詳細目次ページに戻る

■特集 精神科医が診る睡眠関連障害
●ナルコレプシー
本多 真
 ナルコレプシーは居眠りの反復と情動脱力発作を中核症状とする睡眠障害である。睡眠麻痺,入眠時幻覚,夜間睡眠分断化に加えて,肥満や多汗症などの身体症状,うつ症状や精神病症状などの精神症状など,多彩な随伴症状をもつ。日本人に多いが未治療例が一般精神神経科を受診する場合が想定され,睡眠医療専門機関との連携が大切である。DSM-5,ICSD-3(睡眠障害国際分類)が続いて改訂され,ナルコレプシーの診断にタイプ1,タイプ2という新名称が用いられるようになった。病態指標は見出されているが,原因は未解明であり,治療は対症療法にとどまる。生活指導など非薬物療法が重要で,睡眠覚醒の分断化という疾患の特徴に合わせた計画的昼寝の有効性が高い。薬物療法は過眠症状に対して中枢神経刺激薬を,レム睡眠関連症状に対して抗うつ薬を用いる。継続治療では患者の生活全体を把握し精神科的対応を行うことが有用と考えられる。
Key words:narcolepsy, ICSD-3, hallucinatory state characteristic for narcolepsy, non-pharmacotherapy

●過眠症
佐藤 幹
 眠気をきたす原因として,睡眠不足,睡眠時無呼吸症候群,睡眠の夜型化,感情障害,薬剤などが挙げられるが,こうした夜間睡眠の量や質とは関連せず睡眠覚醒中枢の異常により,日中の過剰な眠気が3ヵ月以上継続する睡眠疾患を中枢性過眠症という。中枢性過眠症の中でも,睡眠時間の延長と睡眠酩酊を特徴とするものを特発性過眠症というが,その病態はいまだ明確になっていない。非典型的な中枢性過眠症である長時間睡眠を伴わない特発性過眠症と,情動脱力発作を伴わないナルコレプシーは,臨床症状での鑑別が困難なことが多く,両者はともにナルコレプシーの亜型である可能性がある。眠気の原因となるものは多く,中枢神経賦活薬の誤った投与を避けるためにも鑑別が重要になる。そして,典型的な中枢性過眠症の診断は,過眠の原因や経過を注意深く鑑別することで十分に可能なことが多い。治療では薬物療法と併用し,睡眠時間の確保と睡眠衛生を徹底させることが重要である。
Key words:idiopathic hypersomnia, narcolepsy, multiple sleep latency test (MSLT), insufficient sleep syndrome (ISS), DSM-5

●概日リズム障害と交代勤務者の睡眠の問題
西多 昌規
 社会の24時間化に伴い,夜間に勤務する交代勤務者は増加の一途を辿っている。交代勤務では体内時計が作り出す睡眠覚醒リズムに逆らう生活を強いられるため,夜勤中の眠気によるパフォーマンスの低下や夜勤明けの睡眠の質の悪化,疲労の蓄積など,労働面での問題も深刻である。長期間の交代勤務は,メタボリック・シンドロームや生活習慣病や乳癌など悪性疾患の危険因子であることも指摘されている。交代勤務者特有に生じる睡眠障害としては,交代勤務障害(shift work disorder)として分類されている。本稿では,24時間化社会の概要に触れた後,改定されたばかりの睡眠障害国際分類第3版(ICSD-3)における交代勤務障害を概説する。治療法としては睡眠衛生・生活指導を中心とした非薬物療法が推奨されるが,患者個人の勤務スケジュールや夜型・朝型傾向の把握,仮眠のとり方,アルコールなど嗜好品の摂取指導,勤務先における環境調整など,包括的・総合的な対処が必要となる。
Key words:shift work, circadian rhythm, sleep-wake disorder, life-style, sleep hygiene

●REM睡眠行動障害
千葉 茂  田村 義之
 REM睡眠中に異常言動が現れるREM sleep behavior disorder(RBD)は,一般精神科医が周知すべき疾患の1つである。その有病率は約200人に1人で,初老期以降の男性に多い。RBDの診断のポイントは,RBDの異常言動が,REM睡眠中に出現することがpolysomnography(PSG)で証明されるか,REM睡眠中に生じたと推定されること,および,PSG記録において骨格筋活動の抑制を伴わないREM睡眠がみられることである。最近,RBDが神経変性疾患の前駆症状である可能性が指摘されている。
Key words:sleep, REM sleep, parasomnia, polysomnography, epilepsy

●レストレスレッグス症候群と周期性四肢運動障害
西田 慎吾
 臨床の現場で,精神科医がレストレスレッグス症候群(restless legs syndrome : RLS)や周期性四肢運動障害(periodic limb movement disorder : PLMD)などの睡眠関連障害の患者に遭遇するケースは少なくない。精神科医がRLSやPLMDなどの睡眠関連障害に関する知識を持って診療を行うことができれば,不眠や日中の眠気,身体不定愁訴などの臨床症状に対して,さらに正確な鑑別診断と治療を行うことが期待できる。また,現在でも大きな問題となっている睡眠薬抵抗性不眠における睡眠薬の用量増加や多剤併用を避けるという観点からも,精神科医がRLSやPLMDなどの睡眠関連障害に対する知識を持つことが重要であるといえる。ただし,一般の精神科における終夜ポリソムノグラフィ(polysomnography : PSG)検査を施行できない状況でのRLSやPLMDの診断は慎重に行う必要があり,採血や他科との連携をとりながら,RLS mimicsの可能性を十分に鑑別したい。治療においては,非薬物療法的な対応を中心とし,必要に応じて薬物療法を行うべきであるが,診断や治療で判断に迷う場合には睡眠専門医療機関と連携をとることが推奨される。
Key words:restless legs syndrome (RLS), insomnia, hypnotic, antidepressant, periodic limb movement disorder (PLMD)

●睡眠時の過食
駒田 陽子  井上 雄一
 夜間摂食症候群(night-eating syndrome : NES)と睡眠関連摂食障害(sleep-related eating disorder : SRED)では,SREDの摂食行動のタイミングが入眠後であるのに対して,NESではこれよりも早く夕食後から夜間にかけて摂食する。また,NESでは完全に目覚めた状態で摂食し,明瞭にエピソードを記憶しているが,SREDでは部分ないし全健忘を呈するという違いがある。しかしながら,両者は合併することが多いことから,これらの病態には連続性があると考えられる。NES,SREDに対する定型的な治療法は確立されていないが,1)短時間睡眠や不規則な睡眠を是正する睡眠衛生指導,2)他の睡眠障害が併存している場合は原疾患の治療,3)薬剤誘発性と考えられる場合には責任薬剤の減量・中止を図り,これらで改善が得られない場合には,抗うつ薬,clonazepam,topiramate,メラトニン受容体作動性薬剤などの投与を考慮すべきである。
Key words:sleep, eating, night-eating syndrome, sleep-related eating disorder

●睡眠時のてんかん発作(鑑別として)
塚田 淳也  松浦 雅人
 睡眠中に生じる望ましくない身体症状あるいは心的体験を呈する睡眠時随伴症(パラソムニア)により生じる異常行動は,睡眠中に発作が頻発しやすい前頭葉てんかんや側頭葉てんかんの複雑部分発作と類似する。睡眠中の異常行動がてんかん発作よるものか,パラソムニアにより生じたものかによってその後の対応や薬物選択が大きく異なるため,鑑別が重要となる。パラソムニアとてんかんの鑑別においては,発作性エピソードの始まり方と終わり方,およびその経過などの問診が最も重要となる。家族がそのエピソードをビデオ録画できれば鑑別診断に有用である。さらに,エピソード時の脳波を含むpolysomnographyが得られれば診断は確定する。ノンレム睡眠期に生じるノンレムパラソムニアでは行動上は覚醒しているようにみえても,脳波には睡眠波形がみられる。レム睡眠期に生じるパラソムニアのうちレム睡眠行動障害では,筋脱力を伴わないレム睡眠を認める。
Key words:parasomnia, nocturnal frontal lobe epilepsy, nocturnal temporal lobe epilepsy, polysomnography

●睡眠時遊行症,睡眠時驚愕症,悪夢障害
神山 潤
 Sleepwalking(睡眠時遊行症),sleep terrors(睡眠時驚愕症),nightmare disorder(悪夢障害)について概説した。Sleepwalking, sleep terrorsについては症例を提示し,confusional arousals(錯乱性覚醒)とともにsleepwalkingとsleep terrorsが分類されているノンレム睡眠関連睡眠時随伴症群における以下の5つの基本的特徴を強調した。①ノンレム睡眠期,特に徐波睡眠期に発現する。②レム睡眠期にはほとんど発現しない。③徐波睡眠期に無理に起こすとエピソードが生じる。④遺伝的な要素が強い。⑤小児期に多く,成人では少ない。またsleepwalking, sleep terrors, nightmare disorderと鑑別すべき疾患/状態(睡眠関連てんかん,明晰夢,アンモニア高値を伴う先天性代謝異常症や薬物により誘発される夜間/睡眠中の異常行動),sleepwalkingやsleep terrorsと夢との関連,暴力を伴うsleepwalkingやsleep terrorsについても簡単に触れた。
Key words:lucid dream, ornithine transcarbamylase deficiency, trauma-related nightmare, zolpidem, topiramate

●病的な肥満(Pickwick)に伴う不眠―肺胞低換気症候群―
宮本 雅之
 肥満者において,肥満自体による不眠の他,閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)や肥満低換気症候群(OHS)などの睡眠関連呼吸障害の併存がある。OHSは,高度の肥満(BMI>30kg/m2)と日中の肺胞低換気(PaCO2>45mmHg)を示す病態であり,閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の併存が高率に認められる。睡眠低換気の症状には,睡眠の分断・不眠,朝方頭痛,日中の眠気,疲労,遺尿・夜尿症,起坐呼吸,記憶・神経認知機能障害があり,OHSではOSASに比べて肺性心を示す傾向がある。肥満者の日中のパルスオキシメトリによる測定で,SpO2 95%未満のときOHSの存在が予測できるが,確定診断には動脈血ガス分析や睡眠ポリグラフ検査が必要である。治療は,減量および,OSASの併存例ではまずCPAP療法を行い,低換気がみられるときはbilevel PAPを検討する。PAP治療により生命予後の改善が期待できる。
Key words:obesity, insomnia, obstructive sleep apnea, hypoventilation, obesity hypoventilation syndrome

●睡眠時無呼吸
陳 和夫
 International Classification of Sleep Disorders-3(ICSD-3)によると睡眠関連呼吸障害には閉塞性睡眠障害(2病態:成人と小児),中枢性睡眠時無呼吸症候群(8病態),睡眠関連低換気異常(6病態),睡眠関連低酸素血症障害(1病態)および単発症状,正常範囲内としていびき,カタスレニア(catathrenia)が記されている。よくみられる病態としては成人の閉塞性睡眠時無呼吸であるが,心不全,脳疾患,腎不全患者などで合併することが多い中枢性睡眠時無呼吸症候群の1種類であるチェーンストークス呼吸cheyneーstokes breathing(CSB)を伴う中枢性睡眠時無呼吸,また,高二酸化炭素血症患者にみられることが多くREM睡眠期に顕著になる睡眠関連低換気にも注意が必要と考えられる。
Key words:obstructive sleep apnea, sleep related hypoventilation, insomnia, depression, schizophrenia

●COPDに伴う睡眠障害
古川 智一  須藤 信行
 COPDは労作時呼吸困難,慢性の咳,痰などの呼吸器症状や,非可逆的な気流閉塞によって特徴づけられ,さまざまな機能障害を引き起こす疾患である。COPDでは日中の症状のみならず,夜間の咳,痰などの症状や,睡眠中の低酸素血症を起こすため,睡眠障害を伴うことが多い。COPDに伴う睡眠障害は,COPDの病態自体に伴う場合以外にも,うつ病や睡眠時無呼吸症候群などの合併症によって起こる場合もあり,さまざまな病態を考慮する必要がある。睡眠薬については呼吸不全の悪化につながる可能性があるため,睡眠障害の原因となる病態を評価し,リスク・ベネフィットを十分検討した上で使用すべきである。
Key words:COPD, insomnia, comorbidity, obstructive sleep apnea, overlap syndrome

●かゆみに伴う睡眠障害
江畑 俊哉
 かゆみは誰もが経験するありふれた感覚であるが,疾患に伴う病的なかゆみでは,掻かずにいられなくなり,作業効率の低下や睡眠障害をもたらして,しばしば患者のQOLを著しく低下させる。アトピー性皮膚炎や汎発性皮膚瘙痒症では,慢性に経過するかゆみによる不眠が診療上の問題となる。かゆみは一般に夜間に増強するために就寝後の入眠障害を引き起こす。またかゆみによる掻破は睡眠中にも生じる。自制の効かない激しい睡眠中の掻破は皮膚病変を悪化させ,かゆみをさらに増強する。こうして形成された「かゆみと掻破の悪循環」は,瘙痒性皮膚疾患の増悪因子として重要である。さらに掻破の行為自体が睡眠を浅くし,しばしば中途覚醒の誘因となるように,かゆみと掻破は睡眠の質にも影響を及ぼす。治療の基本は,原疾患の治療によるかゆみの制御である。同時に,睡眠環境や睡眠習慣改善の指導,睡眠薬の使用,心身医学的対応も考慮する必要がある。
Key words:atopic dermatitis, uremic itch, itch, scratching, sleep disorder

●慢性疼痛に伴う不眠
原田 優人
 慢性疼痛に伴う不眠は疾患によって異なるもののおおむね50%以上の併存率とされ,非常に多いことが知られている。その発症機序としては痛みに伴う覚醒反応の増加によると従来から説明されてきたが,最近では脳内の特定部位における抑制性ニューロンの活動性低下が関与し覚醒から睡眠への移行障害が生じた結果であるとする仮説が注目されている。一方,そのようにして痛みが原因となって不眠が生じた結果,睡眠不足により痛みがさらに増強する現象が知られており一種の悪循環の形成が想定されている。そのため,近年不眠治療により疼痛改善をめざす試みがいくつかなされてきたが,その効果に関しては残念ながら十分なエビデンスは得られていない。しかし,不眠治療が疼痛軽減に役立つかどうかにかかわらず不眠は慢性疼痛患者におけるクオリティ・オブ・ライフを大いに損ねる問題でもあるため,臨床医として積極的に取り組むべき課題であることには変わりない。
Key words:chronic pain, insomnia, vicious cycle, treatment

●頻尿に伴う不眠
山口 健哉  山中弥太郎  高橋 悟
 身体症状に伴う睡眠障害のうち,夜間頻尿について概説した。夜間頻尿に伴う不眠の病因について,不眠があるから夜間頻尿になるのか,あるいは夜間頻尿があるから不眠になるのか明確ではないが,悪循環をきたすことは間違いない。診断において,夜間頻尿を呈する患者が泌尿器科に依頼すべき疾患を有していないかの鑑別に残尿測定は必須である。治療に関して,泌尿器科の代表的疾患である過活動膀胱と前立腺肥大症に対する薬物治療が夜間頻尿や睡眠障害の改善に寄与するか当教室のデータを中心に概説し,排尿障害の改善とともに睡眠障害も改善させる可能性を示した。また近年hours of undisturbed sleep(HUS)(邪魔されない睡眠)という評価基準が用いられ,抗コリン薬,α1阻害薬,そしてβ3刺激薬の不眠に対する有効性が報告されている。
Key words:nocturia, insomnia, anti-cholinergics, beta stimulator, alpha blocker

●重症の「不眠症」としての逆説性不眠症
橋爪 祐二  内村 直尚
 逆説性不眠症は,終夜睡眠ポリグラフ(PSG),アクチグラフ,反復睡眠潜時テストなどの客観的検査で睡眠障害は認めないものの,患者は一睡もできないなど不眠を訴え続ける。有病率は不眠症者の約5%といわれる。青年期や中年期に多いといわれるが,高齢者にも比較的多く存在する。睡眠薬などを処方しても不眠を訴え続けるために睡眠薬の用量が増えるケースもあるため,PSGやアクチグラフなどによる客観的な診断が必要であり,睡眠衛生指導や認知行動療法などの治療を行う必要がある。
Key words:insomnia, paradoxical insomnia, International Classification of Sleep Disorders

●認知症の不眠症
伊藤 敬雄
 臨床場面では認知症の不眠症をよく経験する。そして,昼夜逆転現象,夜間せん妄をはじめとした認知症随伴症状によって著しい介護困難をもたらし患者の生活の質を落とす。認知症の不眠症治療に対しては,身体症状と生活の質の改善に主眼を置かなくてはならないが,エビデンスに基づいた治療指針は乏しい。このため,不眠症,睡眠障害タイプを確認し,背景にある原因を検索することが重要である。不眠症の原因となる身体疾患の治療と,原因医薬品の除去に努めることを第一に実施する。薬物療法を開始する前に非薬物療法を試みる必要がある。高照度光療法,運動療法,睡眠衛生の改善といった非薬物療法は,薬物療法に対する有用な代替手段となりえるものの治療効果が十分でない。認知症の不眠症では,睡眠薬治療の必要性・利益と危険性とを十分に検討しなくてはならない。
Key words:dementia, insomnia, circadian rhythm disturbances, bright light therapy, melatonin

●寝室の温熱環境調節
久保 博子
 日本は四季の変化が大きく,住居内も季節変動の影響を受け睡眠を阻害する可能性がある。睡眠時は,サーカディアンリズムによる自然な体温変化を妨げないように,寝床内環境を適正に保つように住居環境に合わせて適切な調整が必要である。夏期は昼間の日射による暑さを遮蔽し,夜間の冷気を取り込み,室温を調整し自然に冷やせればよいが,室温が29℃以上では睡眠を阻害するので,おおむね27℃程度を目安に適切に冷房使用した方が快眠に繋がる。温度変化も寝具や寝衣が薄く室内環境の影響が大きいので,睡眠に影響を及ぼす。タイマー使用では,睡眠前半3時間ほどは室温を上昇させないようにすべきである。冬期は,手足の過度の冷えを防ぎ,寝床内環境を33℃±1℃程度に保つようにすべきであるが,寝床内暖房器具は35℃以上では発汗し,40℃以上では低温やけどの危険もあるので,高温に注意を要する。夜間のトイレや起床時のヒートショックや血圧のモーニングサージの影響を考慮すると,寝床内を暖めるだけでなく,室温も調整すべきである。
Key words:thermoregulatory, bedroom temperature regulation, season, heating and cooling, bed climate

●睡眠環境の調節―身体加熱―
都築 和代
 入浴は身体加熱を通して,その後の夜の睡眠のノンレム睡眠や徐波睡眠,なかでもデルタ波のパワーを増加させるという効果を持つが,そのメカニズムははっきりしない。湯温や入浴するタイミングにより睡眠への効果は異なり,日中であれば高めの湯温でもよいが,夜間であれば就寝1〜2時間前に40℃の湯温で10分から15分間が望ましい。40℃のミストサウナなども同様の効果が認められ,また,天然温泉や人工炭酸泉についてもさら湯よりもデルタ波のパワーを増やしていた。足浴についても膝から下を40〜42℃の湯温に浸漬すると入眠改善等の効果が認められたが,日中に高齢者について実施した場合も主観的な睡眠感を改善した。また,眼部への温熱刺激も入眠潜時を短縮し,睡眠前半の中途覚醒を減らす効果があった。電気毛布は就床前の寝床内の温めに使うことが奨励され,足部などの局所に冷えを持つ人が入眠時に使うことが推奨される。
Key words:bathing, foot bathing, mist sauna bathing, eye-mask containing heat- and steam-generating, electric blanket

●睡眠環境の調節―アロマ―
白川 修一郎  松浦 倫子
 嗅覚の脳神経経路,「におい」による睡眠妨害,アロマの脳情動系と自律神経系への作用について概略を説明し,科学的研究報告のあるラベンダー,セドロール,ヘリオトロピンの睡眠改善作用について詳述する。さらに,サーカディアンリズム支配下の眠気の変動,入眠過程,睡眠維持,起床過程に対応して,それぞれの環境調整に有効なアロマの使い方について解説する。
Key words:aroma, olfactory neural pathway, autonomic nerve, sleep environment, sleep amelioration

●睡眠障害と運動
水野 康
 習慣的な運動は,生活習慣病予防,活動能力の維持・向上,気分の改善など,心身に様々な恩恵をもたらすが,運動習慣のない対象が運動を始めるには,運動する時間・場所・用具等の確保,運動実施の具体的な方法の認知・学習,および運動の可否に関するメディカルチェックなどの準備が必要である。何らかの睡眠障害を有する対象が運動を始めるには,スポーツジム等において専門家の指導のもとで進めることが望ましいが,その際,不十分な睡眠によりリスクが上がる,注意力低下が原因となる事故,運動中の転倒,および熱中症などには特に注意を払う必要がある。不眠,閉塞性睡眠時無呼吸症候群,および,むずむず脚症候群について,運動習慣の有効性を示唆する介入研究が報告されている。これらの研究は端緒についた段階であり,有効性のメカニズムの解明,運動を適用可能な対象の条件,最適な運動の方法,および,ドロップアウトの予防など,今後の進展が望まれている。
Key words:exercise, insomnia, obstructive sleep apnea syndrome, restless legs syndrome

■研究報告
●うつ病による休職者を対象にした復職デイケアの実践―復職と社会適応能力の関係を中心に―
原田修一郎  大類 真嗣  長谷川淳子  野田 承美  森谷 郁子  高橋 由里  本庄谷奈央  佐々木妙子  伊藤真理子  林 みづ穂                
 うつ病で職場を休職し,復職デイケアに通所した48名を対象に,対象者のプログラム介入前後での抑うつ状態の尺度(Beck Depression Inventory-Ⅱ : BDI-Ⅱ),社会適応能力の尺度(Social Adaptation Self-evaluation Scale : SASS)の変化,そして,デイケア終了時における復職率について後方視的に検討を行った。結果は,対象者全体で,介入前後でBDI-ⅡとSASSはともに有意に改善した。そして,終了時に56.3%(27名)が復職および復職に向けた活動をするに至った。さらに終了時の転帰によって,復職群(27名)と休職継続群(21名)の2群に分け比較したところ,終了時のBDI-Ⅱの得点には有意差はなかったが,SASSの得点には有意差が認められた。本結果より,うつ病による休職者の復職には社会適応能力の改善が重要であることが示唆された。
Key words:return to work, daycare, depression, social adaptation, cognitive behavioral group therapy


本ホームページのすべてのコンテンツの引用・転載は、お断りいたします
Copyright(C)2008 Seiwa Shoten Co., Ltd. All rights reserved.