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星和書店
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EMDR革命:脳を刺激しトラウマを癒す奇跡の心理療法

EMDR革命:
脳を刺激しトラウマを癒す奇跡の心理療法

生きづらさや心身の苦悩からの解放

タル・クロイトル 著 市井雅哉 訳

四六判 並製 224頁
ISBN978-4-7911-0922-7〔2015〕
本体価格 1,500 円 + 税

EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)は、PTSDや心身の治療に用いられる新しい心理療法。短期間で著効をもたらし、患者のストレスも少ない。EMDRに情熱を傾ける著者がその魅力を紹介。

苦難が宝に変わる物語

苦難が宝に変わる物語

依存症・ひきこもり・スピリチュアリティ

米田栄之 著

四六判 並製 224頁 
ISBN978-4-7911-0921-0〔2015〕
本体価格 2,600 円 + 税

長年アルコール依存症医療に心血を注いできた医師が、自らの体験も俎上にのせ、「生き方の病」を解き明かす。3人の体験記を通して、病や困難を「宝に変える」生き方がありありと浮かび上がる。

緊張病 電子書籍版

緊張病《電子書籍版》

K.L.カールバウム著 渡辺哲夫訳

本体価格 4,600 円 + 税

本書は、内因性精神病のみならず、精神病研究全般に大きな影響を与えた。これは精神医学の疾病論、精神病像をどのように把握すべきかという大きな問いかけであった。


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精神科治療学
本体価格  
2,880
円+税
月刊 精神科治療学 第30巻12号

特集:介護・福祉等のサービスへの市場原理の参入と精神科医療

規制緩和により、精神科医療領域にビジネスチャンスが訪れた!医療・福祉サービスに乗り出す株式会社が次々に設立され、精神医療側も自立支援事業に参入する。この混戦模様を本特集は俯瞰する。本号では、ビジネス化の利点と問題点、規制緩和と民間参入、参入障壁について、医療法人・社会福祉法人の展望、精神科医が考慮すべきこと、当事者の社会参加と市場原理、リワークとのコラボレーション、公的サービスの行方等を取り上げた。精神医療の将来を展望する必読の特集。
JANコード:4910156071259

臨床精神薬理
本体価格   
2,900
円+税
月刊 臨床精神薬理 第19巻1号

特集: 不眠治療の現状と対策

不眠治療の現状と対策を網羅!本特集では睡眠障害の中で最も多い不眠症について、その最新の知見を紹介する。不眠が及ぼす生活習慣病への影響、不眠を訴える不安障害・うつ病・統合失調症・認知症の患者への対応、睡眠薬の認知機能へ及ぼす影響、ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン睡眠薬の効果と副作用について取り上げた。
ISBN:978-4-7911-5219-3

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今月のコラム
ミュータントは精神障害者か?
椎名明大

精神医学をテーマにした映画というと、「カッコウの巣の上で(1975年)」「17歳のカルテ(1999年)」「ビューティフル・マインド(2001年)」といった定番がまず思い浮かぶ。邦画では「ツレがうつになりまして。(2011年)」が秀作である。やや毛色は変わるが「シャッター・アイランド(2010年)」も司法精神科病棟を舞台とする怪作である。
 ただ、これらの作品はいずれも精神疾患を患う人物を直接的に描写しているので、どうしても鑑賞中に医者目線が入ってしまう。「この病気でそんな症状は出ない」とか「患者にそんなこと言う医者はいない」とか、いちいち突っ込みを入れていては、おもしろさが半減してしまうというものだ。
 むしろ、作品に流れるテーマを精神医療や精神疾患のメタファーとして解釈できる映画の方が、自由に味わうことができるし、より深く考えさせられる。
 そんな意味で、さほど映画通というわけでもない私の一押しは、「X-MEN: ファイナル ディシジョン(2006年)」である。
 X-MENとは、アメリカン・コミックの代表的出版社であるMarvel Entertainmentが1960年代から展開しているスーパーヒーローのシリーズであり、その主要人物の所属する組織名でもある。シリーズのコミックは総計1,000話を超え、映画化も2015年末で7作品を数えたところである。
 作中世界では、少なからぬ数の人物が、様々な特殊能力を持ったミュータントとして生まれてくる。彼らの多くは、特異な容貌をしていたり、その能力をコントロールできなかったりすることで、一般人から迫害の憂き目に遭い、また自身も深い悩みを抱えている。そこに、人類最高の頭脳とテレパシー能力を持ちミュータントと人間の平和的共存を目指すプロフェッサーXと、彼の旧友で金属を自在に操りミュータントこそが進化した人類だと信じて疑わないマグニートーが現れ、ミュータントと人類を巻き込む戦いが繰り広げられる。
 米国ではミュータントはマイノリティの象徴として理解されることが多い。人種問題でいうなら、プロフェッサーX=マーチン・ルーサー・キング、マグニートー=マルコムXというわけだ。映画でマグニートーを演じたイアン・マッケランが同性愛者であることも象徴的であるとして話題を呼んだという。
 であれば、一精神科医として、ミュータントを精神障害者のメタファーとして読み解くことも許されるのではないか。
 実際、プロフェッサーXは9歳の時に頭の中で声が聞こえはじめ、12歳の時にそれが他人の声であることを理解したという。ミュータントの導き手としてカリスマ性を発揮するようになる以前には、声の恐怖から逃れるため薬に頼っていた時期もあることが描写されている。

さて、「X-MEN: ファイナル ディシジョン」は、ミュータント能力を中和する治療薬「キュア」が開発されたという衝撃的ニュースから始まる。ミューテーションは「病気」だったというわけだ。この知らせに対し、X-MENのリーダー的存在のストームは「治療するものじゃないわ。いつ病気になったの?」と狼狽し、マグニートーはキュアを人間の対ミュータント兵器と断定し「邪魔をするミュータントがいたら、あの『毒』を食らわせてやる!」と激高する。一方、自身の能力のせいで恋人と触れ合うことも許されなかったローグは苦悩の末にキュアを受け入れる決断をする。これらキュアに対するミュータント達の困惑、反発、そして受容は、病院を訪れた精神病患者のそれを彷彿とさせるものだ。
 同作ではキュアを巡る戦いと平行して、あるミュータントの人生にスポットライトを当てる。ジーン・グレイはX-MENの一員でプロフェッサーXの忠実な弟子であったが、前作のラストで仲間を救うために犠牲となった。そのジーンが本作では謎の復活を遂げる。彼女は二重人格で、その身に内在する極めて危険な「フェニックス」の人格は、これまでプロフェッサーXのテレパシーで封じられていたのだという。果たして彼女を生命の危機から救ったのは覚醒したフェニックスであり、そのことに気づいたジーンはX-MENのもとを離れてしまう。ジーンを迎えに行くプロフェッサーXとマグニートー。プロフェッサーXは「君を助けたいんだ」「ジーン、心に入らせろ」とフェニックスの存在を封じ込めてジーンを掌握しようとする。一方マグニートーは「お前は彼女の力を封じこめてきた」「今の君でいてほしい」とフェニックスを肯定して彼女を引き入れようと試みる。ここでもプロフェッサーXは精神科医であり、マグニートーは反体制的な当事者団体若しくは「反精神医学」のイデオロギーを体現している。
 「危険な人格」を有する人々を強制収容するのか、それとも本人の責任に任せて社会がリスクを許容するのか。世界で最も司法精神医療の進んでいる英国では、2000年代から危険な重度パーソナリティ障害者に対する特別な治療プログラムの提供を始めたが、成果が上がっているとはいえないようだ。一方、同時期にようやく司法精神医療の枠組みが生まれたばかりの日本では、パーソナリティ障害は基本的に司法精神医療の対象外とされている。俄に正解の出せる問題ではない。映画では、二人の相反するアプローチは各々の傲慢さ故に最悪の結末を迎えることになる。
 本作のラストにおいて、ジーンの恋人であるウルヴァリンが彼女に寄り添う場面は涙無しでは見られない。結局彼女を救ったのは精神科医でも当事者団体でもなく「家族」だった。いや、これを「救い」ということにはかなりの語弊があろう。本当にこれがベストの終わり方だったのか、私は今でも答えが出せずにいる。そして、やはり映画と異なり、ラストシーンの後も現実の人生は続くのである。

椎名明大(しいな あきひろ)
精神科医。専門は司法精神医学。
近訳著に『ギャンブル障害の治療:治療者向けガイド』『ギャンブル障害の治療:患者さん向けワークブック』いずれも星和書店刊。
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