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■特集 視床下核と刺激療法

●視床下核の機能をどう考えるか
喜多 均
 視床下核の役割についてはまだ不明な点が多いが,ここ10年ほどの間に報告された解剖学的,生理学的所見をもとに,視床下核が大脳基底核の活動調節に果たす役割の可能性について考える。解剖学は,視床下核が大脳基底核内外から広範な入力を受け,大脳基底核内の複数の核に投射することを明らかにした。したがって,視床下核は線条体と並んで大脳基底核の入力情報統合核として働くことを示唆する。しかし,視床下核と線条体は異なった情報を入力し,異なった時間経過で出力すると考えられる。  視床下核ニューロンは興奮性入力なしでも連続発火できる膜特性をもち,興奮および抑制性入力が視床下核ニューロンの発火の頻度だけでなくパターンも変えうる。このことは,視床下核への入力が時々のニューロンの状態によってダイナミックにモジュレートされること,さらには,視床下核への入力や膜特性の変化が視床下核ニューロンに異常な発火パターンを容易に起こしうることを示唆する。
 このような最近の研究は,視床下核は以前に考えられていたよりも広範な入力を受け,視床下核からの興奮性出力がその受容核である大脳基底核諸核の活動調節に重要な役割を果たすことを示唆している。
key words: basal ganglia, subthalamic nucleus, neostriatum, subthalamic inputs, subthalamic outputs

●皮質一視床下核投射の機能的意義
高田 昌彦
 前頭葉皮質に分布する運動関連領野からの情報は,大脳基底核の「直接路」や「間接路」に加えて,「皮質視床下核投射」を介して直接,視床下核に入力され,そこから大脳基底核の出力部に到達する皮質視床下核一淡蒼球・黒質投射により伝達される。このような皮質視床下核一淡蒼球路(「ハイパー直接路」)は,淡蒼球内節や黒質網様部のニューロン活動を亢進させ,結果的に視床および大脳皮質の活動を抑制すると思われる。実際,サルの一次運動野や補足運動野を電気刺激し,淡蒼球内節から単一ニューロン活動を記録すると,短潜時の興奮とそれに続く抑制,さらに長潜時の興奮という3相性の応答を示し,これらの応答はそれぞれ「ハイパー直接路」,「直接路」,「間接路」に由来することが明らかになった。本稿では,このような実験結果に基づいて構築した大脳基底核の動的モデルを紹介する。
key words: subthalamic nucleus, basal ganglia, motor cortex, motor control, Parkinson’s disease

●視床下核細胞の単一軸索投射様式
佐藤 二美
 視床下核は,淡蒼球外節(GPe)からの入力を淡蒼球内節(GPi),黒質網様部(SNr)に伝える核,すなわち,いわゆる間接経路の中継核とみなされている。しかしながら,単一軸索の解析により,視床下核細胞はその投射部位に基づき以下の5つのタイプ,(1)SNr,GPi,GPeに投射するもの,(2)SNr,GPeに投射するもの,(3)GPi,GPeに投射するもの,(4)GPeのみに投射するもの,(5)線条体近傍の内包,GPeまで追跡できるが側枝の分岐が認められないものに分類される。このように視床下核は投射様式からみて均一の細胞集団ではなく,様々な分岐様式をもつ細胞が混在しており,基底核の出力核であるGPi,SNrへの投射だけでなく,GPeとの両方向性の結合関係があることが明らかになった。大脳基底核の機能を解明するうえで,この軸索分岐の多様性を考慮にいれることが不可欠であると考えられる。
key words: basal ganglia, subthalamic nucleus, axonal collateralization, subthalamofugal projections, single-cell labeling

●3 Tesla MRIによる視床下核の同定
佐々木真理
 視床下核はパーキンソン病における脳深部刺激療法の標的として重要であるが,従来のMR画像では同定困難であった。3 Tesla超高磁場MRI装置と高いコントラスト分解能をもつFSTIR画像を併用することによって視床下核を同定することができる。視床下核は,乳頭視床路を通る冠状断にて,特徴的な層構造を呈する腹側視床の構造(Forel H1野,不確帯,Forel H2野)の下方に明瞭な低信号領域として認められる。その後方の断面では赤核の外側やや上方の低信号領域として認められる。水平断,矢状断画像でも視床下核が内側前方から外側後方に走行している状態が観察できる。3 Tesla MRIとFSTIR画像は視床下核刺激療法の標的決定の精度向上に寄与する可能性がある。
key words: subthalamic nucleus, short inversion-time inversion recovery, high field MRI

●サルのパーキンソン病モデルにおける視床下核高頻度刺激に対する淡蒼球ニューロンの反応
橋本 隆男
 振戦に対する視床の高頻度電気刺激,パーキンソン症状に対する視床下核,淡蒼球内節の高頻度電気刺激が破壊術と同等の効果を現わすことから,高頻度電気刺激は刺激部位の活動を抑制すると推測されてきた。しかし,我々はサルのパーキンソン病モデルを用いた実験を行い,視床下核の高頻度刺激により淡蒼球外節,内節のニューロン発火が増加することを観察した。また,単発刺激による短潜時反応が高頻度刺激でも維持され,発火パターンが変化した。深部脳刺激療法は破壊術と異なる神経機序により症状を改善すると考えられる。
key words: subthalamic nucleus, globus pallidus, deep brain stimulation, Parkinson’s disease

●パーキンソン病に対する視床下核刺激療法の治療効果
山本 隆充  片山 容一  小林 一太  笠井 正彦  大島 秀規  深谷 親  小川 克彦  水谷 智彦
 副作用のために十分なL-dopaが投与できない群(I群:L-dopa-equivalent dose〈LED〉で0-400mg/day,off-periodでHoehn-Yahr Stage III-V,7例)と,十分量のL-dopaを投与している群(II群:LEDで500-990mg/day,off-periodでHoehn-Yahr Stage IV-V,7例)について,最適の薬物療法を継続した状態で,視床下核刺激のblinded evaluationを施行した。視床下核刺激は,I群ではtremor,rigidity,akinesia,gait subscoreのいずれにも効果を認め,1例を除いて,H-Y stageでIV-Vの時期を認めないまでに改善した。II群もtremor,rigidity,dyskinesia subscoreで効果を認め,H-Y stageでIV-Vの時期は残存したが,daily activityの改善を認めた。しかし,病期の進行とともにL-dopaに反応しなくなった症例では,tremor,rigidityの改善を認めたが,daily activityの明らかな改善は認められなかった。
key words: Parkinson’s disease, subthalamic nucleus, deep brain stimulation

●視床下核刺激による臨床改善効果のメカニズム
横山 徹夫  杉山 憲嗣  西澤  茂  赤嶺 壮一  難波 宏樹
 視床下核刺激は,パーキンソン病全般症状の改善のみならずドーパミン内服の減量に結びつけることができる優れた治療法である。その臨床改善効果のメカニズムとしては,第一に,大脳基底核における視床下核は大脳基底核神経回路活動の中心的な存在として,その機能活動の調節を行っていることが上げられる。第二に,高頻度電気刺激は,その電気生理学的メカニズムはまだ不明であるが,異常神経活動を呈している視床下核およびその神経回路機能を正常化することが考えられる。第三に,持続刺激により,視床下核を中心とした神経回路の可塑性を高め,その機能の促通が臨床改善効果に関与することが可能性として上げられる。視床下核刺激によるドーパミン内服減量効果は,視床下核が黒質緻密帯のドーパミン分泌コントロールに深く関与しているためと考えられる。
key words: Parkinson’s disease, subthalamic nucleus, deep brain stimulation, electrical stimulation, basal ganglia

●視床下核電極設置に伴った幻覚・妄想症状
杉山 憲嗣  横山 徹夫  難波 宏樹  赤嶺 壮一
 パーキンソン病の運動症状に対し,強力な軽減作用を持つ外科的治療法として視床下核電気刺激療法が注目を集めているが,本治療法の約20〜30%に術後の混乱状態,幻覚の出現が報告されている。我々も1998年以来26名の重度パーキンソン病患者に本治療を施行してきたが,そのうち3例の患者で視床下核内への電極設置後に幻覚,妄想症状の出現を経験した。3例とも被害的内容を伴う妄想症状が強く,時に幻覚症状を伴った。第1,2例では術中から出現し,第1例では抗パーキンソン病薬の減量により約1か月で消失,第2例では一旦軽減したものの10か月後に再増悪し,抗パーキンソン病薬の減量と共にrisperidoneを用いて症状の消失を見た。第3例目は術後2日目から出現したが,上記2例の経験から,速やかに抗パーキンソン病薬を減量し,risperidone,haloperidolを投与し,約2週間で症状を消失させることができた。3例ともL-dopa induced hallucination,delusionと類似し,電気刺激前の電極設置直後に出現したこと,L-dopa induced hallucination,delusionと同様の治療をすることにより消失したことから,視床下核に電極が設置されることによって視床下核が部分的に障害され,そのために黒質(SNpr)等の抑制が起こり,L-dopaを過剰投与したのと同じ状態に陥ったものと考えられた。
key words: subthalamic nucleus, deep brain stimulation, Parkinson’s disease, hallucination, delusion

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