●統合失調症に特異的な妄想,被注察感
鈴木國文
統合失調症に特異的な妄想について,(1)妄想という「答え」の「問い」に対する先行性,(2)妄想と現実の二重性,(3)「問い」の核の不在,(4)妄想的他者の超越性,(5)体験の先行性という五つの視点から論じた。また,妄想に関する以上の議論を踏まえて,統合失調症の「被注察感」に特異的な特徴を記述した。その上で,こうした議論が,今日における統合失調症の臨床においていかなる意義をもつかを,予後予測という視点と臨床的姿勢という視点から論じた。
Key words:schizophrenia, delusion, sense of being stared at, specificity
●統合失調症に特異的な緊張病症状(昏迷を含む)
杉林 稔 増元康紀 濱田伸哉 桑代智子
まずは1人のコメディカルと2人の精神科医との間で交わされたEメールの内容を紹介することにより,緊張病症状にまつわるいくつかのテーマを概観したうえで,緊張病状態についての記述を試みた。緊張とは,今にもなにか大変な事態が起るような予感に襲われてまんじりともせず必死に身構えている状態である。不安や恐怖との違いはこの「身構え」の有無による。緊張はいずれ緩和され弛緩が訪れる。しかし緊張病状態に入ると緩和や弛緩は消失する。言葉を発しても切れ切れとなり瞬間的に表情が変わる。動きは小さくても,どれもが唐突で突発的であり,患者の内界に流れる時間は瞬間瞬間の不自然なツギハギになり,興奮と昏迷との間の綱引きのような状態となる。本稿ではこのような状態を「緊張病の平衡状態」と仮に名づけ,比喩をまじえてわかりやすく記述し,それをもって統合失調症に特徴的(特異的)な緊張病状態とし,それがない場合との比較を行った。
Key words:tension, balanced state of catatonia, time experience, stand ready for a fight, instant catatonia
●統合失調症に特異な対人恐怖(社交不安)
野間俊一
統合失調症では,しばしば対人恐怖や社交不安を伴うことが知られている。疾患としての対人恐怖では,自己の視線や体臭などが他人に不快感を与えると考える加害妄想が中核症状であり,社交不安障害では,社会的状況において恥ずかしい思いをするような行動をとることを恐れる羞恥心が中核症状である。それに対して,統合失調症に対人恐怖や社交不安が合併するときには,一方では統合失調症の陽性症状としての被害妄想から社会的場面に恐怖を感じることがあり,他方では統合失調症の基本障害としての「自然な自明性の喪失」のために社会的場面で強い違和感を抱くことがある。あとは,統合失調症が長期化した結果,自閉的になって社会的場面を忌避する場合である。思春期に対人恐怖や社交不安が生じたとき,そこに被害的要素や自然な自明性の喪失の要素を見て取るならば,将来統合失調症の顕在発症に至るリスクが高いと判断すべきかもしれない。
Key words:taijin-kyofu, social anxiety, schizophrenia, prodromal symptom, loss of natural self-evidence