http://www.seiwa-pb.co.jp/htmlmail/122.html
星和書店
今月の新刊 next
双極性障害の生物学的治療ガイドライン:双極性うつ病急性期の治療

双極性障害の生物学的治療ガイドライン:双極性うつ病急性期の治療

WFSBP(生物学的精神医学会世界連合)

H.Grunze, E.Vieta, G.M.Goodwin C.Bowden, R.W. Licht, H.J.Moller, S.Kasper WFSBP Task Force on Treatment Guidelines for Bipolar Disorders
山田和男(東京女子医科大学 東医療センター精神科教授)

B5判 並製 72頁
ISBN978-4-7911-0839-8〔2013〕
定価 1,680 円(本体 1,600 円)

双極性うつ病を正しく診断し、より適切な治療を行うために!
成人の双極性うつ病急性期の治療に関し、生物学的精神医学会世界連合(WFSBP)が作成したガイドライン!

双極性障害の顕著な特徴は躁病と考えられているものの、双極性障害の患者にとってより大きな負担となるのは、大うつ病エピソードと抑うつ症状である。双極I型でも、抑うつ状態の期間が躁状態または軽躁状態の3倍にもなる。さらに双極性うつ病は、躁病ではほとんど問題にならないであろう、診断の困難さや自殺リスクといった問題を抱えており、対応が大変難しい。本書は、生物学的精神医学会世界連合(WFSBP)が、科学的エビデンスに基づいて治療法に推奨グレードを付け、体系的に解説した実用的なガイドラインである。

  雑誌の最新号 next
精神科治療学
定価 3,024
月刊 精神科治療学 第28巻4号

特集: 転帰の指標―治療の有用性をどう評価するか―

精神疾患が「治る」ということを、どのように評価すればよいのだろうか。評価尺度のカットオフ値を上回ったことのみをもって「治った」と見なすのではなく、生活機能や社会機能の改善まで視野に入れた全人的対応が、精神医療には求められている。本特集では、主な精神疾患を取り上げ、精神科医がどのように、またどこまで対応するのがよいのか、具体的事例も挙げながら論じられている。日々の臨床で判断に迷った時に役立つ特集。
JANコード:4910156070436

臨床精神薬理
定価 3,045
月刊 臨床精神薬理 第16巻5号

特集: 統合失調症の薬物療法において身体リスクをいかに防ぐか

統合失調症患者は、一般人口に比し平均寿命が約15年短く、心血管疾患による死亡率は約2倍高い。統合失調症患者で有病率の高いメタボリックシンドロームも、心血管疾患による死亡率が高い原因の1つになっている。本特集では、統合失調症患者の生命と健康を脅かす身体リスクの実態を紹介し、必要な対策、今後の研究展開について、精神科医、内科医、栄養士、薬剤師など多職種の立場から概説いただいた。
ISBN:978-4-7911-5187-5

精神科臨床サービス
定価 2,310
季刊 精神科臨床サービス 第13巻2号

特集:精神保健・医療・福祉の今がわかるキーワード126

精神保健医療福祉の領域で,今,知っておきたい重要・最新のキーワード126を,「精神保健医療福祉の新しい流れ」「当事者・家族の力」「診断・症状トピックス」「精神科治療トピックス」「地域生活支援トピックス」「行政・政策の動き」の6領域60テーマに構成。基本用語解説から最近の動向,今後の展開まで,実例も含めた「生きた」キーワード集となるよう,第一線の執筆陣を編成。多職種で情報を共有するためのプラットホームであり,初心者や学生の必携テキスト。
ISBN:978-4-7911-7150-7


今月のコラム


今月のコラム
精神科外来でパーソナリティを見立てること
有馬病院 田中克昌

ここ数年、日常生活の中でも「うつ病」「発達障害」などの精神医学用語を耳にすることが増えてきたように思われます。それら2つほどの頻度ではないにしても、「パーソナリティ障害」という用語を聞くことも稀ではありません。こうした現象は、精神疾患を患っている人が増えている可能性のみならず、精神疾患に関心が寄せられているという事情の反映とも一つには考えられます。医療現場や企業内でも、「産業医の先生に診てもらうとよいでしょう」というアドバイスが増えているように、メンタルヘルスという視点も充実しつつあるようです。精神科外来で、失恋した高校生から、「別れた彼女のことを忘れられない自分はおかしいのではないか?」と相談を受けたことがありますが、精神疾患は誰でもかかりうると捉えられつつあること、精神科を受診することは恥ずかしい行為ではないという理解が一般に浸透している状況は、好ましいことと言っていいでしょう。

しかし、悪いニュースもあります。今回は、治りにくい精神疾患にかかったと考えられて精神科受診に至った場合における、精神医療者側に起因しがちな問題を考えてみたいと思います。

先にあげました「うつ病」「発達障害」という言葉が市民権を得ているのは、治療法が多様になっているということを意味します。特に最近の向精神薬は、かなりよいものが出ており、それらが精神疾患の改善を容易にしてくれているのは確かです。また、1995年1月の阪神大震災以来、心のケアを提供するという発想が浸透しているようです。このことは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の認知度も広がり、精神面にもサポートが必要という視点の大切さに目が向くきっかけになったと言えるでしょう。このように全体として好ましい変化が大きい分、見落とされがちなデメリットも生じていると私は考えています。その背景には、単純化して治療を考えがちなこと、および記述的診断体系への過剰な傾倒に陥っていることが最も代表的なものとしてあげられます。

単純化して治療を考えがちというのは、「うつ症状が出現した⇒うつ病が発症した⇒うつ病なので薬で治療をする⇒症状をなくすことだけに邁進する」という捉え方が典型的なものです。このことによる弊害は枚挙にいとまがありませんが、一つだけあげるとすれば、心因性のうつ状態を単純にうつ病と置き換えて、薬物療法の効果を十分に検討せずに薬を処方することによって、難治性のうつ病というものが医原性に数多く生じてしまっていることです。そうした単純化した捉え方の弊害は、PTSDにとにかく心のケアを当てはめるという発想にも言えることです。心のケアが重要であることは間違いありませんが、当てはめればよいという一律した捉え方だけでは語りつくせないのがPTSDの治療であって、考えるべきこと、必要なことが個々のケースでいかに異なるかという視点は欠かすことが出来ません。

また、記述的診断体系への過剰な傾倒による弊害への対策としては、疾患にはまず診断をし、それにあった治療選択をするという医療全般では標準的な行為が、精神科医療においては、それだけでは十分には機能しないのではないかという考え方を視野に置いておく、ということがあるでしょう。症状のみを評価するというその場限りの横断的な視点だけではなく、時間的変化も考慮し続けるという縦断的な視点が必要と言えます。精神科疾患の発症のプロセスと、治療のプロセスは異なるものであると捉える方がよいことは、神戸大学名誉教授の中井久夫先生が40年ほど前にすでにご指摘されています。つまり、どのような性向、性格の人が、どのような生活史や環境で、どのような要因が重なって精神的な症状や苦悩を呈することになったのかという、全体のストーリーを丁寧に見立てることが、記述的診断体系の進化と並行して臨床現場では少なくなってきているのです。皮肉なことに、これは精神科治療の充実を祈念しつつ記述的診断体系を作成する立場にあった精神科医たちの期待とは真逆な状況だろうと想像されます。

このような負の側面の代表的なのが、パーソナリティ障害の診断と治療です。診断体系にあるいくつかのパーソナリティ障害の診断基準を参照するのはいいのですが、それだけを根拠に診断することが少なくない現状は、診断名というラベルを貼る行為になってしまっているように思えてなりません。症状と診断名だけをみるのではなく、患者さんその人をみることが必要と考えられます。精神医療の進歩に並行して、捉えにくい複雑なパーソナリティ理解を回避してしまっているという精神科医療の実情には深刻な面があります。また、一部のパーソナリティ障害にはかなり深刻な要素も含まれます。パーソナリティ障害の理解を深めることのみならず、パーソナリティを見立てること、ストーリーの重要性、適切な治療の提供や一部には深刻さも含まれるという現状もあることを提唱していると思われる、『パーソナリティ障害の素顔』が、彼ら彼女らにかかわる人たちの一助となることを願ってやみません。

田中克昌先生の本、好評発売中

パーソナリティ障害の素顔―致命的な欠陥をもつ人たち
(スチュアート・C・ユドフスキー 著、田中克昌ほか 訳)
配信停止希望