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Ⅰ「豊かな語り口」で語りかける

 
 境界性パーソナリティ障害患者との関わり方の基本は、「凡人」として「豊かな語り口」で語る、という〈型〉に則って、定式化できるものです。

1.「豊かな語り口」とは
 「豊かな語り口」とは、以下のようなコミュニケーションスタイルです。

①話のテンポをゆっくりとし、言葉と言葉の間を区切るしゃべり方をする
②言葉の抑揚をつけ、声のトーンもわずかに上げる
③患者の言葉を丁寧におうむ返しにして確認する
④相手と関わりを持つような終助詞「ね」「なあ」「よ」「かな」を多く用いる
⑤挨拶語や、「ほら」「あのね」「ああ」,「あげる」「どうぞ」などを多く用いる
⑥「ありがとう」と言うなら感謝している表情や口調で、言葉と動作を一致させる
⑦主語・述語や、「だから」「しかし」などの順接・逆接関係を省略せず語りかける

 ①~③は、「幼児向けの話し方」「母親語」を適用したものです。
 聞き手は話し手の言葉により注目しやすくなり、プラスの感情も多く表す傾向があることが知られています。

 冗長かもしれませんが、良質な交流が成り立つ働きかけをするという意味で、「非常に豊か」なものです。

 ④~⑦は、「豊かさ」「冗長さ」を重視したもので、特に④⑤は相手に働きかける側面を重視しています。


*「治療者と家族のための 境界性パーソナリティ障害治療ガイド」
  黒田章史(岩崎学術出版社)より

文責・稲本
 

「通常の治療」の限界

 
 BPD患者が家を破壊し、母親に激しい暴力をふるい、金を脅し取ったりすることを、主治医がまったく知らないというようなことは、日常茶飯事です。
 個人面接は、基本的に「患者自身が問題だと思っていること」「患者にとって関心があること」に沿ってなされるからです。

 BPD患者にとっては、例えば「店員が目を合わせてくれなかった」といったことはしばしば大問題ですが、親への暴力などはさしたる問題ではありません。
("親のせいでこうなった"のですから。)

 適切な治療のためには、こうしたテーマをリアルタイムで取り上げ対処する必要があります。
 その目的に対して、個人面接という治療スタイルは基本的に向いていません。

 BPD患者は自分が表に露出している問題について、ほとんどあるいは不十分にしか把握していません。
 患者に不足しているのは、自分の言動に関する精確な認知なのです。

 このような治療の落とし穴に落ちないためには、日常生活の中で患者の表面をよく観察しており、それを語る「他人(患者自身や治療者でない第三者)」が必要です。
 BPD治療の中に「他人(第三者)」を積極的に取り入れたのは、下坂とリネハンでした。

 下坂は「常識的家族面接」の中で家族面接を,リネハンは「弁証法的行動療法」の中で集団技能訓練を、不可欠な要素として用いました。
 「患者-治療者」という閉ざされた二者関係が、BPD治療に引き起こす問題を乗り越えようとしたのです。

 ただし「他人(第三者)の視点」を活用するためには、さまざまな工夫を凝らさなければなりません。
 本書の治療のアプローチと、これまでの方法の違いがあるとするなら、その「工夫」の違いだろうと思います。


*「治療者と家族のための 境界性パーソナリティ障害治療ガイド」
  黒田章史(岩崎学術出版社)より

文責・稲本
 

他の方法/結び

o手がかりに注目しましょう
 以下の兆候が見られたら、本人の気持ちを紛らわせてあげられるかもしれません。
・緊張した顔の表情
・そわそわする
・手を握りしめる
・唇が震える
・前かがみになる
・眉をひそめる

o皆さん自身に正の強化をしましょう
 自分自身に対しても正の強化を用いることができます。
 できなかったときに自分を責める代わりに、できたときに自分を褒めるのです。
 自分の感情を把握するために、皆さん自身の手がかりにも注意してください。

○称賛についての「TIPS」
 ちょっとした進歩に報いてください。
 物事は完璧である必要はありません。
 TIPSは以下の頭文字です。

T:誠実に(true)。
  人は、受けるに値しない称賛を見抜くものです。
I:迅速に(immediate)。
  その行動が行なわれたときに褒める。
P:前向きに(positive)。
  その行動が再現される可能性が高まります。
S:具体的に(specific)。
  判断するのではなく、観察したことを述べてください。
  「あなたは怒り狂う前に、10まで数えて喧嘩を避けたのよ」のほうが、
  「あなたが10まで数えたやり方がよかったと思うわ」より良いでしょう。
  前者は自己評価を築く助けになりますが、後者は本人を皆さんの意見に依存させてしまいます。


●結び「今日からスタートです」
 希望と奇跡は、よく目を凝らせば、皆さんの周りにあります。
 希望は自分自身で抱くものであり、選択は自分自身で行なうものです。
 大切な人を変えることはできませんが、皆さん自身を変えることならできます。

 必要なのは、次の3つだけです。
1.大きく、胸いっぱいに深呼吸しましょう。
2.「信頼に基づく賭け」
  BPDの人の行動を、例えそれが人を傷つけるものであろうと、個人的に受け止めないことです。
 境界設定や強化の効果が見えないときでも、信じて努力を続けましょう。
3.さあ、皆さんのボートを見つけに行きましょう。

(以上)


*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より
 
http://www.seiwa-pb.co.jp/search/bo05/bn719.html

文責・稲本
 

望まない行動を訓練しない

 
o「最も強化しないシナリオ」
 関心を引くことを意図した不愉快なコメントに対しては、無表情なままでいる(頭から爪先までのポーカーフェイス)のが、「最も強化しないシナリオ」です。
 どのような反応も行動を誘発するからです。
 反応したいという衝動を、自己コントロールする必要があります。

 ただし、虐待的,危険な行動に対してこれを用いてはいけません。

o相容れない行動
 BPDの人を止めるよりも、別のことに彼らの関心を向けるほうがたやすいものです。
 望ましくない行動とは相容れない、別の行動へと向けてあげてください。

 BPDの人は、怒ることと笑うことを同時にはできないのです。
 本人にとって大切なことを褒めてあげると、怒っていたのが話し合えるようになるかもしれません。

o問題のある行動がなくなったら、それに報いましょう
 BPDの人が文句を言っているときは、最も強化しないシナリオ(無視するのではなく見逃す)を用います。
 しかし他の話をするときには、熱心におしゃべりしましょう。

 BPDの人の多くは時に、全く正常に行動します。
 これは他の行動を強化する豊富なチャンスを与えてくれます。
 本人の好ましい点をよく考えてください。

 成功の鍵は、好ましい行動が起こっているときに強化することです。
・「あなたの......なときが好きなの」
・「君といるとすごく楽しいよ」
・「......してくれてありがとう」
・「あなたは本当によく頑張ったね」

 触れたり、近づいたりすることで、言葉を介さず強化することもできます。

o一般的な称賛
 本人のネガティブな点を話すのではなく、彼らの長所を伸ばせるようにしてください。
 ポジティブな対処行動に対しても、報いてあげてください。
・「この前、君は動揺したとき物を投げる代わりに散歩に行ったよね」

 しかし子供に対しては、褒めすぎないよう注意してください。
 子供は進歩すると、親が全て順調だと考えて離れていくのではないかと恐れます。
「本当によく頑張ったね。
 でも、あなたにとってストレスが大きくはないかと心配してるの」
 といったメッセージなら、共感的で危険も少ないでしょう。


*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より
 http://www.seiwa-pb.co.jp/search/bo05/bn719.html

文責・稲本
 

消去バースト

 
 状況は改善する前に必ず悪化します。
 境界を試される段階は長く、辛いものになるでしょう。
 BPDの人は状況を戻そうとして一層行動化します。
 これは「消去バースト」と呼ばれます。

 消去バーストは、行動が報酬が引き出さなくなったときに起こります。
 BPDの人は行動のレベルを上げ、それでも境界が堅固だと、さらにレベルを高めます。

 重要なのは、激しくなった行動を予測し、なすがままにさせることです。
 強化を与えなければ、行動は最初はゆっくりと、やがて迅速に減り始めます。
 ただし、境界を時々守らないと、断続的強化を与えてしまいます。

 最初の数週間~数カ月間は、最も困難になると心に留めておいてください。

 BPDの人は、「以前はうまくいっていた。もっと激しく行動したらまたうまくいく」と考え、より強い、または別の不適切な行動を取ることがよくあります。

 どれほど強烈に巻き込まれそうになっても、断固として境界を守ると、行動化の時間はだんだん短くなり、激しさも薄らいできます。
 やがてBPDの人は、自分を落ち着かせ、そのあと話をすることができるようになるでしょう。

 ここに辿り着くまでには何年もかかりますし、何度も練習を重ねる必要があります。
 でもBPDの人は自分に起こっていることに気付き、自分をよく理解するようになるかもしれません。


*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より

文責・稲本
 

強化

 
(前の記事からの続き)

o強化子と境界
 BPDの人が境界を守らないことに対して、本人に正の強化をすることは控えてください。

《正の強化子と負の強化子を見つけましょう》
 境界がうまくいかないのは、BPDの人がそれを守らないからではありません。
 non-BPの人が自分自身の境界を守らなかったからです。
 彼はBPDの人にとって「迫害者」から「救済者」になってしまいます。

 議論は強化になり得ます。
 重要なのは、皆さんが何をするかであり、何を言うかではありません。
 あなたが言うことが正しいとしても、BPDの人との言い争いには対処していないのです。

 あなたの仕事中に電話をかけないという境界を設定したとします。
 BPDの人が仕事中に電話をしてきたら、「帰ってから話しましょう」と言って受話器を戻し、BPDの人が電話をかけてくるたびに、その行動がなくなるまで、これを繰り返します。

o断続的な強化
 あなたが一貫して行動し、仕事中は電話に出なければ、BPDの人は学ぶでしょう。
 問題行動はそれが止まったときには「消えている」のです。

 もしある日、仕事中に電話に出たら、電話することを強化してしまいます。
 これは「断続的強化」と呼ばれます。
 断続的強化により、行動は消えることがほぼ不可能になります。

 よい例がパチンコです。
 パチンコは時には儲かることがあるのでやめられません。

 境界を設定したら、違反が起きるたびに注意することが重要です。
 境界を遵守するのは、最初はかなりエネルギーが必要です。
 小さなことから始める理由でもあります。
 BPDの人は1年後2年後に皆さんを試すことさえあるのです。


*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より

文責・稲本
 

パワーツール5:適切な行動を強化する

 
 境界を設定したら、それを維持することです。
 non-BPの人の次のようなコメントがあります。

・「彼が境界を取り除こうとし、私は弱気になってしまいました。
 もう耐えられないのに、さらに耐えることになってしまったのです」
・「境界は設定されては壊されます。その繰り返しなのです。
 まさに地獄と化したのです」

 BPDの人は境界を何度も試すでしょう。
 重要なのは、皆さんが何をするかであり、何を言うかではありません。
(BPDの人に境界を守らせる説明や議論をするのではなく、あなたが境界を守ることです。)
 境界を有効にする行動を、強化してください。
 境界を遵守するのです。

○強化
 「強化子」とは、再びその行動をする可能性を増大させるか、低下させるかに作用するものをいいます。

o正の強化子と負の強化子
 繰り返し実行される可能性を高める行動は「正の強化子」,低める行動は「負の強化子」と呼ばれます。

《赤ん坊が泣く》
正の強化子:赤ん坊が抱き上げられる,ミルクを与えられる。
 これらの行動は、赤ん坊が寂しかったり、お腹が空いたときに、再び泣く可能性を高くします。
負の強化子:赤ん坊が無視される。
 孤児院の大人が子供を見ないでいると、子供は頭をぶつけても泣かなくなってしまいます。

(次の記事に続く)


*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より

文責・稲本
 

境界について話し合いましょう(3)

  
○本人が自分の立場を尊重されていると感じられるように伝えましょう
 本人のニーズと願望を承認し、境界を定着させるか、何度も繰り返し述べてください。

・「私たちのどちらかが正しいと決めたいわけじゃないの。
 関係を最善のものにしようとしているのよ。
 私に必要なのは......」
・「僕は自分自身について、何ができて何ができないのか、何を必要としているのか、学んでいるんだよ」
・「僕は自分の気持ちに素直に、誠実であろうとしているんだ。
 僕に必要なのは......」
・「僕たちが物事を同じように見ていないのは確かだよね。
 僕に必要なことは......」

○練習,練習,練習です
 BPDの人が目の前にいるつもりで、皆さんが言おうとしていることを思い浮かべてください。
 もっとよいのは、友人と一緒にロールプレイすることです。

○ポジティブなセルフトークを試しましょう
 セルフトークとは、ほぼ常時行なわれている、頭の中での会話です。

・「自分の境界を設定するのは、慣れるまでは違和感があって馴染めないものさ」
・「私は恐れている......でも、自分の安全を守るためにこれを作ったのよ」
・「僕は彼女のことをとても大切に思っているんだ。
 彼女はそれが理解できないけど、それはそれでいい」
・「長い目で見て、彼のニーズに応えられるために、今は私自身の境界を守る必要があるんだわ」

○お子さんのために境界を設定しましょう
 BPDの夫を持つある女性は、次のように言っています。
「夫が息子たちに激怒し始めたら、子供に、自分の部屋へ行っていてね、と話します。
 子供たちが問題なのではなく、父親のほうが自分の感情に対処する時間を必要としていると、分かってもらうためです。

 子供たちには、お父さんが怒っているときには、お父さんのことは気にしちゃだめ、と言ってあります」


*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より
 
http://www.seiwa-pb.co.jp/search/bo05/bn719.html

文責・稲本
 

 

境界について話し合いましょう(2)

 
○許可を求めたり過剰な説明をしないでください
 言わないことは、言うことと同じくらい重要です。
 自分の期待を述べる代わりに、境界設定の許可を求めるというのは、最もよく見られる過ちです。

 言い争いに引きずり込まれないために、本人の同意を得なければという強い欲求を手放してください。
 過剰に説明したり、弁護してはいけません。

 質問にただちに答える必要はありません。
 侮辱されても、本人の心底からの気持ちと捉えないでください。
 本人が言うほど皆さんが悪い人間なら、彼らは皆さんのそばにいないでしょう。

○アサーティブに、でも優しく
 やり取りの焦点が境界設定になると、通常は双方とも、理解されていないと感じます。
 BPDの人が異常で操作的であるように感じるでしょうが、本人は自分のほうが誤解され、承認されていないと感じているのです。

 声の調子や表情などの身体言語は、言葉よりはるかに多くを述べています。
 時には優しくしたいと思い、時には有無を言わせず断言したいと思うでしょう。

すべきこと:
・アイ・コンタクトを用いましょう。
 誠実に、しかし確固として。
・立っている場合は、足を広げて、姿勢を大きく見せると、しっかり自分を主張する感じになります。
・穏やかで、落ち着いた、優しい声色で話しましょう。
・速すぎない速さで話します。
・脅威を与えないよう、近づきすぎないように。

すべきでないこと:
・指を差す
・大声を出す
・睨みつける
・卑屈な感じで下を見る
・腕を組む
・腰に手を当てる
・椅子に浅く腰かける
・相手に近寄りすぎる
・ため息をつく
・両手を握りしめる


*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より

文責・稲本
 

境界について話し合いましょう(1)

 
 本人との話し合いは、何カ月にもわたるでしょう。
 境界をイベントとしてではなく、プロセスと考えてください。
 最初はひとつかふたつの境界でゆっくり始めましょう。

○安全第一
 BPDの人を説き伏せようとするのは悪い考えです。
 いつも安全第一です。

 虐待的な振る舞いを大目に見てはいけません。
 境界を設ける方法には幅があります。
 その部屋から出ていくという方法も、救急車を呼ぶという方法もあるでしょう。

 誰かが暴力的になったときには、身の安全を守ることが重要です。
 目をつぶっては、事態をエスカレートさせるだけです。

○DEARテクニックを活用しましょう
 BPDの人とのコミュニケーションのための、一連のスキルが「DEAR」です。
 描写する(describe),表現する(express),主張する(assert),強化する(reinforce)の頭文字です。

 共感的に認め、障害の生物学的理由,BPDの人が感じる羞恥心と恐れなど、すべて心に留めておくことは重要です。

描写(describe):
 事実に基づき、感情的にならず、その状況を目にしたように述べてください。

表現しましょう(express):
 その状況に何を感じているか、どう考えているか、はっきりと表してください。

主張しましょう(assert):
 境界を簡潔に主張してください。
 境界は小規模で、達成可能であるべきです。
 この境界を繰り返し述べてください。

強化(reinforce)
 適切なら、境界の利点を強化してください。


*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より

文責・稲本
 

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