発達障害の診療は、治療者の人生を豊かにする
きょうこころのクリニック 姜 昌勲
児童精神科医・臨床心理士のきょうまさのり(姜昌勲)と申します。
今回、コラム執筆の依頼を頂いたのですが、締め切りをすっかり忘れていました。催促のメールを頂き、前頭葉フル回転で執筆しているところです。
そうです、僕は大人のADHD特性を持ちます。
やらねばならないことを締め切りギリギリになるまで先送りし続けますし、忘れ物や失くし物も多いです。何でも興味を持ち、知りたいと思ったら突き詰めます。マジックを趣味でやり出しいつの間にかマジックバーで働きもしましたし、落ち着きも無く、自分の多動性を昇華するためにトライアスロンまではじめる始末です。
DSM-5の不注意項目、多動衝動項目ともほとんどあてはまります。
ただ、社会適応は出来ているので、診断されることはありません。
ADHDの診断を受けている方々と、僕を分けたものは何なのでしょうか。
それは、僕には他人から認められる特技があり(勉強だけは出来ました)、失敗体験以上の成功体験を積み重ねて来られたことだと思います。
ADHDは幼少期に診断して適切な養育を受ければ、社会適応は極めて良好な生活を送ることが出来る疾患です。
発達障害にはうつ病などでみられる治癒という概念はそぐわないです。「疾患」から「特性」へと変化する、といったほうがわかりやすいかもしれません。
ADHD症状のある人にとって、疾患があろうと無かろうと、特性を持つことは共通しているはずです。
ですから、診断というレッテル貼りにこだわらない、その先の具体的対応を見据えたアセスメントが必要になるわけです。
僕は自分の特性を、精神科医としてADHDの子どもたちと接している中で偶然気づくことが出来ました。自分の小さい時とおんなじやん!
そして、精神科医・臨床心理士として体得した様々なスキルを発達特性にあてはめて用いることによって、自分の人生がどんどん豊かになっていったのです。
発達特性を持たない人にも、そのような生活向上のためのスキルは充分に応用可能です。聴覚的記憶だけに頼らずにメモなどの視覚的情報入力を用いる。一度にたくさんのことをしようとせずにスモールステップでひとつずつこなしていく。出来たことを認める。そのようないわゆる「発達障害の人に対する有効な方法」は、よく考えてみれば全ての人が生きやすくなる方法なのです。
大人の発達障害の診療を、専門医にふれば良いと思っている精神科医の先生は多いようです。事実、僕自身もそのような先生方からの紹介をたくさん受けます。発達障害診療のスキルアップは、自分の人生を豊かにすることに直結するので、ものすごくもったいないことだと思うのです。
みなさん、ぜひ、発達障害の診療、支援に踏み出してみませんか。ものすごく面白いし、何より自分の人生が豊かになります。ADHD特性を持つ精神科医・臨床心理士として、保証します!
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