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■特集 新しい就労支援の取り組み

第1章 総論
●障害者雇用施策の動向とこれからの就労支援
相澤欽一
 精神障害者に適用される障害者雇用施策の動向と,障害者雇用率制度などを規定している「障害者の雇用の促進等に関する法律」を中心とした雇用施策の概要を説明した。また,精神障害者に対する援護制度の拡充に伴い,就職件数は急増しているが,職場定着面に課題があることを指摘したうえで,これからの就労支援では,①企業の合理的配慮を引き出すために支援対象者の個別性を明確にすること,②Decent Work(働きがいのある人間らしい仕事)を視野に入れて企業へアプローチすること,③就労支援機関と医療機関の連携強化,が重要になることを述べた。
キーワード 精神障害者,障害者雇用,就労支援,雇用義務,合理的配慮

●障害者総合支援法による就労支援
近藤友克
 平成18年4月「障害者自立支援法」が施行され,障害者福祉も「措置」から「契約」へと大きく転換し,地域で活動してきた共同作業所は,自立支援事業所となった。そして,これまで障害福祉の実施主体は,社会福祉法人やNPO法人が中心であったが,株式会社や医療法人も要件を満たせば実施できることとなった。この規制緩和により,2010年頃より急速に株式会社等が,就労支援事業,特に就労移行支援事業と就労継続支援A型事業に参入してきた。そして,「障害者自立支援法」は一部改正され,平成25年4月に「障害者総合支援法」が施行されたが,基本的な障害福祉サービスの在り方は変わっていない。「障害者総合支援法」における就労支援の仕組みと,経営的な実情,そして抱えている課題について論じてみたい。
キーワード 障害者総合支援法,就労支援系事業所,自立支援給付,経営実態,処遇改善

●雇用され,働き続けるための就労支援のあり方
倉知延章
 精神障害者の就職件数は障害種別ではトップであるが,就労継続では一番低くなっており,就労継続に課題がある。また,精神障害の概念が多様化しており,精神疾患にとどまらず,発達障害,高次脳機能障害,認知症にまで広がっている。共通する障害としては認知機能障害と自信・自尊感情の低下があり,精神障害者が働き続けるためには,この点についての支援が重要となる。自信と自尊感情の回復には,支援者が対等な関係で精神障害者本人と協働で進め,ストレングスに焦点を当てることが必要である。認知機能障害には,実際の職場での支援,構造化された職場環境づくりが必要である。
キーワード 就労継続支援,精神障害者,就労継続困難要因,認知機能障害

●就労支援機関の解説
相澤欽一
 障害者の就労支援を行う機関として,障害者の雇用の促進等に関する法律(以下,雇用促進法)に規定されているハローワーク,障害者職業センター,障害者就業・生活支援センター,障害者総合支援法に規定されている就労移行支援事業所,就労継続支援事業所,職業能力開発促進法に規定されている障害者職業能力開発校などの概要について解説した。
キーワード 就労支援機関,ハローワーク,障害者職業センター,障害者就業・生活支援センター,就労系サービス事業所

第2章 就労支援におけるプログラムの紹介・考察
●川崎市における公民連携での就労支援
楜澤直美
 精神障害者の雇用はこの数年で大幅に増加している。その一方で懸念されるのは,他障害に比べての離職率の高さである。川崎市では平成26年4月に障害者雇用・就労推進課を立ち上げ,「障害者雇用・就労に最も積極的に取り組む都市」を目指して様々な取り組みを行ってきた。中でも川崎就労定着プログラム(通称K-STEP)は,当事者の自己チェックによるセルフケアシートを用いた取り組みであり,市内の就労移行支援事業所と公民共創で事業を展開している。この背景には,市の限りある財源をどう配分するのか,就職しても離職に至ってしまうことへの企業側の不信感をいかに軽減するか等の政策課題があった。本稿ではこの取り組みに至るまでの経過にも触れ,今後の課題について論じる。
キーワード 就労定着支援,公民共創,セルフケア,政策課題

●IPS(Individual Placement and Support)
西尾雅明
 精神障害者の雇用を義務づける障害者雇用促進法の改正が施行されるなど,精神障害者の職業支援が大きな転機を迎えている今,1980年代に米国で開発された雇用付き援助の方法であるIPS(Individual Placement and Support)が注目を浴びている。IPSは,実社会での一般就労を前提に,精神障害をもつ対象者が就職し,職を維持するために必要な援助を継続的に提供するプログラムであり,精神科治療・精神科リハビリテーション・職業リハビリテーションを統合した枠組み,Place then Train(就労してから訓練)とノーマライゼーション(短時間・短期間就労の是認)を重視した援助理念,ストレングスとリカバリー志向の実践を特徴とする。近年では認知機能リハビリテーションと組み合わせることでの有用性が指摘されており,我が国でも普及が待たれている。
キーワード 精神障害,就労支援,援助付き雇用(SE),IPS,認知機能リハビリテーション(CR)

●定着支援のHow to
天野聖子
 当法人では,授産施設時代のトレーニングから始まり,障害者自立支援法を受けて就労移行支援事業と就業・生活支援センターの連携という当法人の就労支援スタイルを作った。時代の変化を捉え,プログラム内容も大幅に変えながら実績を上げ,当事者の力もついてきた。しかし度重なる雇用促進法の改正を受け,就職者数にこだわる風潮が企業や関係機関の間で起きてきた。それを受けて企業系事業所が進出し,精神障がい者がビジネスの対象になってきた。離職者の増加も目立ってきたが,基本に戻って連携による支援や,長いスパンの関わりこそ必要な時である。すでに介護や自身の高齢化問題が出てきた方たちもいる。障がい者の就労支援は生活支援が関わってくるので,暮らし全体を支えるという視点と長い関わりであるという覚悟が問われている。
キーワード 時代の中で,変化と工夫,就職と離職,当事者の力,この先の問題

●精神科デイケアから就労移行支援へ
窪田彰,松本優子
 地域の精神科診療所での就労支援について検討した。1988年には,精神科診療所でも精神科デイケアが実施可能になり,地域のリハビリテーション活動が発展した。精神科デイケアの通所により,対人関係がスムースになり就労意欲が高まる通所者が増えた。しかし,精神科デイケアでは,施設基準に縛られて施設外の活動に制約があるために,就労支援活動を十分に発揮するのには難しい側面がある。2006年に障害者自立支援法が施行されて,障害福祉サービスが医療法人でも実施しやすくなった。そこで,医療法人内に就労移行支援事業所を立ち上げて,精神科デイケアでも就労意欲のある者に就労移行事業所の利用を勧めた。同一法人内にあるおかげで,職員間の連携がよくスムースな導入が可能となり,就労支援事業としても成果を上げることができている。
キーワード 障害者就労,就労移行支援事業,精神科デイケア,多機能型精神科診療所

●認知機能リハビリテーションは就労支援にどのように役立つのか
佐藤さやか,梅田典子,小野彩香,池淵恵美
 統合失調症をもつ人は疾患をもたない人に比べて,注意や記憶などの認知機能に低下が見られ,これが就労の転帰に影響していると考えられている。本稿では認知機能リハビリテーション(Cognitive Remediation:CR)と援助付き雇用(Supported Employment:SE)の組み合わせによるプログラムであるThinking Skills for Work Program(TSW)の国内外の効果について紹介する。またTSWで用いられるソフト「Cogpack」の国内での後継ソフトと位置づけられる「J-CORES」を用いた就労支援の実際について,統合失調症と発達障害の事例を紹介し,コンピュータソフトを使ったCRを真に就労支援に活かすためにはコンピュータトレーニングによるセッションのみに着目するのではなく,そこから得られる情報を利用者の職業生活や日常生活上の課題にリンクさせて,動機づけを高め,メタ認知の活性化を促すことが重要である点を強調した。
キーワード 認知機能リハビリテーション,就労支援,援助付き雇用,統合失調症,発達障害

●ハローワークにおける精神障害者の雇用促進に向けた取り組み──東京労働局管内ハローワークの状況──
加藤辰明
 経済情勢の回復基調を背景にハローワークを利用する求職者が減少傾向で推移する中,ハローワークに求職登録する障害者は増加しており,特に精神障害者の増加傾向が顕著になっている。さらに,平成30年4月から精神障害者が法定雇用率の算定基礎に加えられ法定雇用率の引き上げが見込まれていることから,大企業を中心に障害者雇用が積極的に進められており,精神障害者本人の就労に対する意欲の高まりと相まって,ハローワーク紹介による精神障害者の就職件数も年々増加している。一方で,就職後の定着に関する課題も多く見受けられることから,就職に向けた支援と併せ,就職後の職場定着支援についても充実・強化が求められており,今後一層,労働・福祉・医療等の関係機関と連携した支援が重要となっている。
キーワード 精神障害者雇用,定着支援,精神障害者雇用トータルサポーター,チーム支援,精神科医療機関との連携

●豊中市社会福祉協議会の就労支援の取り組み
勝部麗子
 生活困窮者自立支援法により,制度の狭間やこれまで就労まで距離の遠かった人への就労支援が始まった。豊中市社会福祉協議会では,コミュニティソーシャルワーカー(CSW)と連携し,ひきこもりや8050問題,リストラなど自らSOSを出さない人に対して,アウトリーチを行い,徹底した本人尊重による自己肯定感の回復,そして,中間的就労の機会を経て本人たちの能力を引き出し,地域の課題を解決していくというオーダーメイドの就労支援を行い始めた。そこには,経済的困窮の改善と,社会的孤立から地域へのつながりを創る2つの視点がポイントである。
キーワード 制度の狭間,アウトリーチ,本人尊重による自己肯定感の回復,びーのびーの(中間的就労),オーダーメイドの就労支援

●精神障がい者の就労を受け入れて
長谷川伸治
 東京グリーンシステムズ株式会社は障がい者雇用を推進する特例子会社である。事業は多岐にわたっており,100名を超える様々な障がい者が,自分の力を発揮できる職域で活躍している。ここでは当社における精神障がい者の雇用管理と,就労継続のために必要な要件を中心に記載した。障がいは個性であり,一人ひとり異なった対応の仕方が必要で,管理者層の仕事の大きな部分を占めている。会社だけでは対応が不十分なところは支援機関・医療機関を始めとした各方面との連携が必須となってくるので,その辺りにも触れながら進めていきたい。
キーワード 特例子会社,雇用管理,障がいは個性,合理的配慮,支援機関との連携

●失敗から学ぶ精神障害者の就労支援
鶴見隆彦,久保田清子
 就労支援の「失敗」経験を軸に,その経験も含め,就労支援上の重要なポイントや臨床上の工夫を述べた。就労支援の基本姿勢として,就労支援は当事者の「生きる」方向性を投影した支援でなくてはならない。具体的には臨床上,就労支援にかかわるスタッフは,組織での日頃のスタッフミーティングの中で,対象者個々への支援の方向性を報告(自己開示)し,スタッフ自身の価値が優先される支援になっていないか他者評価を受け,支援の客観性を担保していることが原則である。就労支援においては,①就労の準備性支援,②マッチング支援,③継続性支援,④離職・転職支援など各段階の支援が必要であり,そのために失敗を防ぐ臨床上の工夫として,就労前の本人向け心理教育,就労支援マッチング時の提供職場と評価技術,就労継続のフォローアップ支援の必要性,離職及び転職時の支援の必要性がある。最後に,失敗事例を紹介し重要な支援上のポイントを提示した。
キーワード 就労支援,基本姿勢,心理教育,アセスメント

第3章 疾患別就労支援方法
●発達障害者の就労支援──自閉症スペクトラム障害(ASD)を中心に──
志賀利一
 発達障害者は,就労支援あるいは障害者雇用の分野で,比較的大きなグループとして注目を集めている。しかし,発達障害者とは多様な存在であり,労働環境の変化,精神科医療の発展,障害者の権利の尊重と関連する法制度の改正等が繰り返されたために,その範囲に混乱が見られる。本稿では,現在の「増加する」発達障害者の現状と要因を整理した上で,就労支援の分野で大多数を占める自閉症スペクトラム障害(ASD)の就労支援の方法論について簡単にまとめる。発達障害者の就労支援は,知的障害者の就労支援の3つの戦略を踏襲することと,職業生活で表面化する障害特性を本人が理解し,その予防策を支援者と共同で考え実行することが重要である。
キーワード 発達障害,ASD,就労支援,障害者雇用

●地域で行う就労支援の取組み──統合失調症を中心に──
根本真理子
 精神障害者の雇用は,着実に進んでいるが,その支援の過程においては様々な課題を感じている。定着支援など,多くの就労支援機関が抱える課題をはじめ,潜在的にいらっしゃる「働きたい」と思う統合失調症をはじめとした精神障害者への就労支援の周知,その方たちの就労支援の一歩が出しやすくなるようなニーズの把握や,そのニーズや障害の特性に配慮した機能の創設などについて障害者就業・生活支援センターが行ってきた支援の取組みについて報告する。支援者の気づきや姿勢によって障害の特性に留まらない隠れたニーズを拾い上げ,実現していける可能性を示唆しつつ,支援者の質,就労を支援する機関が増えた昨今のそれぞれの機関の機能の見直しなど,これからの就労支援についての課題についても触れつつ,個別支援に留まらない機関連携支援を含めた地域での日々の支援の積み重ねの重要性について述べている。
キーワード 支援の連続性,支援ニーズの把握,機能の創設,定着支援,就労支援の周知

●休職者の就労支援──うつなどのリワークデイケアの試み──
渡部芳德
 うつ病等の精神疾患により就業困難となる事例が増え,社会問題化している。精神科医は再燃・再発を繰り返す気分障害患者の社会復帰について治療の困難さが増すことを経験しており,薬物療法のみの治療法には限界を感じている。ひもろぎ心のクリニック(以下,当院)でも復職困難な患者の増加から,リワーク専門のデイケアを開設して以来,試行錯誤しながら現在のプログラムが形作られてきた。プログラムの柱は,1.症状の定量化と診断の確定(双極性障害と大うつ病性障害の鑑別),2.復職に向けての薬剤減量,3.食事療法,4.運動療法・ホルモン補充療法(男性更年期症状),5.認知行動療法の5つである。気分障害の治療には,薬物療法に加え精神科領域以外の協力を得ながら多面的アプローチが必要と考えている。
キーワード リワークデイケア,症状の定量化,多剤併用の改善,食事療法,認知行動療法

●医療観察法対象者への就労支援
野村祥平
 医療観察法が施行されて10年が経過し,対象者への就労支援が大きな課題となっている。医療観察法に対する社会の理解をより深めていく必要がある中で,対象者の就労支援は容易なことではない。しかし,対象者の病状悪化と再他害行為のリスクを適切に評価し,地域関係者と協働して支援することで就労に至ることは可能である。医療観察法の大きな目的は,対象者の再他害行為の防止と社会復帰である。対象者の真の社会復帰を考えた時,希望する対象者にとって適切な就労を目指すことは大きな意義がある。また,このように対象者がその人らしい生活を選択できることが再他害行為の防止につながるのではないかと考える。
キーワード 医療観察法,就労支援,ケア会議,地域処遇,社会復帰調整官


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