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■展望

●児童青年期の精神疾患
―治療の選択および投薬する場合の留意点―
阿 部 和 彦
 児童青年期の精神疾患に対しては行動療法、暗示療法、催眠療法など種々の治療が行われているが、最近は薬物療法の進歩が著明である。この進歩の一部を紹介するとともに、薬物療法およびその他の療法の適応について述べる。また、向精神薬のうち、子どもに著明に副作用が出るもの、成人と効果が異なるものについて述べる。
Key words :mental disorders, childhood & adolescence, psychotherapy, pharmacotherapy, adverse effects

■特集1 児童思春期の精神障害に対する薬物療法

●自閉症の薬物療法
星 野 仁 彦
 自閉症の病因として、脳機能障害の存在が明らかになるにつれ、薬物療法は治療の主流になってきている。しかし実施する場合、インフォームドコンセントの問題、診断カテゴリーの問題、薬用量の決定、医師と患者・家族との信頼関係、副作用への対応、発達途上における薬効評価の難しさなど、まだ解決すべき問題が山積みしている。自閉症において薬物療法を行う場合、一般的留意点として、まず標的症状を定めること、教師や施設指導員などの協力を得ること、少量から始めて漸増法をとること、行動療法・療育指導などの他の治療を並行して行うこと、ある程度改善したら休薬期間をもつこと、定期的に臨床検査を行うことなどが挙げられる。本稿では、haloperidol、pimozide、risperidoneなどの抗精神病薬、methylphenidateなどの中枢神経系刺激薬、SSRIなどの抗うつ薬、lithium、内因性opioid拮抗薬、fenfluramine、clonidine、合成ACTH、R-tetrahydrobiopterineなどを中心として述べる。
Key words :autistic disorder, infantile autism, drug therapy, pharmacotherapy

●注意欠陥多動性障害(ADHD)の薬物療法
白 瀧 貞 昭
 注意欠陥多動性障害(ADHD)の治療法の中で、今日、薬物療法はかなり中心的役割を期待されている。しかし、ADHDの診断は行動面の症状からのみ行わねばならず、診断者の主観性がかなりの割合で介入してくる。原因論に関して、脳の器質的、機能的障害の存在が想定されてはいるが、個々のADHD児の臨床場面ではこれらを確認することはかなり困難である。治療薬剤としては中枢刺激薬methylphenidateが最も繁用されているが、改善率はせいぜい20〜30%である。中枢刺激薬以外に、三環系・非三環系抗うつ薬、抗精神病薬などがADHD児の持つ症状の種類によっては著明な改善を示すことが有り得るので、中枢刺激薬で全く効果の示されない場合には選択する価値がある。中枢刺激薬の性質上、実際に学童などに使用する際には、その副作用(特に不眠)の出現に留意して使用する必要がある。
Key words :ADHD, pharmacotherapy, psychostimulants, antidepressants

●チックとTourette症候群の薬物療法
金生 由紀子
 Tourette症候群を中心とするチック症について、チック症状、随伴症状を概説し、治療の枠組みを述べた上で、薬物療法の実際を主な薬物別に紹介した。チックに対する薬物療法で最も多用されてきたのは、ドパミン拮抗作用の強い神経遮断薬で、その代表がhaloperidolである。チックに対する効果は明確だが、過鎮静や意欲減退などの副作用から、pimozide、さらに“非定型”神経遮断薬のrisperidoneへの関心が高まっている。より副作用が少ないこと、チックに加えてADHDへの効果も期待できることからclonidineの使用も検討に値する。随伴症状に関しては、チックとADHDの合併では中枢刺激薬の使用は禁忌とされるが、軽度のチックでは慎重な使用による利益の方が大きいかもしれない。チックとOCDの合併ではSSRIが強迫症状に一定の効果を示すが、“純粋な”OCDよりは効果は少なく、チックへの効果は期待できない。随伴症も考慮したチック症に対する高度の薬物療法が望まれる。
Key words :Tourette syndrome (TS), tics, OCD, ADHD, neuroleptics

●児童にみられる精神分裂病の薬物療法
飯 田 順 三
 児童期発症分裂病の概念は長い混乱の時期を経て、幼児自閉症と明確に区別されるようになった。DSM-Wでは児童期においても分裂病の特徴は成人と同じであるとされ、同じ診断基準が使われている。また神経生物学的な研究では、近年になり成人期発症分裂病との連続性が示唆される所見が報告されるようになった。しかし児童期発症分裂病の薬物療法に関する研究はこれまで極めて乏しい。従来の定型抗精神病薬による治療では反応しない治療抵抗性分裂病が多いともいわれているが、clozapineの登場以降、児童期発症分裂病においても非定型抗精神病薬の有効性が期待され、その種の薬剤による研究が近年になり報告されるようになった。今後さらに非定型抗精神病薬を中心に薬物療法に関する研究が重要視され、また成長途上であることを考慮すると長期服用における成長への影響などの研究も必要となることが考えられた。
Key words :pharmacotherapy, childhood-onset, schizophrenia

●児童・思春期のうつ状態と薬物療法
岡田 麻里子  中 村  純
 こどものうつ病は非常に稀と考えられ、その理解の難しさから成因や診断、成人との相違点が論議されてきた。近年こどものうつ状態に関心が高まり、また、DSM-V以来、こどものmajor depressionの診断が容易になった。薬物治療については、はっきりした治療指針がないのが現状である。こどものうつの特徴、評価、薬物療法について述べるとともに、The Texas Children's Medication Algorithm Projectを紹介しこどもの大うつ病の合理的な治療指針と、その問題点について若干の考察を行った。
Key words :evidence_based psychiatry, algorithm, medication, treatment, childhood, depressive disorder

●小児期の強迫性障害の薬物療法
新 井   卓
 小児期の強迫性障害の薬物療法について概説した。国内および海外の研究報告を紹介するとともに、神奈川県立こども医療センター精神科に受診した患児46例に関して実際の向精神薬の使用状況を調査し呈示した。その調査結果ではclomipramineあるいはfluvoxamineなどのセロトニン再取り込み阻害作用を有する抗うつ薬だけでなく、神経遮断薬をはじめとする種々の向精神薬が併用されていた。小児期の強迫性障害では強迫症状に対する病識の乏しさ、家族を巻き込む傾向および症状の動揺しやすさなどがある。その結果、成人例に比較して、治療協力が得られないことや強迫症状が叶わないための興奮、家族への問題行動が多いことが、種々の向精神薬が使用されている要因と考えられた。
Key words :obsessive compulsive disorder, childhood, pharmacotherapy

●児童思春期の摂食障害の薬物療法
切 池 信 夫
 児童期から思春期におけるanorexia nervosa(神経性食思不振症、AN)や bulimia nervosa(神経性過食症、BN)などの摂食障害患者増加の要因、児童期発症の若年発症例の臨床特徴、診断などについて説明し、次いで摂食障害の治療における薬物療法の位置づけについて説明した。AN患者に対して薬物療法は主に随伴症状に対する対症療法として、一方BNや binge eating disorder患者に対して抗うつ薬、特にセロトニンの選択的な再取り込み阻害作用を有するSSRI(selective serotonin reuptake inhibitor)が過食や嘔吐などの減少をもたらし副作用が少なく、有用であることが報告されており、これらについて最新の主な知見を紹介した。
Key words :child, adolescent, anorexia nervosa, bulimia nervosa, pharmacotherapy

■原著論文

●パニック障害治療におけるベンゾジアゼピンの位置づけ
―alprazolamを中心に―
竹 内 龍 雄
 パニック障害の薬物療法において、ベンゾジアゼピンは SSRIの登場でいわば脇役の地位に追いやられたかに見える。しかし実際の臨床場面での有用性は変わりないのではないか。パニック障害のさまざまな病期病像の症例にalprazolamが有用であった自験41例を整理し、パニック障害治療におけるベンゾジアゼピンの位置づけについて検討した。Alprazolamは速効性で切れ味が良い点が最大の長所であり、逆に長期使用によっては効果の息切れや依存形成による離脱症状などの短所が見られることもある。したがって、急性期における急速症状改善薬として、慢性期のいろいろな場面における頓服薬として、また抗うつ薬療法における併用薬として用いるのが、最適な使用法ではないかと考えられた。加えて、ベンゾジアゼピン一般の特徴として、副作用が少なく患者のQOLを障害することが少ない点は、パニック障害治療にとって不可欠な利点と思われた。
Key words :panic disorder, pharmacotherapy, benzodiazepine, alprazolam, SSRI

■New drug 新薬紹介

●新規抗てんかん薬clobazam
八 木 和 一
 Clobazamは製品名マイスタンとして抗てんかん薬として発売された。現在発売されている抗てんかん薬の併用薬として承認された。対象発作は全般発作である全般性強直間代発作、強直発作、ミオクロニー発作、欠神発作、脱力発作、および部分発作である単純部分発作、複雑部分発作、二次性全般発作である。投与用量は、1日10〜30mgが適量で最大投与量は40mgである。小児では1日体重1kgあたり0.2〜0.8mgが適量で最大投与量は1mgである。
 この薬の特徴は適量投与が重要である。決して過剰投与すべきでない。理由は多分、clobazam自体とその代謝物である脱メチル体も抗てんかん作用をもち、特に脱メチル体は定常状態に達するのに時間がかかることにあるのではないかと思われる。副作用は眠気、ふらつきなどである。併用薬として使用するので最低量から漸増して有効量を決定すべきものと考える。
Key words :clobazam, antiepileptic drug, efficacy, seizure types, side effects