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●脳磁場の発生と計測
栗 城 眞 也 
神経細胞群の興奮性シナプス活動にともなう細胞内電流の和が脳磁場信号を発生し,それをSQUIDで無侵襲的に計測したものが脳磁図である。脳磁図は主に脳溝内の神経活動を反映し,その範囲が数cm2以下の局在した大脳皮質の活動を代表する。等価的な電流双極子の信号源解析により,感覚反応から高次機能までの脳内神経基盤を推定することができる。
key words :MEG, SQUID, current dipole, neuroimaging

●三次元ベクトル脳磁計と新しい脳磁図解析法
吉 田 佳 一 
脳磁図は脳神経活動に起因する微弱な脳磁場を測定し,これから脳神経活動源を特定できる,脳機能診断や脳機能研究に活用され始めている。しかし,従来の装置では,脳活動源を特定するためには,脳活動を微小な電流(電流ダイポール)と仮定し,かつ活動の個数があらかじめ知られている必要があった。したがって,誘発脳磁場のように比較的単純な脳活動の診断・研究には威力を発揮するが,複雑な様相を呈する神経活動を対象とする,てんかん診断や高度脳機能研究には限界があった。そこで,このような制約を除きかつ複雑な脳活動を特定できる脳磁計を開発した。脳磁場を同一場所で三次元測定することにより,高密度測定が可能になった。また,複数のかつ広がりのある神経活動の様子を特定できる新しい脳磁図解析法を開発した。シミュレーションやてんかんの脳磁場により,期待する機能を有することを示した。
key words :MEG, SQUID, inverse problem

●脳磁場信号の非平均加算分析による高次脳機能の探求
Andreas A. Ioannides 
翻 訳:内 田  直,柴 田 忠 彦,中 林 哲 夫,渡辺なな子 
最近の脳磁図(MEG)の解析法について概説した。特にMFT(magnetic field tomography)について述べたが,これはMEG信号から脳活動を三次元的に描出する分析法である。この方法による単一試行および非加算連続データの詳細な分析結果 を提示し,リアルタイム脳ダイナミクスの理解について強調した。最初に単純音による聴覚誘発MEGについて,単一試行の誘発電位 および背景活動について,次に表情認知の例とビテオ映像による刺激の例を示し,より複雑な認知実験について述べた。最後に脳機能の切り出しや統合,PET/fMRIデータとの結合そして応用分野の可能性についても述べた。
key words :MEG, MFT, averaging, single trial analysis, higher cognitive function

●脳磁図の周波数解析による高次脳機能解析
橋 本  勲 
最近4,5年の間,脳磁図の周波数解析による脳機能研究が急速に進展している。従来から知られているα波,β波の他にγ波の発生部位 が解明され,そのふるまいと脳機能の関係が調べられている。脳波律動はBerger rhythmの発見以来,70年以上にわたり研究されてきたが,つい最近まで現象論のレベルに止まっていたことは否定できない。Pfurtschellerらは脳波を用いて古くから周波数解析を手がけてきた。これに対してHariのグループは脳磁図を武器としてより高精度に脳律動の神経メカニズムに迫ろうとしている。驚くべきことに,脳律動には300-900Hzの高周波が存在し,その発生機構について現在活発な研究が進行中である。最近のヒト頭蓋内記録によると側頭葉内側から30-150Hzの律動が観測されている。本稿では,主に脳磁図の周波数解析による脳機能研究の現状を紹介する。
key words :magnetoencephalography (MEG), electroencephalography (EEG), frequency analysis, spatiotemporal brain mapping

●脳磁図とPETを併用した高次脳機能解析
中 村 昭 範,加 藤 隆 司,山 田 孝 子,堀部賢太郎,斉 藤 敦 子,加 知 輝 彦,伊 藤 健 吾
MEGとPETによる高次脳機能解析について,H 2 15 Oを用いたPET賦活検査との併用を中心に概説した。MEGとPET賦活検査が観察できる脳活動は必ずしも同じではないが,これを理解した上で併用すれば有力な高次脳機能解析手段となる。実際の併用例では,MEGの電源推定部位 とPETの有意賦活部位は概ねよく一致するが,MEG単独では信頼性に疑問が持たれるような脳の深部に推定された電源でも,PETデータがそれをサポートしたり,逆にPETデータの統計分析時に,閾値の設定によっては棄却されてしまう賦活部位 でも,MEGのデータによって保護される場合がある。またPETはMEGでは捉えることが困難な刺激に対してtime lockしない活動や,頭蓋外から磁場を捉えられない活動も捉えることができる。PETの賦活部位 の位置情報は多双極子モデルを用いたMEGの電源解析に役立ち,無数に存在しうる解を絞り込むことができる。これらのデータにより,時間的情報のないPETの各賦活部位 に時間情報を付加し,高次脳機能活動の情報処理の流れを時・空間的にダイナミックに捉えることができる。
key words :PET, activation, MEG, higher brain function

●脳磁図とfMRIを併用した高次脳機能の解析
藤 巻 則 夫 
脳磁図(MEG)計測とfMRI計測により,カナ文字・疑似文字・文字列の形態・音韻・意味処理を段階的に変えた課題を実験し,脳活動部位 と潜時を計測した。形態処理については刺激呈示後80〜220msに後頭―側頭下部の活動が,また音韻処理については190ms以降に左上側頭溝,縁上回,ブローカ野ないし島の活動が現われた。これらの部位 の活動は英文字・英単語を使用した他の報告にも含まれている。なお形態処理については,カナ文字と疑似文字とでは脳活動に差がなく,単一の文字では両半球の活動,文字列については左半球優位 の活動が現れた。意味処理は今回の課題では分離できなかったが,上側頭溝などの音韻処理と共通 の部位に活動を生じた可能性がある。
key words :katakana, pseudo-character, orthography, phonology, lexico-semantics

●脳磁図による文字認知機構の解明
今 田 俊 明 
脳内の文字認知機構は,心理学,心理生理学,神経心理学,脳機能イメージング等のアプローチから調べられている。神経心理学では,漢字,平仮名で処理部位 に差がある・ないという相反する報告がある。漢字,平仮名,カタカナを処理しているときの脳磁界反応からその活動部位 を推定したいくつかの論文に共通な見解は,平仮名認知に関連する活動部位は,左右上側頭部,左右腹側・背側視覚経路,カタカナ認知は,左上側頭部,左右腹側視覚経路,漢字認知は,左右上側頭部,左右腹側・背側視覚経路,左縁上回である。したがって,平仮名,カタカナ,漢字に顕著な差異はなく,共に左上側頭部,左右腹側・背側視覚経路の活動が重要である。また,左右半球差も明確ではない。これは,神経心理学的な研究結果 (文字認知障害は左半球損傷で起きることが多い)と一致していないが,上記論文のほとんどが,単に文字を読むだけという課題より複雑な課題を与えているからであろう。
key words :character recognition, event-related magnetic field, evoked field, kanji, kana

●脳磁図によるヒトの形態視知覚機構の解明
大 草 知 裕,柿 木 隆 介 
ヒトや霊長類の物体や形態の視知覚には視覚連合野の腹側経路が重要と考えられている。今回われわれは,ヒトの形態視知覚に関する視覚連合野皮質の活動を脳磁図(MEG)を用いて記録解析した。通 常視覚刺激の呈示に対して誘発される第一次視覚野起源の反応を,輝度変化の起こらないような刺激を用いて抑制し,単一双極子による推定で視覚連合野(紡錘状回付近)に活動源を推定した。またMEG記録と同時に被験者の刺激識別 成績を測定し,誘発磁場の特性と比較した。
 その結果,紡錘状回付近を起源とする誘発磁場の強度と被験者の識別成績とが高い相関関係を示すことが明らかになり,同部位 が形態視知覚において重要な役割を果たしていることが示された。
key words :MEG, extrastriate cortex, ventral stream, shape perception, visual stimulus

●脳磁図による精神活動の評価
― 内因性成分の解析 ―
太 田 克 也 
反応時間を用いた心理学的実験では,脳はブラックボックスとして扱われ,情報処理が脳のどの部位 でいつ行われるのかは想像の域を超えなかった。事象関連電位は,刺激と反応の間を橋渡しする研究手段として利用され,認知・情報処理について多くの知見を与えてきた。脳磁図は,脳波と同じ時間解像度を有しながら,空間解像度に優れるので,脳の局在についてより正確に知ることができる。本稿は,P300m,運動関連磁場,N400mなどの内因性成分の研究について概観する。ただし,これらは低次処理過程とは異なって,1.いくつかの処理過程が平行に進む,あるいは活動範囲が広い,2.同一被験者においてもたとえば覚醒レベルの違いによる反応潜時のバラツキが見られる,3.個体差もかなりある,などの特徴があり,異なる報告も少なくない。今後は,複数の発生源や広がりをもった脳活動の推定,およびfMRIやPETを組み合わせた研究が重要になってくると思われる。
key words :MEG, ERP, endogenous, P300, N400