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■特集 残遺する症状はどこまで回復するか
●統合失調症の残遺症状
新井 久稔
統合失調症の精神症状の経過は,初期には精神病症状として幻覚・妄想状態が目立つが,長期の経過を経た後には慢性期の症状として陰性症状が残存して日常生活に影響してくる。このような残存した陰性症状を主体とした症状は残遺症状として考えられている。残遺症状は予後への影響もあるため,それぞれの患者の背景も十分に考慮して治療にあたっていかないといけない。慢性期統合失調症患者の残遺症状の治療や回復の時期には,「目覚め」の体験にも,自殺と関与することから注意が必要である。残遺症状の治療に関しては,薬物治療,家族を中心とした周囲の理解,患者のペースに合わせた回復の環境作りが重要と考えられた。統合失調症患者の置かれている環境も変化しており,自験例をもとに統合失調症の残遺症状の回復に関して検討してみた。
Key words:schizophrenia, residual state, experience of awakening
●双極性障害と残遺症状
仁王進太郎
欠陥状態,陰性症状,残遺型の違いについて述べた。双極性障害の残遺症状について,認知障害,機能障害,認知症などのキーワードを通して再考した。双極性障害では認知障害,機能障害がみられ,認知症を発症しやすい。筆者らの調査を紹介し,統合失調症,双極性障害,認知症の関係について言及した。双極性障害では,リチウムは認知症を予防する可能性がある。
Key words:bipolar disorder, cognitive impairment, dementia, functional impairment, residual type
●うつ病・うつ状態の寛解期における残遺症状と社会的機能化の障害─種々の治療法と新しい治療の試み─
田代 哲男
うつ病・うつ状態が寛解(HAM-D17<8)しても残遺症状と社会的機能化の障害のために職場や家庭で役割を十分に果たせなくて不安定な精神状態が長く続くことが少なくない。このような状態では,早期に大うつ病相の再燃・再発をきたしやすいことがわかってきた。そこで,残遺症状と社会的機能化の障害を残す状態を残遺状態と考えて対応することが必要と考えられる。この残遺状態では,その病態を個別性をもって理解し,心理検査などを用いて詳細に把握する工夫や,生活場面での観察を通して見出した所見に重点を置く治療法に繋げていくことが必要である。治療では,薬物療法の工夫と種々の非薬物療法を含めて紹介し,さらに,我々が行っているうつ病・うつ状態の統合的治療法について説明した。
Key words:depression, residual symptoms, neurocognitive dysfunction, cognitive-behavior therapy, social rhythm therapy
●パニック症/パニック障害の残遺症状
松田 泰範 井上 幸紀
最近の知見では,パニック症/パニック障害は寛解しにくく再発しやすい慢性疾患であることが示されている。その一因としてパニック発作や予期不安が抗うつ薬,ベンゾジアゼピン系抗不安薬などの薬物治療に反応し寛解を達成したように見え,症状限定パニック発作,広場恐怖,抑うつ,不安などの残遺症状への十分な対応がなされずに治療が長期化することが挙げられる。併存する精神疾患や治療に関連した要因など,残遺症状の背景にある治療抵抗要因について理解し,それらに適切に介入することが,再発予防や完全寛解の達成に向けての課題となる。認知行動療法などの精神療法の併用についてはこれまでのガイドラインでも推奨されているが,第一選択薬以外の薬物療法による増強療法も有効である可能性がある。そして十分な量,期間で薬物療法を継続するためにも服薬アドヒアランスの向上など治療抵抗要因への介入,疾患教育,環境調整を合わせた包括的治療が重要である。
Key words:residual symptoms, remission, recurrence, factors for treatment-resistance, augmentation
●全般不安症/全般性不安障害の残遺症状とそれへの対策
大坪 天平
全般不安症/全般性不安障害(GAD)はもともと残遺カテゴリーから出発し,「心配(予期憂慮)」を中心症状とする独立カテゴリーとして再構築された。しかし「心配」は他の精神疾患や身体疾患でも多く見られるし,GADと他の精神疾患の併存率は高く,GAD診断の意義が大きく揺らいでいる。「GADはうつ病の前駆症状あるいは残遺症状ではないか」,あるいは「ただの増悪因子や重症度指標ではないか」との意見もある。ここでは,GADの残遺症状とそれへの対策を述べなくてはならないが,残遺症状とは寛解した段階で初めて判断できるものである。GADのような慢性不安障害がどの程度寛解すものなのか,情報はまだ少ない。ここでは,GAD診断の問題点を含め,GADの転帰,寛解,残遺症状とその対応に関して述べる。
Key words:generalized anxiety disorder, remission, residual symptom, predictor, relapse
●強迫症の残遺症状とその対策─長期予後の観点から─
松永 寿人
強迫症(OCD)は,症状の消長を繰り返しながら慢性的経過を辿りやすい精神障害である。現在の主な治療は,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの薬物,および認知行動療法(CBT)であり,SSRI抵抗性の場合,非定型抗精神病薬を付加する増強療法が試みられる。OCDの長期予後については,10年以上の経過でも,その寛解率は50%程度に留まり,いったん寛解に至っても再発が多い。さらに寛解状態であっても残遺症状が少なからず認められ,これが再発に関わる可能性がある。このため,OCD患者が示す残遺症状について,その把握や対策が必要である。この対策には,発病早期の受療を促す社会的啓発,現行の薬物あるいはCBTの見直しによる適正化,効果の最大化,そして新規治療法開発などが含まれる。しかしOCDの遷延により,症状との共存や家族の順応が習慣化し,問題意識や病識,治療的動機づけが不十分な場合もあり,残遺症状の理解そして対策には,この点の評価や介入も重要となる。
Key words:obsessive-compulsive disorder (OCD), residual symptom, remission, relapse, long-term outcome
●慢性化した心的外傷後ストレス障害症状の治療
大江美佐里 前田 正治
PTSD症状が残遺する背景因子としては,当該出来事以前の要因(経済面,以前の心的外傷体験),出来事の直接的影響,出来事以後の要因(対人関係,健康,社会的支援)があると考えられる。残遺症状を認める場合には,診断の再検討,心理教育,薬物療法の再検討,構造化した治療面接導入の検討,入院治療の検討などを行う。残遺症状の改善という観点だけでは,患者本人の病的な側面が強調されてしまい,健康的な側面をふまえた支援,あるいは社会とのつながりについて検討することがおろそかになる恐れがある。これについてはリハビリテーション的視点の導入が有用であると考える。本稿では,個人に対してチーム・アプローチを行った例と,集団に対して保健所内リハビリテーションを行った例を紹介した。包括的かつ多層的な対応が回復につながる可能性が示唆された。
Key words:posttraumatic stress disorder, remission, recovery
●神経性やせ症の身体的残遺症状
鈴木 眞理
神経性やせ症における身体的残遺症状の予防と治療について概説した。やせや低栄養に伴うほとんどの身体症状や検査異常は体重の回復に伴って正常化するが,後遺症になりうる身体的合併症がある。近年,神経性やせ症の発症は低年齢化している。成長期に発症し,身長の伸びに関わるインスリン様成長因子Ⅰの分泌不全をきたす低体重期間が長いと身長の伸びが鈍化して低身長になりうる。骨密度の低下は本症の主要な合併症であり,治癒しても骨密度が正常化しないことがある。性腺機能低下症は体重の回復に伴って正常化し,妊孕性低下の危険は少ないと考えられる。自己誘発性嘔吐によって酸蝕症やう蝕が多く,歯の脱落の原因になる。ただし,口腔衛生や唾液作用で予防が可能である。これらの身体的な後遺症は患者のQOLの劣化や医療・福祉費を増加させるので,身体的残遺症状について情報提供することは治療動機の強化にも重要である。
Key words:anorexia nervosa, short stature, osteoporosis, hypogonadism, tooth erosion
●薬物乱用の残遺症状
武藤 岳夫
わが国は,世界に類を見ない独自の薬物乱用の傾向を持っているが,その残遺症状の捉え方については,欧米と見解の違いがある。わが国における乱用薬物の中心である覚せい剤では,精神病症状が遷延・持続することもあり,統合失調症との鑑別が古くから研究の対象とされてきた。また,有機溶剤や大麻などの薬物では,動因喪失症候群やフラッシュバックなどの特徴的な残遺症状を呈するが,これらの残遺症状への治療は基本的に状態像に応じた対症療法となる。薬物乱用において,残遺症状の最たるものは依存症であり,司法的処遇だけではなく,薬物依存症への治療体制を構築していくことが,残遺症状の治療や進行予防にもつながってくると考える。
Key words:methamphetamine psychosis, schizophrenia, amotivational syndrome, flashback, drug dependence
●アルコール依存症に合併し,精神症状を残遺する疾患
真栄里 仁 松下 幸生 樋口 進
アルコール依存症は断酒により身体問題の回復が期待できる病気だが,中枢神経系の疾患を合併した場合,様々な後遺症が見られることがある。代表的な疾患としてはチアミン欠乏によって生じるWernicke-Korsakoff症候群,脳梁の脱髄性壊死病変を特徴とするMarchiafava-Bignami病,低ナトリウム血症の急激な補正によって生じる浸透圧髄鞘融解などがあり,意識障害等多様な症状を引き起こす。近年画像診断の発達と普及により無症候性〜軽症のうちに発見される例も多くなってきているが,治療についてはWernicke脳症を除き,確立しているものは少なく,回復困難となる事例も多いことから,早期発見・早期介入が最も重要になってくる。
Key words:alcohol dependence, sequelae, Wernicke-Korsakoff syndrome, Marchiafava-Bignami disease, osmotic demyelination syndrome
●外傷性脳損傷後の記憶障害と気分障害─どこまで回復するか─
先崎 章 稲村 稔
(I)外傷性脳損傷例の記憶障害の短・中期的な回復については,受傷後半年程度までは急速な回復がみられるが,次第に回復のスピードは低下し,受傷1年半を過ぎると回復は厳しくなる。代償手段を導入し能力障害の改善に力点をおく。低酸素脳症例に比較すると日常生活上の記憶障害について回復に期待が持てる。(II)気分障害については,日常の生活や社会参加に際して,多くの困難を抱えざるを得ない外傷性脳損傷例では,その困難さが消えることがない性質のものである以上,気分障害を併発するリスクファクターも生涯持続する。(III)軽度外傷性脳損傷を直接の原因として,脳震盪後症状が長期間持続する例が数%未満だが存在する。外傷性脳損傷例の各種症状の回復には,脳器質的要素,脳機能的要素,そして状況依存的要素の三つが絡み合っている。
Key words:traumatic brain injury, memory impairments, depression, mild traumatic brain injury
●器質性精神障害の残遺症状(高次脳機能障害)
船山 道隆 加藤元一郎
器質性精神障害にて残遺する症状(高次脳機能障害)は,原因となった疾患とその治療法,損傷部位と損傷の大きさ,年齢,教育歴などによって異なる。脳血管障害であれば失語,失行,失認,視空間障害,記憶障害など損傷部位に対応した機能に限局しやすい。脳炎では記憶障害が残存しやすい。一方で頭部外傷であれば意欲障害,注意障害,遂行機能障害などが比較的共通して残存しやすい。高次脳機能障害は急性期および亜急性期には大きく改善し,徐々に改善の速度は緩やかになるが,回復は麻痺,感覚障害,半盲などと比べると長く続き,損傷後数年間は徐々に回復していく。回復メカニズムには,神経回路の再結合による再建と損傷前とは別の回路を構築する再組織化という2つのメカニズムが想定されている。高次脳機能障害を持つ患者の就労支援や家庭内の適応には治療上の工夫が必要である。就労を可能にする因子には意欲障害の程度が最も影響し,ウェクスラー成人知能検査の動作性IQが若干影響する可能性がある。
Key words:organic mental disorders, cerebrovascular disease, encephalitis, traumatic brain disorder, recovery
●てんかんと残遺症状
原 恵子
てんかんに関連した残遺症状には,残遺てんかん,つまり脳炎後てんかんや外傷後てんかんなどに代表される残遺症状としてのてんかんと,器質的疾患としてのてんかんで見られる残遺症状としての長期的な神経生理学的,認知的,心理学的影響が挙げられる。残遺てんかんは,広く使われている国際抗てんかん連盟(ILAE)のてんかん分類では「症候性局在関連てんかん」,2010年に提案されたILAEの分類では「構造的/代謝性てんかん」に分類される。てんかんで見られる残遺症状については,てんかんの定義においても,「てんかんはてんかん発作のみならずそれに様々な臨床症状や心理社会的,神経生物学的影響を伴う」ことが明記されている。例えば良く知られたものに精神症状の合併や記憶の障害などが挙げられる。これらは,残遺症状としても観察されるが,抗てんかん薬の影響や不十分な発作抑制に関連して見られることもあり,それぞれ対応が異なることから,鑑別が重要である。
Key words:symptomatic epilepsy, clinical manifestations, psychiatric comorbidities, psychological features
●残遺症状としての不眠
高江洲義和 井上 雄一
うつ病の寛解期に残遺する症状のうち最も頻度が高い症状は不眠であり,残遺不眠はうつ病の再発・再燃に関連する危険因子であることが知られている。残遺不眠の病態の一つとして視床下部─下垂体─副腎皮質系(hypothalamic-pituitary-adrenal axis : HPA系)機能の過活動が予想されているが,その詳細は明らかにされていない。残遺不眠を有するうつ病患者のほとんどがすでに睡眠薬や鎮静系の抗うつ薬を使用しているので,残遺不眠に対して睡眠薬や鎮静系の抗うつ薬を追加使用することは向精神薬の多剤化に拍車をかけることになり,副作用のリスクを増大させる可能性が高い。そのため,残遺不眠に対する適正な治療ストラテジーは示されていない。他方,近年では不眠に対する認知行動療法(cognitive behavioral therapy for insomnia : CBT-I)のうつ病に伴う不眠症状に対する改善効果が示されており,残遺不眠の改善効果やうつ病の再燃予防効果が期待されている。
Key words:residual insomnia, major depression, hypothalamic-pituitary-adrenal axis, cognitive behavioral therapy for insomnia
●統合失調症に対する精神科リハビリテーション
兼子 幸一
統合失調症の認知機能障害や社会機能障害に対するアプローチでは心理社会的リハビリテーションが主な治療プログラムを提供している。プログラムが直接の標的とする技能に関しては,有効性が示されてきているが,この効果は最終ゴールである実生活での社会機能の向上に必ずしも直ちに結びつくわけではない。社会機能に対する効果を高めるには,心理社会的治療の効果に影響する様々な要因の検討が不可欠である。最近の研究成果は,異なる症状や機能障害を標的とするプログラムの統合,および新たに獲得した認知機能や対人関係の技能を実生活で実践することの重要性を強調している。また,動機付けや自己効力感の低下といった心理的側面や陰性症状の問題に取り組むことの必要性も指摘されている。自己決定を重視するリカバリーの時代の中,医学的視点のリハビリテーションモデルであっても,本人の希望を中心に据えたプログラム作成が求められることは自然な流れと考えられる。
Key words:psychosocial rehabilitation, cognitive remediation, cognitive behavioral therapy, social skills training, schizophrenia
■研究報告
●未破裂脳動脈瘤を合併したうつ病患者に対して厳重な血圧管理下に電気けいれん療法(ECT)を施行した一例
樋口 尚子 綿貫 俊夫 井上 宏治 石田 和慶 松本美志也 渡邉 義文
電気けいれん療法(ECT)は通電直後に急激な血圧上昇を生じるため,未破裂脳動脈瘤の存在下で施行する場合には厳重な血圧管理を必要とする。今回われわれは,未破裂脳動脈瘤を持つうつ病患者に対して厳重な血圧管理のもとでECTを施行し,有害事象なく寛解状態に導くことができた一例を経験したので報告する。症例は60歳台の女性。反復性うつ病として入退院を繰り返していたが,4回目の入院中に昏迷状態を呈し,薬物療法で改善が得られないためECTを開始した。しかし,急性期ECT施行中に再検した頭部MRAで未破裂脳動脈瘤を認めたため,麻酔科との協議の上,厳重な血圧管理を行いながらECTを再開したところ,昏迷状態は急速に改善しECT6回で寛解状態となった。ECTは未破裂脳動脈瘤の瘤径が7mm以下で,かつ厳重な循環動態の管理を麻酔科医が提供できる場合に限り,選択可能な治療法の一つであると考えられる。
Key words:electroconvulsive therapy (ECT), cerebral aneurysm, blood pressure management, depression, treatment
■臨床経験
●Olanzapineにて躁状態は軽快したが認知機能低下が残存した躁病型進行麻痺の1例
高平 充 清水 剛 小野澤 淳 姫野 大作 木村 永一 橋本 恵理 齋藤 利和
梅毒感染による進行麻痺の病態は多彩であり,認知機能障害,躁状態,幻覚妄想状態等の精神症状をきたすことも数多く報告されている。今回,著しい躁状態を呈したため内因性躁病も鑑別に挙げられたが,入院後に梅毒感染が判明し,進行麻痺と診断された症例を経験した。多弁多動や精神運動興奮状態は,olanzapineにて消退した。また,残存した認知機能障害に対してPCG,CTRXによる駆梅療法を施行したところ,認知機能障害は若干の改善がみられた。進行麻痺の精神症状は多彩であり,時として内因性精神疾患との鑑別を要することがある。一般身体疾患による精神症状の治療が遅れないよう的確な診断が重要であることを再認識した。
Key words:olanzapine, manic state, Treponema pallidum, neurosyphilis, general paralysis
●抗NMDA受容体脳炎後に非定型精神病類似の精神症状をくり返した1例
横瀬 宏美 穐山真由美 鈴木 正泰 平良 直人 金野 倫子 内山 真 森田 昭彦 亀井 聡
抗N-methyl-D-aspartate(以下NMDA)受容体脳炎後に非定型精神病類似の精神症状をくり返した37歳女性の症例を報告した。初発時は,発熱,不随意運動,けいれん,意識障害,髄液中の抗NMDA受容体抗体高値から抗NMDA受容体脳炎と診断された。その後の2年間に3回の再燃を認めた。再発時の神経症状は,次第に軽度となり3回目には全く認めなかった。再発時の精神症状は,3回とも情動不安定や困惑,知覚変容ないし幻覚,体系化されない妄想など,いわゆる非定型精神病類似の病像を呈した。この非定型精神病に類似した症状の背景に,抗NMDA受容体脳炎と共通した生物学的病態が存在することが考えられた。
Key words:anti-NMDAR encephalitis, psychiatric symptoms, involuntary movement, atypical psychosis
●Paliperidone徐放錠とtopiramateが急速交代型双極 I 型障害の躁病相改善に奏効した2症例
渡辺 孝文 山田 敦朗
急速交代型双極性障害(rapid cycling bipolar disorder : RCBD)は,予後不良で難治な病態として知られている。一方でRCBDの薬物治療については,lamotrigineやquetiapineに限定的なエビデンスがあるが,研究はきわめて不足している。Paliperidone徐放錠(paliperidone-extended relaease : paliperidone-ER)はrisperidoneと類似した薬理学的特徴を有しているが,新規抗精神病薬の中でも副作用による脱落率が特に少ない薬剤の1つである。また,topiramateは新規抗てんかん薬の1つであるが,重篤な副作用は少ないことが知られている。今回,躁病相が前景に立ち,治療抵抗性で長期入院となっていた双極Ⅰ型障害のRCBD症例に対し,paliperidone-ERとtopiramateが躁病相重症度,頻度の改善に奏効した症例を経験した。RCBDの躁病相に対し,これらの薬剤が有効である可能性がある。
Key words:rapid cycling bipolar disorder, bipolar I disorder, paliperidone-extended release, topiramate
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