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■特集 みんなが元気になれる家族支援 II

第5章 子ども・兄弟姉妹への支援

●精神疾患の親を持つ子どもが抱える困難
夏苅郁子
 精神疾患の親を持つ子どもが抱える困難は,大きく分けて3つある。第一は,今現在の困難である。日々の生活上の困難や,成長に必要な親子間の愛情ある交流が不足するなどの情緒的問題である。第二は,時間差で来る近未来の困難である。多くの子どもたちは寂しさや辛さなど様々な感情を自分の中で収めているが,家庭から外へ出て自分の人生を歩み始めた時から向き合わざるを得なくなる。親から離れ自立しても,誰でも経験する失敗を自身の生い立ちと絡め自分に原因があると考えがちである。第三は,老いた親の介護の問題である。精神疾患の症状に老いによる身体的な問題が重なる。自身の子ども時代の苦労を思うと,世間一般でいう「親孝行」を納得して続けるには葛藤はあまりにも大きい。子どもの抱える困難を経時的に捉え,長期的に支援を考えるべきである。
キーワード 統合失調症,当事者の結婚,当事者の子育て

●「親&子どものサポートを考える会」の取り組み
土田幸子
 「親&子どものサポートを考える会」は,“精神に障害のある親と暮らす子ども”の話に耳を傾け,必要とする支援は何かと考え,それを行う会である。多くの子どもは親の障害について説明を受けておらず,障害のことに触れようとしない家庭の雰囲気から,“言ってはいけないこと”と認識し,誰にも相談せずひとりで抱え込んできた。障害を持つ親との生活で感じる体験は,「自分だけなんじゃないか」と感じ,「同じ境遇の仲間の話を聞いてみたい」というニーズを持っていた。こうしたニーズを受けて始めたのが,語りの場の提供である。自ら支援を求めにくい“子ども”が支援を求めやすい環境になるようにと考え,支援者研修も実施してきた。子ども支援の取り組みを紹介し,研究結果等からわかってきた今後の課題についても提案したい。
キーワード 語りの場,障害の説明,同じ境遇の仲間,支援者研修,支援者間のネットワーク

●子どもに何をどのように説明するか?
長沼葉月
 子どもに対して家族の精神障害のことを説明するとき,どのような配慮が必要なのだろうか。本稿では筆者自身の体験から,単に病気の名前や症状について説明されても十分でないというのはどのようなことなのか例示した。その後,子どもに説明する際に必要な配慮点について,「子ども自身の発達や,家族関係の発達を考慮すること」「子どもの感情(身体化されたトラウマ記憶も含む)を丁寧に取り扱うこと」「子ども自身の日常生活場面で使える知識や情報を提供すること」の三側面から論じる。最後に,これらを踏まえた「説明」をしていくためには,教育や情報提供ではなく,「話し合い」の姿勢が求められることについても触れる。
キーワード ダイアローグ,心理教育

●児童相談所における家族再統合に向けた親子合同グループの実践
伊東ゆたか
 重篤な虐待を受けた子どもとその親の回復に向けて,東京都児童相談センターで実施している「親子合同グループ」について報告した。ここでは関係機関の連携を基礎に,スタッフの専門性,グループの力も活用しながら,親子が無力感,孤立感から開放され,その強みを生かしていけるように支援している。参加家族の課題は多様で,回復と成長には長い時間がかかるため,支援者は情報共有の中で柔軟に対応方法を検討し,大きな治療の枠組みのどこを担っているかを知りつつ実践することの重要性を強調した。
キーワード 児童相談所,児童虐待,親子関係再構築,ペアレントトレーニング,CARE(Child-Adult Relationship Enhancement)

●子どもが安心して暮らせる地域をめざして
伊藤恵里子
 精神障がいを抱える“めぐみさん”の妊娠,出産から現在までの子育ての歩みを縦軸とし,彼女が参加している「あじさいクラブ」(子育てミーティング)と「応援ミーティング」(関係機関横断型の支援体制)の関わりを横軸として,子育て支援のあり方を考える。当事者研究からスタートする支援,当事者の日常に寄り添い,彼らを社会的孤立に追い込まないための支援,現行制度の枠にとらわれないオーダーメイド支援とは何かを,その実践から模索する。また,めぐみさんの子どもの将来を展望しながら,世代を越えた継続的な支援の重要性についても考察する。
キーワード 子育て支援,社会的孤立,つながり,日常的継続的支援,オーダーメイド支援

●大切な人を亡くした子どもへの支援
石田智美
 親や大切な家族を亡くした子どもを支援する際には,子どもの発達段階,家庭背景,これまでの死別経験,子どもの個性を理解したうえで,一人一人に合わせた支援を心がけることが大切である。子どもが「死」をどう捉えているかについては,発達段階により異なる「死」への理解や反応があると知ることが必要不可欠である。支援者は,子どもが安心して感情表出することができるよう環境を整え,必要に応じて学校や地域へ繋ぐことで家族全体を支える必要がある。自死など社会的に特別と見做される死因で親を亡くした子どもは特に家族や社会から孤立している場合があり,支援が必要である。子どもが大きな喪失経験のなかにあっても,自分の人生を肯定しながら主体的に生きていくために,我々ができる支援について論じる。
キーワード 子ども,グリーフ,死,喪失体験,遺児支援

●親亡き後の子どもたち
白石弘巳
 精神障害をもつ親に養育され成人した子どもの親亡き後について論じた。一般に人間は親の死の衝撃から立ち直る力を有している。親の死後,心的外傷後の成長(posttraumatic growth)を達成したと考えられる事例を紹介した。しかし,うつ病で自死した親をもつ子どもの回復には,外部の支援が必要となることが少なくない。また、長期間精神障害をもつ親と過ごした子どもの中には,親の死後も,それ以前に生じた心の傷を抱えたまま社会参加できずにいる事例が存在する。こうしたことから精神障害をもつ親の死に対する喪の作業ばかりでなく,親が亡くなる以前に,特に未成年の時期から適切な支援を行うことの重要性を指摘した。
キーワード 精神障害,親亡き後,悲嘆,心的外傷後の成長,宇多田ヒカル

●65歳の再発入院を乗り越えて
渡辺悦雄
 精神疾患の当事者をもつ兄弟姉妹は,発病や再発時に巻き込まれる度合いが大きければ大きいほど様々な困難に遭遇する。若い時には進路選択や結婚を前にして悩み,大人になればなるほど当事者への対応に悩み,親亡き後への不安を抱く。ここでは,当事者の症状がいかに兄弟姉妹の人生に多大な影響を与えているのかを述べたい。
キーワード きょうだい会,親亡き後,再発,急性期,減薬

●兄弟姉妹が直面する困難──子ども時代の経験から──
ばばーや
 私は2歳上の統合失調症の兄を持つ。兄が発病した10代半ばからの生活について振り返ってみた。「困難」とは何を指すのか難しい。具体的なことというより家族皆の生活が全般的に困難になったのである。子どものころの経験が私の人生や性格形成にどういう影響を与えたか,私自身にはわからない。振り返ってみて,精神疾患の知識を早いうちから学ぶ機会が重要だと思うようになった。親も当事者も兄弟姉妹も,もっと知識があったら違う道を辿れたのではないか,と強く思う。東京兄弟姉妹の会において,医療従事者への感想として“人による”という言葉がよく出てくる。同じ物事に対して「親身になってくれる熱心で“当たり”の人」に対応してもらえると成果が違うというのである。家族は疲弊し,視野が狭くなっている。外部の専門家の介入が必要不可欠である。
キーワード 環境,無知,暴力,家を出る,100人100様

●兄弟姉妹の人生への支援とリカバリー
神谷かほる
 2人きょうだいが主流の現代において,統合失調症が当事者のきょうだいに与える影響は人生最長かつ最大である。きょうだいが統合失調症に伴う困難と立ち向かうため,東京兄弟姉妹の会(以下,きょうだい会)での語り合いと会報執筆によるナラティブ・セラピーが有効である。きょうだい支援は,きょうだい自身の人生はもちろんのこと,本人の生活及び将来設計を方向付ける鍵を握っている。真の意味できょうだいがリカバリーに辿り着くためには,精神医療保健福祉制度の抜本的な改革ときょうだい支援が欠かせない。
キーワード きょうだい支援,ナラティブ・セラピー,物語の書き換え,精神医療保健福祉制度の抜本的改革

第6章 配偶者への支援

●配偶者の介護うつ──夫の介護をするAさんから学んだこと──
志賀美穂子
 介護が必要な高齢者が増加している時代背景の中,配偶者が介護者となっているケースが多く,長年の介護に疲れ,うつになる場合もある。夫の介護により介護うつになったAさんの事例を通して,情報を集めることや相談することなどの重要性について述べる。
キーワード うつ病,介護うつ,情報を集める,相談する

●精神障がい者の結婚生活を支えるための配偶者支援
蔭山正子
 精神障がいがあっても結婚して親になる,それは人として当たり前の希望であり,誰も阻害することはできない。その当たり前の希望を叶えるために最も重要であるにもかかわらず,これまで注目されてこなかったのが配偶者支援である。配偶者は,精神障がいのある本人と生計を共にして自立した家庭生活を築く。そのため,本人が病状悪化すれば生活基盤そのものが揺らぐ。障がい受容に戸惑う間もなく,経済的困窮,子の進路など差し迫った問題が押し寄せる。その過酷な日常生活の継続は,血縁関係のない配偶者に離婚という選択肢を与える。困難に直面している配偶者に,スピーディーに実質的な支援を入れることが,本人の結婚生活を維持させるために重要である。本稿では,筆者が研究や支援活動を通して把握した,配偶者が直面している困難を紹介し,必要な支援策を述べる。
キーワード 精神障がい,配偶者,結婚,育児支援

●当事者とともに育児にあたる配偶者や両親への支援
松長麻美,山岸由紀子,北村俊則
 統合失調症などの重症精神疾患を有する女性が出産し,子育てを行う場合には,しばしばともに育児にあたる配偶者や両親への支援が必要となる。具体的には,当事者だけでなく子の福祉や利益を念頭に置き,当事者とその配偶者,両親が協同して子の養育を十分かつ円滑に行えるよう,各人への育児技術の指導やペアレントトレーニングを行うほか,心理的サポートや保育サービス利用などの実質的サポートによる負担軽減といったものが考えられる。重症精神障害を持つ女性にとって,出産や育児を経験し,親役割を担うことはパーソナルリカバリーに資するものでもあり,育児にともにかかわる配偶者や両親への支援は対象の家族自身にとって有益なだけでなく,子の健全な発達や当事者本人のリカバリーにもつながるものである。
キーワード 育児支援,家族支援,リカバリー,周産期メンタルヘルス

第7章 支援が難しい家庭の家族支援

●「家族を支える」ということ
加藤雅江
 地域の中で最も小さな単位である「家族」の姿は,支援する側には時として表面的・部分的にしか見ることができず,課題をアセスメントしようと試みることがとても難しい。これまで家族の中の課題は外で語られることは避けられ,家族の中で解決するべきことと捉えられてきた。課題を感じながらも支援すら求めていない家族に対し,支援者として「家族を支える」ために私たちは何をすべきか,と考える。豊かな想像力・創造力と知識,何が課題で,自分が何をすべきかというアセスメント能力,そして支援を継続していく覚悟が必要になる。これまでの活動から,今なぜ子どもたちが生きづらさを味わっているのか,その背景を考え,私たちがすべき支援の方法を検討する。そして,この課題に対して私たちが目を背けることで何が起こり得るのかを検証する。
キーワード 養育支援,子どもの貧困,地域共生,子ども虐待,ソーシャルワーク

●生育期不遇体験と親への怒り──厳しい家庭環境に育った人々の精神療法の一側面──
三宅浩司,林 直樹
 精神科臨床では,患者が親への怒りを表出し,それが生育期不遇体験と結びつけられることがしばしばある。そのような怒りは,適切に表現されないと精神状態の悪化や回復過程の停滞を引き起こす可能性がある。本稿で筆者は,親への怒りを面接の中で表出した3症例を提示し,その怒りへの治療的対応についての検討を行った。そこでは,怒りを治療者が意味あるものとして受容し,それを心理的に整理すること,および実際の対人関係においてそれを適切に表現することが治療的展開をもたらしていることが確認された。この検討からは,怒りが他の否定的感情を惹起して臨床的問題を悪化させることがある反面,自己肯定や自己意識の強化にもつながる性質を持つことがあり,それを表出することは,治療的展開を導く契機になりうると結論される。
キーワード 親への怒り,養育期不遇体験,精神療法,症例報告

●支える家族がいない当事者への支援の工夫
向谷地宣明
 「支える家族がいない当事者への支援の工夫」は,いかに当事者が他者と相互に「連帯」できるかが重要である。そうした「出会い」や「関係」を支援していくことの重要性を述べた。孤立はあらゆる要素において最大のリスクであり,地域のなかで「血縁」に代わる新しい縁を構想していく試みが各地で起こってくることを期待している。
キーワード 連帯,新しい縁,依存と自立,伴走型支援,ともに「生活者」になる


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