詳細目次ページに戻る

■特集 LGBTを正しく理解し,適切に対応するために
●LGBTと精神医学
針間 克己
 LGBT とは「Lesbian レズビアン」「Gay ゲイ」「Bisexual バイセクシュアル」「Transgenderトランスジェンダー」のそれぞれの頭文字をまとめたもので,性指向(恋愛の好みの対象)と性自認(性別のアイデンティティ)に関する性的少数者の総称である。同性愛はかつて精神疾患とみなされたが,当事者運動を受けた精神医学界の議論の結果,疾患リストから削除された。当事者たちは精神医学用語であったhomosexual という言葉ではなく,ゲイ,レズビアンと自らを呼ぶようになった。性自認が身体的性別と一致しないものは,性転換症や性同一性障害という名で精神疾患とされてきたが,脱精神病理概念としてトランスジェンダーが用いられるようになった。現在も脱精神病理化の議論は続いている。精神医学は,LGBT に対し,その多様なセクシュアリティを尊重し,支援する立場での関与が今日,求められている。
Key words:lesbian, gay, bisexual, transgender, psychiatry

●LGBTの人権と医療
東 優 子
 「性の健康と権利」は,国内外の公文書に明記された基本的人権である。LGBT の権利もまた,こうした文書が保障する基本的人権なのである。今日,トランスジェンダーの権利運動において「脱(精神)病理化」を求める声が高まっている。こうした国際的潮流は,同性愛が脱精神病理化された1970年代の状況を髣髴とさせる。同性愛の脱精神病理化もアクティビストの戯言のように扱われ,これに尽力した少数の精神科医たちはバッシングされたが,彼らは今日むしろ「英雄」視されている。国際学会WPATH の「ケア基準」(SOC─7)に従って言えば,LGBT の医療に係る専門職者には,「多様性に対する偏見・差別・スティグマを払拭し,公共政策や法改正に向けた取り組みを通じて社会的寛容や平等を推進していくこと」が求められている。
Key words:LGBT, human rights, transgender, health care, gender identity disorder

●性別越境・同性間性愛文化の普遍性
三 橋 順子
 性別を越境する人は,人類のどの時代,どの地域にも,普遍的に存在していたと思われる。また,同性間の性愛も同じように普遍的なものだった。性別越境や同性間性愛の文化を持つ社会は地球上に広く存在していた。一方,ユダヤ・キリスト教世界のように,性別越境や同性間性愛を神の教えに背くものとして認めず,徹底的に抑圧する社会もあった。ヨーロッパ諸国の世界進出,キリスト教世界の拡大によって,そうした抑圧的な規範が世界中に広がっていった。そうした中から19世紀後半に,性別越境や同性間性愛を精神疾患として病理化する考え方が生まれる。それはヨーロッパにおいては宗教犯罪からの「救済」の面を持っていたが,性別越境や同性間性愛が宗教犯罪ではなかった日本では新たな「抑圧」として機能した。精神医学が性別越境者や同性間性愛者を社会的に疎外し抑圧する学問的根拠になった歴史を,現代の精神科医にも,しっかり認識してほしい。
Key words:transgender, same─sex sexuality, universality, sexual perversion

●西洋精神医学における同性愛の扱いの変遷
平田 俊明
 同性愛は,人類の歴史の中でスティグマを付与され続けてきた。近代以降の精神医学は,同性愛を「犯罪」から外す役割を果たしはしたが,代わりに同性愛を「病気」扱いにすることによって,新たなスティグマを付与する担い手となった。19世紀から20世紀半ばまでの同性愛をめぐる精神医学の歴史は,大枠の動きにおいては「病理化」という「スティグマ化の歴史」そのものである。同性愛をスティグマ化する担い手となってきた精神医学は,これからは同性愛を「脱スティグマ化」する役目を担う必要があるだろう。米国の精神分析家Drescher は,近代以降,精神医学や性科学の専門家たちが同性愛の成因についてどのように語ってきたか,それらの言説を3 つの観点から分類して述べている。本稿では,Drescher の提唱する3 つの観点を参照枠として用いながら,近代西洋における同性愛をめぐる諸言説の歴史的変遷を整理して提示した。
Key words:homosexuality, history of psychiatry, stigmatization, Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders( DSM), American Psychiatric Association( APA)

●トランスジェンダーの歴史
松永 千秋
 本稿では,トランスジェンダーが,同性愛,異性装,トランスセクシュアリズムから概念的に分離され,現在の意味に用いられるようになった歴史を概観した。19世紀末,性医学のパイオニアであったKrafft─Ebing によって,多様な性のあり方を含む意味で「同性愛」が用いられた。20世紀初頭,Hirschfeld は,「異性装」として,トランスジェンダーを同性愛から区別した。Havelock Ellis は,人格の多様性を表現する言葉として異性装はふさわしくないとし,エオニズムを提唱した。性別移行医療の発展に伴い,Harry Benjaminらによってトランスセクシュアリズムの概念が提唱された。それに対し,Oliven は,より適切な用語としてトランスジェンダリズムを導入した。Virginia Prince らは自らの性のあり方を表すために,トランスジェンダーを異性装やトランスセクシュアリズムから区別するための言葉として用いた。現在,性的マイノリティの集合概念としてLGBT が使われるようになり,さまざまな性のあり方が再び統合されつつある。
Key words:constructive concept, transsexualism, gender identity, LGBT, gender portfolio

●LGBT の医療と法
山下 敏雅
 LGBT と医療に関して法的問題が生じる場面として,第一に,救急搬送され意思能力を喪失した場合,面会,情報開示,医療同意において同性パートナーが親族として扱われないこと,第二に,性同一性障害特例法が性別適合手術を要求しているために性別の取扱いを変更できない当事者の学校・職場において生じるトラブルや,ホルモン療法・性別適合手術に保険適用のないことによるトラブル,第三に,生殖補助医療で子をもうける場合に,FtM が父と認められた最高裁決定があるものの,その他,代理懐胎や,凍結保存した精子・卵子による人工生殖,レズビアンカップルの精子提供による出産等には立法が十分でない問題がある。本稿では上記3 点について述べているが,LGBT と法に関するテーマは多岐にわたっており,また法的テーマ自体は一般的なものであってもその背景事情としてLGBT が関連している場合も多く,この点は医療も同様であろう。
Key words:same─sex partner, visitation, medical consent, Law Concerning Special Rules Regarding Sex Status of a Person with Gender Identity Disorder, assisted reproductive technology(ART)

●LGBT の生物学的基盤
坂口 菊恵
 胎生期の男性ホルモンのはたらきは,脳の基本的な発達の方向性を決め,特に子どもの頃の遊びのパターンや性役割行動への影響が大きい。そして,子どもの頃の性別非典型的な遊びや性役割行動の特徴は,成人後の非異性愛傾向や性別違和の良い予測要因である。しかし当てはまらない例も多く,思春期以降の性ホルモンのはたらきによる可塑性の検討を含め,ケースの多様性を考慮に入れた理論の精緻化が求められている。
Key words:prenatal androgen, congenital adrenal hyperplasia, brain sexual differentiation, evolution

●LGBT と認知行動療法
石丸径一郎
 認知行動療法は多くのエビデンスに支持され,幅広い問題に応用可能な心理療法である。性的多数派を前提とした社会の中で生きるLGBT が困難を抱えた時に,サポートとして認知行動療法を活用することが薦められる。海外では数少ないながらこのテーマに関する論文や書籍があり,性指向や性同一性に関連してセラピーの中で留意すべき点や,どのように認知行動療法の技法をLGBT であるクライエントに適用するかということが,いくつかの観点から述べられており,要点を紹介した。次にLGBT のクライエントに対して認知行動療法を活用するための具体的なアイデアをまとめ,提案した。
Key words:LGBT, cognitive behavioral therapy, psychotherapy, cognitive restructuring

●ゲイ・バイセクシュアル男性のメンタルヘルスと自傷行為
日高 庸晴
 ゲイ・バイセクシュアル男性のメンタルヘルスの現状を心理尺度K6を用いて測定したところ,スクリーニング陽性と重症群を合わせた割合は52.9% であり,若年層に発現率がより高かった。刃物などでわざと自分の体を傷つけるといった自傷行為の生涯経験率は9.6%,中でも若年層の経験率は高く10代では17.6%,20代では12.2%であった。首都圏男子高校生の経験率と比較すると10代のゲイ・バイセクシュアル男性の自傷行為経験率は2 倍以上,20代では1.6倍の高率であることが示唆されている。一方,心理カウンセリング・心療内科・精神科いずれかの生涯受診歴は26.0%,過去6 ヵ月間では13.7%でありメンタルヘルスのリスク集団としてあまりに受診率が低率であることが示唆されている。専門職におけるセクシュアルマイノリティ理解を推進させるとともに,性的指向を明らかにした上で安心して受診できる環境整備を進めていくことが急務である。
Key words:gay men, bisexual men, mental health, self─harm behaviors

●トランスジェンダーと自傷・自殺─ライフステージを反映したリスクとその対策─
松本 洋輔
 トランスジェンダーを含むセクシャルマイノリティの自殺および自傷のリスクが高いことは広く知られているが,セクシャリティーというプライバシーの最も微妙な部分に関わる問題であることから,実態には不明な点が多いとされる。岡山大学ジェンダークリニック受診者の自殺念慮,自殺企図,自傷の経験者は多く,自殺・自傷のリスクの高さを反映するものと思われる。受診者の回顧的なデータから推定すると,特にリスクが高いのは二次性徴が始まった時期と社会人になってからである。大多数の受診者は,ジェンダークリニックで支持的な対応を受けたり身体的治療を受けたりする過程で,精神的な危機を乗り越えており,精神科合併症のない限りレジリエンスは高いと言える。トランスジェンダー一般についてもレジリエンスは高いと予想され,適切なサポート,必要に応じた身体的治療の提供,教育や社会システムの改善でリスクを軽減できると期待できる。
Key words:transgender, suicide, self─injury, life stage

●ゲイ・レズビアンと精神療法
林 直樹
 LGBT が最近わが国でも急速に可視化してきて,臨床家が普段の臨床で彼らと出会うことも今後一層増えていくと思われる。また彼らが彼ら自身に比較的固有の問題を,これまでより臨床場面で率直に語ることも増えていくと思われる。これらに対して精神療法的に向き合う場合に,いくつか念頭に置いておいた方が良いと思われることを,普段筆者が関わりの深いゲイ・レズビアンについて,概説した。
Key words:LGBT, psychotherapy, internal homophobia, clinical bias, affirmative

●レズビアンと心理援助
金城 理枝
 LGBT の中でL にあたる女性同性愛者と心理援助について考察する。LGBT の人々への支援について,昨今話題の婚姻制度だけではなく,医療福祉的ニーズの高まりも忘れてはいけない。このような状況下,比較的可視性の低いと言われてきたlesbian への心理援助について, 4 つの型に分類して解説を試みる。Lesbian への心理援助を考える際,大切なこととして,日本文化独自の価値観,表と裏や本音と建て前,内と外の感覚が存在することを忘れてはならない。欧米社会のLGBT 支援がそのまま当てはまらないとする考えはここからきている。また,日本社会の風潮として,同性愛者への差別は目立ってないのであるから,社会生活を送る上で何ら不都合は生じないと断言する人々もいる。しかし,このような社会の成り立ちの中でlesbian がどのようなライフステージをすごすのか,精神科医療関係者が心理援助という視点から理解が深まることは有意義なことである。
Key words:lesbian, sexual minority, sexual identity, gender identity, sexual orientation

●トランスジェンダーと精神療法
康 純
 近年,LGBT という言葉がマスコミなどを通して社会に広がってきているが,T を表すTransgender は精神疾患として位置づけられる性同一性障害とは全く違った概念であり精神病理化を否定している。しかし,性別違和を持つ人たちは精神科の診療を求めることがある。その際には社会が性の多様性を受け入れていない現状を理解し,理解されないことから深い苦悩を抱えてきたことを受容的・支持的にサポートすることが重要である。また,性別違和を持つ人々は家族に理解してもらい,社会の中で自分のセクシュアリティを表現していき,法律的な問題を解決し,新しいパートナーとの関係を作り上げていくことになる。その様々な場面でわれわれは必要なサポートを行っていくことになるが,常にともに寄り添い,ともに悩む姿勢が必要である。
Key words:psychotherapy, transgender, gender identity disorder

●LGBT におけるHIV 感染症と薬物依存
嶋根 卓也
 薬物依存臨床では,HIV 感染症の背景を持つLGBT がしばしば登場する。わが国ではHIV 感染の多くが「男性同性間の性的接触」を感染経路としている。薬物使用は注射器を介した血液感染のみならず,セイファーセックス(安全な性行為)を妨げ,HIV 感染のリスクを高める要因となることが指摘されている。また,薬物使用は抗HIV 薬のアドヒアランスを低下させ,HIV 治療が中断する要因にもなる。しかし,HIV 感染症の背景を持つゲイ・バイセクシュアル男性の薬物問題は比較的軽症例が多く,依存症治療に対する動機を持ちづらい事例も少なくない。そこで,本稿では,LGBT におけるHIV 感染症および薬物依存の状況,そして双方の結びつきについて整理し,HIV 感染症の背景を持つLGBT に対する薬物依存の支援について考えていきたい。
Key words:HIV infection, substance use, sexual risk, MSM, LGBT

●解離・トラウマとLGBT
塚本 壇
 性同一性障害はgender identity の障害であるが,同時にgender をめぐる同一性障害でもあり,中核群から離れるほど後者の比率も高くなる。同様に解離性同一性障害にも解離する同一性障害としての側面があり,解離・トラウマとtransgender には同一性障害としての共通基盤が見て取れる。本稿ではそれらを踏まえて2 例提示する。症例1 は中学1 年次に自分は同性愛者ではないかと最初に疑った。中学2 年次に集団無視によるいじめを受け,健忘やリストカットを繰り返すようになった。高校2 年次に精神科初診後も多彩な解離症状を呈し,一時期不完全な男性の交代人格が優位となるが,交代人格と格闘した悪夢を契機に元の女性同性愛者へと戻っていった。症例2 は幼少期から性別違和感を自覚。第二次性徴とともに身体的嫌悪感も顕著となった。高校3 年次に失恋を契機に部分生活史健忘に陥り,以後女性として生活するも,15年後,加害者の写真を見たことをきっかけに性的虐待について思い出した。これまで通り女性として生きていこうと試みたが,最終的には男性として生きていくことを決意した。
Key words:LGBT, dissociation, trauma, gender identity disorder, identity disorder

●LGBT の就職活動─約13人に1 人の求職者のためにできること─
藥師 実芳
 2016年3 月卒の就活生は43万人を超えるといわれており,国内人口の約7.6% といわれるLGBT の新卒就活生は3 万人以上と想定できる。しかし現状トランスジェンダーの約69%,同性愛者や両性愛者の約40% が求職時にセクシュアリティに由来した困難を感じるという。約400名の10代〜20代のLGBT の就労支援を行ってきた立場から,LGBT の就職活動および就労初期における困難の現状と必要な支援について述べる。
Key words:LGBT, youth, employment, work, harassment

●トランスジェンダー生徒の支援
土肥いつき
 本稿の目的は,トランスジェンダー生徒の性別違和を学校の中のジェンダーから分析することである。学校の「女/男の扱いの差異」は,女/男に分化した結果なされるだけでなく,女/男に分化するためにもなされている(性別分化)。分析の結果,トランスジェンダー生徒は「学校の性別分化」と「自らありたい性」の間で「ジェンダー葛藤」を起こしており,その支援は「ジェンダー葛藤」を軽減することであることが明らかになった。
Key words:transgender, student, school, gender, support

●回復とトランスジェンダー
倉田 めば
 当事者の立場から述べた。薬物依存の回復のプロセスの中で,セクシュアリティに向かい合った時,トランスジェンダーとして生きる決心をした。支援の仕事を続けていくためにも避けては通れない道だった。一つ一つ実現していったトランジットのプロセス。女装,ジェンダークリニック,女性ホルモン,声の手術…両親にカミングアウトすることが怖かったが,意外にもすんなり受け入れてくれた。現在の不安はトランスジェンダーとしてのエイジングの問題である。
Key words:addiction, recovery, transgender

●性的マイノリティのリプロダクティブ・ヘルス/ライツ
中塚 幹也
 性的マイノリティのリプロダクティブ・ヘルス/ライツへの理解の浸透は,文化や宗教などの実情に合わせ,人権問題や健康問題として訴えることで進められている。性的マイノリティ当事者を対象としたHIV 感染,パートナー間での暴力,望まない妊娠等を予防する教育や啓発が必要であるが十分ではない。FTM 当事者夫婦が提供精子により嫡出子を持つことが可能になったが,性的マイノリティ当事者の生殖医療へのアクセスは依然として限定的である。
Key words:assisted reproductive technology, HIV, intimate partner violence, reproductive health and rights, sexual minority

●発達障害とLGBT
中山 浩
 発達障害,特に自閉症と性同一性障害の合併に関する報告はあるが, 2 つの障害の合併頻度については,今後も慎重な検討が必要である。近年,発達障害概念は基本的な精神医学的評価の軸の1 つとなりつつあり,LGBT 者対応についても同様と考えられる。発達障害概念は,児童期,成人期を通じて,家庭生活,社会生活上の適応力の検討において有用な医学概念であり,LGBT 者への対応においても常に念頭に置いて評価と支援を行うことが重要である。
Key words:developmental disorder, LGBT, support, care, assessment

■研究報告
●プライマリケアでのうつ病診療における協同的ケアの有用性の検討
安田 貴昭  五十嵐友里  堀川 直史  河田 真理  長尾 文子  得丸 幸夫  眞弓 久則  猪熊 滋久  早川 佳彦  加藤 貴紀  三谷 雅人
 地域のプライマリケア医によるうつ病診療が重視されるようになっている。協同的ケア(collaborative care)では,ケースマネージャーが患者の受療支援を行い,プライマリケア医も精神科医も大きく負担が増加することなく,地域でのうつ病診療の成績が向上するとされている。本研究では介入群44例のうち36例が受療支援を受け入れ,協同的ケアを継続することができた。また,この36例では対照群と比較して初期の通院中断が少なく,生活の困難度が有意に改善した。ただし本研究では患者への支援だけでなく,プライマリケア医への支援も行った点で,諸外国の先行研究と異なっている。これまでわが国で協同的ケアが行われた報告はみあたらないが,本研究の結果から,わが国でも協同的ケアは実施可能であり,地域のプライマリケア医によるうつ病診療において良好な結果が得られる可能性が示された。
Key words:primary care, collaborative care, depression, outreach

■臨床経験
●統合失調症にパーキンソン病を併発し抗パーキンソン病治療にて運動症状・精神症状とも著明な改善を呈したケース
林 眞弘  東 光太郎  堺 奈々
 錐体外路症状の悪化を呈した50代後半の統合失調症患者に対し,臨床症状の検討と画像検査(MRI,DaTSCAN)から,特発性パーキンソン病の合併と診断し,L─ドパやドパミンアゴニストなど,抗コリン薬以外の抗パーキンソン病薬による治療を行った。その結果,運動症状だけではなく,精神症状全般においての著明な改善を認めた。その臨床経験から,統合失調症に錐体外路症状を呈した症例へのDaTSCAN の有用性や抗パーキンソン病薬を用いた治療の重要性,必要性を認識した。
Key words:schizophrenia, Parkinson’s disease, DaTSCAN, L─dopa, dopamine agonist

■資料
●長期通院てんかん患者における臨床的特性─続報─
和田 一丸
 前回調査時の対象104例(2004年末の時点で30年以上にわたり外来通院治療を継続していたてんかん患者)について,その後10年間経過した2014年末の時点での転帰と臨床経過を明らかにすべく追跡調査を行った。その結果,医師の判断のもとで抗てんかん薬治療の終結がなされていたものが22例認められた。これらの例では治療終結後に発作再発に至ったものは現在まで認められておらず,長期通院てんかん患者において発作が抑制されている例に対しては積極的に治療終結を試みてよいことを示唆する結果であった。一方,2014年末まで通院治療が継続されていた例(すなわち40年以上通院治療継続例)は68例であったが,前回調査時と比較し発作頻度の減少傾向が認められていた。てんかん類型に関しては,特発性全般てんかん患者の発作抑制率が89%であったのに比し,側頭葉てんかんを含む症候性部分てんかん患者の発作抑制率は62%と特発性全般てんかんに比し有意に低く予後不良例が少なくないという結果であった。
Key words:epilepsy, antiepileptic drug therapy, discontinuation of antiepileptic drugs


本ホームページのすべてのコンテンツの引用・転載は、お断りいたします
Copyright(C)2008 Seiwa Shoten Co., Ltd. All rights reserved.