●トリブチルスズとビスフェノールAの脳と行動の性分化への影響 粟生修司 藤本哲也 久保和彦 大村実 荒井興夫
胎生期のテストステロン曝露で脳の雄化が起こり,感覚運動機能,情動反応性,学習行動などに性差が生じる。代表的な内分泌攪乱物質であるビスフェノールA(BPA)や塩化トリブチルスズ(TBTCl)を妊娠中から授乳中にかけて母ラットに投与し,仔ラットの性分化に及ぼす影響を調べると,生殖機能に影響をほとんど及ぼさない濃度でもオープンフィールド試験における活動性と探索行動の性差を消失させる。また受動的回避学習試験および迷路学習試験でも,行動の性差を消失あるいは減弱させる。BPA処置群の視索前野性的2型核(雄>雌)および青班核(雄<雌)の体積を調べると,視索前野は影響を受けないが,青班核の性差が逆転する。青斑核はノルアドレナリンニューロンが90%以上を占め,中枢神経全域に線維を投射して種々の中枢作用を調節している。内分泌攪乱物質は発達期のモノアミン系を介して,行動調節系に広範な影響を及ぼしている可能性がある。
key words: bisphenol A, tributyltin, sexual differentiation, locus coeruleus, open field test