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星和書店 こころのマガジン
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境界性パーソナリティ障害をもつ人とどう話したらいいですか

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一緒にいるための対話のコツ

BPDをもつ人とのピリピリしがちな対話を改善するSET-UPツールを豊富な事例とともに紹介。対話の質が変わります。

ジェロルド・J・クライスマン 著
荒井秀樹 訳

本体価格 1,800 円 + 税

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精神科薬物療法に再チャレンジ

精神科薬物療法に再チャレンジ

豊富な症例と具体的な解説で学ぶ処方の実際

精神科薬物療法に自信をつけるために企画された本書は、各執筆者が自ら臨床で使いこなす薬物について、その使い方や他の薬物との使い分けのコツを、症例を提示しながら具体的に解説する。

日本臨床精神神経薬理学会 監修
寺尾 岳 編集

本体価格 3,600 円 + 税

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精神科における予診・初診・初期治療

精神科における予診・初診・初期治療 《電子書籍版》

外来診察用手引きとして多くの人に読まれてきた名著が、大幅に加筆訂正され復刊。著者流の診察における配慮やコツが、具体的に平易な言葉で述べられている。「客観的」手法が優勢である今日、それに偏らず、診察で人間の全体をとらえ、治療に繋ぐ作法をわかりやすく説いてくれる類のない書。

笠原嘉 著

本体価格 2,000 円 + 税

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月刊 精神科治療学 第35巻7号

《今月の特集》

なぜ精神科医はメディアに情報を発信し,表現するのか?

コラム連載:「三密」が避けられない自助グループミーティングが中止を余儀なくされる中、薬物依存症臨床の現場でいかに対応したか?

特集:精神科医ほど社会に向けて発信することを求められている医師はいない。
本特集では、斎藤環氏、香山リカ氏、松本俊彦氏をはじめ、著名かつ高い発信力を持つ精神科医たちが、情報発信に際して過去にどこにも吐露しなかった思いや体験を率直に語る。情報発信する際の心構え、さらには精神科医として生きる指針にもなる特集。

本体価格 2,900 円 + 税

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臨床精神薬理

月刊 臨床精神薬理 第23巻8号

《今月の特集》

興奮性アミノ酸の臨床精神薬理学

興奮性アミノ酸受容体に作用する化合物の治療薬としての開発に関する最新情報!!

NMDA受容体、AMPA受容体、カイニン酸受容体など興奮性アミノ酸に作用する化合物について、基礎研究で解明されている最前線の知見に加え、統合失調症・気分障害・認知症・てんかん・強迫症・アルコール依存症など様々な精神疾患に対する病態解明研究や治療薬開発の動向について、第一線で活躍している専門家が解説した特集。

本体価格 3,000 円 + 税

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今月のコラム

1999年J-POPの「Trauma」と解離とフラッシュバック

  新谷宏伸

2020年、故安克昌先生の生涯をえがいた物語『心の傷を癒すということ』に続いて、浜崎あゆみさん(以下あゆ/浜崎あゆみと敬称略で記載)の半生をつづった“事実に基づくフィクション”『M』もTVドラマ化されました。1999年当時大学生だった私は、ELTやDo As Infinityとともに、あゆの曲もカーステで聴きまくっていましたが、まさか心の奥にあるMDプレイヤーの再生ボタンが21年後に押されようとは思ってもみませんでした。

【歌詞へのリンク】
Trauma 浜崎あゆみ 歌詞情報 - うたまっぷ
【動画へのリンク】
Trauma (LOVEppears / appears -20th Anniversary Edition-) - ayumi hamasaki

――これは、浜崎あゆみのマキシ・シングル『A』に収録された『Trauma』という曲です。耳ダコに刻まれた記憶をたどると、この歌はたしか桃の天然水のCMソングだったはず。『Boys & Girls』や『appears』など、どストレートで分かりやすい歌詞が多かった1999年当時の彼女の楽曲にあって、『Trauma』に紡がれたことばは、ひときわ異彩を放っていました。一行目から力強いメロディで「今日」と「顔」というフレーズをくり返すことで、聴く人の心の耳に違和感を残そうという意図があったのでしょうか。この歌詞は、「今日一日の中でうれしいこともあったし、悲しいこともあった」という文字通りの意味には収まりません。むしろ「同じ瞬間の、同一のはずの自分の中の、別々の顔」、つまりトラウマによってこの曲の主人公の同一性が二分割されている様子を婉曲的に伝えたかったのでしょう(少なくとも今日の僕にはそう感じられます)。
 よく考えてみれば、僕たちの心の中にだって、「働きたい自分」と「仕事をサボりたい自分」の両部分が遍く存在していますよね。極端に針が振れないように折り合いをどうにかつけるという調整が、きっと日々なされているのでしょう。ならば、虐待者との同居という劣悪な境遇を強いられるなど、“折り合いのつかなさの程度”いかんによっては、敵対する国家同士の国交以上に「自分」と「自分」の関係が緊迫し、心が分断されても不思議ではありません。自分が虐待されていることや、自分の養育者は涼しい顔で虐待をするひどい人間だという事実は、誰でも認めたくないし、なかったことにしたいものでしょうから。

トラウマを受傷した人の心は、「生活担当パーツ」(=ヴァン・デア・ハートらの構造的解離理論でANPと呼ばれるもの)と「トラウマ記憶担当パーツ」(=同じくEPと呼ばれるもの)に切り分けられるようです。トラウマ記憶は、物語記憶(一般的な記憶)と違い、“言葉にならない”ほどの辛さを伴う体験の記憶なので、「記憶+感情+感覚+行動のかたまり」として冷凍保存されます。それをEPが引き受けてくれるため、かたやANPはトラウマを想起せずにすみ、辛さに圧倒されず日常生活を送ることが可能となるのです。つまり解離という“切り離し作業”は、トラウマに耐えながら生きなければいけない者にとっては、理に適った生存戦略といえましょう。

ANPとEPが切り離されたままで生きる弊害は、むしろトラウマ環境から離れて生活できるようになったときに露わになります。例えば、若年期に虐待を受けていた人が成人し、就職後に上司から叱責されたとしましょう。すると、上司の叱責がトリガー(引き金)となり、「若年期の養育者や学生時代の教師から責められたときの無力感や怒り」などの、冷凍保存カプセルの中身が再活性化され、ないまぜになって噴き出してANPを襲います。トラウマ記憶は“言葉にならない”ため、体感を総動員して溢れ出てくるのです。これがフラッシュバックです。

フラッシュバックというと、映像で過去のシーンがリアルに想起されるものがポピュラーですが、実際にはさまざまなタイプがあります。【1】感情のみの(あるいは感情優位の)フラッシュバックの場合、前述のトリガーが同定できないことも多く、ANPは“なぜだか理由は分からないが溢れてくる怒り、恐怖、あるいは悲しさ”として実感することになります。【2】聴覚性フラッシュバックは、一言一句テープレコーダーを再生するように迫害者に吐かれたフレーズを再体験するのではなく、再構築されて少しずつ文言を変えながら、“幻聴”としてくり返し体験されます。【3】行動がフラッシュバックすると、若年期の養育者そっくりの口調で自分の子どもに暴言を吐くといった“行動的再演”として現れます。【4】幼少期に受けた身体的虐待や性的虐待が身体に刻まれていると、原因不明の“身体の痛み”としてのフラッシュバックが生じます。

フラッシュバックのみをテーマに本一冊、映画一本、J-POP一曲作れそうですが、ともあれ、トラウマ記憶に由来するとみなして支援にあたるトラウマインフォームド・アプローチの視点をもたなければ、【1】から【4】の症状はそれぞれ単なる情動易変性、幻聴、攻撃性、身体症状と片づけられてしまうでしょう。ANPは、今の苦痛と昔の苦痛、両方を一度に被ってしまっているにもかかわらず。
 トラウマ記憶を抱えるという過酷な役割をEPが引き受け続けてくれたからこそ、解離症の患者は生き延びることができたのです。それを忘れてはなりません。ただ、“解離”によって過去の感情を生々しいまま心に溜め込み続けたことで、現在は不調をきたすようになってしまっています。では、ANPはラクな人生を歩んできたのでしょうか?――答えは「いいえ」です。心身の殺戮から逃れるためには、トラウマと距離をおき、迫害者を肯定しながら生活する悲痛なパーツ(ANP)の存在もまた不可欠だったのです。

近年のトラウマ・ケア領域の興隆は、決して浅薄なブームではなく、ジャネ理論の正当なる復権によるものとみなしてよいと思います。実のところ、ジャネが光を当てた「トラウマと解離の文脈」ほど汎用性があって回復支援に有用な説明も、そうはありません。支援のまず第一歩として、治療者は、EPから目を背け拒絶するのではなく、感謝を伝えてその労をねぎらう必要があります。

【歌詞へのリンク】
Trauma 浜崎あゆみ 歌詞情報 - うたまっぷ

お手数をおかけしますが、ここで再度、上記のリンク先にある『Trauma』の歌詞、ラスト三行(サビ)に目を通してくだされば幸いです。傷を誰に見せられるのか、主人公が「あなた」という存在にたずねていますが、「あなたなら」の「あなた」とはいったい誰なのでしょう?主人公のトモダチでしょうか? それとも、歌を聴いているファンでしょうか?――そうではなくきっと、「あなた」とは、「うれしかった顔」の持ち主であるANP。そして「私なら」の「私」とは、「悲しかった顔」を浮かべているEP。僕はそう分析するのですが、そんな推察は荒唐無稽でしょうか。でも、トラウマに晒されたことで複数に分かれた主人公の内面を(主にEP側からの視点で)歌っているのだと解釈すると、歌詞全体の様々な箇所の辻褄が合うのも事実なのです。トラウマに飲み込まれて為すすべがない状態から、特に曲の後半部分ではパーツ間でエンパワメントがなされ、曲の主人公はリカバリーへの道を歩んでいきます。そんな『Trauma』は、あゆの楽曲群が全体としてハーモニーを奏でるうえで、まさにバランサー的パーツとして欠かせない存在かもしれません。

閑話休題、臨床場面における構造的解離支援の要諦は、治療者のそのコンパッショナブルな態度で、poker faceのANPに、EPとの国交回復の必要性をTrustしてもらうことのはずです。そのベクトルの延長上、それも遠くないところに、USPT(タッピングによる潜在意識下人格の統合法)による治療があると、僕は考えています。

【参考作品】 『Trauma』 (作詞:浜崎あゆみ, 作曲:D.A.I., 唄:浜崎あゆみ, avex trax,1999)

新谷宏伸(にいや ひろのぶ)

精神科医、現USPT研究会理事長。2000年に群馬大学医学部医学科卒業。2012年に本庄児玉病院に就職し、2016年より解離症の専門外来を開設(現在、外来医長)。近著に『USPT入門 解離性障害の新しい治療法――タッピングによる潜在意識下人格の統合』(共編著,星和書店刊)がある。

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