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星和書店
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こころの治療薬ハンドブック 第9版

こころの治療薬ハンドブック 第9版

〔編〕山口登、酒井隆、宮本聖也、吉尾隆、諸川由実代

四六判 並製 480頁
ISBN978-4-7911-0864-0〔2014〕
本体価格 2,600 円 + 税

日本国内で使用されている向精神薬を1つ1つ見開きページでわかりやすく解説。使用エピソードや処方・服用ポイントなど、専門家ほか患者さんや家族にも役立つ情報が満載。漢方薬の項目を新設した。

初期分裂病

初期分裂病

装いも新たに! 再び刊行

中安信夫著

A5判 上製 140頁
ISBN978-4-7911-0200-6〔1990〕
本体価格 2,670 円 + 税

分裂病(統合失調症)の特異的初期症状研究を重ねてきた著者が、一つの臨床単位としての「初期分裂病」を提出。初期分裂病の特異的4症状を導きだし、分裂病臨床の客観的診断基準の確立を試みる。

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精神科治療学
本体価格  
2,880
円+税
月刊 精神科治療学 第29巻1号

特集: 統合失調症の退院支援の進め方―17の視点と工夫―

統合失調症の長期入院患者が地域で生活するための退院支援ツール集。長期入院を余儀なくされている統合失調症患者をいかに無理なく地域で生活できるよう支援するかが、いま精神科医療の喫緊の課題であり、本特集では実際のさまざまな取り組みを取り上げた。多職種・多施設の協働がポイントであり、日々の地道な実践に基づく支援のコツや工夫、課題の解決策が満載。退院支援の実践に役立つ特集。
JANコード:4910156070146

臨床精神薬理
本体価格   
2,900
円+税
月刊 臨床精神薬理 第17巻2号

特集: 抗うつ効果の予測と最適な薬物選択―実用的マーカーの探索―

うつ病の治療反応予測因子として、抗うつ薬の代謝、トランスポーターや受容体、それらを、規定する遺伝子、モノアミン機能の個体差にとどまらず、BDNF、サイトカイン、脳波や画像所見、気質、治療早期の微弱な症状変動、などの最新の所見を概説。抗うつ薬の副作用予測に関しても取り上げ、うつ病診療において最適な薬物選択を行うための実用的マーカーの可能性を考察した特集。
ISBN:978-4-7911-5196-7

精神科臨床サービス
本体価格   
2,200 +税
季刊 精神科臨床サービス 第14巻1号

特集:統合失調症をもつ高齢者への医療と生活支援

超高齢社会を迎えた我が国においては,統合失調症を持つ方々の高齢化も疑いなく進んでいます。精神科病院では高齢長期入院者の身体合併症や薬物療法にどう対応しているのか,地域移行後の高齢化問題に支援者はどう向き合っているのか,「障害」から「介護」への制度的な連携はどうなっているのか――。本特集では,精神科臨床サービスのあらゆる現場で,今後必ず直面するであろうこの問題について,現状分析と将来予測を踏まえた上で,実践的ノウハウを共有します。
ISBN:978-4-7911-7153-8

今月のコラム
今月のコラム
生きる意味
  まさきまほこ 

新年あけましておめでとうございます。
  初めまして、まさきまほこです。現在、大阪のとあるクリニックで精神科医をしています。私が精神科医になったのは、著書『もう独りにしないで:解離を背景にもつ精神科医の摂食障害からの回復』でも述べたのですが、家族から虐待を受け、解離という症状をもちながら育ち、大学生の時に失恋したことをきっかけに摂食障害になったことが大きかったように思います。そういったことから、小児期からの慢性的虐待が個人に及ぼす影響について、私が個人的に感じている日々のことをテーマにお話ししていきたいと思います。

今回のテーマは「生きる意味」です。正月明けから重い話だなと自分でも思ってしまったのですが、実際、臨床医をしていて患者さんから受ける最も多い質問でもあり、私にとっても永遠に興味深いテーマなのでとりあげてみました。

さて「生きる意味」は健常者の方でもテーマとしては大きいと思いますが、もしかすると健常者の方は、「生きる意味」をわざわざ考えなくてもいいのかもしれないなあと感じてもいます。健常者の方の場合、成人後に傷つき体験にあっても、「この世は生きるに値すると信じる事ができる力」を十分にもっているので、一時的に生きる意味を見失ったとしても、また希望をもって前に進むことができます。これを小難しく言うと「傷つき体験から主体的に学び、具体的な意志をもって、これからの人生においてその経験を今後の人生に創造的に生かしていく」という心の自然な過程です。ざっくり言うと、「主体性をもった創造」というのが健常者の方にとっては、たとえ意識の上に上らなくても生きる意味だともいえるでしょう。
  そもそも、生きる意味というのは、生まれつき与えられているものではありません。それは、成功や失敗をくり返しながら試行錯誤し、自分に不必要なものをそぎ落とした後に残る、非常にシンプルに個性化された健康的な創造性に至る過程であり、また、その創造性を生かして社会に何らかの貢献をしていくことであると私は個人的には考えています。しかし、慢性外傷のサバイバーの場合なかなかそううまくはいきません。サバイバーはそもそも健常者の方々とは立っている心の土俵が違います。主体性が脆弱で、自分や他人を信じる力も非常に弱く、とにかく傷つくことを避けながら、サバイバーは独りで「生きる意味」を見つけ出そうともがきます。

私が精神科医として治療に携わることができるようになるまでには、「ゴミのように扱われてきた汚い自分の生きる意味」を自分で見いださなくてはなりませんでした。私の家庭には、安心して何かに挑戦して失敗したり成功したりするための場所がありませんでした。スティグマに縛り付けられていたので、何が健常なのかさっぱりわかりませんでした。「生きる意味を見つけるなんてもうやめようかな。ゴミのままでいいや。いつ死んでもどうせ誰も傷つかないのだからもういいや。疲れた」と自分を捨てかけたこともありました。実際その方がずっと楽でした。著書を書き終えてからの生活の中でも、「異様に疲労している自分」がいました。自分を虐待し続けた両親と祖父を許すことなどできないと思う一方で、許さないと一生彼等や過去に縛られて、異様に疲労しながら生きていかなくてはならないことも重々わかっていました。その先には私が私として「生きる意味」は見つかるはずもありません。しかし、言葉の上で「過去を解放しなさい」「あんまり考えすぎない方がいいよ」「あなたのせいじゃないよ」「食べて寝たら治るよ」などと言われたところで、全く心に響きませんでしたし、癒やしにもなりませんでした。要するに「虐待者を許す、許さない」と考えているという時点で許してなどいないのであって、「今ここ」にいるエネルギーは過去の慢性的外傷体験にどんどん吸い取られていくのです。

散々恨み、苦しんだ後に私が出した結論は、
  「虐待者や過去を変えようということに一切エネルギーを使わないこと」
  「それぞれの違いを認めて、虐待者のあり方も自分の在り方も尊重し、相手を変えようとするのではなく、自分が変わることで自分にとって心地いいだけの物理的、心理的距離をとるようにすること」
  「虐待された過去は体験であって好きになる必要はないこと」
  「感情的に許す必要もないこと」
  「今ここの現実で好きなものを増やし、過去との絆より現実との絆をどんどん強くしていくこと」
  などでした。わかりやすく言うと「虐待者を変えることを諦め、虐待者が自分の言動で変わってくれるという淡い期待をきっぱり捨て去ることで、自分自身の方が変わることである」と言えます。
  これは悔しいことに自分の限界を認めることでしたが、自分以外の人になることを諦めることができる自分に正直ほっとしました「よかった。私人間なんだな」と思えました。その時に初めて「責任と自由」「人は人、自分は自分」の本来の意味に接したのかもしれません。しかし、言葉で言うのは簡単ですが、私もまだまだ未熟者。下手に頑張りすぎたり、寝不足が続くと手痛いうつ状態や過食嘔吐の衝動が待ち受けていることがわかっているので、のんびりマイペースに「過去を解放する作業」に取り組んでいる最中です。

今でも、私は虐待される夢、どこまでも落ち続ける夢を頻繁に見ます。真夜中に目が覚めた時に、自分がどこにいて、誰なのか、何歳なのか、今はいつなのかわからなくなることがあります。これは夢なのか現実なのか? と一瞬怖くなることがあります。5年前ならきっと、そのまま怖くて眠れなくなって、あれこれ小難しいことを考えて起きていたであろう私でしたが、今では「あーまたきたな。おっまだ真夜中だ! まだ眠れるぞラッキー」とその後、朝までぐうぐう寝ている自分がいます。ちょっとは図太くなったのかなあと嬉しく感じる今日この頃です。
  今の私の「生きる意味」は「子供を笑わせること」と「大好きな嵐のコンサートに行くこと」です。何やら小難しいことでなく、そんな単純なことでいいんですね。
  では、皆様これからも一緒に生きていきましょう。

 

まさきまほこさんの本、好評発売中

もう独りにしないで:解離を背景にもつ精神科医の摂食障害からの回復
(まさきまほこ 著)

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