Publication of this month
|
|
本書は、オックスフォード大学から2007年に出版されたフォア先生著Prolonged Exposure Therapy for PTSDの翻訳です。こちらは、治療者のためのガイドブックで、同時に患者さんのためのワークブックReclaiming Your Life from a Traumatic Experienceも発売されています。こちらの翻訳も現在進んでいて、間もなく当社より発売される予定です。
フォア先生のこの本の原稿は、出版される前からオックスフォードから送ってもらう手はずになっていて、英語版の出版と同時に日本語版も出版したいという予定で進めたのですが、なぜかオックスフォードの手配の遅れから、いつまでたっても原稿が送ってこず、ついには出版された本が送られてきた、という結末になってしまいました。ということで、原著よりは遅れた出版になってしまいました。
アメリカでは、成人の約70%が少なくても一生に一度はトラウマを体験しているといわれています。多くは、自然と治っていきますが、20%くらいがPTSDを持つにいたるといわれています。本書に説明されている持続エクスポージャー療法(PE)は、フォア教授が考案したもので、現在エビデンスのあるPTSDの治療法の中で最良とされています。
非常にユニークな構成になっています。通常、読者対象をきめて、本が執筆されます。治療者向け、ご家族向け、患者さんご当人に向けて、というように対象をしぼります。これによって、内容や文体、本の大きさ、定価など決まってきます。それがこの本の中は、患者さんのコツ、家族のコツ、治療者のコツ、という章立てになっています。
統合失調症から回復するコツが、わかりやすく説明されています。
第2版の登場です。第1版は、スーパーローテイションが始まった年に出版されました。意外と言ったら怒られますが、思った以上によく売れて、増し刷りも出ました。多くの大学などでも使われていましたが、最近、発達障害が注目を浴びてきたので、その項目がないという読者カードをよくいただくようになりました。そこで、栗田先生にお願いし、発達障害の項目を増やして、今回第2版を出版いたしました。これで、心理系や看護の大学での授業でも、お使いいただける内容になりました。
2年ほど前のある日、突然、九州の心理の先生から、ご連絡を頂きました。バーンズ先生方式のテキストをご自分で作って、患者さんに使ってもらって治療をしていて、大変効果がある、という連絡でした。出版社として、当社の本との関連性も気になりましたので、その後打ち合わせをしていくうちに、著者の中島先生も東京に移住されてきたこともあり、実際のセッションを撮影しようということになりました。当社の取引先の社員の方などに出演してもらい、二日間かけて撮影いたしました。出来上がったDVD自体の映像時間はあまり長くないのですが、撮り直しなどをしたため、実際の撮影時間は2日間に及びました。
この内容をもとに、テキストを作り直し、とてもいい教材になりました。
特徴としては、認知行動療法を集団で行うもので、ごく具体的な記入例や宿題などをとおして、5日間で一つのプログラムが終わるようにできています。病院での集団精神療法の教材として、企業の社員研修として、EAPなどでのテキストとしてお使いになるのに最適です。治療者がいない個人の場合でも、DVDを見ながら、自習マニュアルとして活用できます。
タイトルは、何度も何度もいろいろ案を出して、先生と検討しました。「自尊心をたかめるための5日間」他10ほど考えたのですが、自尊心、自尊感情、自己評価、など、どうも内容からして、固いイメージになってしまいます。英語のSelf-Esteemは、よくつかわれると思うのですが、自尊心、自尊感情、自己評価などは、あまりなじみのある言葉ではないようです。ということから、バーンズ先生のベストセラー「いやな気分よ、さようなら」の雰囲気を踏襲して、このタイトルになりました。
このタイトルから、何の本かわかりますか? それで、「うつ病からの贈り物」という副題をつけさせていただきました。
2年以上前でしょうか、「境界性人格障害=BPD」をお訳しいただいた富山の荒井秀樹先生からお電話をいただきました。この本は、現在、BPDのご家族の方のバイブルといわれるほどになっています。時がたち、先生も富山の駅前で開業されました。先生のやさしいお人柄もあり、予約を取るのも大変という大繁盛のクリニックになっております(クリニックが大繁盛というのもおかしな表現でしょうか。とても人気のある、とても評判のいい、などの表現のほうがいいかもしれませんが)。御開業されてから、うつ病の患者さんがとても多く、うつ病の患者さん、ご家族向けの講演を沢山されていて、その内容を本にできないだろうか、というお話でした。お聞きしてみると、スライドを使ったりして、サイコエデユケーションをされているということでした。また、うつ病を体験し、現在、富山でNPO法人エッセンスクラブを立ち上げ、うつ病の患者さんの自助グループを運営されている赤穂さんも、ご講演をご一緒にされているということでした。赤穂さんの活動は、富山ではかなり注目を浴びて、テレビなどの取材も受けているというお話。では一度ご相談を、ということで、先生と赤穂さんと東京でお打ち合わせをさせていただきました。それではぜひサイコエデュケーションの現場を撮影しようということで、東京から映像会社の方に富山に行っていただいて、撮影開始。このDVDを組み込んだうつ病入門は、5月ごろに発売になります。このお話があって、赤穂さんからご自身の著書をお書きになりたい、というお話をいただき、それが今回出版しましたバニラエッセンスです。このタイトルには、赤穂さんの思い入れがたくさん詰まっているということです。ただ、読者には、宣伝しても、何のことかわからないでしょうし、思い入れのあるタイトルを変更するのも忍びないし、副題をつけることにしました。副題を本タイトルといつも一緒に宣伝することにより、内容を理解していただこう、という思惑です。この本は、赤穂さんが発病される以前、発病され、大阪から富山に戻り、治療を受け、回復し、自助グループを作り、うつ病の方々のために努力されている、赤穂さんの思いがたくさん詰まったご自身の記録です。
ACT vs ACT
ACTというと、現在の日本では、Assertive Community Treatment(包括型地域生活支援プログラム) のことと思われるでしょう。
今回、こころの臨床で紹介しているACT(アクト)は、Acceptance and Commitment Therapy(アクセプタンス コミトメント セラピー)の頭文字を取ったものです。当社では、今までも、家族療法、認知療法、など、まだ日本でなじみがない時から、ご紹介してきました。今回ご紹介するACT(アクト)も、まだまだ日本ではなじみがない治療法だと思います。聞いたこともない、という先生方が多々いらっしゃられると思います。
私が、ACTというのを目にしたのも、ほんの2年ほど前だったと思います。仲のいいアメリカのNew Harbingerという出版社から、ACTとタイトルが付いている本が、次々に送られてきました。最初は、地域生活支援のACTの本だろうと、読まずに積んでおきました。あるとき、アメリカの認知療法の世界でACTが話題になっているということを小耳にはさんで、あれっと思って、積み上げていた本の一つに目を通してみました。なんと、地域生活支援のACTとは、全く違った、新しい治療モデルでした。
全く今までの治療法とは違ったACTとは、どんなものなのでしょうか。
これがまた、とてもわかりづらいのです。分かりやすく説明できないのがACTなのだそうですが、ACTの治療者の先生がたからのお叱りを覚悟で、ごく簡単に、そして独断的に自分なりの解釈をしてみます。
私が最初に思ったのは、言葉が心を縛っている、言葉が心に悪さをしている、ということでした。極端にいえば、言葉は悪だ、という印象でした(すいません、本当は違うのです。)たとえば、今、イチゴがおいしい季節です。イチゴのショートケーキという言葉から、おいしそうなケーキがイメージされます。言葉がイメージを引き出しました。この関係を切ってしまおう、変えてしまおう、というのが、ポイントのような気がします。言葉で考えると、今現在のことだけではなく、昔のことや、いやなことを思い出します。すごくつらいことなどを考えていると、ますますつらくなります。そこで、この言葉の持つ力をとってしまうとどうでしょうか。たとえば、イチゴ、イチゴ、イチゴとイチゴを100回繰り返すと、イチゴは、単なる発音されたもので、意味の持たない言葉として発音されます。「うつ」がつらい時に、うつ、うつ、うつ、と何度も繰り返すと、うつが持つ意味がなくなり、単なる発音としてのうつになります。言葉が心に影響をあたえる(認知的フュージョン)ことから、言葉と心への影響を切り離す(脱フュージョン)こと、が治療のポイントなのではないか、というのがごく大雑把な私の理解です。
そうしてみると、今までの著名な哲学者は、言葉で考えています。言葉で考えていると、大体に辛いことを考えてしまうようです。生きるとは何か、を考えていると、生きるとは辛いことだ、というように思考が流れていくようです。聖書にもありますが、言葉は神と共にあった、言葉は神であった、と記されています。言葉は、神といえるほどにパワフルな存在なのでしょう。その言葉の束縛から離れるということは、すごく難しいです。考えないようにしても、考えてしまうんです。
ちょっと仏教の思想と似ていませんか。座禅とか瞑想、密教などもそうでしょうか。 「今の瞬間に気づきをむけ、現実をあるがままに知覚し、思考や感情にとらわれない」というのがブッダの教えにあるそうですが、今ここで知覚されることを思考の働きで変化させない、ということのようです。思考、身体感覚、記憶などの私的事象は、変わり続ける一過性の出来事で、そこには不変の自分は存在しない、一過性のものにとらわれることなく、思考によって作り出される悪循環から抜け出す、というのが無常、無我の考えだといわれます。
お釈迦様の教えからみると、言葉は、抑制作用をもつのかな、と感じます。言葉で考え続けると、過去のことをいろいろ考えたりすることになり、過去のことでも悪いことが思い出されることが多いようです。悪いことはいつまでも心に残っていて、楽しいこと、いいことは一瞬なんですね。心を元気にするのは、どうも言葉ではなく、音楽だったりします。行進曲なんて、心を高揚させますよね。言葉を使ったとしても、簡単なほうがいいんですね。オバマ大統領が一言「Change」といったように、簡単なほうがポジティブな方向を示しやすいのでしょうか。長く言葉を使うと、大体悪いことを批判することになりますし、失言して大変なことになるわけです。
ふと今ここで思ったのですが、境界性パーソナリティ障害は、invalitatingな環境が一因になっているといわれます。このinvalitatingという言葉、Linehanが言っているのですが、最近Linehan関係の翻訳本を準備していることから、翻訳するのに苦労しています。非承認的、とか、非認証的、とか訳されます。要は、言ったことやしたことが認められない、反対される、という意味のようです。境界性パーソナリティ障害は、戦争に負けた日本とドイツ、そして文化が多様なアメリカで問題になっていて、ヨーロッパなどでは、あまり大きな問題ではないようです。そのため、アメリカの診断基準には、大きく取り上げられていますが、ICD10では、それほど大きくは扱われていません。文化が違ったり、習慣などが違うと、考えや行動が周りと違い、否定されたり認められないことが多いということも影響があるのかもしれません。こういう状況で、自分が否定されるため、自分の心に影響が及ばないようにある種のバリアーを作ってしまうということもあり得るのではないでしょうか。そのため、心に気づかない、自分の気持ちに気付かず、辛い感情が生じてくる、と考えられないでしょうか。Linehanの弁証法的行動療法が、気づきを重要なポイントにしていることが、こう考えてくるとよく分かります。
言葉を使わない、というのは、本当に難しいです。瞑想、座禅などでも、すぐ雑念が出てきてしまいます。そうじゃなくても、よし、5分間考えないぞ、とやってみても、すぐに思考が侵入してきます。
以前当社から本を書いていただいた気功の先生にちょっと気功の手ほどきを受けたことがあります。気功でも、考えずにイメージします。自分の体の骨をイメージするというのがあって、考えずにイメージしていると、骨格が鮮明に画像のように頭の中に出てくるそうです。そしてその病的なところをイメージで治していくそうですが、私がやってもいろいろ考えばかりが侵入してきて、イメージは全く何も浮かんできません。熟練してくると、いろいろな色のイメージなど浮かんでくるそうです。
昨年から日本でもミシュランガイドが発行されました。寿司や懐石など日本料理店がたくさんの星を取りました。いろいろ批判もあるようですが、フランス人の調査員が日本料理に感動したのだと思います。料理も専門家になると、自分の専門としている種類の料理を素直に楽しめないのではないでしょうか。たとえば、ヒラメの切り身がカリッと焼いてあって、素敵なお皿の上にのって、お魚の下にはホウレンソウ、周りには白いソース、付け合わせには、グリーンや黄色の付け合わせ、とまあ美的なフランス料理が出てきたとします。フランス料理の料理人や専門家がこれを見ると、ソースはブールブランか(白ワインのソース)、シャルドネか、どの程度レデュイール(煮詰めた)したのか、クレメ(クリームをつなぎで入れている)したのか、モンテ(バターをたしているのか)の具合は、ビヤンセル(塩はちゃんと振ってあるか)か、シトロネ(レモン汁をたすこと)は、ポワレ(ソテーの火加減)の具合は、中心温度は60度か、付け合わせはアスパラガスのピュレだな、タミ(うらごし)は何回やったか、生クリームはシャンテ(泡立てて)して加えたのか、なんて考えてしまいます。このように言葉を使って思考してたら、感動はないでしょうし、本当においしいとわからなくなってしまいます。この連中が日本料理に行くと、知識がないわけですから、何の分析もせず、ただ美しさに感動し、おいしさを味わい、今その時を楽しく過ごせるわけです。これが日本料理が星をたくさん取っている理由でもあると思います。
著名な料理人がお母さんの料理が一番好きだ、というのがあります。何も考えずに、親しんだおいしさを味わう。このことに気づくと、料理人のレベルも一段上がるのだそうです。世界のトップシェフは、知識は十分に積んできたのですが、それをすべて忘れて、素材を見て、今その時の感性で料理を作るのだそうです。
さて、5分間、言葉を使わず思考しない、ということをしてみてください。かなり難しいというのがわかると思います。それより、意味のわからない言葉をずっと口ずさむほうが、考えないで済みます。仏教に詳しい方には当てはまらないとは思いますが、私のようなものには、般若心経を何度も繰り返す、と、全く考えていない時間が作れそうです。文意が全く分からず、語呂がいいですから、心にリズム感の心地よさ以外に何の影響も与えないですので、というか、いやなことを考える時間を与えないので、とても良さそうです。辛い時、悲しい時、葬儀などで、お経を唱えることも、なるほどと思われます。
|