当社の出版基準
4月は、新年度、夢ふくらませて入社式に向かう人たちに出会います。分かるんですね、新入社員だというのが。同じような背広を着ていても、何となく新人の匂いがするんです。4月は、会社の経理部にとっては、一年で一番忙しい月かもしれません。4月が新年度の会社は、3月が年度末で決算の月です。4月は、決算の処理でてんやわんや、というのが毎年繰り返されます。
当社も一応会社ですので、決算があります。こんな小さな会社ですのに、大会社と同じく3月末が決算です。何とか、今回もつぶれないですんだようです。いやいや、ある程度、利益がでたようで、税金などもお支払いさせていただけるようです。ようです、なんて、ずいぶんあいまいですが、当社では社長も経営的な数字にとてもうといのです。
いつも銀行にお勤めの人たちには、あきれられるのですが、当社には、予算と言う考えが全くありません。1年に何冊くらい本を出される予定なんですか、今期の売上げは、昨年と比較するといかがですか、などの質問を銀行の支店長や取引先の方々からよく受けます。これらの質問には、決まって次のように答えます。「そういう計画は、あまりないんですよ。経営計画というのもないし。目標とか、あまり立てないんですね。今月の予算、とか出版売上げ計画、なんてたてると、すごいストレスになりますよ。それを達成しようとして、いい加減な状態でも出版してみたり、計画に追われてストレスが大きくなるでしょ。ストレスが大きくなると、人間、緊張するんですよ。いわゆる、交感神経がいつも働いていて、血管も緊張していて、血液の流れも悪く、心臓に負担がかかって、脳の働きも良くなくなるんですね。だから、当社では、出来るだけ交感神経を刺激しないように、出来れば副交感神経がはたらいて、リラックスできるように、予算なんて立てないんですよ。仕事をしないと言うことではないんですよ。読者のためにいい本を作ろうと、一生懸命仕事はしますよ。いい本を作るために、好きな仕事を一生懸命やるのは、ストレスにならないんです」というようなお話をし、それをきっかけに、ストレスの話や、うつ病の話などメンタルヘルスの話をさせていただくことにしています。
実際、当社では、今期や今月の予算、売上げ計画、などというものが全くありません。今月は、いくら売れた、ということも経理部長以外、把握しておりません。社長も知らないのですから。売上げとか予算とかの会議も皆無です。
そんなんじゃ、つぶれてしまうよ、と思われるでしょうが、これがしぶとく生き抜いているんですね。悲観論の楽観論とでもいうのでしょうか、損がでても、そのくらいの損なら大丈夫、と開き直っています。他社では、出版計画を立てるとき、どのくらいの定価をつけて、どのくらいが売れて、利益がどのくらい、と計算するようです。そこで、損が出そうだとなると、いい本の計画でも流れてしまうようです。基本的に、本を出すことが、儲けること、利益が出ること、という普通の企業のような考え方をする出版社が多いようです。
当社では、先生方がご出版したい企画がある場合、この学問分野にとって必要であり価値があると考えられる場合、できるだけ出版する方向で考えます。もし売れなくて損がでるとすると、どのくらいの損がでるだろうか。全く売れなくて、どのくらいの損なのか。ここまでは、どちらかというと慎重論や悲観論的ですが、次にこう考えます。そのくらいの損ならば、星和書店がつぶれることはないだろう。それなら、Go! となります。ここがすごく楽観論的です。もしその想定される損が大きすぎ、星和書店で負担できる限度を超えている場合は、出版を断念することがあります。
来月、「幸せをよぶ法則――楽観性のポジティブ心理学」という新刊を出版します。これをよんで、ぜひ、悲観論をぶち破っていただきたいと思います。
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