じ』ではない

  DBTの効果を立証した最初の研究は1990年代初期に発表されました。治療プロトコルとして、一年間の個人心理療法と一年間のグループによるスキル訓練が設定されました。この研究はDBTと、私的なセラピストや精神保健センターでのより長期にわたる対話療法を受ける「これまで通りの治療」とを比較検証しました。研究者たちは、特に、これまで通りの治療を受けた人々と比較して、DBTを受けている人々は、意図的な自傷や自殺企図の比率がより低く、精神病院の入院日数も少なくないことを明らかにしました。

  これは特に青年期の子どもを治療するよう計画されたものではありませんでしたが、1990年代半ばに向けてアリス・ミラー、ジル・レイサス、そしてマーシャ・リネハンは、自殺傾向がある、または自傷する、あるいはその他様々な形態の危険行為を行う青年期の子どもを対象とした改造版DBTを開発しました。青年期の子どもは個人DBTで週に1回面接を受け、さらに親または保護者と一緒に週に1回、複数家族スキルグループに参加します。標準DBTでは一年間だった治療期間はわずか12週間へと短縮され、スキルグループには常に親か保護者が同伴することになりました。

  1998年に私たちは、DBTが最善の治療であると思われる青年期の子どもを対象に、マサチューセッツ州ケンブリッジの診察室で外来患者用集中的プログラムを開始しました。これらの青年期の子どもの多くは、自傷するか、あるいは自殺念慮、うつ状態、および摂食障害に苦しんでいるかのどちらか、もしくはその両方でした。彼らは週に五日、一日4時間のグループ治療に参加し、その時間にDBTスキルの全カリキュラムを教えられました。彼らはまた、DBTセラピストと週に1回か2回、個人治療しました。親は、子どものセラピストと週に1回面接することと、DBTスキルグループへの参加を通してプログラムに積極的にかかわりました。

  私たちのプログラムで成功を得た子どもたちは、2,3週間という短期間で「治癒」したわけではありませんでした。しかしながら、彼らは実際に顕著な進歩を遂げたのです。要約すると、青年期の子どもの抑うつ状態、不安、怒り、およびそのほかの心理的苦悩の経験が顕著に低下し、正常域内になりました。加えて、境界性パーソナリティー障害の症状と自傷的思考および行動が顕著な改善を示し、さらに感情調整スキル、自宅や社会的状況での機能の発達にも同様の改善が見られました。

  私の経験上、DBTによって子どもは心理的苦痛と抑うつが全体的に減少するだけでなく、3か月から6か月の間に自傷行動も劇的に減らすことができます。多くの場合、彼らは週1回の個人セッションとスキルグループセッションをさらに6か月から1年間続けます。追加治療は、彼らが自分の獲得したことを保持し、より標準的な10代の子どもらしい生活を自力で維持するのに役立ちます。

  中には、DBTが役に立たない子どもたちも、確かにいます。
  それは私が力量不足だったからか、あるいは子どもたちがあまりにも強固に不利な状況をもたらす人生経験を有していたからかのどちらかが原因です。しかし大部分において私が個人治療で面接してきたか、あるいは私たちのプログラムを最後までやり通してDBTスキルを学び、それらを日常生活の中で練習し、自傷の引き金となることを理解しようと取り組んだ何百人もの子供たちは、ポジティブな結果を示しています。私がセラピスト冥利に尽きると感じる瞬間の一つは、子どもたちが時折、数か月か数年後に訪ねてきて、自分の現状を私に報告してくれる時です。ここ10年にわたり、彼らのほとんどは自傷をやめています――しかも他のどの治療法よりも短期間で、です。


次回は「DBTセラピストの見つけ方」を紹介します。

「自傷行為 救出ガイドブック ―弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著

感情を調整する/苦悩に耐える

感情を調整する

  自傷する子どもたちは自分の感情的苦悩を調整するスキルを持っていません。DBTにおいて、彼らは、感情を混乱させる沸点の温度を引き下げ、ポジティブな感情的経験を増やすのに役立つ具体的なテクニックを学びます。感情調整スキルは基本的に三つの方向から感情制御不全に向けて取り組みます。第一に、子どもたちは生活の中で、感情がコミュニケーションの源として、自己承認の側面として、そして行動の前身として果たす価値を教わります。第二に、彼らは、ネガティブな感情に対して脆弱になる物事のあり方と、自分の生活をよりうまく管理することによってそれらに圧倒されずに済む方法を学びます。第三に、自分の感じ方を変えるのに役立つ、いくつかの具体的なスキルを学びます。


苦悩に耐える

  人生にはどうにもならない問題があることは、誰でも知っています。それらは交通渋滞に巻き込まれるといった程度のものもあれば、大切な人の死といった胸が張り裂けんばかりのものもあります。人生の出来事の中には、何であれ、苦痛なことがあります。したがって私たちは、これらの苦痛な時期を通り抜けるのに役立つスキルを必要とします。苦痛な時期に自傷する子どもたちは、しばしば衝動的行動あるいは対人的に有効でないことをすることで、この状況をさらに悪化させます。私たちがそうした瞬間を切り抜けるのをたすけるDBTのスキルは、苦悩耐性スキルです。これは二つのカテゴリーに分類されます。

  第一のカテゴリーは、私たちが自分の現在の状況を受け容れるのに必要なスキルです。事態をそのままに受け容れるというのは、その状況に屈するということでも、それを好きになるということでもありません。それはただ、事態がその瞬間に、あるがままに起こっていることを認めるという意味です。それと戦うのではありません。この一連のスキルは「現実受容の基本原則」と呼ばれます。
  第二のカテゴリーは「危機生存戦略」です。これは私たちがその瞬間をうまくやり過ごせるよう助けることを目指すものであり、問題解決に向けたものではありません。一時的に私たちの苦悩を減らすか、または私たちの気持ちを苦悩から逸らすためのスキルを提供するだけです。危機生存戦略には、風呂に入るといったように自分を慰めることをするか、あるいはセーターを編むことに没頭するといったように気持ちを紛らわせることが含まれます。苦悩耐性スキルは、自傷を行う子どもたちのことで頭を悩ませる中、親も学ぶべき最も重要な一連のスキルの一つであると考えます。


次回は「DBTは『これまでの治療と同じ』ではない」を紹介します。

「自傷行為 救出ガイドブック ―弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著


成功のためのスキルの獲得

対人関係を有効に保つ

  自傷を行う十代の子どもは、対人関係に困難を抱えていることがしばしばです。彼らは、何とかうまく調和しようと懸命に努めることもありますが、実は、自分が他人とうまくやっていけるとは全く信じていません。彼らは拒絶を感じることにしばしば非常に神経質です。そのため、強すぎるほどしっかり対人関係にしがみつくことで、拒絶とそれに伴う見捨てられ感から自分を守ります。驚くまでもなく、これは逆効果となり、彼らは友人たちから「うっとうしい」と思われてしまうことがしばしばあります。中には、自分にはそれに取り組むためのスキルが全くないため、友人を作ることを考えただけで気力がなえてしまう子どももいます。悲しいことに、その結果、彼らはしばしば社会的に取り残されてしまうか、せいぜい青年期の子ども社会に、ほんのわずか仲間入りする程度となってしまいます。
  彼が対人関係有効性スキルを学べるよう支援することで彼らは、対人的状況で自分が何を目指しているのかを理解できるようになります。その点でカギとなる質問は、「この相互関係のためにあなたが優先させることは何ですか?」というものです。続く質問には次のものが含まれます:「あなたは何を求めていますか?」、「あなたは対人関係を修復しようとしていますか?」、「あなたが自尊心を手放さないように役立つよう境界設定をしていますか?」。
  これらの質問に答えたら、青年期の子どもは対人関係有効性スキルの使い方を学び、それを治療の中で練習し、その後、実生活の中でそれらを応用するように教えられます。こうして必要なものを身に着けると、彼らはしばしば、初めて、それまで慣れていた感情的緊張を感じることなく、対人関係を有効に保つことができるようになるのです。


  16歳のブランドンは、母親との一番最近の口論について話してくれました。以前は、彼と母親は頻繁に言い争うばかりで一向に解決しませんでした。ブランドンはどうしても謝ろうとしませんでしたし、母親はただ絶望し腹を立てているだけでした。その結果、親子間の緊張は何日も続くことがあり、彼の自傷の一因となることが多かったのです。
「土曜日に母と大喧嘩をしましたが、今回はいつもと違っていました」
  ブランドンは私に言いました。
「出て行ってしまう代わりに、僕は自分の新しいスキルを活用し、母の視点を理解してみようとしたんです。僕は謝りました。そうしたら、本当にうまくいきました!」


次回は「感情を調整する」を紹介します。

「自傷行為 救出ガイドブック ―弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著