■特集 精神科における“てんかん”の診方 (I)
●てんかんの簡単な分類と予後,治療方針
川崎淳
てんかんの予後,治療方針を決定するために最小限必要なことは,各症例を「特発性局在関連てんかん」「症候性局在関連てんかん」「特発性全般てんかん」「潜因性/症候性全般てんかん」の4つのいずれかに分類することである。「特発性局在関連てんかん」は思春期ごろには治癒する。carbamazepine(CBZ)の投与が第1選択である。「症候性局在関連てんかん」は抗てんかん薬により6〜7割の症例で発作が消失する。投薬はCBZが第1選択であるが,他の薬剤の投与が必要なことも多い。「特発性全般てんかん」は抗てんかん薬の投与により8割の症例で発作が消失する。投薬はvalproate(VPA)が第1選択である。「潜因性/症候性全般てんかん」は予後が最も悪く,発作が消失するものは2〜3割である。頻回の発作を繰り返す症例も少なくない。投薬はVPAが第1選択であるが,多くの症例でphenytoin(PHT)またはCBZの併用が必要になる。
Key words: classification, prognosis, treatment, epilepsy
●単科精神病院・入所施設でのてんかん治療
兼本浩祐 前川和範 熊谷幸代
単科精神病院あるいは入所施設におけるてんかん治療での特徴的な問題とその対策を,症例を提示しつつ論じた。側頭葉てんかんあるいは大脳辺縁系由来の局在関連てんかんにおける精神症状,神経内科領域に属する変性疾患,ベンゾジアゼピン系薬剤のなし崩し的増量によるQOLの劇的な悪化の三つの問題を重点的に指摘した。
Key words: temporal lobe epilepsy, progressive myoclonus epilepsy, benzodiazepine
●精神科外来でのてんかん治療
加藤昌明
一般の精神科医師が外来でてんかん治療に携わる際に,知っておくと有用な基本的事項を,プラクティカルな視点から述べた。診断においては,基質疾患の検索,変性疾患を視野に入れた検討,とりわけ運動失調に注意すること,非てんかん発作としての反射性失神,擬似発作に触れた。治療開始初期においては,病名の告知や治療的見通しの説明にあたっての留意点,薬物療法開始時の説明の要点を述べた。経過中においては,発作があったときには誘因を確認すること,phenytoin使用中の運動失調は緊急対応を要すること,易怒性,迂遠などが目立つ症例への対応,神経学的診察の必要性などを挙げた。最後に,啓蒙や情報提供のためには,書籍や日本てんかん協会(波の会)を紹介すると良いこと,発作が抑制されない場合は専門医への紹介を躊躇しないことを指摘した。
Key words: ataxia, phenytoin intoxication, syncope, pseudoseizure, Japanese Epilepsy Association
●てんかんの外科治療―手術適応はいつ決めるべきか―
真柳佳昭 渡辺英寿 長堀幸弘
てんかんの外科治療は,1980年代に著しい進歩を遂げ,難治てんかん包括治療の1手段として,認められるようになった。その結果,基本的な問題に国際的コンセンサスが成立してきた。「外科治療可能なてんかん症候群」として,内側側頭葉てんかん,前頭葉てんかん,局在性病巣関連てんかん,広範半球障害てんかん,脱力・失立発作を主とするてんかんの5型が認められた。また,有効な手術法として,側頭葉切除術,皮質切除術,半球切除術(離断術),脳梁切断術が用いられている。従来,手術適応の決定まで3〜4年の待機期間を要するとされていたが,外科治療可能なてんかんは,2〜3年に短縮する考え方がある。乳幼児期の破局的てんかんに対しても,脳の可塑性の豊かな時期に手術する傾向にある。術前評価では,脳波ビデオモニタリング,発作時SPECT/NIRSなど,発作起始に関する所見が最も重要である。
Key words: intractable epilepsy, pediatric epilepsy, presurgical evaluation, surgical treatment, timing of operation
●てんかん診療で小児科医が精神科医に期待すること
杉本健郎
成人までキャリーオーバーした知的には顕著な障害がない側頭葉てんかん患者の場合,躁うつ病などの精神病症状に苦慮することが頻繁になってきている。その症状に加え母親の考え・想いが強く影響し,より症状が複雑になっているため,まさに小児科主治医の「センス」のなさを痛感している。
治験については,小児科ではキャリーオーバーした成人は難治性の知的障害者が多く,治験対象者が多くないので参加施設もわずかである。われわれ小児科(小児神経専門医)も治験促進に努力するつもりである。精神科でも治験促進への協力をお願いしたい。
Key words: childhood epilepsy, mental retardation, clinical trial, carry over
●てんかん発作と神経内科的疾患
臼井桂子 池田昭夫 柴崎浩
てんかん発作には,てんかんあるいはてんかん症候群の一症状としてのてんかん発作と,他の病因によって生じる急性反応性てんかん発作があり,両者の鑑別が診療上大切である。急性反応性てんかん発作は内科的疾患や急性の中枢神経疾患,薬剤の副作用・中毒などで,大脳に急性一過性の侵襲が加わって起こるてんかん発作で,原因除去により軽減または消失する。したがって初回発作の患者では,発作を生じる急性病態の検索が必須である。てんかん症候群の一症状としてのてんかん発作の診療では,症候性てんかんに分類される疾患に先天性奇形,代謝疾患,脳変性疾患などが含まれ,特徴的な神経学的徴候を示すものがある事を念頭に置く。診断にあたっては,神経学的診察,脳波,一般内科学的検査,画像検査により病態の鑑別を行う。また,側頭葉てんかんをはじめとして精神症状を示す症例があり,さらにpseudoseizureの加療においても精神科,神経内科の協力体制が重要である。
Key words: epilepsy, epileptic seizure, acute reactive seizure, symptomatic epilepsy, temporal lobe epilepsy
●てんかん発作重積状態の治療
星田徹 榊寿右
てんかん発作重積状態は生命に関わる重大な症状であり,即座に診断と治療を開始することが必要である。最もよく遭遇する強直・間代てんかん発作重積を中心に治療方針を述べた。呼吸循環系を含めた全身管理とともに,使用すべき抗けいれん薬の選択,使用量に精通し,早期に発作をコントロールすることが急務となる。てんかん発作重積の原因,誘因となった病態や疾患を鑑別診断することも予後判定に有用となる。次にてんかん発作型からてんかん発作重積の分類を行った。二次性全般化をきたす強直・間代けいれんや非てんかん性発作重積との鑑別には,脳波ビデオモニタリングが必須であり,正確な診断は確実な治療へ結びつける第一歩となることを強調した。
Key words: status epilepticus, generalized epilepsy, partial epilepsy, tonic-clonic convulsion
■研究報告
●児童期うつ病と考えられた一症例
西澤章弘 中澤友幸 吉澤一弥 新井平伊
症例は8歳の女児。6歳頃より,吐気,頭痛,手足の痺れなどの身体症状が出現したが,8歳時秋頃より,易疲労感,全身倦怠,食欲低下があり,次第に,多彩な身体症状,興味,関心,自発性の低下,著明な精神運動制止など明らかなうつ病像を呈した。Sulpirideによる薬物療法と受容支持的な精神療法,患児の対応に関する家族へのアドバイスなどの治療にて,軽躁性の後動揺を経て寛解した。10歳未満の児童期うつ病の希少な一症例と考えられた。
Key words: childhood depression, psychiatric symptoms, physical symptoms
●アスペルガー症候群の家族に関する一考察
清水光明 湖海正尋 駒井早苗 岡本昭宏 後藤恭子 守田嘉男
アスペルガー症候群(AS)は高機能広汎性発達障害の一型として,その臨床的特徴が確立されつつある。対人接触性の障害,奇妙な論理性,衝動性の高さ,などから精神分裂病や分裂病型人格障害との関連性や鑑別が重要視されるが,われわれは,当初,精神分裂病と診断されたASの一例を経験した。そしてさらに,その家族的性格傾向について興味深い点が注目された。つまり,父親と父親方の祖父は患者のような顕著な社会的逸脱をきたすわけではないが,同様に共感性が希薄で,対人関係の形成が困難であり,極端なまでの収集癖を示していた。Aspergerの原著においても患者家族における共感性の欠如,行動の奇妙さ,内閉性が記述されている。ASの家族および遺伝学的研究は緒についたばかりであるが,家族という因子も含め精神病理学的および生物学的側面を明確にすることにより,一層のASの病態と臨床定義の確立が望まれると考えられた。
Key words: Asperger's syndrome, autism, schizophrenia, family, genetic
■臨床経験
●精神科におけるクリニカルパスの実践と課題
細美直彦 徳永雄一郎
我々は,従来までの診療体制を再検討するとともに,入院診療においてクリニカルパス(以下,パス)を導入することで医療の標準化を図るべく,調査および試行を実施した。標準化のため,診療システムプロジェクトが設置され,標準的治療計画の立案をはじめ診療上の記録および書式が整備された。調査対象は,不知火病院において入院治療に関わった患者で統合失調症の診断を持っていた。まず,平成9年10月から平成10年11月の試行期間では,22名を対象としてパスの適応性および有用性を閉鎖病棟で検討した。初期導入での課題を整理した上で,書式および記録様式について修正を行い,平成11年4月より全病棟にて施行を開始している。これまでの調査結果において,204名を対象としてパス導入前後で比較してみたが,平均入院日数に有意差はなくパスの有用性が客観的に見え難いことから,導入から約4年経過した時点で不知火病院職員140名に対しアンケート調査を行った。アンケート結果は,導入に対し陽性の意見として「スタッフ間の情報の行き違いが減った」との回答が最も多く,パスにより情報認識の相違を修正し統一性を確保できるが,陰性の意見では「業務量が増えた」との回答が多く簡素化が得られていないことがわかった。また,病院全体として職員のパスに対する認識の浸透率が高くないことが明らかとなった。これらの結果から今後の課題について考察を加えた。
Key words: clinical pathway, standardization, schizophrenia, therapy
●Etizolamで軽快したSSRIs断薬症候群(SSRIs discontinuation syndrome)の1例
佐藤晋爾 朝田隆
SSRIs断薬症候群(SSRIs discontinuation syndrome)を呈した老年期うつ病の一女性例を報告した。Fluvoxamine 50mgを4ヵ月近く服用し,本人の判断で2日間内服を中断したところ激越な不安焦燥感を認めた。情報収拾の困難さと非典型的な状態像からセロトニン症候群との鑑別が困難であり,処置としてetizolamを投与したところ断薬症状が軽快した。本稿ではetizolamが効果を示した原因について検討し,同剤投与がSSRIs断薬症候群の処置として選択肢の一つとなり得る可能性を示唆した。SSRIs断薬症候群は本邦では未だ報告が少なく,その臨床的特徴や対応などを把握しておくことが今後の臨床活動において重要と考えられた。
Key words: SSRIs discontinuation syndrome, withdrawal, etizolam, benzodiazepines
■資料
●女子大学生における「人形」イメージについての調査―人形の怖さをめぐって―
市田勝 吉川徹 下村昇
大学生における「人形」イメージについてアンケート調査をした。対象はある大学の教育学部学生65人(女性54人,男性11人)である。女性について結果を報告した。多項選択式の質問の結果,次のことがわかった。子ども時代に人形遊びをよくしたのが約7割,人形による独り遊びをよくしたのが約1/3であった。子ども時代に人形で残酷な遊びをしたのは6%であった。人形を不気味だとか怖いと思うことは,子ども時代,成人後ともに約1割にみられた。自由記述式の質問では,次のようなことがわかった。女性では,人形やぬいぐるみは子ども時代の友人,仲間であることが多い。自分の願望を代理的に充足してくれる存在でもあった。人形の怖さは,「リアルさ」や「人間っぽさ」によるものが大きかった。「目」や「見られる」ことから怖さを感じることや,怖い話との繋がりから怖さを感じることも多かった。操り人形としての怖さはみられなかった。
Key words: image, doll, fear, questionnaire