●寛解,再燃,砂丘現象(永田)─統合失調症の残遺,欠陥状態とは何か?─
津田 均
永田俊彦氏が,目覚めの体験,挿話性病理現象,砂丘現象で述べたことのエッセンスは,一部の欠陥状態までを含めた統合失調症の残遺状態とは,そこから寛解過程でもあり,それと背中合わせに再燃過程でもあるような「過程」が発動するポテンシャルを持ったなにがしかであるということであろう。この過程はしばしば「身体」を通路とする。この過程が多くの場合「砂丘現象」として現われるのは,それが頓挫し,あたかも何ら跡を残さないがごとくに終わるからである。統合失調症の精神病理学モデルは,この永田氏の観察を含まなければならないが,現在のもっとも洗練されたモデルもその要請にこたえてはいない。本稿では,「目覚めの体験」から自殺に至った自験例を呈示するとともに,クリティカルな局面が時間をかけて乗り越えられた自験例に言及した。本稿は,永田氏の論文が要請するところにこたえるモデルを呈示するものではないが,現在「神経心理学的」と呼ばれる欠損症状に潜む社会性,関係性,自己性の問題を指摘し,「身体」を通路とする「過程」の精神病理学と治療論が必要であることを提唱する。
Key words:remission, recurrence, a sand hill phenomenon, awakening, residual states of schizophrenia
●統合失調症患者の目覚めの体験と精神科リハビリテーション
広沢 正孝
統合失調症患者の「目覚め」の体験とは,寛解後疲弊病相ないしはいわゆる欠陥状態にある者が体験する,共同存在への「目覚め」であり,患者は突然「自己が他者との間で生きている」という感覚を体験する。この「目覚め」は統合失調症患者に健常者の世界体験をもたらし,逆にこの体験の陳述は,われわれに彼らが生きていた世界を逆照射してくれる。当現象は,統合失調症の経過(中井)でみると,寛解前期から寛解後期へ移行する「第2の臨界期」を特徴づけるものであり,患者にとっては寛解と再燃の道を分ける鍵となる体験でもある。永田が提唱した当現象は,今日もその治療的意味は大きいが,精神科リハビリテーション手段が豊富になった今日,この体験のされ方に多少の幅が出てきているようにも思われる。今回はデイケア現場で出会った症例をもとに,精神科リハビリテーション現場での「目覚め」の特徴に触れた。
Key words:experience of awakening, schizophrenia, relapse, psychiatric rehabilitation, day care