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■特集　これだけは知っておきたい――集団精神療法の基本と技法

第１章　総論
●集団精神療法適用の意義と手続き
野中猛
抄　録　集団精神療法および集団活動の必要性と臨床的実践の手続きについて考察した。集団の必要性については，ヒトが社会的動物であるという習性に加えて，準拠集団を失いつつある現代に，あらためて社会を形成する要求が生まれていることを強調した。集団精神療法および集団活動に共通する基礎的な理論である集団力動に関する知見の一部にふれた。集団精神療法の適用について，Yalom,I .D .による集団の治療因子から逆に整理を試みた。最後に，臨床場面で集団精神療法および集団活動を実践する際の要点を時間軸に沿って整理した。
キーワード：集団精神療法，グループワーク，集団力動，集団療法の適用，準拠集団

●集団精神療法の近年の発展
小谷英文
抄　録　集団精神療法の歴史的到達点を確認し，技法体系の基本枠組みを示した。そして技法の整備が可能にした統合的アプローチの新しい方向性を改めて示し，ここ５年間に急速に注目されてきた集団精神療法固有のニーズとそれに応えうる近年の展開を，困難対象群の代表とされる青年期および統合失調症の臨床において紹介した。集団精神療法が，その固有の治療要因故に，集団の安全と個の共生という現代的社会課題に応える可能性の大であること，災害，戦争，紛争，虐待等々によるPTSD に対応する今日的動向を指摘し，さらに医療処方としてだけでなく，教育とりわけ生涯教育的な人格の成熟性を支援するアプローチとしての新しい方向性を示した。
キーワード：集団精神療法，統合的アプローチ，青年期，統合失調症，技法

●集団精神療法における技法の選択
高良聖
抄　録　臨床現場で用いられる集団精神療法に関わる技法の選択について，「楽しむ」「治す」「学ぶ」の３つの目的を提示した上で適用上の留意点について論じた。そこでは，目的が定まり，リーダーの役割が決まったところで適用技法が明らかになる点に言及した。
　次に，「エンカウンター・グループ」「精神分析的グループ」「コミュニティー・ミーティング」「サイコドラマ」「SST 」「集団芸術表現療法」の６つの異なるアプローチを紹介し，対象と適応について概観した。適用技法の選択にあたっては，「対象」を考慮してから集団精神療法を行う場に応じて「構造」を明確にする。そして，技法の「内容」が決定される点を指摘し，「はじめに技法ありき」ではないことを強調した。
キーワード：集団精神療法，技法選択，目的，対象，適用

●集団精神療法におけるリーダーシップについて
信田さよ子
抄　録　８年間の実践経験から，開業カウンセリング機関においてはグループカウンセリングは必須であるということが明らかになった。それは医療機関での入院治療の一環である集団精神療法とはさまざまな点で異なっている。まずアディクションアプローチに基づいており，アルコール依存症の自助グループAA をモデルとしていること，また目的は治療ではなく，参加者（クライエント）が類的存在としてセキュリティー感覚を抱けること，イノセンスを承認されることなどである。集団運営の特色は言語的相互交流を遮断することによって逆に集団の一体性，所属感が強調されること，３つのリーダーシップ機能のうち内容性機能がクライエントに委託・委譲されることである。クライエントが自らの意志で時間と料金を費やして参加する開業機関では，このようなグループカウンセリングがクライエントの問題解決に有効に機能すると思われる。
キーワード：アルコール依存症，グループカウンセリング，自助グループ，アディクションアプローチ，セキュリティー

第２章　疾患別集団精神療法の使い方
●統合失調症
稲村茂
抄　録　統合失調症に対する心理・社会的側面のはたらきかけとしての集団精神療法について述べた。急性期の幻覚妄想状態を抜ける頃から集団療法的関わりを開始し，現実感を取り戻し「二重の見当識」の健康な部分を強化していくことの重要さを強調した。また，慢性期には，役割を豊富に用意し，主体性の発揮が可能な治療共同体的なグループ運営が効果的であることについて論じた。さらに地域のデイケア，作業所なども同様の視点が必要であることを述べた。いずれの段階のグループも，安全な居場所としての枠組みがなければ，集団精神療法としての効果が生じないことを指摘した。
キーワード：統合失調症，急性期，慢性期，病院内グループ，地域のグループ

●うつ病の集団療法
中村敬
抄　録　近年実施されているうつ病の集団（精神）療法は，�‖腓Δ追造覆い靴倭亢棒�障害うつ病期の患者を対象にすること，�⊆Ｎ鉄�間が比較的短期であること，��治療プロセスが明確で，セッションが構造化されていること，�ぜＮ甜圓惑銃暗�，指示的な役割をとること，�ゴ擬圓房�己治療的な取り組みを促すこと，などの特徴を有する。こうした集団療法は，疾患の回復過程を促進し再発を防止するという明確な目標に沿って構成されたものである。
　次いで，筆者らが実施した入院患者を対象にした心理教育的グループについて概説した。レクチャーと質疑応答から構成される心理教育では，病気に関する正しい知識を提供すると共に，療養生活や社会復帰の具体的指針を参加者が共有することに力点が置かれる。こうしたグループは，患者が病気の治療に主体的に取り組む上で，有用なアプローチだと思われる。
キーワード：うつ病，集団療法，集団精神療法，心理教育

●神経症
権成鉉
抄　録　神経症の集団精神療法について，まずBion ,W .の作働集団と基底的想定集団について概説した。基底的想定集団には，依存，闘争―逃避，つがいがあり，治療中でのその現れに治療者は注意を払うこと，その着眼点について述べた。そして神経症患者でも集団内では原始的防衛機制が優位になることを強調した。
　治療経過を把握するためには，転移−逆転移，抵抗，ワークスルーの理解が不可欠であり，集団精神療法におけるそれらの特徴について触れた。解釈，介入については，個人中心的介入と集団中心的介入について述べ，今日的な中庸的介入を紹介した。また解釈，介入における「今，ここで」の技法的扱いについて述べた。以上の他，集団精神療法の設定，構造，適応と禁忌，患者選択の問題を簡略に説明した。
キーワード：神経症，集団精神療法，対象関係，基底的想定集団，転移−逆転移

●人格障害（パーソナリティ障害）
衣笠隆幸
抄　録　パーソナリティ障害は，現代日本の精神科臨床における大きな課題になっている。それに関しては，欧米諸国で先進的な研究が行われ，精神分析的病理学と精神分析的精神療法が確立している。それらは個人精神療法を主としているが，パーソナリティ障害に対する分析的小グループ療法も可能である。その場合には，Bion ,W .が明らかにしたグループの全体無意識と転移の理解が重要な視点になる。このような患者群は，グループ療法においても活発な転移を起こすために，治療者はそれらを的確に理解して，必要なものは解釈する必要がある。そして，治療者は，精神分析的個人療法の経験を持つことが望ましく，グループ療法の実施においては，スーパービジョンの元で基本的な技法と理論を習得することが必要である。
キーワード：セッティング，心の内的構造論，分析的小グループ療法，グループの全体無意識，グループ内の転移

●摂食障害
生野照子
抄　録　摂食障害の発症が増加し，集団療法はコストの面からも治療の面からも有効な治療法であると考えられている。摂食障害は，集団療法で扱われるに相応しい問題を多く含んでいる病態である。本稿では摂食障害に関した集団療法の特徴や留意点，技法についてまとめ，筆者らが実施している「多層的サポートシステム」の試みを述べた。個人療法−心理教育グループ−中〜大規模サポートシステムの組合せによって，治療の深まりと広がりを期すことができる。
キーワード：摂食障害，集団療法，神経性食欲不振症，神経性過食症，サポートシステム

●アルコール依存症者の集団精神療法
木村武登
抄　録　断酒を継続し，アルコール依存症から回復していくために，集団精神療法をどう用いていけるかを述べた。�”袖い鯒Г瓩討い覆せ�期。グループミーティング（GM）を通して断酒の必要性を理解できるよう焦点化。��断酒開始時期。心理教育，治療的GMを通して知識の習得とGM に慣れる。�Ｃ納鬚�継続しだした時期。治療的GM ，自助グループへ積極参加。認知行動療法的アプローチを導入。飲酒行動と自己のあり方の関係に焦点を当てる。�ぢ仗祐愀犬鮟ど�する時期。GM でカタルシスを得ながら自己を振り返る。治療の段階（回復のステージ）によって用いる方法やテーマは異なるが，相互作用を通じての自己理解の場としてGM は一貫して有用である。
キーワード：アルコール依存症，集団精神療法，グループミーティング

●薬物依存に対する集団精神療法
平井愼二
抄　録　依存性薬物の多くが規制の対象であるため，薬物依存への働きかけにおいては，援助側の機関は取締処分側と連携し，薬物需要削減対策を支える機関の１つとして機能しなければならない。薬物依存に罹患している者及びその周囲の者を適切な対応に早期に導入することを目的として，援助と取締処分の両領域の専門職が講師となり偏向のない知識を提供する一連の講義で構成された集団精神療法を設定することが求められる。また，薬物依存から回復した者が回復途上の者に接する自助的な集団精神療法は，それ自体は極めて高い効果を持ち，対策には必須のものであるが，この働きかけの設定はかかわりの保持力，並びに，新たな規制薬物使用への抑止力が乏しいため，専門職が指導的，観察的に関係することで効果が高まり，また，広く受け入れられるものとなる。集団精神療法も，薬物需要削減対策の中での役割及び効果を検討し，設定あるいは活用するべきである。
キーワード：薬物依存，規制，連携，集団精神療法，自助

第３章　場面別集団精神療法の使い方
●急性期開放病棟における集団精神療法の基本と実際
天笠崇
抄　録　筆者は，「急性期開放」「混合」病棟で働いた12 年間の経験から，急性期病棟という場面における集団精神療法の実際について述べた。患者の入退院が多く，集団力動が激しく動く急性期病棟を治療的に構造化するには，病棟大集団精神療法の視点が不可欠である。まず，急性期病棟における集団精神療法の「目と構え」について４点述べ，患者が患者を治す視点から生まれた「治療する患者」技法について触れた。急性期病棟で起こりがちな集団力動状況とそれに対する「集団処方」の実際について述べた。それらは，「緊急ミーティング」を含む９項目に及んだ。最後に，入院患者自治会と全職種参加のカンファレンスを基本に，治療共同体的病棟運営がなされた実例を紹介した。
キーワード：急性期病棟，病棟大集団精神療法，治療共同体，治療的構造化，集団処方

●社会復帰病棟
小澤健　浅井邦彦
抄　録　社会復帰病棟における集団精神療法というテーマを広義に解釈し，筆者らが亜急性期・慢性期病棟において施行している複数の患者を対象とした３種類のプログラムについて報告した。それらは従来実施されてきた狭義の集団精神療法，レクリエーション療法，SST ，心理教育などの手法を適宜取り入れたものであり，患者の病期，退院するにあたって獲得または解決すべき問題点などに応じて検討されたものである。
キーワード：集団精神療法，社会復帰病棟，病期に応じたプログラム

●外来場面での集団精神療法――ひきこもる若者を抱える親グループの体験から――
小林進
抄　録　昨今，精神科，保健所，精神保健センターなどの相談機関や医療機関にひきこもる若者の親の相談が増えている。現場の職員は当事者に会うことなくコンサルティである親への対応を迫られているのが現状であり，こうした親の集団精神療法とスーパービジョンを経験した。外来に相談に訪れる親は社会的にも孤立しており，ひきこもっていた。外来集団精神療法は駆け込み寺またはアジール（逃避，かくれ場所）として機能した。孤立感，無力感の改善，親としての役割喪失の回復という支持的機能，夫婦関係の変化，親のひきこもりの青年に対する働きかけの変化がみられた。また，「ひきこもり」の親の集団精神療法から浮かび上がる個人と社会について考察を加えた。
キーワード：ひきこもり，親グループ，アジール

●デイケアにおける集団精神療法
窪田彰
抄　録　集団精神療法の視点から見た精神科デイケアの治療理念について論じた。特にグループワークとして，１人ひとりに起きた感情を集団全体の力動から見る視点が重要であること。またコミュニティミーティングに類するミーティングでは，司会者は職員が務めることが望ましいことを論じた。さらに司会を務める場合の関わり方について述べた。治してやろうと思わないこと，決定を急がないこと，情報を共有すること，明るいグループを作ろうと思わないこと，等について説明し，特に話し合いの重要性と話し合いを十分に「もむこと」の必要性を述べた。
キーワード：デイケア，集団精神療法，司会者，もむこと

●教育場面における集団の利用
磯田雄二郎
抄　録　教育場面において集団精神療法がどのように利用されるものか。ここでは実際的な見地から以下の２つの分野に絞って論じていった。
　１つは集団治療者に対する教育訓練としての集団治療の応用であり，今ひとつはより広い意味での教育場面における集団精神療法の技法の利用という観点である。まず第１の側面について，集団精神療法家に対する訓練は，多くは集団精神療法のグループへの参加という形で行われる。この方法を用いることによって，治療者は集団精神療法について�―乎栂脇亜塀乎弔箸靴討凌汗�のあり方）について体験的に理解ができ，�⊇乎弔砲�いて起こるさまざまな病理的な現象についての理解をすることができ，��集団内においての自己の振る舞いのパターンについての理解が進み，�そ乎弔魄靴κ�法についての十分なモデルを手に入れることができるのである。また，集団力動については，集団が変化していくことでそうした力動が存在するらしいことを体験的に知るに過ぎない。しかし，集団精神療法の基礎は実はこの集団力動の理解と把握とにあるわけであるから，これを理解せずに集団精神療法を論じることはできない道理である。そして集団の体験はこの集団力動の理解を容易にしてくれるのである。
　次に一般的な教育においてはこの集団精神療法の技法を用いることができ，学校現場を超えて生涯教育の分野においても広く利用されるようになっている。これらについては以下の諸点について取り上げて論じた。�ヽ惺燦従譴砲�けるロールプレイの利用，��学生相談の領域におけるエンカウンター・グループ，��治療教育場面における集団精神療法の利用，�ぅ椒薀鵐謄�ア教育，�ザ裟偽軌蕕砲�ける利用。
最後に筆者自身の利用について例示した。
キーワード：集団の利用，教育場面，学校現場，生涯教育

●矯正施設
長谷川直実
抄　録　矯正施設での処遇，教育プログラムは，当然のことながら再犯防止を最大の目標に行われている。しかしリハビリテーションの観点からみれば精神科一般臨床との共通点も多い。
　実際，矯正施設の集団処遇の中には，集団精神療法の技法がとり入れられていることも多い。
　本稿では，筆者の医療刑務所での臨床経験の中から，特にSST ，モラルジレンマ・ディスカッションを紹介し，矯正施設での集団精神療法についてまとめたい。
キーワード：SST ，覚醒剤，矯正医療，嗜癖，モラルジレンマ・ディスカッション

●集団精神療法と社会復帰施設での援助活動
新保祐元
抄　録　集団精神療法と精神保健福祉援助技術のかかわりを整理し，集団精神療法が社会復帰施設に適応可能かどうかを確認する。そのうえで集団精神療法の目標や手法が社会復帰施設での援助活動に適応されるとき，対象集団に社会的意味を持つ援助活動として機能しなければならないであろう。その社会的意味とは治療者と患者という相互関係を超え，生活者の１人として同じ病気や障害を持つ者同士に受け入れられていく過程で，社会性や社会生活力を身につけていくよう支援することであり，それは各種グループ活動やセルフヘルプグループなどに適応される。
キーワード：精神療法，精神保健福祉援助技術，社会的意味，社会生活力，グループ活動

第４章　課題別集団精神療法の使い方
●不登校
加藤吉和
抄　録　不登校の予防と治療には，集団精神療法の有効性が認められているが，その形態は理論や技法・メンバーと治療者の構成・実施する場などの条件によって多様である。本稿では，集団精神療法の１つである活動集団療法を中心とした入所治療プログラムを紹介しながら，不登校児童に対する集団治療的訓練・治療教育の１例をあげ，その運営の仕方と留意点・児童集団とスタッフ集団の治療的な関係のあり方について述べた。
キーワード：集団治療的訓練，治療教育，活動集団療法，児童集団，スタッフ集団

●ひきこもり患者を対象とする集団精神療法
川上由美子　川谷大治　大田真紀
抄　録　ひきこもり患者の心性は「臆病な自尊心」と「尊大な羞恥心」をキーワードに，彼らが傷つきを恐れて自分の世界にひきこもる一方で，社会から離れた生活が非常に苦痛であるというジレンマにあると理解できる。したがって治療では，彼らのそうした内的世界に理解を示し，彼らが集団に入ることに葛藤を抱きながらも現実に向き合うことを支える過程が必要であり，本稿では2 症例を呈示して，そこに集団精神療法の有効性があることを述べた。ひきこもり患者は自ら受診しない例も多く，集団精神療法に導入するまでに数年かかる例もあることから，治療者には，ゆっくりとした時間の中で彼らの試行錯誤を見守るというスタンスが求められる。
キーワード：ひきこもり，集団精神療法，「臆病な自尊心」と「尊大な羞恥心」

●グループが提供する育児不安や虐待問題を抱える母親への心理的援助
広岡智子
抄　録　1992 年，子どもの虐待防止センター（CCAP ）が，虐待問題を抱える母親を対象に始めた治療的自助グループ「母と子の関係を考える会」MCG は1998 年以降，育児支援プログラムの１つとして地域の保健機関等で採用され広がりをみせている。CCAPが虐待予防を目的に提供した集団精神療法（MCG ）とはグループ援助者（子どもの虐待防止センター相談員，保健婦，臨床心理士等）が母親たちの内面の葛藤をまともに受け止め，それに向かい合える「場所」を用意し，母親たちの「物語り」のよき聴き手になり，「仲間」を与え，同時に母親たちの過去の被虐待体験の「目撃者や証人」になり，虐待を用いない育児ができるまでの成長と回復に付き添う過程そのものであった。ここで紹介するのはファシリテーターとしてグループに参加したCCAP 相談員の体験的グループ論である。
キーワード：心のケア

●DV被害者のグループ
高畠克子
抄　録　DV被害者のためのSH ＋CR グループについて，�＾多瓦念汰瓦糞鐓貊蟲’宗き�個人的なことを語れる機能，��社会的な文脈に気づく機能，�ぅ┘鵐僖錙璽瓮鵐箸気譴覽’宗きゥ▲疋椒吋ぅ箸気譴覽’修�5 点にわたって述べた。そして，暴力被害者や犯罪被害者を支援する場合，被害者と援助者が一体となって問題の本質を探りながら，自己変革および社会変革を目指すことが必要であると述べた。
キーワード：ドメスティック・バイオレンス，自助グループ，CR（意識覚醒）グループ，エンパワーメント，アドボケイト（人権擁護）

●セルフヘルプグループを促進するには――当事者の自分自身への関わりを促進する――
鈴木丈
抄　録　セルフヘルプグループでは様々な問題に対して多種多様な活動が行われており，特定の活動内容を促進することは適切でない。重要なのは活動内容ではなく，多様な活動内容を作り出す当事者の自分自身との関わりである。そのため当事者が自分で自分の話を自由にできるように促進する必要がある。当事者の自分自身との関わりを促進する重要性はセルフアドボカシーの理念にも示されている。自分自身の話をすることはセルフヘルプグループ固有の援助機能を与えてもいる。つまり，自分自身の問題経験とのつきあい方を通じて他者の問題経験への取り組みを助けることが，同時に，自分が自分の問題に取り組むためにも役立つのである。
　促進には促進グループが役に立つ。問題や関心を共有できる集まりをつくる，小グループ，グループのガイドライン，グループの方法について参加者で話をする，促進の期間を区切るといった方法を示す。
キーワード：セルフヘルプ，促進，セルフアドボカシー

●家族グループ
納戸昌子　木村美枝子　吉田久恵　沼口亮一　池淵恵美
抄　録　統合失調症の家族が中心となる集団の中で，心理教育的家族教室，家族会（自助グループ），単一家族グループについて，筆者らの経験を紹介した。家族グループは形態によって異なった有用性と限界を持ち，家族自身の動機やニーズ，好みも多様であるため，家族によって，どの形態がより有効に働くかに違いが生じる。家族グループを含めて，家族を支援するプログラムには多様な選択肢が必要であると考える。
キーワード：統合失調症，心理教育，家族介入，家族グループ

●爆発ミーティングの試み――「暴力」に悩む統合失調症を抱えた当事者へのアプローチから――
向谷地生良
抄　録　統合失調症を抱える当事者の暴力的行為は，薬物療法を中心とした入院治療によっては容易に改善せず，特に入院中の暴力行為は，病棟内においてもスタッフ間に陰性感情が高まり，治療構造が非合理的で全体主義的・管理的なものに陥りやすく，受け入れる家族との関係も険悪なものとなる。
　そのような課題を抱えた当事者や家族に対して当院では，SST（生活技能訓練）の活用を通じて，問題の改善が図られるなど一定の成果をあげてきたが，より深刻な事例を多く抱えるにつれ，当事者自身がこのテーマに主体的に取り組むことの重要性を痛感するに至った。そこで，当事者が爆発のメカニズムと回復を主体的に研究する「爆発の研究」チームと，自らの経験を活かして爆発に悩む仲間の相談と救援に携わる「爆発救援隊」を結成した。そして，２つの活動を行う場として「爆発ミーティング」を開催した。
キーワード：統合失調症，べてるの家，暴力行為，爆発ミーティング，SST

第５章　集団精神療法訓練の基礎
●集団精神療法訓練の基礎
高橋哲郎
抄　録　集団精神療法にはいくつかの主要な接近法がある。これから集団精神療法のしっかりした訓練を受けようとする人々にとって最も望ましいことは，先ずこれらの接近法のそれぞれの特徴を相違点や共通点をめぐって把握することである。このような全体像を頭に入れた上で，自らが選ぶ特定の接近法の専門的訓練に入るのがよい。その際どの接近法でも，その接近法による自らの治療体験と，理論学習，そして最後に自らがセラピストになってスーパーヴィジョンを受けるいわゆる訓練の３本柱が必要である。
　この章では筆者の専門である力動的集団精神療法の訓練について説明した。この方法は集団成員個人内部，成員同士，集団全体のそれぞれの中に，またこれらの間に意識的，無意識的にさまざまなレベルで，さまざまな形式の，そしてさまざまな内容の力動が起っていることを観察，探索，理解し，同時に構成していく方法である。これについての訓練学習は他の接近法の集団をより深く理解することにも役立つと信ずる。
キーワード：基礎訓練の３本柱，治療体験・理論学習・スーパーヴィジョン，意識・無意識の力動，個人内部・個人同士・集団全体，探索と構成