危機感と不安
月並みな言い方ですが、本年もまもなく終わろうとしています。あっという間の1年でした。時代を反映しているのでしょうか、「不安とうつの脳と心のメカニズム」が当社の今年最後の出版図書となりました。本書では、不安を感じるときの脳のメカニズムが解説されています。心で感じることと脳の関係が少しづつ解明されつつあるようです。
ただ、人が不安だという場合、脳のある部分である情報処理が行われている、ということが分かっても、なぜ不安を感じるのかは、まだまだ謎かもしれません。脳の変化があって不安を感じるのか、あるいは、不安を感じて脳の変化が起こるのか。鶏と卵のどちらが先か、という何世紀にわたる大問題に、答えは出たのでしょうか。
宇宙の時間から考えるとほんの瞬間的な時間かもしれませんが、人間は、なが〜い時間、同じような環境で何世代にも渡り生きてきました。その歴史の中で、対処能力だとか免疫力が育まれてきたのではないでしょうか。ところが、今までの社会組織が変化してしまって、私たちにそなわってきた免疫機能が効力を発揮できなくなってきているかもしれません。対処能力を超えた変化が生じているような気がします。
私たちは、物をみてそれを言語で表現しています。たとえばある風景をみて、それを言語で表現できます。絵に描くことも出来るわけです。昔は、自動車のエンジンも、外から見ても分かるくらい分かりやすかったです。でも今では、全く内容が分からず、言語で表現できません。専門家でない私たちは、パソコンの中身は、全くのブラックボックスです。となると、パソコンがうまく動かないとき、何がどうなっているのか、全くわかりません。中が見えないのですから、全く言語で説明できません。とても不安になります。ここ20年くらいの間に、今までに人類が経験したことのない変化が生じているといってもいいかもしれません。アインシュタインの相対性理論も革命的でしたが、一般の人たちがそれを分からなくても、日常生活には、あまり関係のない話かもしれません。ですが、今のデジタル革命は、全く分からない機械が日常のそろばんのように手元にあるのですから、これは大事件です。
経営者たちは、変化しなくてはだめだ、今の状況にとどまっていてはダメだ、といって、社員を叱咤激励します。こんなことをしていては、会社がつぶれてしまうぞ、などといって、危機感を社員にうえつけます。社員に危機感を与えることが、いい結果を招くと、考えているのでしょうか。危機感をあおると、不安が大きくなるとも考えられます。変化することが、いいことだ、と一方的に考えているようです。変化しないことの重要性もあるのではないでしょうか。弁証法的課題かもしれません。
悪い結果を考えると、悲観的になると、免疫力が低下するとも言われています。国は、経費削減に成功しているとは思えませんが、企業は、経費削減運動花盛りです。悲観論に支配され、社員の皆さんの免疫力も低下しているかもしれません。
悲観的になり危機感をあおり不安になるという悪循環をいい方向に変換させる認知的工夫が必要かもしれません。周りの人の気分をぱっと明るく出来るように、日々努めたいものです。
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