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■特集 神経幹細胞 −神経疾患治療への戦略−

●神経幹細胞の自己複製と分化調節機構
島崎琢也 岡野栄之
 哺乳類の中枢神経系(CNS)において、神経幹細胞(NSCs)は個体の一生を通してCNSの様々な部位に存在しており、FGF-2やEGFなどの増殖因子(mitogen)を利用した選択的培養法により分離増殖させることができる。これらin vitroで増殖させた神経幹細胞は、in vitroのみならず、そして出生後の脳に移植した後、すなわちin vivoでも、ニューロンやグリアを作ることが明らかにされている。このようにその生物学的特徴から、遡及的(retrospective)な同定と培養増殖が可能になった神経幹細胞ではあるが、その細胞系譜の決定(lineage commitment)や分化(differentiation)の制御機構に関しては、未だ多くの謎を残している。そこで本稿では、動物の発生過程において幹細胞からいかにして様々な細胞種が産生分化し得るのかという観点から、神経幹細胞の自己複製と分化機構について最近の知見を基に解説する。
key words : CNS, stem cell, self, renewal, lineage commitment, differentiation

●神経幹細胞の分離・培養法と神経疾患への応用
岸  憲 幸、岡野栄之
 従来、損傷を受けた中枢神経系は、新しいニューロンが産生されないために機能再生は不可能であると考えられてきた。しかし近年、胎児期ばかりでなく、ヒトを含む哺乳類の成体中枢神経系においても自己複製能と多分化能を有する神経幹細胞が存在することが明らかとなってきた。神経幹細胞はいくつかの選択的培養法で分離、培養が可能であることから、神経発生における意味づけに加え、根治療法がない神経変性疾患への臨床応用が注目されている。21世紀の新しい医療のキーワードになりうる神経幹細胞について、神経幹細胞以外の最近の関連報告も含め、将来の臨床応用への可能性を考察する。
key words : neural stem cell, multipotency, self renewal, transplantation, neurosphere

●ES細胞を用いた移植医療の展望
宮崎純一、丹羽仁史
 胚幹細胞(embryonic stem cells : ES細胞)は、初期胚中の未分化細胞に由来するもので、体外でその未分化状態を維持したまま培養可能となった全能性幹細胞である。マウスES細胞は、胚盤胞の腔内に注入し子宮に戻すと、胎盤を除く全ての胚組織の形成に寄与しうる。すなわち、in vivoで、受精卵とほぼ同様、全ての種類の細胞に分化できる全分化能を有しているわけであるが、この細胞のもつ重要な性質は、in vitroでの培養下でも、その条件を変えることにより分化能を引き出すことができる点である。1998年に、アメリカのグループが相次いでヒトES細胞の樹立を報告したことにより、ES細胞は、その細胞移植の材料としての有用性がクローズアップされ、新聞等で「夢の万能細胞」と報じられることとなった。本稿では、ES細胞の移植医療の材料としての可能性について論じる。
key words : embryonic stem cell,in vitro differentiation,embryoid body, transplantation,cell therapy

●神経疾患の神経幹細胞治療 −動物モデルでの試み−
本 望  修、端  和 夫
 自己増殖能と多分化能を同時に保持する神経幹細胞は、神経損傷後の機能再建を目的とした細胞移植療法のドナー細胞として非常に希望が持たれている。近年、成人脳より神経幹細胞の分離・培養が可能となり、各種神経損傷モデルへの移植実験では、高い生着率・遊走能・分化能・神経組織再構築能を示すことが判明している。また、正常脳からの安全な神経幹細胞の抽出・分離・培養は、成熟サルを用いた実験で十分可能であることも判明している。移植効率、治療効果、倫理面、移植免疫反応等を考慮すると、自己の神経幹細胞を用いた自家移植は非常に有望な再建外科的新治療方法と思われ、さらなる基礎的研究が望まれる。
key words : brain、human、neural stem cell、reconstruction、transplantation

●神経細胞移植によるパーキンソン病の治療
伊達 勲、新郷哲郎、大本尭史
 パーキンソン病に対する神経細胞移植の目的は、神経伝達物質や神経栄養因子を脳内に供給すること、および神経回路の再構築をはかることにある。この目的のために胎仔・胎児黒質細胞やパラニューロンがドナー細胞として用いられてきた。さらに分子生物学的手法の発達により、種々の神経伝達物質や神経栄養因子を産生する細胞株を作製することが可能となり、これをドナーとして用いるため、高分子半透膜製のカプセルに封入して移植する方法が開発されてきた。また、多分化能を有する神経幹細胞が将来のドナー細胞として注目を集めている。本稿ではパーキンソン病に対するこれらの神経細胞移植の研究をまとめ、今後の展望を試みる。
key words : neural transplantation、Parkinson's disease、encapsulated cell grafting、dopamine、neurotrophic factor

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