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■特集 児童・青年期の精神障害治療ガイドライン(新訂版)
第 I 部総論
●今日の診断分類とその概念の変化
神尾陽子
 児童青年精神医療において,診断は治療と切り離すことのできないダイナミックな行である。児童・青年期は多くの精神障害が初発する時期であるため,この時期の診断とそれに続く治療が,直接,間接に後のライフステージに及ぼす影響は大きい。児童・青年期精神障害の診断分類の要件である,成人期への連続性や発達的変化を踏まえた乳幼児期,児童・青年期の各発達段階に特有な診断カテゴリー,環境要因や適応状態も含めた多面的な評価,閾下の症状の連続的評価や他の障害の合併などの観点から,現行の診断体系の問題点と今後の課題を検討した。将来の生物・心理・行動モデルによる科学的な児童・青年期精神障害の診断体系に向けて,わが国の文化的背景を考慮した,信頼性と妥当性の検証された評価尺度を用いて疫学データを蓄積すること,そして長期追跡による症状や適応の縦断的変化についてのデータを蓄積すること,などが求められる。適切な診断分類は,精神保健サービスの整備を促進し,精神健康の予防にも貢献することであろう。
Key words:child and adolescent psychiatry, diagnostic classification, developmental change,childhood

●児童・青年期臨床における診断の進め方
山崎晃資
 2008年4月,診療科名としての「児童精神科」の標榜が正式に認められた。児童・青年期の精神障害に対する臨床的な取り組みがますます重要となってきた。しかし,大学医学部における「児童青年精神医学」の講義時間数は依然として少なく,臨床研修の場も限られている。本論文では,児童・青年期臨床における精神医学的診断の要点を,臨床の流れに即して整理した。とくに児童青年精神医学における「診断」の意味と系列,さらにあまりに安易に考えられすぎているアスペルガー症候群にについて述べた。
Key words:diagnostic formulation, diagnostic classification, diagnostic manual, developmentalcheck points in early infancy, diagnostic process

●生物学的検査
岡田俊
 児童青年期の精神疾患を多面的に捉える上で,生物学的検査は必要に応じて実施すべき検査項目と見なされてきたが,臨床上のメリットと児童,青年への侵襲というデメリットとのバランスをどうポジティブに保つかという議論が繰り返されてきた。近年の新たな工学的手法の進歩に伴って,低侵襲でリアルタイム,あるいは,脳構造だけでなく,脳組織の質的変化,脳代謝などの機能的側面を評価できる手法が実用されている。これらの多くは,まだ研究レベルであって,臨床への応用はこれからの課題であるが,臨床医がエビデンスを読み解く上でも生物学的検査への理解が求められる時代になった。本論文では,これらの生物学的検査について網羅し,その原理と手法,特記すべきリスクとベネフィットについて述べた。
Key words:biological testing, genetic examination, structural neuroimaging, functional neuroimaging, psychophysiological testing

●心理検査
中田洋二郎
 心理検査は問題を発見する働きと個人の適応の可能性を測る働きの相異なる2つの面をもっている。児童・青年期に心理検査を実施する際にもこの二面性を十分に理解することが必要であり,そのことによって初めて,心理検査は精神疾患や発達障害を診断し,介入方法を計画し,また治療効果と予後を予測する情報提供の道具となる。しかし,この時期の心的事象の発達的流動性を考慮しなければその結果を正確に役立てることはできない。また心理検査を子どもに施行する際には成人と異なる配慮が必要である。それらのことを踏まえて臨床実践においてどのように心理検査を用いるべきかを検討した。またわが国で標準化されている発達検査・心理検査・認知検査,また子どもの投影法検査,特定の疾患や障害に特化された質問紙法について紹介しその概要を説明した。
Key words:psychological tests, child and adolescent, clinical assessment, norm-referenced test,projective test

●早期介入システム
本田秀夫
 精神疾患にたいする早期介入では,コミュニティ・システムの構築が求められる。本稿では早期介入の考え方を示すとともに,早期介入のシステムが効果的に作動するための装置としてサブシステム同士をつなぐインターフェイスを置くことの重要性を指摘した。すでに国内で実行されている発達障害の早期介入システムの例として,早期発見から早期療育の導入までを高い精度で保証するDISCOVERY モデルについて解説した。また,発達障害の支援ニーズの多様化に対応して開発された多軸モデルによる早期療育プログラム群の考え方を示した。
Key words:developmental disorders, community system, early intervention, interface, multiaxial,approach

●児童青年期の外来治療
竹内直樹
 児童青年期の外来治療の臨床的な留意事項を記した。子どもの外来治療は,年齢特性や医療ニーズでその対応が異なる。成人とは原則的に同じであるが,年齢や発達によって症状には特徴が認められるので,異なる視点が必要になる。親との信頼関係を築くことが治療では優先される。精神療法や家族支援が必須である。他の社会資源や相談機関との重複や連携が求められる。初診は外来治療の上で特に重要である。初診・初回面接は,「起承転結」で経過するが,その際の配慮をまとめて述べた。さらに具体的な診察の手順,対応する上での配慮,治療者の姿勢の心得を記した。また精神現症の把握と病歴聴取は治療の基本と考えられるので,主症状,診断,治療方針,今後の留意点など,特に重要とされる項では詳細に説明を加えた。なかでも家族,特に母親の養育への相談などは,治療上重要であるために,支援の工夫を述べた。
Key words:child, adolescence, initial interview, outpatient treatment, psychotherapy, family therapy

●児童精神科における入院治療
菊地祐子  市川宏伸
 近年,児童精神科医療への社会的なニーズは高まっているが,児童精神科の入院病床は全国でも1,000床に満たないとされており,十分に需要を満たしていないのが現実である。児童精神科の入院では,教育をはじめ多職種との連携を要し,子どもを取り巻く環境も含めた包括的なケア,家族介入的な視点を持ったケアを行って退院へ結びつけることが必要である。また,疾患の治療だけでなく,病棟という場での同世代間交流を通して,子どもの健全な育ちを支えることも入院治療の大きな役割のひとつである。当院での統計や具体的な入院から退院までの流れを提示し,児童精神科における入院治療のあり方について考えたい。
Key words:inpatient, child, adolescence, phychiatry

●リエゾン精神医学
大屋彰利
 重篤な疾患に罹患した患者は,さまざまなストレスにさらされており,不安,抑うつ,睡眠障害などの精神症状が見られることが知られている。われわれは骨髄移植予定の患者に無菌室入室前より面接を行い,当初より移植チームの一員として関与している。無菌室で骨髄移植を行った18歳以下の患者において,不安,反応性の低下,治療への抵抗,攻撃的言動などが認められ,睡眠障害,食欲不振,不安,治療への抵抗が年齢と有意な相関を示した。無菌室入室前にPicture-Frustration Study(以下P-F Study)を施行した。P-F study の施行は,入室中に発現する精神あるいは身体症状の出現を予測することを可能にし,患者に対する理解を図る上で有用であることが示された。患者の精神状態を把握し,原疾患の治療が進むようコントロールすると同時に,医療スタッフに患者の精神状態の理解が進むように働きかけることが大切である。
Key words:consultation-liaison, pediatric patients, psychological support

●児童相談所における精神科医の役割
金井剛
 児童福祉法は児童相談所(以下,児相とする)の設置義務を明確にしているが,医師の配置や業務には触れておらず,常勤医師のいる児相は少ない。そのため児相における医師の業務は,個人の力量や意欲等により微妙に異なっている。それでも,親子の精神医学的評価,一時保護所入所児童の健康管理や行動観察,所内や児童福祉施設等の職員の指導,医療機関や教育機関との連携,地域等への啓発活動などが共通した業務といえる。児童虐待件数は増加し続け,精神障害を有する虐待者が一定比率を占めている。被虐待児童の精神障害や行動の問題も稀ではない。精神科医療への導入は,虐待事例において機会も多く,家庭や児童福祉施設などで子どもを支えるためにも重要である。児童虐待の通報が義務化し,児相には多くの情報が集まり,一時保護や施設措置を行う権限も児相長が有している。連携にあたっては児相が中心的役割を担わざるを得ず,児相の精神科医の役割は大きい。
Key words:child guidance center, psychiatrist, cooperation

●児童福祉施設と精神科医療との連携
南達哉
 児童福祉施設と精神科医療の連携に関して,筆者の臨床経験に基づく留意点を述べた。連携の実際は地域により多様と思われるため,本ガイドラインには限界がある。両者の間には依拠する法律(児童福祉法と精神保健福祉法),時間の流れ,人的資源,行動制限の可否といった相違点がある。この連携は一種の異分野交流であり,互いができること,できないことを説明し,妥協点を探ることが求められる。児童福祉施設から入院する症例は愛着と衝動性の問題を持つ被虐待児が多く,入院は長期化せざるを得ず,治療反応に乏しい場合もある。入院に際しては医療対応の適否を含めて検討し,児童相談所・児童福祉施設との治療契約を明確にし,その後も定期的に情報交換を行うことが必要である。入退院に関する判断は困難を伴うため,自ら判断した後,他の医師らと検討することを勧める。担当医には児童の成長過程で医療に何ができるかを問い続ける姿勢が求められる。
Key words:child and adolescent psychiatry, child welfare facility, child guidance center, cooperation

●発達障害者支援センターと精神科医療
柴田珠里  関水実  桜井美佳
 横浜市発達障害者支援センターは,成人期(18歳以上)を対象とする発達障害専門の相談支援機関である。診断希望の来談者や二次障害を有する来談者が大半を占めることから,地域における精神科医療との連携が必要不可欠となっている。本稿では,精神科医を配置しない発達障害者支援センターの例として,(1)横浜市発達障害者支援センターの特徴,(2)相談概況,(3)精神科医療との連携における工夫について概観する。
Key words:pervasive developmental disorders(PDD ), attention deficit/hyperactivity disorder(AD /HD ), learning disorders

●スクールカウンセリング
中野明徳
 日本のスクールカウンセラー(SC)の歴史は十年余りであるが,非常勤職のためにアメリカと比べてその活動範囲がきわめて限定されている。アメリカのSC は常勤職で,児童生徒の学業的発達,キャリア的発達,個人・社会的発達の領域において,他の教員と協働しながら国家的基準をもつスクールカウンセリング・プログラムを遂行する者であり,ただ単にカウンセリングやコンサルテーションを行う者ではない。現在の日本でスクールカウンセリングの課題は不登校やいじめの他に,1990年代以降に急増している発達障害,児童虐待,衝動的暴力への理解と介入である。学校不適応行動への対応にあたって,発達障害の鑑別は今やSC の重要な仕事になっている。
Key words:school counseling, school counselor, national standard, non-attendance at school, developmental disorders

●精神療法―児童期・青年期の統合的アプローチ―
村瀬嘉代子 飯田昭人
 人のこころを成り立たせ,それに影響を及ぼすには,生物・心理・社会的な多次元のさまざまな要因が輻輳している。ことに重篤なクライエントや,問題が複雑である場合,必然的に内面的心理的働きかけに加えて,環境への働きかけ,社会資源利用など,多面的・統合的アプローチが求められる。また,精神療法とは,それを行う治療者の要因が大きく関与している。理論や技法を論じるばかりでなく,治療者の要因を検討することは必須である。
Key words:psychotherapy for children, family transfiguration, cooperation, sense of balance, multifaceted approach

●集団療法
渡部京太
 児童・青年期の集団療法は,対象となる子どもの年齢や発達状態によって,活動を媒介としたグループと言葉を媒介としたグループに大きく分けることができる。活動を媒介にしたグループには,主に学齢以前の子どもを対象としたプレイ中心の集団療法,小学生から中学生を対象としたゲームやスポーツ,創作活動,レクリエーションなどを中心とした活動集団療法(activity group therapy:AGT)がある。また,言葉を媒介にしたグループには,主に中学後半から高校以降の子どもを対象にした集団療法があり,両グループの移行段階にある子どもを対象とした活動-面接集団療法(activity-interview group therapy:AIGT)がある。本稿では,活動,言葉を媒介にしたいずれのグループでも,治療者の役割として柔軟でしかも毅然とした姿勢でバウンダリーを守ることが重要であることを強調した。
Key words:group psychotherapy, activity group therapy(AGT ), activity-interview group therapy(AIGT), boundary, conductor

●遊戯療法
山中康裕
 「遊戯療法」とは,お遊戯とは異なり,当初,ネガティヴな表現ととらえられることが多い。我々の所をたずねてくる患者は心に怒りや恨みや悲しみなどを抱いていることが多いからである。また,playは単に「遊び」に限らず,「演奏する」など多くの意味をもつので,筆者は「表現療法」とした方がよいと考えている。ここでは,いくつかの症例を挙げて遊戯療法の諸相について論じた。
Key words:play therapy, negative expression, symbolic realization, supervision, expression therapy

●行動療法
山上敏子
 行動療法は学習を主な手段にした治療の方法の総称であり,多くの治療技法や治療法や治療プログラムをもっている。行動療法はその初期から児童青年期の精神科・心理臨床では積極的に用いられていた。現在では,その適用対象領域は広く,疾患や障害の治療に限らず,発達の支援や養育技術の援助や,環境への援助,健康の増進などの疾患予防や健康増進までに展開されている。そして,対象領域が拡大されるのに呼応しながら技法や治療法や治療プログラムも増え,かつ繊細になってきた。本論文では,行動療法の適用の例と,児童青年期の臨床で用いられることの多い基礎技法と治療法について,その一部を説明した。また行動療法の進め方と児童青年期における進め方の留意点について簡単に述べた。
Key words:behavior therepy, CBT (cognitive behavior therapy), parent training, techniques and treatment program

●療育
日戸由刈  本田秀夫
 療育とは,発達に障害のある子どもを対象とし,発達の促進と生活の質の向上を目的とする治療技法である。障害についての科学的な理解に基づき,幼児期から成人期までのライフステージに沿った継続性と一貫性のある目標設定や配慮のもとで行うことが強調される。機関や領域を越えた地域性と包括性が求められる点で,療育の理念はリハビリテーションのそれと共通する。本稿では,社会性の発達に著しい障害のみられる自閉症スペクトラム障害に対する療育を中心に述べた。自閉症療育の歴史を概観し,自閉症特有の心理特性に配慮した療育の考え方を述べるとともに,最近注目されているアスペルガー症候群に焦点を当てた療育の実際について紹介した。
Key words:developmental disorders, autism, Asperger’s syndrome, early intervention, community care

●薬物療法
山田佐登留
 児童青年精神医学における薬物療法について述べた。本邦では以前から発達障害の行動異常に対して認可されていたpimozideと昨年注意欠陥多動性障害(以下AD/HD)に対して認可された徐放型のmethylphenidate製剤の2薬剤のみが児童思春期に対して認可されているのが現状である。それ以外の児童青年の精神疾患に対する薬物療法では成人精神科で用いられる薬物療法がほぼ同じように用いられているが,添付文書上は薬物治験時の設定により多くの向精神薬が小児に対する安全性は確立していないとされているものがほとんどである。本稿では一般的に用いられる向精神薬について概観するとともに,児童青年精神科で行うことが多い広汎性発達障害とAD/HD についての薬物療法について詳述した。
Key words:drug therapy, attention deficit/hyperactivity disorder, pervasive developmental disorder, antipsychotic agents, psychostimulants, selective serotonin reuptake inhibitors

●家族支援,家族療法
飯田順三
 子どもの治療には家族の協力は不可欠であり,同時に家族を支援することも重要である。システムズ・アプローチから発展したさまざまな家族療法が存在するが,本稿では特殊な理論を紹介するのではなく実際の臨床場面における家族支援について述べた。問題を抱える子どもをもった親の苦悩を理解する重要性を指摘し,親支援の留意点について述べた。また家族機能について触れ,家族は子どもに対して相反するスタンスをバランスよく働かせることが期待されていることを述べた。さらに近年盛んになりつつある家族心理教育について触れ,最後に筆者らが取り組んでいるペアレント・トレーニングを紹介した。これは注意欠陥/多動性障害児をもつ親が子どもたちの行動をよく理解し,行動療法に基づく効果的な対応方法を学び,よりよい親子関係を築くことと子どもの症状改善や社会性の向上をめざすものであり,有効性が確認されているものである。
Key words:family support, family therapy, parent training, psychoeducation for family

●遺伝カウンセリング
浦野真理  玉井眞理子
 遺伝カウンセリングが必要とされる場面は近年急速にその範囲が広がっている。個人や家族が必要とする遺伝情報や関連した情報を提供し,自分自身で決定を行えるように援助するのがその目的である。その際には医学的な側面のみならず,その個人や家族の環境などの社会的な背景,心理的な面を考慮しながら支援することが重要である。本稿では,遺伝カウンセリングの定義,対象,手順について言及し,児童・青年期に関連する事例を解説した。また出生前診断,発症前診断についても概要を述べた。
Key words:genetic counseling, prenatal diagnosis, presymptomatic diagnosis, multiple-factor inheritance

●本人への診断名告知
吉田友子
 よこはま発達クリニックの実態調査では高機能広汎性発達障害の小中学生の10%以上が親や専門家の意図しない状況で自分の診断名に気づいていることが確認され,診断名告知は避けては通れない支援であることが示された。治療者は子ども・親・環境への支援を行い,一定の要件が満たされる状況まで支援が進んだ場合に子どもへの診断名告知を設定する。子どもの要件で特に重要なのは,具体的な支援により「困難はあってもやりようはある」という成功体験を重ねていることである。そして「自分の特性は長所でもある」と実感できていることである。一定の言語理解力・自他の相違への気づき・誰彼かまわず言うことはしない能力なども必要な要件である。また本稿ではよこはま発達クリニックで用いている告知文例を示し,告知の当日に子どもにどのような情報を提示するかを共有した。診断名告知の効果と副作用についても見解を示した。
Key words:disclosure, diagnosis, child, PDD

第 II 部各論
●精神遅滞
高橋脩
 精神遅滞は知的および適応機能の全般的遅滞を特徴とするが,原因疾患や併存心身障害等によって状態や発達経過は意外に多様である。したがって,診断では障害および障害程度と並んで,原因疾患や併存心身障害の有無についても確認することが重要である。療育は3つの要素(遅滞の程度,原因疾患,併存心身障害)を踏まえて,発達的マイノリティーとして支援を行うとともに,保護者の育児支援等にも配慮したい。精神遅滞の精神医学的問題は,障害程度,年齢,原因疾患等によって異なる。それぞれに頻度の高い精神障害を認識し,診断と治療的対応を行うことが必要である。
Key words:mental retardation, child, adolescent, comorbidity, treatment

●読字障害
納富恵子
 読字障害は学習障害の1つのタイプであり,認知能力に比べ学習の基礎的能力である読みが著しく遅れ,学業や適応に困難を生じる。米国では,学習障害は特殊教育の対象として1975年の「全障害児教育法」により無償で適切な教育の提供が全州に義務づけられた。日本でも1999年に文部省が学習障害(learning disabilities:LD)の定義を示した。読字障害は,米国精神医学会の診断と統計のためのマニュアル第4版テキスト版(以下DSM-W-TR と略す)の学習障害(learning disorders)にあたり,読字障害,算数障害,書字表出障害が含まれ,本稿では,読字障害の疫学,併存疾患,病因,診断,臨床像,経過と予後,治療を概観する。
Key words:reading disorder, dyslexia, learning disability

●算数障害
長畑正道
 算数障害は知能水準に比べ算数能力が特異的に劣る状態をさしている。算数の能力は個別施行による標準化検査で測定する必要がある。学校教育の場では知能が正常で算数能力が特異的に劣る学習障害の1つとして位置づけられ,小学校2〜3年では1学年以上,4年以上中学生では2学年以上の遅れがあることが目安となっている。算数障害の神経心理学的背景として視空間認知能力の劣る同時性障害による場合と,言語能力の劣る継次性障害による場合とがある。前者の場合,数量概念の障害,位取りの障害,筆算の障害などが生じる。この場合,視空間認知の障害を補うような方法による指導が心要である。適切な指導により日常生活に支障のない程度まで計算能力を伸ばすことができる。継次性障害による場合は九九の暗唱ができなくても九九の表を用いることで補うことができる。このように算数障害の背景にある障害に即して指導することが必要である。
Key words:learning disabilities, dyscalculia, dyslexia, remediation

●書字表出障害
宇野彰  蔦森英史
 最初にDSM-Wの書字表出障害に関して,ICD-10の特異的綴字(書字)障害との関連,およびタイプの異なる背景となる認知機能障害などについて解説した。認知機能障害としては,音韻認識障害と関連の強い読み障害の結果書字障害が出現する場合と視覚情報処理過程の障害により書字障害単独で認められる可能性があることを示した。診断には,少なくとも全般的知能,書字の学習到達度,要素的な認知機能などに関する客観的な検査結果が必要であり,その点でAD/HD やPDD などの診断評価法と異なることを述べた。訓練に関しては,まだ科学的に検討された訓練方法は少ないものの,基本となる考え方やいくつかの前提条件のもと効果が明確である方法について解説した。また,経験的に使用されている方法についても概説した。
Key words:writing disorder, spelling disorder, recognition, diagnosis, therapy

●発達性協調運動障害
小林潤一郎
 発達性協調運動障害は,運動のコーディネーション機能に特異的な発達障害であり,運動スキルの実行が著しく障害され,日常の活動や学業に著しい困難を生じる。ダイナミックシステムアプローチの視点から,本症は,多様な動きが可能な四肢の動きをコーディネートして,目的に沿ったスムーズでまとまった動きを生み出すシステムが,脳機能の中に形成されにくいと理解するとよい。治療では,本人が困っていて何とかしたいと願っている運動スキルについて,本人のやりやすい方法を探して練習し,日常的な文脈の中で成功経験を積み重ねることが重要である。運動スキルの問題は学習障害には含まれておらず,特別な教育的支援を得にくい状況にある。本症が子どもの学校生活を制約する可能性を保護者や教師にも認識してもらう必要がある。診断を通じて,本人の努力不足で運動スキルが身につかないのではないことを理解することが,予防的な精神保健の点から重要である。
Key words:Developmental Coordination Disorder, motor coordination, dynamic system approach,task-specific approach, Learning Disabilities

●表出性言語障害および受容-表出混合性言語障害
石井卓
 本項では,DSM -W-TR のコミュニケーション障害のうち表出性言語障害および受容-表出混合性言語障害の概念,診断,治療について述べる。両者ともDSM-W-TR のカテゴリー分類上は広汎性発達障害を除外診断として規定しているが,これら発達性言語障害(developmental language disorder:DLD)は,本質的には発達障害全般に通底する障害であり,むしろ広汎性発達障害と併存し得る状態とするのが実情に合っていると筆者は考える。DLD の治療的介入は,言語療法士等による子ども自身へのアプローチとともに,子どもと日常的に接している保護者に対して言語に関する発達促進的な関わりについての助言・指導が中心となる。ここでは特に名詞語彙の獲得と拡大の意義について述べた。最後に表出性言語障害の一症例の発達経過を心理検査の結果とともに例示した。
Key words:developmental language disorder, expressive language disorder, mixed receptiveexpressive language disorder, autism, pervasive developmental disorder

●話しことばの障害―音韻障害・吃音症―
早川徳香
 音韻障害は,子どもが自分の属している言語社会の成人の音韻体系を習得していく過程で,誤って学習した音韻体系や,未熟な発達段階での音韻体系を反映した音の誤りを示すものである。構音技能が,その子どもの年齢に不相応に未熟な場合に音韻障害と診断される。ほとんどの子どもで音韻障害は自然に消失するが,重度の場合は4〜5歳で言語訓練を開始する。いじめや他児からのからかいにより子どもの自己感覚に混乱が生じている場合には,子どもおよび親を含めた心理療法のみならず,学校との連携を求められることがある。吃音は,話しことばの非流暢性が年齢不相応に強い状態である。ほとんどの症例は自然治癒するが,重症例では言語聴覚士による言語訓練が必要となる。子どもが話すことにさほど苦痛を感じていない方が改善の可能性は高く,情緒的な二次障害の予防にもつながるため,支持的,そして必要に応じて保護的な治療的対応が肝要である。
Key words:speech disorders, phonological disorder, developmental articulation disorder, stuttering, disorder of fluency

●自閉症
杉山登志郎
 自閉症の治療を,最新の脳研究の成果を踏まえてまとめた。自閉症は様々な病因によって生じる先天性の社会性の障害であり,それ故に治療は大きく二つに分けられ,社会性の障害への治療教育と,二次障害に対する治療である。社会性の治療を行うにあたって,既存のプログラムを用いなくとも,自閉症の精神病理を踏まえた対応を行うことで,治療教育が可能であることを指摘した。また様々な二次障害に対する,環境療法,薬物療法,精神療法を巡る最新の知見を紹介した。
Key words:autism, PDD, treatment, social function

●レット症候群
川崎葉子
 Rett, A.により1966年に初めて報告された,特徴的経過を呈し,原則として女子のみが発症する障害である。頻度は女子10,000〜15,000人につき1人で,国内外も同様で地域差はない。正常に発達していた女児が,1歳前から2歳までに発達の停滞あるいは退行に気づかれる。手の機能の喪失と独特な常同運動,下肢に強い痙性運動障害が進行性に出現し,最終的には重度の知的障害および軽度ないし中度の運動機能障害の状態となる。また,後天性の小頭症がみられ,脳波異常が必発し,てんかんも高率に発症する。呼吸異常,側弯や後弯等脊椎の変形,成長障害もみられる。病因はX連鎖性の遺伝子の異常であり,methyl-CpG-binding protein 2遺伝子(MECP 2)の変異によることが明らかになった。
Key words:Rett syndrome, females, progressive, MECP2 mutations

●小児期崩壊性障害
栗田広
 小児期崩壊性障害は,少なくとも2歳までの正常発達の後に有意味語消失を含む発達退行を呈する広汎性発達障害(PDD)の1型で,有病率は10万人に数人程度で,男女比は3〜4:1である。退行は6ヵ月以内に終了し,自閉性障害(自閉症)と類似した状態となり,併発する知的障害はより重い傾向があるが,退行終了後に発達的変化はあり,生命予後は不良ではない。治療的対応は,PDD へのそれが適用される。自閉症より,てんかん併発率は高く,青年期・成人期の予後は不良な傾向がある。
Key words:childhood disintegrative disorder, disintegrative psychosis, pervasive developmental disorders(PDD ), regression, speech loss

●アスペルガー症候群―早期からの治療戦略―
清水康夫
 アスペルガー症候群を広汎性発達障害の一型と考えることには広いコンセンサスが得られている。これは,ICD-10やDSM-Wの国際診断システムがこの障害を新しい診断概念として登場させ,広汎性発達障害のカテゴリーに分類した功績でもある。しかし実のところ,それらの診断システムが規定するアスペルガー症候群(障害)の概念と診断基準は必ずしも国際的なgold standardになっていないという矛盾がある。アスペルガー症候群は生下時から存在すると考えられているにもかかわらず,診断や治療開始の時期が学齢期,思春期,ときにはそれ以降にまで遅れることが少なくない。慢性的なストレスや社会的不適応が続いて二次障害や併存障害を引き起こす前に,診断と治療が開始されるべきである。アスペルガー症候群を幼児期のうちに発見し,適切な介入を保障することによって,この障害のある人々の転帰が大きく改善する可能性がある。
Key words:Asperger syndrome, early intervention, preschoolers, inclusion, parent training

●注意欠陥/多動性障害
田中康雄
 注意欠陥/多動性障害(AD/HD)は,年齢不相応の著しい多動性,衝動性,不注意を主症状とし,生来的に存在する器質的要因に,心理・社会的な環境要因が悪循環的に作用し影響を及ぼし合うbio-psycho-socio-ecological disorderである。臨床現場に求められることは,できるだけ正しくアセスメントし,合併症状に留意しながら治療の選択肢を検討実施することである。本論では,基本的事実と,ライフサイクルに応じた包括的治療の有り様に触れた。加齢と環境要因によって変遷していく本障害には,早期の気づきと早い対応が求められ,その意味からも児童精神科医に対する期待は大きい。
Key words:AD /HD, diagnosis, therapy, environment, life cycle

●反抗挑戦性障害と行為障害
原田謙
 反抗挑戦性障害(ODD)と行為障害(CD)について治療を中心に解説した。ODDやCD は,発達障害を中心とした個体の脆弱性と虐待に代表される養育や環境の問題が相互に影響しあって発現すると考えられる。したがってその治療は,個体の持つ脆弱性に対する治療(薬物療法と認知行動療法)と養育や環境に対する働きかけ(ペアレントトレーニングと学校や地域との連携)を,その親と子どもの実情に合わせて統合的に行うというのが現実的であろう。また,行動障害の変遷(DBD マーチ)におけるODD の重要性と,少年期発症のCD の方が予後不良であることを考え合わせると,小学生年代までの,特に発達障害を併存したODD・CD が,医療的介入の対象として適していると考えられる。
Key words:developmental disorder, oppositional defiant disorder, conduct disorder, disruptive behavior disorder, maltreatment

●異食症・反芻性障害
新井慎一
 異食症と反芻性障害はともに稀な疾患であり,また表面上は単一的な疾患であるが,その背景が多様な疾患である。どちらも診断は疑いさえすれば容易であるが,その続発症の危険性のために,見逃してはいけない疾患である。続発症がある場合にはその治療が最優先となる。それぞれの疾患への治療法は完全には確立していないが,その患者の併存疾患,認知能力,身体の状態に合わせた治療法が必要となる。精神遅滞を伴う異食症,反芻性障害には応用行動分析を用いた治療介入が効果的である。精神遅滞のない反芻性障害の例では,反芻時に代替行動として横隔膜呼吸をする方法の効果の報告がある。自験例も含めながら,治療法について概観した。稀な疾患であるが故,今後多施設での共同での治療介入研究が望まれる。
Key words:pica,rumination disorder, applied behavior analysis, habit reversal, diaphragmatic breathing

●チック障害・トゥレット障害
金生由紀子
 チック障害(tic disorders)は一過性チック障害からトゥレット障害(Tourette's disorder)まで幅広いが,連続性があると考えられている。治療にあたっては,個人間での差が大きいと同時に個人内での変動も大きいとの多動性を考慮して総合的な評価をする必要がある。チックに加えて,強迫性障害(obsessive-compulsive disorder)をはじめとする併発症の重症度も考慮し,治療の優先順位を検討する。チック障害の治療の基本は,家族ガイダンスや心理教育および環境調節である。親の育て方や本人の性格の問題がチックの一次的な原因でないと明確にした上で,チックの適切な理解と対処を促進する。重症な場合は薬物療法が考慮され,チックに対しては,抗精神病薬やclonidineが有効であり,最近ではrisperidoneをはじめとする非定型抗精神病薬の使用が増加している。
Key words:tic disoders, Tourette's disorder, obsessive-compulsive disorder(OCD ), psychoeducation, pharmacotherapy

●遺尿症・遺糞症
岩佐光章
 遺尿症・遺糞症はDSM -W-TR の排泄障害に分類される。排泄の問題は児童・青年精神医学臨床における最も多い主訴の一つである。遺尿症・遺糞症の診断には日々の排泄記録などを用いて排泄の聞き取りを行うが,その際に排泄失敗の頻度のみならず,本人と家族の生活全体に目を向けることは治療の方針を立てる上で重要である。治療は,排泄を含む生活全体の様子を詳細に聞き取った上で,生活指導や薬物療法などを行っていく。その際,遺尿症・遺糞症にかんする正しい知識を与え,本人や家族の過度な不安を取り除く。夜尿症では,夜尿アラーム,酢酸desmopressin点鼻療法(点鼻療法は夜間の尿浸透圧低下型の場合に限る)が有効なことがある。学齢期以降になると,排泄の失敗から強い不安や自尊心が極端に低下するなど心理社会的な問題がみられ,それに対する介入が必要になることがある。基礎に一般身体疾患が疑われる場合には小児科または泌尿器科での精査を勧める。
Key words:enuresis, encopresis, elimination disorder

●分離不安障害
小林隆児
 分離不安そのものは,誰にでも,どのような病態にあっても生じうるものであるが,子どもの素質や養育環境の要因がからんで乳幼児期の愛着関係が十分に育まれなかった時,幼児期後期から学童期にかけて,分離不安障害が起こりやすくなる。分離不安は生活上の出来事を契機に起こりやすいが,養育者が子どもの不安を十分に受け止められる心的状況にないと,分離不安は一層強まり,生活適応面でも問題が生じ,分離不安障害として治療の対象となる。分離不安が強まる時には,同時に子どもの心に課せられた何かをしなければならないという強い義務感や焦燥感も生じていることが多く,両者の気持ちの狭間で強い葛藤状態になる。したがって,治療の基本は,子どもが養育者に愛着行動を自由にとることができ,養育者との間で安心感が育まれていくように援助することである。多くの場合,養育者に子どもを受け止めることができる心的状態にないため,家族への介入が重要なウエイトを占める。
Key words:approach-avoidance motivational conflict, attachment, separation anxiety, separation anxiety disorder, school phobia

●場面緘黙(選択性緘黙)
河村雄一  駒井恵里子
 場面緘黙(選択性緘黙)とは,正常ないしそれに近い言語能力があり,自宅では元気に言葉を発することができるが,特定の場面(園や学校など)で緊張が高まり,言語表出ができなくなる状態である。中には特定の家族とも話せない例もある。生来の言語表出の遅れや構音障害が見られることもあり,器質的な背景が推測される。性格特徴としては,不安が高く,内向的なことが多い。心的外傷体験などの生育歴に原因があると誤解されがちであるが,そのような証拠はない。治療は精神療法が中心である。話すこと自体を治療目的とはせず,非言語的な技法も採り入れていく。また少人数での集団精神療法が有効なこともある。リラックスして感情表出を促し,自己評価を高めるよう促していく。同時に環境調節も重要である。園や学校と連携しながら,子どもの特徴について理解を求めるとともに,音声言語を用いなくても楽しく生活が送れるような工夫を考えていく。
Key words:selective mutism, elective mutism, psychotherapy

●反応性愛着障害の評価と介入
山下洋
 反応性愛着障害(RAD)は児童福祉から発達脳科学を含む広汎な領域でその臨床的意義が再認識され概念の整理が進められている。RAD には脱抑制型,抑制型の下位分類とともに破壊的行動障害(ADHD, ODD, CD)や心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの併存障害や認知発達偏り,不安定な生理機能など広汎な問題がみられる。治療では子どもへの安全で安定した環境の保障と情緒的キュー(手ががり)に高い感受性をもって応答できる愛着対象の提供が優先される。愛着理論に基づく介入では,機能不全に陥った養育者と子どもの相互作用に対して,各々の否定的な内的表象に働きかけて反映的機能を高め肯定的な相互作用に導く。子どもへの治療的関わりでは関係性や相互性が重視されるが,破壊的行動のマネージメントや愛着再形成のための身体的関与については慎重な配慮を要する。最後に世代間伝達など長期的視点に立った予防的介入の意義を指摘した。
Key words:reactive attachment disorder, co-morbidity, attachment theory, relationship oriented, reflective function

●摂食障害
小倉正義  本城秀次  田中裕子
 本稿では児童思春期の摂食障害の特徴と治療の方向性について述べた。まず児童精神科の外来統計の結果から示された特徴を提示し,その後児童思春期の摂食障害の心理面における特徴を整理した。また,児童思春期の摂食障害の治療に関して,初期治療,家族へのアプローチ,精神療法,認知行動療法,入院治療,薬物療法についてそれぞれ概説し,治療の全体の方向性を示した。児童思春期の摂食障害のよりよい治療のためには,多角的な視点からアセスメントし,様々な援助資源を活用した治療を行うことが重要である。
Key words:anorexia nervosa, bulimia nervosa, children, adolescence

●不眠症,過眠症,ナルコレプシー,呼吸関連睡眠障害
本多真
 小児の睡眠は個人による変動が大きく,発達や生活環境に大きく影響される。また過眠症状を伴う睡眠障害では集中困難・多動症状,学業成績低下が主訴となるなど表現型が多彩である特徴がある。小児では一過性の不眠はあるものの持続性の不眠症は稀で,ある場合には睡眠相後退症候群や精神疾患の合併を検討する。睡眠衛生を整え睡眠に有害な生活習慣を改め,朝日を浴び,睡眠や食事を規則的に行うことが治療の基本となる。ナルコレプシーや特発性過眠症は,生活指導と精神刺激薬による薬物療法を行う。小児の呼吸関連睡眠障害のほとんどは扁桃肥大に伴う閉塞性睡眠時無呼吸症候群であり,外科的切除が高い有効率を示す。小児期の精神行動障害の背景として睡眠障害の存在を念頭に置いて診療を行うことが大切である。
Key words:ICSD2, insomnia, narcolepsy, idiopathic hypersomnia, pediatric obstructive sleep apnea

●夜驚症,夢中遊行症,悪夢
星加明コ,飯山道郎,荒田美影
 夜驚症,夢中遊行症,悪夢などの睡眠時随伴症を主訴として外来を受診する症例はそれほど多くはないが,その大部分は夜驚症である。夢中遊行症や悪夢を訴えての受診は稀である。診断は大部分の症例ではその臨床像を確認することで比較的容易であるが,一部には睡眠中の複雑部分発作と鑑別が必要になることがある。また8歳以上で夜驚が初発したときには,急性ストレス障害あるいは外傷性ストレス障害の可能性を考えておく必要がある。小児の睡眠時随伴症で受診したとき,多くは自然経過を説明し,症状出現時の対応を話して家族の不安を取り除き,自然に消退する経過を確認していけばよい。薬物による治療が必要なのは,夜驚症や夢中遊行症で歩行や走行を繰り返して事故の危険があるとき,家族が十分な睡眠がとれないとき,宿泊を伴う学校行事への参加に不安があるときなど,限られた一部の症例である。
Key words:children, parasomunia, sleep terror

●概日リズム睡眠障害
内山真
 近年,若年層の生活の夜型化が進行している。これに関連し,概日リズムの機能不全による睡眠障害(概日リズム睡眠障害)の臨床単位が国際的に認められるようになり,先進国を中心に多くの報告がなされるようになった。これらは,生物時計に関連した脆弱性を基盤として一次性に生じることもあるが,小児・思春期の臨床においては,引きこもりや不登校など精神科的問題の結果として,適切に朝の光を沿びる機会を失うと二次性に概日リズム睡眠障害が生じる点で重要である。小児・思春期の精神科的問題に介入する上で,概日リズム睡眠障害に関する知識は,臨床的な助けとなる場合も多い。本稿では,小児・思春期に多い睡眠相後退症候群(DSPS),非24時間睡眠・覚醒症候群(Non-24)について,臨床診断のポイントおよび概日リズムの特性を踏まえた最新の治療について述べる。
Key words:circadian rhythm, sleep disorders, light therapy, melatonin

●抜毛症
生地新  森岡由起子
 抜毛症は,自分で習慣的に体毛を抜くことで脱毛巣を生じる病気である。その病態は年代によって異なり,多様である。診断は,皮膚科学的な知識があれば比較的容易であるが,抜毛していることを意識していなかったり,認めたがらない例も多いので,問診だけでは診断できないことがある。精神医学的には特別な検査は必要ないが,知的能力や合併症の有無は調べておく必要がある。家族内に様々な心理的問題がある場合も多い。発達段階で治療のあり方は異なっており,幼児期には親面接だけでも軽快する例もあり,一般には親面接と家族療法を組み合わせて行う。学童期に入ると,遊戯療法や個人精神療法,あるいは行動療法など特定の心理学的な治療技法を用いる必要があり,家族面接も必須である。青年期の症例は,さらに治療が困難な例が多くなり,個人精神療法や行動療法に加えて,薬物療法や自己破壊的行動化に対する限界設定が必要になる症例もある。
Key words:trichotillomania, psychotherapy, play therapy, behavior therapy, medication

●児童虐待
奥山眞紀子
 児童虐待は発達途上にある子どもが置かれる環境として最も危険な状態の一つであり,それが明確な精神障害につながることを予防する必要もある。そのような環境に育った子どもの危険として,愛着の問題とトラウマの複合による問題がよくみられる。そのメカニズムを知ることは,虐待を受けた子どもの治療を行う上で重要である。更に,その結果としての自己感の障害に至っている場合には,愛着形成への支援,トラウマの治療に加えて,自己感を発達させる治療が必要となる。薬物療法は子どもの行動へのアプローチとして対症的に有効なこともあるが,根治ではない。解離への対応も重要な治療の一部となる。ただし,虐待を受けた子どもの治療はその治療構造が保てない危険が高いものである。本稿では児童精神医学として虐待を受けた子どもの治療に関して述べたが,それを可能にするためにも,児童相談所,保健所,児童福祉施設,民間団体,警察,司法,保育所,教育機関など様々な社会資源との連携が必要になり,在宅治療では,親への治療や親子関係への治療が必要になる。
Key words:child abuse, attachment, trauma, sense of self

●不登校
清田晃生
 不登校児童生徒数はこの2年間再度増加傾向にあり,不登校は今も児童青年精神医学上重要な問題である。不登校はきわめて異種性が高く,総合的に理解するには子どもが抱える背景疾患,発達障害の有無,性格傾向や不登校の出現様式,経過,環境要因からなる多軸評価をすることが重要である。これは原因追求が目的でなく,治療のポイントを把握するための「俯瞰図」を得ることがねらいである。治療においては,第一に環境要因への介入,次いで背景疾患や発達障害への介入,そして性格傾向や経過を念頭においた治療計画を立てる。環境要因については,家族や学校,仲間集団の機能を上手く利用するためのケースワークが鍵となる。不登校の治療では,子どもが自己の課題を解決し成長を遂げることが真の目標であり,そうした長期的視点を持つことが医療機関が不登校に関わる意味だと思われる。
Key words:school refusal, integrated assessment, casework

●家庭内暴力
井上洋一
 思春期の子どもが親に対して様々な要求を突きつけ,実行されないと激しく怒り,暴力を振るう。家庭内暴力は親子の密着した関係の中で依存と支配と攻撃が繰り返されている状態である。親は子どもからの無理な要求や暴力に苦慮し,疲弊して治療者を訪れる。子ども本人は受診しない場合も多い。治療においては,1)周辺群(一次疾患の存在と二次的暴力)との鑑別診断,2)対親,対子どもそれぞれとの治療契約,治療構造の理解,3)治療者の役割の明確化,4)親への支援,5)子どもから親への無理な要求への対応,6)暴力への対応,7)子どもが抱える問題への理解と支援などが必要となる。子どもが加害者,親が被害者という単純な構図ではなく,家族全体の力動を視野に入れた治療戦略が求められる。
Key words:domestic violence, conduct disorder, oppositional defiant disorder

●社会的ひきこもり
近藤直司
 思春期・青年期のひきこもりケースの精神医学的背景は多様であり,パーソナリティ傾向や発達特性についてのアセスメントが必要なケースも少なくない。また,家族状況などの社会的要因が問題の長期化につながっていることもあるため,精神科医には,さまざまな病態を視野に入れた慎重な鑑別診断と,生物-心理-社会的視点に基づいた多角的・包括的なアセスメントの力量が求められている。治療・援助指針としては,社会不安障害の他,パーソナリティ障害や神経症的傾向の強いケースに対する精神療法の要点と,広汎性発達障害を背景とするケースの治療・支援について概説した。また,家族支援や自宅への訪問,就労支援など,保健・福祉・労働分野との連携が有用であることを述べた。
Key words:social withdrawal, adolescence, young adult

●境界例
笠原麻里
 境界例の治療には中・長期的に安定した構造が必要である。まず,境界例概念の歴史的変遷について述べ,特に子どもの境界例borderline childの現在までの位置づけを示した。さらに,境界例心性を理解するためには,Mahler, M.S.の分離-個体化の過程,Masterson, J.F.の母子関係と境界例の関連,Emde, R.N.の示す母子の関係性の相補的機能が重要である。不適切な養育と母子関係のゆがみは,その後の自我発達を停滞させ,境界例病理へと結びついてゆく可能性がある。治療では,治療契約と枠組みならびに行動化への対応と限界設定が重要となる。子どもの境界例の治療では,親との治療関係を維持することも困難を伴うことが多いことも配慮を要する。
Key words:borderline child, separation-individuation, maltreatment, acting out, limit setting

●思春期妄想症
吉岡眞吾  村上靖彦
 思春期妄想症(以下,本症)は,40年を越える歴史を持つ臨床概念である。それは当時精神分裂病(以下,統合失調症)と診断されていた症例から,自己臭妄想や自己視線恐怖を主訴とし,そのために「周囲の人に嫌われ,避けられている」と妄想的に確信する症例群を分離した概念である。その概念の大枠は以下のようである。1)非統合失調症性の,慢性化傾向を持つ精神疾患。疾病分類学上は精神病と神経症の中間に位置する境界領域に属する。ICD-10ではF 22.0(妄想性障害),DSM -W-TR では297.1(妄想性障害・身体型)へ分類するのが比較的妥当である。2)多くが思春期から青年期に発症し,症状は特徴的(後述)な妄想とそれに起因する退避的な生活態度である。病態の背景には思春期・青年期の心性※1,特に対人恐怖心性が密接に関係している。3)治療に関しては,患者を受容した支持的な精神療法と生活調整を根気よく続けることが重要であり,薬物療法は補助的な役割となろう。なお本稿は,精神科治療学,16(増);399-403,2001.を改訂したものである。
Key words:adolescent paranoia, schizophrenia, social phobia, delusional disorder

●てんかん―児童精神科領域で必要な知識―
兼本浩祐
 児童・思春期の臨床において,精神科医が知って役立つてんかんの知識について概説した。最初に自閉症の症例を通して,我々がてんかん絡みでアドバイスを求められる典型的な児童・思春期に関わる病態においては,てんかん,発達障害,薬剤の影響が重畳して問題を構成していること,さらにこれに両親の不安や医療に対する不信が加わり複雑な事態となっていることを強調した。次いで,頻度の高いてんかん症候群を発症年代別に概観し,その特徴を提示した。さらに,遺伝子の変異を背景として,発達障害とてんかんが相互に独立に,しかし同一の背景因子から他の神経学的所見をあまり伴わずに出現する大脳異形成,遺伝性精神発達遅滞,母斑症について論じた。また,抗てんかん薬を3つのグループに分けて,高次認知機能への影響を論じるとともに,最後に,幼児期から学童期にかけて発症し,特異な学習障害や全般性の発達障害を主要な症状とするCSWS,LKS といったてんかん症候群を紹介した。
Key words:CSWS, LKS, autism, TLE, antiepileptics

●小児・思春期心身症
宮本信也
 心身症は,基本的に身体疾患ではあるがその完治のためには心理社会的要因への介入が不可欠なもの,ととらえることができる。したがって,心身症の治療では身体的治療が不可欠であり,心理社会的要因への介入は必ずしも専門的な精神療法を意味しない。特に,小児では環境調整だけで十分なことも少なくない。実際,小児の単純な心身症では,不用意に小児の心に直接介入することは逆効果になることさえある。小児では,成長発達しつつある特性から,さまざまな心理的ストレスが身体症状の形で表面化することが多く,成人よりも心身医学的対応の対象となる状態が多い。狭義の心身症の他に単一症候的な身体症状や身体症状を伴う行動障害も対象となる。心身症は,過敏性腸症候群などの特徴のある疾患を除けば,慢性身体疾患の経過の不自然さと心理社会的要因への介入による改善の確認という診断的治療手法で診断することが多い。
Key words:psychosomatic diseases, childhood, adolescence

●統合失調症
松本英夫
 若年発症の統合失調症について,主に自閉症との異同の問題を中心にした研究の歴史を概説し,現在,ほぼコンセンサスが得られている概念を紹介した。またDSM -W-TR を中心とした診断の特徴を述べ,成人と同一の診断基準を使用していること,それゆえに統合失調症の診断基準としては厳格であること,などについて述べた。さらに薬物療法について,定型抗精神病薬での経験と成人で使用されているアルゴリズムを参考に,現時点において推奨される方法を,病期を急性期,回復期,残遺期に分けて論じた。そして子どもの治療においても第一選択薬となっている非定型抗精神病薬について副作用も含めて論じた。最後に未だ研究も臨床的な整備も進んでいない心理社会的治療について,現状と今後の課題を述べた。
Key words:early-onset schizophrenia, pharmacotherapy, antipsychotic drugs, psychotherapy

●気分障害
傳田健三
 エビデンスに基づいた児童・青年期の精神障害の治療ガイドラインはこれまでほとんどなく,大人の治療ガイドラインをそのまま引用することが少なくなかった。最近になって,児童・青年期のうつ病に対するいくつかのSSRI の有効性が二重盲検比較試験によって実証されるようになり,精神療法としても認知行動療法や対人関係療法の有効性が実証されるようになってきた。また,児童・青年期のうつ病においては,SSRI による自殺関連事象の増加の問題が生じたため,むしろ厳密な治療ガイドラインが作られつつある。本稿では,(1)児童・青年期の大うつ病性障害に対する薬物療法に関する最近の知見を述べながら,SSRI による自殺関連事象の問題を整理し,(2)児童・青年期のうつ病に対する精神療法について概観し,(3)代表的な児童・青年期のうつ病性障害の治療アルゴリズムを紹介し,最後に,(4)双極性障害の治療について,その概念の混乱の問題も含めて述べた。
Key words:medication algorithm, child and adolescent depression, activation syndrome, bipolar disorders, cognitive-behavioral tharapy

●PTSD―幼児期のPTSD とその治療―
長尾圭造
 交通事故後の幼児のPTSD 例を示し,その治療経過の概要を示した。幼児においてもPTSD は成人同様の症状を示すが,幼児の特性による症状もある。治療は,母親の健康度が高い場合には,共同治療者として日常生活での介入方法を教示し,実施してもらう。具体的には,悪夢に対する安心できる正夢の見方(lucid dreaming)や,遊びの中でことばかけによる安心感獲得とトラウマ解決の仕方の介入,基本的に母親の傍から離さない不安・分離不安の防止などを指示した。結果は,症状が徐々に減衰すると思われたが,その後の怪我や外傷が重なり,直線的に軽減しなかった。しかし,臨床的には,受診後3ヵ月でほぼ元の日常生活が送れる目処に回復した。早期からの介入が重要と思われた。
Key words:PTSD, infant, lucid dreaming, regression

●強迫性障害
齊藤万比古  井上喜久江  小平雅基
 強迫性障害(obsessive compulsive disorder:OCD)とは不合理であると感じる自我違和感を伴う強迫観念あるいは強迫行為を中心症状とし,苦痛を生じて社会生活に障害を及ぼす障害である。子どものOCD は自我違和感がなく親を巻き込んで症状を呈することが多く,また発達障害やその他の精神疾患との鑑別も比較的難しい。子どものOCD の治療として認知行動療法(なかでも曝露反応妨害法)と薬物療法が推奨されているが,どちらも子どもへの適用という点では課題も多い。また入院治療には子ども特有な治療的意義もあることについて述べた。
Key words:obsessive compulsive disorder, childhood, egodystonic, cognitive behavioral therapy

●社会恐怖(社会不安障害)
高岡健
 子どもの社会恐怖は,比較的低年齢では全般性の亜型を示し,比較的年長の場合は特異性の亜型を示すことが多い。患者がおおむね小学生以下の場合は,通院の目標を「病院へ遊びに行くこと」に定め,遊戯療法や箱庭療法を通じて楽しみながらカタルシスをはかる。親面接では,親による症状の過小評価・親の過剰な不安・自責感に留意した上で,代理学習や情報伝達といった家族因子を具体的に取り上げる。患者がおおむね中学生以上の場合には,通院の目標を「行動の範囲を(病院という)1ヵ所分だけ広げること」に定め,陰性の自己評価の軽減をはかる。治療の進展とともに患者が社会的場面への参画を試みようとする際には,imipramine, sulpiride, mexazolam などの薬物療法や,皮膚電気刺激による制御法(山下)を併用する。親面接では,心的外傷への理解が重要であり,いじめの可能性を常に念頭におく。いずれの年齢においても,学校教師の理解と協力が不可欠である。
Key words:social phobia(social anxiety disorder), child and adolescent, treatment

●パニック障害
若子理恵
 「パニック障害」は生涯有病率2〜3%と推定されている成人ではしばしばみられる病態であるが,児童・青年期についてはあまり論じられることがなかった。実際,成人と同じ診断基準で診断した場合,児童・青年期,特に年少児の症例を児童精神科臨床で経験することはそれほど多くない。しかしパニック発作が起きても救急外来や小児科のみ受診し,未診断のままになっている可能性もある。また分離不安障害や社会不安障害などほかの不安障害の症例でパニック発作を起こす子どもは稀ではなく,パニック障害との合併の有無や鑑別診断が必要であると考えられる。治療では,薬物療法としてベンゾビアゼピン系薬剤(BZD)やSSRI(児童期での使用は賦活症候群などに対する注意が必要である)などが使用される。精神療法としては,心理教育を含む認知行動療法などが行われている。他の児童期神経症と同様に心理社会的背景にも注目し,家族への対応や環境調整も行われることが大切である。
Key words:panic disorder, panic attack, SSRI, cognitive-behavioral therapy

●特定の恐怖症
大隈紘子
 子どもの特定の恐怖症について臨床の立場から報告した。子どもの恐怖症を診断する時には,子どもの年齢や性別による発達学的,あるいは疫学的な研究から,子どもの精神保健の範囲で考えたほうがよく,精神科に紹介しないで成長を見守るほうがよい不安や恐怖の一群があることを述べた。つぎに,子どもの特定の恐怖症と診断する際の留意点,特に親の精神病理や性格への配慮について触れた。不安や恐怖に対する精神科薬物療法の最近の潮流についても少し触れた。子どもに精神科の薬物を使用する場合には,子どもの親に精神科薬物に対する現実的な理解を促すことが前提になる。特定の恐怖症の心理社会的な治療の代表である認知行動療法について,子どもを治療する際の実際的な治療の方法をやや詳しく説明した。特にモデリング,系統的脱感作法,トークンエコノミー,親訓練について述べた。最近の不安や恐怖障害に対する認知行動療法では,多技法を組み合わせた治療プログラムの適応や,子どもの認知的側面を重視した治療技法になっている。
Key words:specific phobia, anxiety, developmental consideration, SSRI, cognitive behavioral therapy

●解離性障害
河村雄一  村瀬聡美
 解離性障害は,解離性同一性障害(いわゆる多重人格),健忘,遁走などに分類される。児童期では「特定不能の解離性障害」もしばしばみられる。何らかの心的外傷体験がきっかけとなって症状が出現することが多い。治療は主に精神療法であるが,児童期の場合は言語化が難しいため,箱庭療法などの非言語的な技法が用いられることが多い。また家族や学校などの影響も大きいため,環境を調節することも大切である。つまり解離症状自体よりも,背景となる本人の気質や周囲との人間関係に焦点を当てながら,定期的な治療を続けていく。補助的に薬物療法が用いられることもあるが,大量服薬などに注意が必要である。予後は比較的良好な印象がある。しかし最近は児童虐待の急激な増加といった要因も加わり,解離を取り巻く背景も複雑化している。そのため解離を個人の症状として捉えるのではなく,社会全体の問題として予防法を考えなければならない。
Key words:dissociative disorder, dissociation, psychotherapy

●離人症性障害
岩井圭司
 DSM-Wにいう離人症性障害について,その症候論的位置づけと日常臨床の中で実施可能な精神療法的対応について述べた。離人症性障害の中核症状は,自分が自分の身体から遊離して(体外離脱),あたかも自分自身を外部から観察する(自己観察)ということにある。離人症状は,解離性症状の一つとして位置づけられる。離人症性障害に対する精神療法では,離人症状そのものではなく離人症状を抱えて生きる患者の苦悩に焦点をあて,長い経過の中で症状とどのように付き合っていくかということを中心に考えていくことが必要である。このことに関連して,「星座法」という治療技法を提案した。
Key words:depersonalization, derealization, dissociation, adolescence, psychotherapy

●身体表現性障害
根來秀樹  飯田順三
 身体表現性somatoform という言葉はsomaという「身体」を意味するラテン語に由来している。身体表現性障害とは多彩な身体症状を呈するものの,検査をしても現在の医学ではそれに見合う根拠が見出せない病態をいい,そのため学校生活や家庭生活に障害をきたしている。子どもは本来,発達の過程で身体面の発達に比べ,精神面の発達が遅れる場合がしばしばあって,例えば何らかのストレスに遭い,それを言語化という形ではなく身体化として表現するのも稀ではない。現在,DSM -W-TR では,身体化障害,転換性障害,疼痛性障害,心気症,身体醜形障害,鑑別不能型身体表現性障害,特定不能の身体表現性障害の7つが身体表現性障害に含まれている。治療のポイントは医療への依存を減じ,次に機能を改善し,コントロール感覚を増強し,自尊心を向上させることが全体の戦略と言える。
Key words:somatoform disorder, somatization disorder, conversion disorder, hypochondriasis, body dysmorphic disorder

●物質使用障害
尾崎茂
 依存性物質の乱用は依存を形成するとともに,急性中毒や精神病性障害を誘発する。多くの物質乱用は思春期・青年期に始まり,深刻な医学的,心理・社会的障害をもたらし,回復には大きな困難が伴う。若年者における物質乱用・依存では,多剤乱用・依存の傾向,依存の進行が早いこと,気分障害や摂食障害などが併存する割合が高いといった特徴のほか,自傷・自殺企図や社会的逸脱行為,家族の嗜癖行動障害や虐待等の生活史的問題が存在することが多い。治療としては,集団精神療法,個人精神療法,薬物療法,自助グループへの参加などのほか,家族への治療的アプローチなどを状況に合わせて適切に用いる。また,精神医療の枠組みでは十分な治療効果が期待できない場合には,教育,福祉,司法・矯正など関連する多領域間の連携が必要となる。しかしながら,若年者では治療脱落が起こりやすく,治療効果も上がりにくい傾向がみられる。今後,若年者に特化した治療プログラムの開発や,家族介入技法の開発が必要である。
Key words:substance abuse, substance dependence, juvenile alcoholics, substance-induced psychotic disorders, comorbidity


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