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星和書店
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こころの治療薬ハンドブック 第6版

こころの治療薬ハンドブック 第6版

精神科の主用薬剤のすべてを解説。本年上市の最新薬まで網羅。

〔編〕山口登、酒井 隆、宮本聖也、吉尾 隆、諸川由実代
四六判 上製 320頁  ISBN978-4-7911-0735-3 〔2010〕
定価 2,730円(本体2,600円)

精神科のほぼ全ての薬剤がそれぞれ見開きページで分かりやすく解説されており、専門家だけではなく、薬を服用する患者さんやその家族にもとても使いやすいと好評を博してきた本書の最新版。本年上市の新薬までを追加し、識別コード一覧も全薬剤に拡張した。向精神薬の処方、服用のポイントが満載。精神科の薬物療法に関心のあるコメディカルの方にも最適の書。

ACTをみる:エキスパートによる面接の実際

ACTをみる:エキスパートによる面接の実際

『ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)をまなぶ』学習用DVD

ジェイソン・B・ルオマ、スティーブン・C・ヘイズ、ロビン・D・ウォルサー
〔監訳〕熊野宏昭、高橋 史、武藤 崇
〔A5判 箱入り DVD1枚〕収録時間 約2時間7分
[A5判付属テキスト]104頁  
ISBN978-4-7911-0734-6〔2010〕
定価 6,300 円(本体6,000円)

書籍『ACT(アクセプタンス & コミットメント・セラピー)をまなぶ』の学習用DVD。『ACTをまなぶ』の中のコア・コンピテンシーの主要なものを取り上げ、セラピストとクライエントの面接をロールプレイで紹介している。そのセラピストのやり方がACTに合致しているか、そうでないかを判断し、丁寧に確認しながら進めていくため、まさにACTの生きた体験学習が可能となった。スクリプトのすべてを掲載した読みやすい日本語テキスト付き。

  雑誌の最新号 next

精神科治療学
定価 3,024
月刊 精神科治療学 第25巻4号

特集: 統合失調症圏の様々な病像を診ぬく

DSM,ICDにおける分類は臨床上、十分に用をなさないという批判も多い。従来から用いられている有用な臨床単位が独立した位置を与えられていないからである。本特集では、特に統合失調症圏に焦点を絞り、偽神経症性統合失調症、内因性若年-無力性不全症候群、内省型単純型統合失調症、小精神自動症、初期統合失調症、類破瓜病、体感異常性統合失調症、遅発緊張病、夢幻様体験型、夢幻・錯乱状態、挿話性緊張病、若年周期精神病、思春期妄想症を取り上げた。いずれも治療上知っておきたい病態であり、精神科臨床の奥深さと醍醐味が味わえる特集。

臨床精神薬理
定価 3,045
月刊 臨床精神薬理 第13巻5号

特集:児童青年期双極性障害に対する薬物療法

児童青年期における双極性障害は、症状が非定型的で破壊的行動・自殺企図・既遂を伴い、発達障害との併存も多いことなどから、いまだその概念自体が混沌としている。本特集では、これまでの議論を踏まえ、児童青年期双極性障害の治療に関する最前線のエビデンスを検証する。

精神科臨床サービス
定価 2,310
季刊 精神科臨床サービス 第10巻2号

特集 治療が生きる環境とは:精神と環境のインタラクション

心の病をもつ人が訪れる病院や施設では、建築、室内の設備や雰囲気、職員の接遇や服装に至るまでの「環境」が、利用者の精神活動にさまざまに作用し、治療効果にも影響を及ぼしている。本特集では、精神科病棟をはじめ保護室、ストレスケア病棟、デイケア、地域生活支援施設など19の場面をとりあげ、リラックスできる空間づくり、安全のための行動制限と人権擁護との折り合い、職員の働きやすさと利用者の満足度,支援の質などについて、「環境」という切り口から検証する。

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こころのマガジン

100見は、1体験に如かず

 先日、ニュース番組で、間もなく発売される3Dのテレビを紹介していました。それはそれは迫力のある画面だそうです。今でさえ、テレビやゲームに夢中になっている子どもたちは、実際の体験をせずに画像情報によって物事を模擬体験しているのに、どうなってしまうのでしょうか。模擬体験という言葉も、この状況をうまく言いあらわせていないかもしれません。模擬にしろ、実際に体験していないのですから。

 実際に体験した場合と、体験せずに画像をみたり話を聞いたりした場合では、そのリアリティの強さは、まったく違うのではないでしょうか。テレビでタレントがおいしそうな食べ物を口に入れ、おいしい〜って言っていますが、その食材を食べたことがない人には、いくらおいしいって言われても分からないと思います。例えばフォアグラを食べたことがない人が、いくら説明されても、あの食感は、分からないと思います。ボクシングのゲームで、チャンピョンになれたから、自分はボクシングがうまいと思っている子どもたちもいることでしょう。でもあのワンラウンド3分間、よほど鍛えていないと、本当に苦しいんです。疲れてしまって足が動かなくなります。私も昔、体力をつけようとボクシングジムに何回か行ったことがあります。3分間リングの中で練習するだけで、息も絶え絶え、これは自分には無理だ、と実感したものです。ですがテレビや競技場でボクシングを観戦している人は、「もっと打って、アッパーだ、ジャブだ、どんどん前に行け!」なんて威勢よく応援しています。 俺はゴルフはシングルだ、と威張っている人が、聞いてみるとテレビゲームでのシングルだったということもあります。でもこの人は、ゲームで何時もいい成績をだせるから、実際にゴルフをしてもうまくいくと思っているかもしれません。

 百聞は一見に如かず、と言いますが、100見は1体験に如かずです。

 私たち出版人の多くは、「うつ病」を体験せずに「うつ病」の本を出版しています。治療者の多くも、うつを体験されることなくうつ病の人の治療をされています。うつについて勉強し、文献を読み、治療に当たられているのでしょうが、うつの実際の体験をされているわけではありません。うつを体験された精神科医が、当社から「普通の精神科医?」という本を出版されています。自分はうつ病の専門家として長年治療し、精神薬理の専門家としても実績を積んできたが、うつになってみると、今まで思っていたものとは、こんなに違うものかと驚かされた、この苦しさをどう表現したら伝わるのだろうか、と思われたと言っています。

 木村敏先生も、ご著書の中で、自分の見ているものは患者と言う他人の意識や世界だから写生が写生になっているかの保証はない、と言われています。哲学者は、自分の心をみて考えていくのに比較して、精神科医は、他人の心をさも分かっているような顔をして、他人である患者さんについて何かを言う、この矛盾に随分悩まれたと言われています。

 単剤で治療すべきで、多剤併用はよくない、というのが今の学説ですが、これについて神田橋先生は、中井先生の例をあげられています。患者さんに合うものを少しずつ投与される中井先生の処方は、まさに名人芸であるとし、多剤併用は、漢方的な精神である、と言う中井先生のお考えを取り上げられ、このようなことは状態像の意味が分かる中井先生でないとできない、と言われています。中井先生は、以前、当社の雑誌にも書かれていましたが、全部の向精神薬をご自分で飲まれて、効いてくるスピードや作用の強さなど、ご自分で分かって処方されているということで、神田橋先生でもとてもまねのできることではないと言われています。

 もちろんすべてのことを体験することはできないのですから、体験しないで事に当たることもあります。この場合は、相手の立場をよく考えて、想像力を働かせ、相手の気持ちに寄りそうことで、いくらかでも実体験からの感情に近づけるのではないかと思っています。本に印刷されている活字による文章を読みながら、そこに書かれている人物、風景、その人物の声など、自分の中で描いています。それがテレビや映画になると、えっ、これってイメージ違うよ、なんてことを私たちはよく経験します。

 先日の新聞に、ハーレムを舞台に過酷な運命を生きる16歳のアフリカ系アメリカ人少女の人生を描く人間ドラマ「プレシャス」のことが書かれていました。主人公プレシャスを熱演したガボレイ・シティベは、俳優でもなく芸能活動をしていたわけでもなく、大学で心理学を学ぶ傍ら電話オペレーターの仕事をしている時期に「プレシャス」のオーディションを受け主役に抜擢されました。この原作の著者とあって話を聞くと言うことを、ガボレイ・シティベは断ったそうです。本を読んで、すでに自分の中にプレシャスのイメージができているから、著者に会うことはしない、という理由だそうです。これが女優として初のキャリアでしたが、アカデミー賞主演女優賞にもノミネートされたそうです。文章から自分でイメージを作っていく、と言うところが本の持つ素晴らしさだと思います。

 3Dですべて作られた人工的なものには、本の持つこの素晴らしい潜在力が欠けていると思います。デジタルの時代に、非常にアナログ的で、先端的でなく、進歩的でもない本の世界が、デジタル時代の申し子のようなゲームや3Dが与えることのできないものを、私たちに与えてくれます。まだまだ本の世界は、捨てたものではありません。

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