●精神疾患・向精神薬と運転てんかんと自動車運転
川合謙介
道路交通法は,運転者に対して過労,病気,薬物などの影響で正常な運転ができないおそれがある状態での運転を禁じており,一方,公安委員会に対しては発作により意識障害または運動障害をもたらす病気にかかっている者には免許を与えないと定めている。しかし,医療者に対する規定はなく,医療者は各々の判断で「再発のおそれがないかどうか」を決め,患者に指導を行うことになる。通常その際に参考とする公安委員会の運用基準では,運転適性に必要な最低条件を「覚醒中に意識や運動が障害される発作が2年間以上ないこと」としている。現行の運用基準は実用臨床には不十分な部分があり,無発作期間の見直しや薬剤変更時など,より詳細な規定が求められている。また,抗てんかん薬の添付文書は,医療者に一律の運転禁止指導を義務付けるような文面になっているが,この文面は,運転に支障をきたす副作用が生じていると考えられ得る患者のみを対象としたものと解釈すべきであろう。
Key words : epilepsy, driving, antiepileptic drug, quality of life, drug information
●認知症と自動車運転─医薬品とその使い方─
上村直人 藤戸良子
近年,社会問題となっている高齢者の認知機能低下,認知症における自動車運転と薬物治療に関して概説した。2002年6月以降,認知症性疾患では改正道交法により一定の制限を受けるようになった。そのため臨床医も必然的に疾患を持つ患者の運転免許に関わらざるを得ない状況となった。認知症と自動車運転の関連は医学的な実証検証は少なく,特に抗認知症薬と自動車運転の関連性に関するデータはほとんど見受けられない。様々な報告から認知症の原因疾患により運転行動が異なることや,認知症の重症度や精神症状・行動障害の違いにより,運転行動に及ぼす影響が異なることもわかり始めている。しかしながら,認知症と自動車運転に関する報告は欧米を中心に多数みられている一方で,認知症の運転に対するゴールドスダンダードは世界的にみてもまだ存在しない。そのため,認知症およびその薬物治療においてもエビデンスは少なく,今後の医学的検証が望まれる。
Key words : dementia, neurocognitive disorder, driving, drug therapy
●過眠性疾患の運転問題と対応
井上雄一
昨年より,居眠り運転事故を生じる可能性のある重度の眠気を有する患者を公安委員会に通報できることが道路交通法に定められ,正常運転ができない状態で自動車運転を行って,人を負傷・死亡させた場合の処罰が強化された。これらの制度を適切に運用するためには,過眠性疾患での運転事故の実態,リスクを予測しうる臨床指標や覚醒保持能力を判定する検査手法(=覚醒維持検査;MWT)とその結果の解釈法を十分理解する必要がある。本稿では,過眠性疾患の代表である閉塞性睡眠時無呼吸症候群と中枢性過眠症での居眠り運転の疫学的事項,両疾患治療薬の運転パフォーマンスに対する効果を示すとともに,覚醒維持検査の概略について言及した。過眠性疾患患者すべてで事故リスクが高いわけではないが,重症かつ治療アドヒアランスが悪い症例,多回事故経験者については,重点的に治療を強化し,覚醒維持能力が一定水準以上であることを確認することが肝要であろう。
Key words : sleepiness at the wheel, obstructive sleep apnea syndrome, narcolepsy, maintenance of wakefulness test, sleep hygiene education, driving simulator