過去も未来も手放して
新年明けましておめでとうございます。
昨年の後半から、日本中にかなり暗い雰囲気が漂っていました。年が明ければ、この経済不況は終わって、いい方向に向うだろうという期待も、もろくも崩れ去っているようです。希望を持つと、結局は打ち砕かれるのに、なぜ希望を持とうとするのでしょうか。
今の日本は、まるで将来に悪いことが起こるという不安感で満ち満ち、どっぷりと不安障害に罹患してしまったようです。パニック状況とも言えるほどの将来に対する不安から、日本企業とは思えないほど、すばやい対処行動がなされています。いつもは、海外の企業と比べて、意思決定が遅々として進まないのに、今回は敏速でした。
将来の望ましくない出来事に対しては、通常、心理的防衛機制がはたらいて、先延ばしにすることがよくあります。地球温暖化の問題も、きっと経済的不況よりも、もっと危機的状況だと思われますが、対策は先延ばしされています。私が大学の時の神父さまに、宿題や予習を先延ばしにすると、オー、プロクラスティネイター(procrastinator)といってからかわれたものです。経済不況も決して望ましい出来事ではないので、対策は後回しにしがちな防衛機制が働いてもおかしくはないと思うのですが、何と、リストラの嵐というすばやい対策が発揮されました。もしかして、企業にとって、不況が来るということは、現実の不安ではなく、いい口実になってしまっているのかな、とも疑ってしまいます。
不安が不安をあおるのでしょうか。今までも何度となく繰り返されてきました。30年以上前でしょうか、紙がなくなる、と大騒ぎになりました。スーパーの店頭には、紙製品を求めて人が列を作っていました。いつもは紙をたくさん買わない企業まで、必要量の何倍も確保しようとしたので、紙の値段が上がり、出版社は大変困りました。現状を良く見れば、紙が足りないことはない、と分かったはずです。このような騒動の発端は、きっとマスコミの報道だったのでしょう。報道も大事な使命をもっていますが、ちゃんと現状分析をして、落ち着いた報道をしてもらいたいものです。恐慌をあおって、視聴率をあげたいからというような報道が目に付きすぎました。マスコミ原性の騒動は、今でも続いているのではないでしょうか。
昨年の前半、紙の需要が多いことから製紙メーカーは、かなり強気で値段を上げてきました。メーカーは、紙が足りなくなるとか、原材料が高騰するから、とか、将来の不安材料をちらつかせるわけです。各出版社とも、紙の値上げ要求と戦ってきました。そうしたら、夏ごろ、値上げの話はなくなり、今度は、値段が下がってきました。紙の在庫もだぶついて、メーカーでは減産という状況です。一体これは何だったのでしょうか。やはり、将来将来といって、今、この時の状況を直視していなかったのだと思います。経済評論家やマスコミの記事などに影響を受けていたことだと思います。
当社では、今までも何度も同じことの繰り返し、今回もそうだろう、と思って、問題にしていませんでした。そうしたら、案の定の結末になりました。
不確実な未来を心配するあまり、今この時のことに耳を傾けていないのではないでしょうか。昨年出版させていただいた水島広子先生のご本「怖れを手放す」のオビには、次のように書かれています。
「怖れを作り出すのは、過去や未来から聴こえてくる雑音です。
過去のデータベースも未来も手放して、今この瞬間の音を聞く」
出版でも、出版前から「これがたくさん売れてくれれば、ベストセラーになれば」と期待していると、大抵はその希望は打ち砕かれます。売れることばかりに関心がいってしまうからかもしれません。地道な編集作業、本作りを、その時その時一生懸命やることに集中したいものです。失敗するかとか、成功するかとか、結果ばかり考えないで、いい本を作るというプロセスを大事にしたいものです。
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