●スクールカウンセリング
中野明徳
日本のスクールカウンセラー(SC)の歴史は十年余りであるが,非常勤職のためにアメリカと比べてその活動範囲がきわめて限定されている。アメリカのSC は常勤職で,児童生徒の学業的発達,キャリア的発達,個人・社会的発達の領域において,他の教員と協働しながら国家的基準をもつスクールカウンセリング・プログラムを遂行する者であり,ただ単にカウンセリングやコンサルテーションを行う者ではない。現在の日本でスクールカウンセリングの課題は不登校やいじめの他に,1990年代以降に急増している発達障害,児童虐待,衝動的暴力への理解と介入である。学校不適応行動への対応にあたって,発達障害の鑑別は今やSC の重要な仕事になっている。
Key words:school counseling, school counselor, national standard, non-attendance at school, developmental disorders
●精神療法―児童期・青年期の統合的アプローチ―
村瀬嘉代子 飯田昭人
人のこころを成り立たせ,それに影響を及ぼすには,生物・心理・社会的な多次元のさまざまな要因が輻輳している。ことに重篤なクライエントや,問題が複雑である場合,必然的に内面的心理的働きかけに加えて,環境への働きかけ,社会資源利用など,多面的・統合的アプローチが求められる。また,精神療法とは,それを行う治療者の要因が大きく関与している。理論や技法を論じるばかりでなく,治療者の要因を検討することは必須である。
Key words:psychotherapy for children, family transfiguration, cooperation, sense of balance, multifaceted approach
●集団療法
渡部京太
児童・青年期の集団療法は,対象となる子どもの年齢や発達状態によって,活動を媒介としたグループと言葉を媒介としたグループに大きく分けることができる。活動を媒介にしたグループには,主に学齢以前の子どもを対象としたプレイ中心の集団療法,小学生から中学生を対象としたゲームやスポーツ,創作活動,レクリエーションなどを中心とした活動集団療法(activity group therapy:AGT)がある。また,言葉を媒介にしたグループには,主に中学後半から高校以降の子どもを対象にした集団療法があり,両グループの移行段階にある子どもを対象とした活動-面接集団療法(activity-interview group therapy:AIGT)がある。本稿では,活動,言葉を媒介にしたいずれのグループでも,治療者の役割として柔軟でしかも毅然とした姿勢でバウンダリーを守ることが重要であることを強調した。
Key words:group psychotherapy, activity group therapy(AGT ), activity-interview group therapy(AIGT), boundary, conductor
●行動療法
山上敏子
行動療法は学習を主な手段にした治療の方法の総称であり,多くの治療技法や治療法や治療プログラムをもっている。行動療法はその初期から児童青年期の精神科・心理臨床では積極的に用いられていた。現在では,その適用対象領域は広く,疾患や障害の治療に限らず,発達の支援や養育技術の援助や,環境への援助,健康の増進などの疾患予防や健康増進までに展開されている。そして,対象領域が拡大されるのに呼応しながら技法や治療法や治療プログラムも増え,かつ繊細になってきた。本論文では,行動療法の適用の例と,児童青年期の臨床で用いられることの多い基礎技法と治療法について,その一部を説明した。また行動療法の進め方と児童青年期における進め方の留意点について簡単に述べた。
Key words:behavior therepy, CBT (cognitive behavior therapy), parent training, techniques and treatment program
●療育
日戸由刈 本田秀夫
療育とは,発達に障害のある子どもを対象とし,発達の促進と生活の質の向上を目的とする治療技法である。障害についての科学的な理解に基づき,幼児期から成人期までのライフステージに沿った継続性と一貫性のある目標設定や配慮のもとで行うことが強調される。機関や領域を越えた地域性と包括性が求められる点で,療育の理念はリハビリテーションのそれと共通する。本稿では,社会性の発達に著しい障害のみられる自閉症スペクトラム障害に対する療育を中心に述べた。自閉症療育の歴史を概観し,自閉症特有の心理特性に配慮した療育の考え方を述べるとともに,最近注目されているアスペルガー症候群に焦点を当てた療育の実際について紹介した。
Key words:developmental disorders, autism, Asperger’s syndrome, early intervention, community care
●家族支援,家族療法
飯田順三
子どもの治療には家族の協力は不可欠であり,同時に家族を支援することも重要である。システムズ・アプローチから発展したさまざまな家族療法が存在するが,本稿では特殊な理論を紹介するのではなく実際の臨床場面における家族支援について述べた。問題を抱える子どもをもった親の苦悩を理解する重要性を指摘し,親支援の留意点について述べた。また家族機能について触れ,家族は子どもに対して相反するスタンスをバランスよく働かせることが期待されていることを述べた。さらに近年盛んになりつつある家族心理教育について触れ,最後に筆者らが取り組んでいるペアレント・トレーニングを紹介した。これは注意欠陥/多動性障害児をもつ親が子どもたちの行動をよく理解し,行動療法に基づく効果的な対応方法を学び,よりよい親子関係を築くことと子どもの症状改善や社会性の向上をめざすものであり,有効性が確認されているものである。
Key words:family support, family therapy, parent training, psychoeducation for family
●自閉症
杉山登志郎
自閉症の治療を,最新の脳研究の成果を踏まえてまとめた。自閉症は様々な病因によって生じる先天性の社会性の障害であり,それ故に治療は大きく二つに分けられ,社会性の障害への治療教育と,二次障害に対する治療である。社会性の治療を行うにあたって,既存のプログラムを用いなくとも,自閉症の精神病理を踏まえた対応を行うことで,治療教育が可能であることを指摘した。また様々な二次障害に対する,環境療法,薬物療法,精神療法を巡る最新の知見を紹介した。
Key words:autism, PDD, treatment, social function