幸せになりたいというのではないんです、この抑うつ状態から抜け出たいんです
最近、新聞紙面で精神科領域の記事を目にすることが多くなりました。
読売新聞でも医療ルネッサンスという紙面で、境界性パーソナリティ障害のことや、
軽いうつ、統合失調症の誤診、などの連載がありました。朝日新聞でも、16日(11月16日日曜日)の朝刊の32面に「非定型うつ病」の解説記事が載っていました。
なかなか分かりやすい記事でしたが、紙面の都合でしょうか、かなり軽短でした。
新聞は、かなり影響力を持つので、これを読んだ人が、「私はこれだ」と思ってしまい、
すっかり「非定型うつ病」アイデンティテイを簡単に作ってしまい、それにどっぷりとつかってしまう危険性がないとは言えないでしょう。
こういう記事が載ると、かなりの問い合わせがきているはずです。当社の本の紹介がのるだけでも、
かなり問い合わせはあります。本を買いたいから、というのではなく、内容についてとか、
子どもがその病気のようなのだがという相談であったり、とにかくいろいろ電話やメールがきます。
新聞社では、どう対応しているのでしょうか、気になるところです。ただ書きっぱなしなのでしょうか。
以前、読者の方に怒られたことがあります。当社の本の一つをお読みになった方から、
「その治療を受けたいのだけど、どこへいけばいいのか」という問い合わせでした。
日本では、その治療をやっているところがあるのかどうか、私どもも把握していなかったので、
分かりませんと応えたところ、本を出せばあとは知らないって言うことでいいのか、
と強く指摘されました。それを聞いてとても反省させられました。新聞の場合、
記事としての性格でしょうか、推薦図書などがあげられていません。
関心のある読者の方に推薦できる良書の紹介があれば、いいのになあ、っていつも思います。
軽いうつ、非定型うつ病、双極 II 型障害、
など最近トピックになっている話題が新聞に取り上げられます。
ただ、意外とブーム的で、しばらくすると関心が薄れてしまうということも、
これまで多々ありました。アダルトチャイルドなど、一時はテレビや新聞、雑誌まで、
毎日目にすることが多かったトピックも、現在ではほとんど見かけません。
日本では、バイポーラーが話題になり、双極 II 型障害が今話題になっていますが、
アメリカで話題になっていたのは数年前だったと思います。
日本は、アメリカに数年遅れることが多いようです。こういう話題の診断は、
だいたいが日本独自のものではなく、アメリカから輸入されてきたようです。
当社で現在翻訳が進行中の本“Why am I still depressed?” が出版されたのが、
3年ほど前で、アメリカ精神医学会の学会で話題になっていたのもそのころかと思います。
現在、日本で出版されている双極 II 型障害の本は、、Why am I still depressedの内容にとても似ています。
相違点は、Why am I still depressedには、日本の本ではあまり触れられていない治療とか友人家族がどう援助できるかとか、
有益な内容がしっかりと載っています。ただ、翻訳の時間がどうしてもかかるため、
まだ日本語訳は出版になっていません。海外で話題になっていることを、
さっと取り入れて本にするという日本の出版社のお家芸は、見事なものです。
翻訳書は、出版レースで遅れをとってしまうことが多いようです。残念。
聞いた話ですが、今年のアメリカ精神医学会の学会で、
Bipolar 2(双極 II 型)の話題は、あまりなかったと言うことです。数年前の熱気は、
冷めてしまったようです。日本でも、あることが話題になると、
その話題ばかりが取り上げられます。雑誌の特集企画でも、各社企画するものですから、
どの雑誌でも、同じ話題が取り上げられ、同じ人たちが書いている、という現象が出てきます。
そしてしばらくすると、忘れられたようにこの話題はなくなります。
新聞社は、そのときの速報性を大事にするのでしょうから、
トピック性の話題に飛びつくのは、仕方ないと思います。ただ、出版社は、特に専門書出版社は、
少し慎重でありたいと思います。
当社の場合は、話題になる前のトピックは、熱心に紹介してきました。
家族療法がはやる前に、家族療法を日本に紹介して来ました。
認知療法の最初の入門書を出版し日本に紹介してきました。ですが注目を集めてくると、
そこで止まっちゃうことが多かったようです。いいとなると、他の出版社が乗り出してきて、
競争になります。そういう時、周りがやっているのだから、
当社がやらなくてもと思って手を引いちゃうことが多かったなあ、と自戒しています。
競争心はないですし、売れるから出版するという商売根性にも欠けているようです。
使命感はあるんですけど。
Why am I still depressed の前書きで、ある患者さんの言葉を紹介しています。
「私は、幸せになりたいなんて期待していません。ただ、この抑うつ感から抜け出たいのです」。
次の文章には、ドキッとさせられました「大量の抗うつ薬が処方されています。
海水を調べれば探知される量になっています。魚への影響も含めて、
環境へ与える影響もこれから考えていかなけらばならない」。
カスタネダというひとが師事したインディアンのドン・ファンの言葉。
「見ることを知っているものは頭の中で世界を二つに分けたりしない。
ふつうのひとの世界と呪術師の世界は両方とも平等な現実だと知って、
まったく同時に同じ場所で二つの現実を生きられる。二つの中間に入り込んだときにしか、
見るってことは起こらない。コヨーテはしゃべったか?
信じることは呪術師の世界に釘付けにされることで、
信じなければふつうのひとの世界に釘付けにされてしまうのさ」
私たちは、ふだんから二つの世界を同時に見ているのだろうか。
この、中間に入り込んだとき、唯一、楽なときなのか?条件の集まりに名前が与えられただけの現実が見えている間は、
窮屈で当たり前かもしれない。
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