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■特集 シナプスと神経終末の形態学の進歩

●形態的に捉えた視細胞シナプス伝達の特徴
臼倉治郎
 ニューロン - ニューロン間の接合部は一般的にシナプスと呼ばれ,科学伝達物質の放出により次のニューロンへと情報を伝達する。その形態と機能は中枢と感覚器である視細胞では多少異なる。その差異を明確にするため,一般的な中枢のシナプスにおける伝達機構を概説し,その上で視細胞シナプスの構造と特徴を解説する。
key words: synaptic transmission, synaptic ribbons, visual cells, synaptic vesicle, SNARE

●シナプスの分子構築
溝口明
 シナプスにおける神経伝達は,プレシナプスからの神経伝達物質の放出と,ポストシナプスにおける伝達物質の受容によって遂行されている。プレシナプス側のシナプス小胞開口分泌は,低分子量GTP結合蛋白質Rab3A系,3種の蛋白質Syntaxin,SNAP25,Synaptobrevinの複合体から構成されるSNARE Complex系,および,Ca2+依存性膜融合系の分子機構によって制御されている。一方,ポストシナプスにおける伝達物質の受容は,伝達物質の受容体系,PSD95,S-SCAMなどの足場蛋白質系,およびCaMKII,src,ras,PKC,PKAなどの細胞内シグナル伝達系によって行われている。これらの多数の機能分子の複合体からなるプレおよびポストの分子構築は,神経活動依存性に精密かつ迅速に変化しうるものであり,このダイナミックな性質がシナプス可塑性の分子基盤であるという概念が成立しつつある。
key words: neurotransmission, Rab3A small GTP-binding protein, SNARE complex, glutamate receptors, synaptic plasticity

●機械受容器研究の進歩と課題
井出千束
 皮膚の知覚終末であるパチニ小体,マイスネル小体,単純小体,柵状終末,メルケル小体,ルフィニ小体,洞毛の構造を概説し,最近の研究の課題について考察した。前4者は速い順応性の機械受容器で,軸索終末を囲む終末シュワン細胞が層板細胞と呼ばれる特殊な細胞となっている点で共通である。層板細胞にサンドイッチされる扁平な軸索終末のどの部位にどのような機械刺激受容チャンネルが存在するかが研究課題の一つであろう。ルフィニ小体は遅い順応性で,軸索終末を囲む終末シュワン細胞は層板細胞の形態をとらず,また軸索終末はコラーゲン線維に巻きついて,線維にかかる力を受容しやすい形態である。メルケル細胞は機械刺激を電気的興奮に変換する変換器細胞か否かが長い間の問題となっている。洞毛には数種類の終末があり,複合的機械受容器としての機能の解明に興味が持たれる。小体を構成する細胞の起源及び小体の維持という観点から発生と再生を考察した。
key words: mechanoreceptor, axon teminal, lamellar cell, mechanoelectric transduction, trophic function

●ラット海馬のシナプス構築
松田正司 小林靖 石塚典生
 本論文では,細胞内HRP注入とモンタージュ電子顕微鏡写真を用いたラット海馬CA3領域のシナプス分布について報告する。細胞内HRP注入法による観察から,各層の棘の数は樹状突起10μmの中に分子層では平均5.3個,放線層では14.7個,上昇層では14.8個で,分子層には棘が著しく少ないことが分かった。全体で3,353個のシナプスを含む海馬CA3全層のモンタージュ写真の検討により以下の事が判明した。(1)これらのシナプスの86.3%が球形小胞を含み,12%が扁平小胞を含み,1.7%が苔状終末であった。(2)球形小胞を含むシナプスは全層に分布しているが放線層と上昇層の上部には少なく,樹状突起の形態等に強い関連が有る。(3)球形小胞を含むシナプスのうち83%が棘に,27%が樹状突起の軸に結合した。(4)球形小胞には少なくとも3種類存在し,最も小さい球形小胞は分子層に限局する。(5)扁平小胞は分子層上部と錐体細胞層近傍に多く分布する。
key words: hippocampus, electron microscopy, types of boutons, photomontage, synaptoarchitecture

●海馬苔状線維のシナプス形成は一生続くのか?  一 成体海馬のニューロン新生と一過性の苔状線維側枝形成の問題 一
石龍徳
 海馬シナプスの可塑性は,学習や記憶の成立に深く関与していると考えられている。それゆえ発達期のシナプスの形成や,成体のシナプスの再構成は,海馬の機能を考える上で重要である。ここでは,(1)生後の発達期に,海馬歯状回の顆粒細胞の軸索(苔状線維)終末がCA3錐体細胞とシナプスを形成するときには,一過性の側枝とシナプスが形成され,その後シナプスの再構成が起こること,(2)顆粒細胞は成体になっても新生されているので,苔状線維の伸長やその終末のシナプス形成は成体になっても続くことの二点について述べる。そしてこれらの現象が海馬の可塑性を考える上で重要であることを論じる。
key words: hippocampus, mossy fiber, synapse formation, adult neurogenesis, collateral

●共焦点顕微鏡でみる皮膚機械受容器の立体構造
熊本賢三 榎原智美
 皮膚の機械受容器の立体構造を正確にイメージするのは難しい。しかし共焦点顕微鏡システムを駆使すると,求心性線維から終末までの走行,分岐,配列のみならず,軸索終末の肥厚やそこに纏絡する終末シュワン細胞の特徴的な形態も同一標本上で立体的に観察可能となる。メルケル神経複合体は毛盤と洞毛のものとは明瞭に区別され,個々の軸索終末は複数のメルケル細胞を連携して支配領域を作っている。単純小体はパチニ小体の内棍部分だけで構成され,内棍は分岐もすれば複雑に折り畳まれるものもある。ルフィニ終末は軸索終末が繰り返し分岐する特徴があり,立体的な広がり方には多様性がある。洞毛や体毛の毛包には槍型終末が柵状に配列する。ここでは,洞毛の終末を含め,有毛部皮膚にみられる多様な機械受容器を4つに大別し,それらの立体構造を超微細構造とともにわかりやすく解説した。
key words: mechanoreceptors, confocal microscopy, Merkel cell nerve complexs, Ruffini endings, sinus hair

●知覚終末シュワン細胞のCa信号系 一 とくにラット頬ひげ毛包の槍型終末について 一
岩永ひろみ
 皮膚などの知覚終末は,適刺激に反応して受容器電位を生成すると同時に,グルタミン酸,ATPなどの調節物質を自己分泌的に放出し,脳のシナプスに匹敵する複雑な活動を営む。知覚終末に随伴する特異なグリア細胞,いわゆる終末シュワン細胞は,薄板状の突起で軸索終末を包む点,複数の突起を異なる軸索終末に伸ばして互いに連絡し,網をなす点で,脳のグリアであるアストロサイトに似る。近年のカルシウム感受性色素を用いた画像化技術は,脳のアストログリア網が,種々の神経伝達物質の刺激に対し一過性の細胞内Ca2+濃度上昇を示すこと,その細胞応答を介してシナプス伝達に影響を与えることを明らかにした。同様のニューロン - グリア相互作用が末梢知覚装置で行なわれる可能性を検討するため,筆者らが,ラット 頬ひげから分離した槍型神経終末を用い,ATPに対する知覚終末グリア網のCa応答とその信号生成,伝播過程を画像解析した結果について紹介する。
key words: lanceolate endings, sensory endings, terminal Schwann cells, Ca2+ imaging, ATP

●三叉神経中脳路核ニューロンのシナプスと感覚受容器
脇坂聡 本間志保 渥美友佳子
 三叉神経中脳路核ニューロンは中枢神経系に唯一存在する一次感覚ニューロンであり,歯根膜機械受容器の一部と咬筋などの閉口筋の筋紡錘を支配する。三叉神経中脳路核ニューロンの細胞体は三叉神経節や脊髄後根神経節の大型ニューロン(A型ニューロン)と同じ微細構造および組織化学的特性を示すが,他のニューロンの神経終末がシナプス接合を形成している特徴がある。このシナプス接合を形成している神経終末には球形,卵円形,扁平なシナプス小胞が混在している。この三叉神経中脳路核ニューロンが支配する末梢感覚受容器の一つである歯根膜機械受容器のルフィニー神経終末は軸索成分と特殊なシュワン細胞である終末シュワン細胞から成り立っているが,皮膚などのルフィニー神経終末と異なり非被覆性の終末である。その歯根膜ルフィニー神経終末の発育や支配神経損傷後の再生過程においては,終末シュワン細胞が特徴的な動態を示すことが明らかになった。
key words: mesencephalic trigeminal nucleus, synapse organization, periodontal Ruffini endings,development, regeneration


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