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  まだまだ少ない精神科医

 アメリカと日本の精神科医の人数を比較してみると、日本ではいかに精神科医が不足しているかがわかります。アメリカの人口は、大体3億人弱で、日本の人口は、1億2千万人だそうです。アメリカでは、精神科医は3万人いるといわれています。数年前ですが、アメリカ精神医学会の総会が、カリフォルニアのディズニーランドを借り切って行われたことがあります。これに比べると、日本での学会はかなり小規模です。

 日本の精神科医の人数は、どのくらいでしょうか。日本では、精神科の専門医制度ははいないので、他の科の医師でも精神科の治療を行うことはできます。一応、精神神経学会に所属している医師数は、大体1万人弱かと思われます。ただ、実際に精神科医として診療している医師数は、これよりはるかに少ないと思われます。日本は人口比では、アメリカの大体半分くらいですが、精神科医の数では、6分の1くらいでしょうか。日本のいわゆる国民総生産と言われるものは、500兆円ほどだそうです。 アメリカは、この2.5倍ほどだそうです。一人当たりの、所得は、あまり差がないということです。

 このことから考えても、日本の精神科医は、とても不足しています。統合失調症といわれる病気は、100人に1人の発病率だといわれていて、これは、どこの国でもほぼ同じということです。日本では、100万人の患者さんがいて、そのうち、30万人ほどが入院しています。そうすると、入院患者さん100人を1人の医師で診たとしても、3000人の医師が必要になります。5000人の医師で、100万人を診るとすると、1人200人を診なければなりません。精神科に受診される方は、統合失調症を持つ人ばかりではありません。うつ病の患者さんも、さらに人数が多いといわれていますし、不安障害、境界性パーソナリティ障害、などを持つ人たちも沢山います。

 児童でも精神科を受診する人、あるいは、子どもを受診させたいご家族も沢山います。ですが、日本には児童精神科医の数は、本当に少ないのです。一般精神科医の10%位というのが実情ではないでしょうか。

 ADHDやアスペルガー症候群などの障害を持つお子様のご家族の方は、治療施設を探すのに本当に苦労されているようです。医療費抑制政策のもとでは、児童精神科医が増えてくることは、すぐには期待できないでしょう。

 現在の状況では、1人の医師が沢山の外来患者さんを診なければなりません。そのため、患者さん一人当たりの診察時間は、とても短くなってしまいます。また、このように沢山の患者さんを診察しないと、経済的に成り立たない医療経済状況です。患者さん、あるいはご家族の方が医師に質問したくても、もっと話を聞いてほしくても、なかなかそうはいきません。
こういう状況ですので、私どもは、出版物を通して、少しでも読者の方々のお役に立てるよう、日々、努力しております。私どもの出版物をお読みになった読者から、「本当に助かった」「病気のことがよくわかって、いままで罪悪感を持っていたのだが、とても気が楽になった」「もし以前にこの本を読んでいたら、友達を救ってあげれたかもしれない」など、いろいろご感想をいただきます。こういうご意見をいただくと、もっともっといい本を出せるようにがんばらなくては、と勇気づけられます。 

 時には、本を読んだ方から、どこへ行けばいい治療をうけられるか、というお電話をいただくときは、困ってしまうというのが実情です。子どもの精神科救急をやっているところを探しても、ほとんどありません。お電話で、わかりません、と答えると、すごく怒られることがあります。「本をだしているのに無責任だろ」と責められると、悲しくなります。日本の医療政策が好転するのを強く期待しているのですが、それまで、精神科医療に貢献できる出版物を出しつづけていくつもりです。

 今月も、ご家族の方々にお役にたてる「やさしい子どもの精神科薬物療法ガイドブック」を出版いたしました。この本は、子どもの薬物療法だけでなく、向精神薬に関する多くの情報がわかりやすく解説されていますので、多くの方々にお読みいただければと願っております。

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