http://www.seiwa-pb.co.jp/htmlmail/143.html
星和書店
今月の新刊 next
災害精神医学

災害精神医学

フレデリック・J・スタッダード Jr. ,アナンド・パーンディヤ、
クレイグ・L・カッツ 編著
富田博秋、高橋祥友、丹羽真一 監訳

A5判 並製 528頁
ISBN978-4-7911-0893-0〔2015〕
本体価格 4,800 円 + 税

いつどこで起こるかわからない災害。 そのため平時からの備えが重要になる。災害救援体制のあり方、災害に伴って生じる精神疾患への診療のあり方など検討課題は多岐にわたるが、それらを災害精神医学として体系化し、根付かせていくことが必要である。本書は、災害精神医学の先駆けとなるテキストブックである。災害後急性期のメンタルヘルス支援、災害前の備えから、災害に伴ってみられる精神疾患の治療、銃乱射や内戦などによる子供や家族のストレス緩和のための心理療法、倫理・法令の面にいたるまで、幅広い問題に関することが、実践に重きをおいて体系的に書き起こされている。

   雑誌の最新号 next
精神科治療学
本体価格  
2,880
円+税
月刊 精神科治療学 第30巻1号

特集:精神科治療学創刊30周年記念特集①―精神科医療技術の将来―

精神科医療技術の近未来を展望!これまでの精神医学・医療の変遷を踏まえ、診断や治療に関する主として技術的な分野に注目した特集。それぞれの分野で現在活躍中の専門家が執筆。精神科診断の領域では、話題になっている脳画像研究や遺伝子研究の現状と展望を解説。また新しい治療法の開発の領域では、薬物を含む身体的な治療法のほかに、最近注目されている弁証法的行動療法、マインドフルネス、EMDR、ブレインスポッティング等、いくつかの心理社会的な治療法を解説。今後の精神科医療がどうなるのか、読み解くことができる特集。
JANコード:4910156070153

臨床精神薬理
本体価格   
2,900
円+税
月刊 臨床精神薬理 第18巻2号

特集: TCAやSSRIは抗“単極性うつ病”薬なのか?

薬理作用の異なる新旧の抗うつ薬の効果の本質をどのように考えるのか、基礎・臨床の面から再検討した特集。新旧の薬剤の違い、三環系抗うつ薬の今日における有用性、SSRIの長期投与による不安定化や慢性化の可能性、SSRIによるapathyやbetter than well症候群などを取り上げ、臨床家が知っておくべき、抗うつ薬と総称される薬剤の作用の本質を基礎、臨床の両面から検討した。
ISBN:978-4-7911-5208-7

今月のコラム
今月のコラム
下ごしらえ、力の引き出しが基本
 平井クリニック、新大阪カウンセリングセンター 平井孝男

数年前から、時に料理に手を染めるようになった。といっても、パーティを開く時などに、連れ合いの手伝いをするぐらいである。
 その時、思ったことだがまず一番大事なのはメニューを決めることで同じく重要なのはいい素材を購入すること、最も肝心な点が下ごしらえをすることだ。これはいつも痛感させられる。
 主婦の患者の悩みの一つとして「何を作っていいかわからない」「主人に聞いても何でもいいという答えしか返ってこない」と言う嘆きをよく聞く。何でもいいからといって作ったとして、後でまずそうに食べられたり文句を言われることもある。料理の種類を決めるのは実は簡単そうに見えて重大な選択と決断で、かなりの責任が伴うのである。だから、世の男性たちは、主婦のせねばならないこの責任の重さを分かってあげ、せめてメニューぐらいは提示してあげた方がいい、と思えてくる。
 そう考えると、最初のメニュー決定から、材料の仕入れ、下準備(これもすぐに焼いたり、炒めたり、煮たりできるよう適当な大きさに切っておくなど相当大事なことである)などを合わせて、「下ごしらえ」と呼んでいいのだろう。
 また、料理の目的は、勿論、食べて頂く人に美味しく感じてもらえることだが、大抵は素材のうまみが出ている時がお客の満足感を満たしているように思う。
 要するに料理の基本は、下ごしらえと素材の力の引き出しということである。

下ごしらえが大事なのは、料理だけではない。精神科治療や心理療法でも事情は同じである。例えば、治療法には薬物療法、精神分析療法、認知行動療法、夢分析、森田療法、家族療法、内観療法などそれこそ切りがないぐらいの方法があるが、どの方法を取っても下ごしらえがきちんとできていないと大抵は失敗する。逆に下ごしらえがしっかりしていると大抵うまくいく。
 ただ、下ごしらえといってもこれは相当奥が深く、全部を到底説明しつくすことは紙面的にも不可能だが、超簡単に言うと、①クライエントの話の傾聴、②受容、理解、共感、肯定、③治療動機の聞き出しと同定、④治療抵抗の有無・程度・内容の理解、⑤見通しについての共有(最良の結果、最悪の結末、予後を左右するもの)、⑥ルールの説明と共有、⑦治療法についての説明・話し合いと共有、⑧治療契約の成立、といったことになる。
 そして、強調しておかねばならないのは、こういう下ごしらえは簡単にいくものではなく、最初から困難に出会うことが多い。特に、思春期事例、境界例、精神病、パーソナリティ障害といった事例では、この下ごしらえが勝負と言っていいぐらいの難しさがある。
 ただ、こうした下ごしらえは、結局の所、治療の準備にとどまらず、治療そのものであるということである。そして、クライエントはこの①〜⑧の作業のなかで、表現能力、聞き取り力、考える力、整理力、決断力、葛藤内包能力、自己肯定能力等の力が引き出されるのである。下ごしらえ段階から、治療中期に至っても、結局、根本はクライエントの力の育成である。

この点で思い出すのは筆者の趣味・遊び体験である。筆者はいずれも浅いのだが結構好奇心が多く色んな事に手を出している。その中でお金を払って学んだものとしては、テニス、ピアノ、囲碁、フランス語などがある。
 そこで感心したのが、先生方やコーチの態度である。先生方は、心理士や精神科医以上に治療的なのである。まず、よく観察してくれる、こちら(生徒)の話をよく聞いてくれる、悪いところを指摘するより生徒の良い点を伸ばそうとする、こちらの波長に合わせ一番肝心なことを指摘してくれる(しかも出来るように指導してくれる)といった点が特徴的なのである。要するに生徒の「力の引き出し」に主眼を置いているのだ。こういう先生に出会うと人間的にも好感を抱け、この次のレッスンが楽しみになり、又その時まで練習に励もうという気持ちにさせられるのである。
 筆者は最近、『心理療法の下ごしらえ―患者の力の引き出し学―』という拙著を刊行したが、その中で、テニスやピアノのコーチと治療者は似ているということを書いた。それは、こうした学びの実感から来ているのだろう。
 最後に学校の先生も、生徒を大事なお客様と考え、生徒の力や自信を引き出すようにしてもらいたいものである。もっともそれは甘やかすということではなく、時に厳しい適切な叱責が一番本人の能力育成にプラスになる場合もあるだろう。

平井孝男先生の本、好評発売中

心理療法の下ごしらえ ―患者の力の引き出し学―
(平井孝男 著)

配信停止希望