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■特集 難治性てんかんの治療
●難治性てんかんの治療
八 木 和 一
難治性てんかんは現在使用しうる抗てんかん薬に抵抗するてんかんと定義し,難治性てんかんの頻度,てんかん類型,発作型,治療を困難にする要因などを分析した上で,難治性てんかんの治療について述べた。不十分な発作抑制に関係する要因について検討した結果,まず診断の再評価を行うべきであること,つまり,てんかん発作型の確認,これにはてんかん発作か否かの再診断も含まれ,その上でてんかん類型診断を確定する。次にこの再確認された発作型に対する治療内容の再評価(薬剤選択,投与量,ノンコンプライアンス)を行うことが重要である。またてんかん原性病巣の精査を行い,CTのみならずMRI,SPECT,PETなどの画像診断も積極的に行う。もし,てんかん原性病巣が明らかにできて,てんかん外科治療の適応があれば,患者・家族へ説明し,同意の上で積極的に行う。
key words: intractable epilepsy, factors making epilepsy intractable, treatment
●難治性てんかんの外科治療
星 田 徹,榊 寿 右
難治性てんかんの外科治療に必要な術前と術中検査法について述べる。てんかん焦点同定に最も有用なのは脳波ビデオモニタリングである。てんかん診断の鑑別から始まり,発作時脳波と発作症状を評価し,特に側方性を示す発作症状に注目している。間欠時棘波の出現頻度も増加して,棘波を用いた双極子追跡法による焦点推定も可能である。MRIからの扁桃体海馬体積測定は,側頭葉てんかんの診断に有用であり,SPECT検査はMRIで異常を呈しない場合にも低潅流域を示すことがある。ワダテストによる言語優位半球評価に代わり機能的MRIが今後さらに発展し,術前の脳機能評価が可能になる。神経心理学検査は,術前後の評価により手術時期決定にも寄与すると考えている。術中に皮質脳波で焦点決定を行うが,術前の諸検査で結果が合致しなければ,慢性頭蓋内電極留置による焦点同定も必要である。さらに皮質電気刺激を用いて正確に機能部位を同定し,合併症を最小限にして,最大限の焦点切除を行う。
key words: intractable epilepsy, preoperative examination, intraoperative examination, epilepsy surgery, EEG-video monitoring
●難治性てんかんの外科的適応
鈴木 秀典
外科的治療は,難治性てんかんに対する包括医療において強力なツールとしてなくてはならない存在であり,てんかん診療に携わる医療者にはその適応と効果に関する正確な知識が要求される。特発性てんかん症候群や神経変性疾患・代謝異常を除いて,適切な薬剤治療に抵抗し生活上支障の大きい発作が持続する場合には外科的治療を考慮すべきである。小児患者では,持続する発作が精神運動発達を阻害するので特に早期から外科的治療が念頭に置かれなければならない。外科的治療を行う専門施設では,病巣切除術,皮質焦点切除術,軟膜下皮質多切術,脳梁離断術,半球離断術などの手術技法を単独で,または組み合わせて施行することにより,最低限許容しうる合併症の下に,発作による支障を減少せしめ得るかどうかで最終的な適応判断を行う。
key words: epilepsy, epilepsy surgery, surgical indication, surgical treatment
●難治性てんかんの薬物療法
岩佐博人,兼 子 直
難治性てんかんの薬物療法について概説した。治療開始後1年程度の経過で難治性であるかどうかの判断が可能な場合が多いが,その際には真の難治性なのかどうかを多面的に再検討することが重要である。発作型や薬剤選択の妥当性の検討に加え,偽発作などの非てんかん性発作の有無などについても注意が必要である。治療にあたっては可能な限り単剤を用いることが望ましいが,多剤併用が有効なこともある。薬物の有効性は副作用が発現しない範囲で充分な用量を一定期間用いたうえで判断し,多剤併用の場合は作用機序の異なる薬剤を用いるようにして薬剤間の相互作用に注意する。薬物療法で充分な効果が得られない場合は限界設定も明確にし,外科療法などの適応についても考慮することが望ましいが,心理社会的側面からのアプローチを含めて,個々の患者の実情に即した包括的かつ具体的な治療指針をたてることが重要である。
key words: antiepileptic drugs, drug-resistance, epileptic seizure, intractable epilepsy, pharmacotherapy
●難治性てんかんの外科病理
新 井 信 隆
難治性てんかんの外科治療に伴って,てんかん焦点の病理学的変化の詳細が明らかになっている。海馬硬化に代表される側頭葉てんかんの病理像は古くより明らかになっているが,一方で,海馬歯状回における微細な形成異常の存在,側頭葉外側における様々な病理所見の存在,海馬硬化と連関しない扁桃核硬化の意義,また,海馬硬化と側頭葉外の病変の共存(dual pathology)の存在など,側頭葉てんかんの病態の考察や画像診断に際して考慮すべき新知見が明らかになりつつある。また,粗大な形成異常に加えて,近年では微小形成不全と総称される軽微な形成異常がてんかん焦点部位で観察されて,その診断基準,てんかん原性との関連が今後の注目となっている。また,てんかん焦点部位の多岐に渡る器質的な変化とてんかん原性(易興奮性/脱抑制性)との関係をひとつひとつ検証し,知見を集積することが重要となろう。
key words: intractable epilepsy, surgical pathology, hippocampal sclerosis, microdysgenesis
●大脳皮質焦点の病態と外科治療
大 槻 泰 介
大脳皮質てんかんは,側頭葉てんかんに比べ,てんかん原性領域の広がりが多彩で,切除部位によっては運動,感覚,言語などの機能障害の恐れもあるなどの理由から,これまで手術の対象とはなりにくい傾向があった。しかし神経画像などの新しい方法論が導入され大脳皮質てんかんの外科戦略は大きな変貌をとげ,手術適応の拡大とともに手術成績も飛躍的に向上している。大脳皮質てんかんの外科治療においては,発作時ビデオ記録による発作症状の解析,発作間歇期および発作時脳波,頭蓋内脳波,MEGなどの神経生理学的検査,MRI,PET,発作時SPECTなどの神経機能画像検査を駆使しててんかん原性領域の局在を推定するとともに,神経機能画像や皮質電気刺激により詳細な脳機能マッピングを行うことで,術後の機能障害の発生を防ぐことが重要である。
key words: epilepsy surgery, extratemporal epilepsy, functional brain mapping, neuroDimaging
●大脳皮質焦点の外科―MST (multiple subpial transection)と脳梁離断術―
清 水 弘 之
てんかん外科は切除手術と遮断手術にその手技が二分されるが,本稿では遮断手術に属するMST(multiple subpial transection)と脳梁離断術について述べた。MSTは運動野,言語野などのcritical areaに存在するてんかん焦点に対して,大脳機能を損なうことなく手術的治療を可能にした画期的手段で,てんかん外科の可能性を大いに拡大した。また,前頭葉などに播種性に分布する広範囲てんかん焦点に対してもMSTは有力な治療法となり得る。脳梁離断術は左右大脳半球の突発性てんかん波の広範囲,瞬間的同期化を防止する手段で,外傷が絶えない転倒発作に対して劇的な効果を発揮する。また,全身けいれんの程度や持続時間を軽減する効果もある。全離断が部分離断よりも有意に効果的である。小児では安全に全離断が可能で,発作の軽減のみならず多動性の改善,集中力の増大などの副次的効果も大きい。成人では,離断症候の予防のために二期的手術が望ましい。
key words: epilepsy surgery, multiple subpial transection, corpus callosotomy
●側頭葉てんかんの病態と外科的治療
森岡隆人,西尾俊嗣,久 田 圭,福井公子,河村忠雄
側頭葉てんかん(temporal lobe epilepsy ; TLE)は国際分類(1989)では海馬・扁桃核などの側頭葉内側部にてんかん原性域をもつmedial temporal typeすなわち内側側頭葉てんかん(medial TLE ; MTLE)と,側頭葉の外側皮質にてんかん原性域をもつlateral temporal typeすなわち外側側頭葉てんかん(lateral TLE ; LTLE)とに二分される。我々は1994年9月から2001年6月までの間に42例のTLE患者に対して手術を行ったが,MTLEが25例,LTLEが7例であった。残りの10例は海馬硬化と側頭葉内側部以外の器質的病変をもつ,いわゆるdual pathologyの症例であった。本稿ではMTLE,LTLE,dual pathologyのそれぞれの病態とその外科的治療について我々の経験を中心に述べた。いずれの病態においても,発作の発生や伝播には海馬が重要な役割を果たし,その組織学的な病態は海馬硬化であり,外科的治療は海馬切除が主となる。しかし,病変自体は側頭葉全体に及んでおり,TLEは海馬硬化を中心とした広いspectrumをもつ病態である。
key words: temporal lobe epilepsy, hippocampal sclerosis, hippocampectomy
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