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■特集 認知症に対する薬物療法の課題
●認知症に対する薬物療法―認知機能の改善とBPSDに対する治療との関係―
新井 平伊
超高齢社会の中で最重要課題となっている認知症の薬物療法について,重要な症状である認知機能障害とBPSDの関連から概説した。認知機能障害とBPSDの出現は病期との関連で理解し,互いの症状形成への影響をふまえ,治療を組み立てていくことが必要である。また,どちらを先に治療介入するかも重要となってくることを指摘した。最後に,認知症の治療は薬物療法だけではないことや治療目標についてもふれた。
Key words:dementia, cognitive dysfunction, BPSD, pharmacotherapy, cholinesterase inhibitor
●アルツハイマー型認知症の症状改善薬の開始時期について
品川 俊一郎 繁田 雅弘
コリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)を中心としたアルツハイマー型認知症(AD)の症状改善薬は,疾患の進行抑制の観点からなるべく早期から使用することが望ましい。そこで問題となるのが,ADの前駆状態である軽度認知障害(MCI)に対して,これらの薬剤を投与すべきかどうかである。これまでに行われたMCIに対するAChEIの治療試験ではADへの進展を遅らせる効果を認めていない。MCIの概念が拡大しているため,MCIの中でもよりADに進展する可能性が高いサブグループを抽出して評価する必要がある。バイオマーカーの進歩により,ADの発症前診断も可能になりつつあるが,臨床場面においては詳細な病歴の聴取が重要であることに変わりはない。早期から治療を開始するほど治療期間が長期間にわたるため薬物療法のみでなく包括的な対応が求められる。
Key words:Alzheimer's disease, mild cognitive impairment, acetylcholine esterase inhibitor, diagnostic criteria
●アルツハイマー型認知症の重症例に対する症状改善薬の使用法について
由井寿美江 荻原 朋美 天野 直二
アルツハイマー型認知症(AD)に対する薬剤治療として,認知機能障害に対する抗認知症薬とBPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia:認知症の行動心理症状)に対する向精神薬の投与が挙げられる。実際の臨床の場では,どちらも投与によるリスクとベネフィットを考慮して治療を進めていく必要があり,状況に応じて治療中止という選択もありうる。抗認知症薬の効果が頭打ちとなった場合は,増量か新規薬剤の追加しかないが,現時点では選択肢が限られており,今後の研究の成果が待たれる。抗認知症薬は薬価が高いため,医療経済面という視点からみれば,高度ADに対する治療の費用対効果は少ないと疑問視する立場もある。病状が進み,治療薬によって明らかな改善がみられなくなった場合は,治療中止という選択について家族と十分検討し決定する。
Key words:Alzheimer's disease, dementia, donepezil, memantine, antipsychotics
●アルツハイマー型認知症の症状改善薬の効能の限界について
橋爪 敏彦
現在わが国でアルツハイマー型認知症(AD)の適応として認可されているのは,AChE(acetylcholin esterase)阻害薬であるdonepezil,galantamine,rivastigmineおよび,NMDA(N-methyl-D-aspartate)受容体の拮抗薬であるmemantineの計4種類であり,現時点でのADの世界水準の治療が可能となっている。しかしこれは症状を緩和し進行を遅らせるsymptomatic drugs(症状改善薬)の範疇に入るものであり,疾患自体を改善させるdisease modifying drugs(疾患修飾薬)ではない。そのため,これらはADの認知機能障害に対して一時的な進行の抑制を認め,悪化の遅延が期待できるが,病態の進行を止めることはできないという限界がある。またさらにその治療薬の進行抑制効果が認められるresponderと,治療効果が不良で,認知機能の低下率が高いnon-responderとが認められている。治療効果を考慮した場合,できるだけ早期に,治療導入時に認知機能が高く保たれている段階で,副作用をコントロールして高用量で使用できることが望ましい。
Key words:symptomatic drugs, acetylcholin esterase inhibitor, N-methyl-D-aspartate(NMDA)receptor antagonist, responder
●アルツハイマー型認知症の症状改善薬の併用について
下濱 俊
コリンエステラーゼ阻害薬(cholinesterase inhibitors : ChEI)とN-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体拮抗薬のmemantineは,アルツハイマー型認知症(Alzheimer’s disease : AD)に対して承認されている2種類の薬剤である。ChEIあるいはmemantineの単独療法に対する併用療法の有効性について報告されている3つの二重盲検ランダム化比較試験(randomized controlled trial : RCT)結果を用いたメタ解析では,中等度から重度のAD患者に対して併用療法が認知,日常生活機能,行動・心理症状の評価尺度でわずかではあるが統計学的に有意な有効性が示されている。しかし,評価尺度や患者特性の不均一が見られており,併用療法が臨床的に単独療法に比べ有用かについてはさらなる研究が必要と考えられる。
Key words:Alzheimer's disease, dementia, combination therapy, cholinesterase inhibitors, memantine
●抗認知症薬の副作用についての再考
長濱 道治 宇谷 悦子 堀口 淳
アルツハイマー型認知症の中核症状に対する薬物療法は,抗認知症薬として,2010年まではコリンエステラーゼ阻害薬であるdonepezilのみが使用されていたが,2011年にコリンエステラーゼ阻害薬であるgalantamine,rivastigmine,およびNーメチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体に対する非競合的拮抗薬であるmemantineといった新薬が登場した。これらの薬物は,基本的な特徴や剤形が大きく異なることから,今後使い分けが進んでいくと思われる。現時点では,行動障害(俳徊,無目的な行動など)や,興奮・攻撃性(暴言,暴力)が前景に立っている場合には,memantineを先行して使用し,自発性や意欲の低下が前景に立っている場合には,コリンエステラーゼ阻害薬を先行して使用することが推奨されており,経験的にも実践しているところである。認知症治療を考える上で,抗認知症薬の服薬コンプライアンスが重要であることは言うまでもないが,抗認知症薬を服用する患者本人だけでなく,服薬を管理する介護者も重要な存在であり,この介護者との間に良好な相互関係(コミュニケーション)を形成することも忘れてはならない。そのため,患者本人と介護者に対しては,病状(病気)の説明のほかに,抗認知症薬について,その効果や副作用,また副作用の早期発見やその対処法などの説明も肝要である。
Key words:Alzheimer's dementia, donepezil, galantamine, rivastigmine, memantine
●アルツハイマー型認知症のBPSDに対する治療―幻覚,妄想,焦燥,興奮に対する治療と意欲低下に対する治療―
山下 功一
アルツハイマー型認知症のBPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia)に対する治療について考える場合,まず,焦点となる症状の吟味,確定が大事である。これは,日常診療の中で,例えば,当初家族が,幻視があると訴えて受診しても,診察の中で実際には誤認や妄想,取り繕いや作話など他の症状であることが明らかになっていくケースや,経過の中で症状の中心や内容が変わっていくケース,一時的なせん妄の合併の影響によるケースなどが見受けられるとともに,症状の確定は,その後の治療の選択に影響を及ぼすばかりではなく,病名診断にも関わってくるからである。今回,アルツハイマー型認知症の代表的なBPSDである,幻覚,妄想,焦燥,興奮,意欲低下について,最初に,それぞれの特徴を述べ,その後,治療の第一選択である非薬物的対応と薬物療法について,どのように進めていくか解説した。
Key words:dementia of Alzheimer type, BPSD, therapy
●認知症のうつ状態に対する抗うつ薬使用の適否について
馬場 元
認知症ではうつ病・うつ状態が併存することが多いが,こうした認知症に伴ううつ状態に対しては対症的に抗うつ薬が使用されている。ところが最近の比較的大規模な臨床研究で認知症に伴ううつ状態に抗うつ薬は有効ではないという結果が報告され,抗うつ薬の使用を再考する必要にせまられた。しかしここで強調されるべきことは,抗うつ薬使用を否定することではなく,うつ状態だからと機械的に抗うつ薬を投与せず,その背景にある心理・社会的問題を検討し,そしてまずは環境調整や心理的アプローチを試みることの重要性であると思われる。その上で必要な患者に慎重に抗うつ薬を使用することは,抑うつ状態に苦しむ認知症患者を救う1つの選択肢として有用であると考える。
Key words:dementia, depression, antidepressant, Alzheimer’s disease, RCT
●アルツハイマー型認知症の症状改善薬と向精神薬の併用による効果の増減について
犬塚 伸
アルツハイマー型認知症の中核症状である認知機能低下に対して症状改善薬を使用しながら,周辺症状であるBPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia)の幻覚・妄想や焦燥性興奮,あるいは抑うつ症状に対して抗精神病薬や抗うつ薬を追加処方することは日常臨床場面ではよくみられる光景である。本稿では,日頃行っている症状改善薬と向精神薬(抗精神病薬あるいは抗うつ薬)の併用により効果が増減するかどうか,また安全性はどうなのか,示すこととした。両薬剤の併用による認知症の中核症状に対する効果ははっきりしないこと,併用によるBPSDに対する効果の増強はある程度は期待できること,併用により錐体外路症状などの有害事象が出現する場合があることなどが明らかになった。症状改善薬と向精神薬の両薬剤を処方する際には,有害事象に十分注意を払う必要があることを再認識するべきである。
Key words:Alzheimer’s disease, cholinesterase inhibitor, antipsychotics, antidepressants, interaction
●レビー小体型認知症(DLB)における認知機能障害に対する薬物治療
長濱 康弘
Lewy小体型認知症(DLB)では記憶,視知覚・構成能力,注意,遂行機能などが広範に障害される。エピソード記憶障害はAlzheimer病(AD)より軽く,想起障害の寄与が大きい。構成障害はADより目立ち,視空間認知,物体認知や低次の視知覚も障害される。注意障害はADより広範で,持続性・選択性・分配性注意のすべてが障害される。遂行機能障害もADに比べて強い傾向がある。DLBでは認知機能の動揺が特徴的で,ADの認知障害とは質的にも異なっている。コリンエステラーゼ阻害薬はDLBの認知機能障害や臨床転帰を改善し,特に注意障害や遂行機能障害に効果が認められる。Memantineは臨床的にはDLBに有効と思われるが,認知機能障害に対する効果は明確ではなく今後の検討が必要である。
Key words:dementia with Lewy bodies, attention, executive function, cholinesterase inhibitor, memantine
●レビー小体型認知症(DLB)におけるBPSDに対する薬物療法の課題
笠貫 浩史 井関 栄三
レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies : DLB)は,幻視,不安,抑うつなどの精神症状を高頻度に合併し,約半数の症例では抗精神病薬への過感受性を示すことが知られ,アルツハイマー病とは異なる治療戦略を要する。しかし,行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia : BPSD)に対する薬物治療のエビデンスは非常に乏しいのが現状である。実際には抗認知症薬のうちコリンエステラーゼ阻害薬(choline esterase inhibitors : ChEIs)がBPSDの第一選択薬であり,ChEIsのみではBPSDの改善が十分でない場合,あるいは副作用等の理由で投与が困難な場合には,適宜抗うつ薬,非定型抗精神病薬,漢方薬などを用いることとなる。本稿では各々の薬物を用いたBPSDの治療に関してまとめ,今後の課題について述べた。
Key words:dementia with Lewy bodies, ramelteon, yokukansan, visual hallucination, neuropsychiatry-inventory(NPI)
●前頭側頭型認知症(FTD)の認知機能に対する薬物療法―その可能性と限界について―
川勝 忍 小林 良太
前頭側頭型認知症における認知機能に対する薬物療法として,アルツハイマー型認知症の治療薬が有効かどうかが検討されているが,否定的な結果が多い。コリンエステラーゼ阻害薬であるdonepezil,rivastigmine,galantamineでは少数例でのオープンラベル試験が多く,認知機能障害に対して効果は乏しく,むしろ一部の症例では興奮,易刺激性,脱抑制,異常行動などの精神症状を悪化させる可能性がある。Memantineについては,NMDA受容体拮抗作用が前頭側頭型認知症にも有効ではないかと期待されたが,比較的多数例で行われたランダム化二重盲検プラセボ比較試験でも,精神症状に対して効果がないだけでなく,認知機能をむしろ悪化させるという結果であり,前頭側頭型認知症に対して使うべきではないとの結論となっている。その他の薬物療法でも,前頭側頭型認知症の認知機能を明らかに改善させる薬剤はないので,現在可能な薬物療法は,SSRIや非定型抗精神病薬による精神症状や行動異常を対象とした治療である。
Key words:frontotemporal dementia, donepezil, rivastigmine, galantamine, memantine
●前頭側頭型認知症の精神症状
福原 竜治 池田 学
前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia : FTD)は初期より特徴的な性格変化と社会的行動の障害を呈し,behavioral and psychological symptoms of dementia(BPSD)が症状の主体となる疾患である。FTDの症状は前頭葉そのものの機能低下による症状と,前頭葉の脳の後方(後方連合野,辺縁系,大脳基底核)への抑制障害により,その部位の本来の行動パターンが露呈して出現する症状に分けて考えることができる。本稿ではまず症状発現の機序に分けてFTDの精神症状について概説する。FTDの精神症状の治療については,現在有効な薬物療法はあまりなく,非薬物療法が主体である。非薬物療法のうち,FTD患者特有の被影響性亢進と常同性を利用し行動の変容を促すルーティン化療法がある。FTD患者ではエピソード記憶や視空間能力などの認知機能が保たれているため,行動異常を適応的に変容することで,患者本人のQOLを高め介護者の負担感を軽減することが期待できる。
Key words:frontotemporal dementia (FTD), frontal lobe dysfunction, behavioral and psychological symptoms of dementia (BPSD), routinizing therapy
●血管性認知症(VaD)の認知機能に対する薬物療法
矢田 健一郎 冨本 秀和
血管性認知症は,脳血管障害に起因する認知症で,脳血管障害を予防できれば,血管性認知症の発症もまた予防できると考えられる。その点から血管性認知症に対する治療は,脳卒中の一次予防・二次予防を主とした,脳卒中危険因子の管理がもっとも大切なものとなる。危険因子の中でも,血圧管理が特に重要で,中高年期の高血圧が老年期の認知機能に大きく影響することは明らかである。血圧管理と血管性認知症の関係を見た臨床試験の結果からは,老年期における血圧管理が,認知症の発症予防,認知機能の低下抑制に対して,有効性が期待される結果であると考えられるが,確固たるエビデンスが形成されたとは言い難い。血管性認知症患者においてもアセチルコリン神経投射路が障害されており,コリンエステラーゼ阻害薬の効果が期待される。臨床試験においても抗認知症薬の有効性が報告されているが,わが国での保険適用は認められていない。
Key words:vascular dementia, cognitive function, pharmacotherapy
●認知症に対する薬物療法の今後の展望
田中 稔久 武田 雅俊
認知症,特にアルツハイマー病の中核症状は記憶障害であり,その主たる原因がアセチルコリン作動性神経の減少であるという考え方に基づいてアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は開発され,この薬剤は記憶低下の進行を抑制することに貢献している。しかし,現行の薬剤には限界があり,根治療法にはなりえていない。また,アルツハイマー病には,アミロイドβおよびタウ蛋白といったものが脳内に異常に蓄積することが知られているが,これらの神経病理学的変化を理解することは,認知症の進行を根本的に抑制するdisease modifying therapyの開発においてきわめて重要である。そして,アミロイドをターゲットとする治療法(免疫療法,セクレターゼ阻害剤,アミロイド凝集阻害剤)と,タウ蛋白をターゲットとする治療法(リン酸化阻害剤,タウ凝集阻害剤,免疫療法)とが現在検討されている。認知症の分子レベルでの理解が進み,多くのdisease modifying therapyが完成されることが期待されている。
Key words:dementia, Alzheimer's disease, amyloid, tau, immunotherapy
■研究報告
●意識変容状態で再発した血栓性血小板減少性紫斑病の1症例
本間 昭博 清水 邦夫 久保田孝雄 丸山 徹
20代の時に検査所見に先行する発熱と精神病状態で初発し,その後重篤化した血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の既往歴を持つ30代男性の再発例を経験した。今回も前回と同様に初回の血液検査では明らかな異常を認めなかったが,発熱と意識変容状態を呈していたため,TTPの初期症状である可能性を念頭に置き,内科と併診する形で精神科に臨時入院とした。前回入院時の臨床経過を踏まえ,当初より意識変容がTTPによる症状性精神病の一部であることを強く疑い,繰り返しTTP診断に必要な諸検査を実施した。その結果,TTPに特徴的な異常を早期に発見することができ,時期を逸することなく身体的治療を開始することでTTP症状が顕在化・重症化するのを防ぐことができた。TTPにおいて意識変容等の精神病状態が先行することは珍しく,貴重であると同時に,身体所見や検査所見に先行する精神症状の重要性を再認識できる症例でもあるので報告する。
Key words:thrombotic thrombocytopenic purpura, symptomatic psychosis, altered consciousness
■臨床経験
●チック障害とトゥレット障害にblonanserinが奏功した7例の使用経験について
岡 崇史 豊永 公司
チック障害,トゥレット障害の治療は家族ガイダンスや心理教育及び環境調整が基本とされているが,チック併発症状が重度である場合や環境への不適応が顕著である場合には抗精神病薬による薬物療法が考慮される。薬物療法としては,従来薬であるhaloperi-dol,pimozideに加え,最近では非定型抗精神病薬の有用性の報告もされており,実臨床において用いられる場合がある。Blonanserinはhaloperidolと同様に強いドパミンD2受容体拮抗作用及びrisperidoneと同様の強いセロトニン2A受容体拮抗作用を併せ持ち,一方で両薬剤に比しアドレナリンα1やヒスタミンH1への親和性が低く,過鎮静や体重増加など,服薬の妨げに繋がる副作用を起こしにくい薬剤であると考えられている。この度,チック障害あるいはトゥレット障害において,他剤無効症例などにblonanserinが投与された7症例に対し,後方視的に調査を行ったので報告する。全7症例においてチック症状の改善効果が認められたが,2例で月経不順・プロラクチン高値,流涎の副作用が認められた。今後,blonanserinは有効性と安全性の面から,チック障害,トゥレット障害の薬物療法において,他剤で効果不十分な場合や忍容性に問題がある場合には選択肢の1つとなりえることが示唆された。
Key words:blonanserin, tic disorders, Tourette's disorders, atypical antipsychotics
■資料
●ベンゾジアゼピン注射剤のリスク管理問題―事故報告が示す教訓と関連ガイドラインの盲点―
石川 博康
ベンゾジアゼピン(BZP)の注射剤であるdiazepam(DZP),midazolam(MDZ),flunitrazepam(FNZ)の3剤には呼吸抑制の危険性があり,各インタビューフォームはその危険性が同等であることを示唆している。一方で薬効分類上の差異により,DZPとMDZは看護師による経静脈的投与に明確な法的制限はないが,麻酔導入剤のFNZは法的制限の対象とも考えられる。この薬効分類上の差異や投与者・投与方法はこれまであまり議論されてこなかった。本稿はこの点に着目し,BZD注射剤による医療事故の既存資料を整理し提示した。MDZのみならずFNZにも,看護師への投与指示を介して事故に至ったと思われる事例の報告があり,重大事故に限ればすべて点滴静注による投与例であった。内視鏡領域の大規模調査において上記3剤すべてに死亡例の国内報告が複数あった。今回行った事故資料の集積は,添付文書や関連するガイドライン(GL)にも安全管理上の盲点や問題点があることを明らかにした。個々の医療者は,より安全配慮水準の高いGLを参照すべきである。
Key words:sedation, risk management, midazolam, flunitrazepam, medico-legal issue
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