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■特集─これだけは知っておきたい精神病理
●了解について
山 岸 洋
 精神病理学の方法論を体系的に解説したJaspers の『精神病理学総論』初版において,了解は説明と並んで,個々の心的な現象の間の相互の関連を捉える方法とされた。了解と説明とを区別したうえで,これらを自覚的に組みあわせて用いることによって,個々の病的現象から患者の病像の全体へと把握(記述)を進めていくことができる。しかし病像の全体が把握されたとしても,個別科学である精神病理学によっては,一人の人間の全体を把握するということは不可能である。それを把握するのは精神病理学の課題ではなく,個別科学には属さない哲学の役割であると Jaspers は考えていた。彼が哲学者に転向したのちに改訂した『総論』第4 版では,しばしば精神病理学の限界を踏み越えて実存哲学の領域に属する問題に言及している。了解についての解説にもかなりの変化が見られる。しかしながらドイツ本国でこの改訂を肯定的に受容した精神病理学者は少なかった。
Key words:Karl Jaspers, Verstehen, understanding, meaningful psychic connection, method-based

●治療学的に優れたSchneider, K. の臨床診断学とその分類体系
古茶 大樹
 Schneider の臨床診断学とその分類体系は,精神障害には疾患であるものとそうでないものとがあるという前提に基づいている。その前提から出発し,精神医学における疾患定義に生活発展の意味連続性(の中断)という視点を導入し,精神障害を「心的あり方の異常変種」,「疾患(および奇形)の結果」(精神病)に分け,さらに後者を「身体的基盤が明らかな精神病」(器質性・症状性・中毒性精神病)と「身体的基盤が明らかではないが要請されている精神病」(内因性精神病)に分けている。精神病の診断学は身体医学的(病因論的)系列と心理学的(症候学的)系列の2 本立てであるのに対し,「心的あり方の異常変種」にはあえて身体医学的系列を外すことで2 つの群の本質的な違いを明らかにしている。これらの視点は,治療学的に優れた体系であることを論じた。
Key words:clinical psychopathology, classification, Schneider, ideal type, Heidelberg school

●Kraepelin, E. の方法と目的の現代的意─Kraepelin パラダイムの歴史的位置づけと今後の展望─
影山 任佐
 現代精神医学に大きな影響を及ぼしている「Kraepelin パラダイム」,その基本は彼の疾病論と疾病分類にほかならない。「クレペリン・ルネサンス」ともいわれ,再評価の機運が高まってきている彼の疾病論の方法と目的を,早発性痴呆(統合失調症)概念の成立過程とともに,拙論を土台に彼の精神医学教科書と基本論文に基づいて,重要な諸概念の変遷過程を追いながら分析した。彼の精神医学の目的と方法は精神疾患の自然科学的理解にあった。彼は心身二元論の立場から,脳病理学と精神病理学からのアプローチを重視し,精神疾患の身体的基盤の解明がその第一の課題としながら,診断,治療,研究の出発点である精神障害の分類に着手した。彼の疾病論はKahlbaum,Hecker 由来の疾患形態論に基づくもので,病因・脳病理(疾患過程)・症状と経過(全体像)が一致するという仮説(「三位一体論」)を前提に,荒廃化という臨床的全体像の単一性から,疾患過程と病因の単一性を推定し,臨床経験を裏づけに,早発性痴呆の概念に至った。しかし彼は,この名称にも疾患としての単一性にも最後まで絶対の確信が得られず,早発性痴呆は疾患(単位)ではなく,その手前の疾患形態であるという自覚を保持し,彼の疾患形態論は後期に至っても基本的には変化しなかった。彼の方法論と,早発性痴呆のこの仮説的性格を再認識,再検討することは,現代精神医学,医療にとっても無視できない意義を有している。
Key words:morbid process, morbid form, Trinity hypothesis, Dementia praecox

●Huber, G. の基底症状概念と統合失調症残遺状態の類型分類
針間 博彦
 現在の統合失調症の症候学では欠損性の症状は客観的な観察所見である陰性症状としてまとめられている。だがJaspers─ Schneider の精神病理学を継承したHuber は陽性症状─陰性症状という対比を採用せず,患者に自覚され報告される欠損症状として純粋欠陥症候群とそれに基づく基底症状を記述した。これによって可能になった統合失調症の残遺状態の緻密な記述と分類は,いまなお治療と予後予測に指針を与える臨床的有用性がある。
Key words:schizophrenia, basic stage, basic symptoms, pure defect, residual phase

●病前性格と発病状況論を理解しよう─Tellenbach, H. のメランコリー論(わが国の精神病理学に与えた多大な影響)─
菅原 誠一
 Tellenbach, H. のメランコリー論(1961年)は,病前のパーソナリティから発病状況を経て病相期に至る動きに着目し,多くの重症例に共通の特徴を大掴みに捉えたものであって,その類型は「メランコリー型」と名づけられた。この理論は,それまでの診断学による反応性うつ病と内因性うつ病という二分論を統合するものとして高い評価を受け,またそこに描かれた病前性格─発病状況が,わが国の下田光造の先行研究と酷似していたこともあって,早くからわが国に紹介され受容された。わが国の精神病理学では,1970〜80年代の軽症化した臨床像に合わせ力点が移され,「真面目な良い人がうつ病になりやすい」といった通俗的な理解が現在まで広く流布している。昨今ではこのタイプのうつ病も病前性格論も時代遅れとみなされがちであるが,Tellenbach のメランコリー論の本義は発病状況論にあり,その価値は未だ失われていない。
Key words:Tellenbach, melancholia, depression, premorbid personality, psychopathology

●Conrad, K. の「統合失調症のはじまり」─症状展開の一元的理解のために─
野 原 博  前田 貴記
 Conrad, K. はHeidelberg 学派に属し,Jaspers, K.,Gruhle, H.W.,Schneider, K. の系譜に連なる精神医学者である。Heidelberg 学派は記述的精神病理学を目指し,それに基づいて脳科学による精神症状の解明を志向する一つの大きな流れがあった。他方,現象学的人間学的立場から患者の全生活史を通じて心的現象を理解する流れがあった。しかしConrad, K. はいずれの立場にも与せず第3 の道として心的現象を心理学の手法を用いゲシュタルト分析によって明らかにしようとした。 統合失調症の精神症状,経過型を体験の全体の構造の特徴に着目して統一した視点から記述した。統合失調症の初回の急性増悪(シュープ)を4 期に分けてさらに「(心的)エネルギーポテンシャル」という概念を導入して経過の類型化を行った。これは一元的な病態生理学過程の発見を目指した新しい試みであり,最終的には身体医学による説明を目指した。本稿ではConrad, K. の著書「分裂病のはじまり」を紹介し,統合失調症の病像についての捉え方を紹介する。この著書にはすでに優れた邦訳,解説書があるが,訳は中井,安,山口によるものを参考にした。
Key words:exacerbation, gestalt analysis, topology, phase, energy potential

●正常心理の枠内にある「心の動き」を知る─Kretschmer, E. の体験反応(支配観念,原始反応,敏感関係妄想,自閉性願望充足を含む)─
久江 洋企
 Kretschmer, E. の体験反応学説について紹介する。彼によれば心とは直接体験のことであり,体験とは感情を伴った精神的なものの集まりで,人格による加工を経ている。強い感情を伴う体験で観念が人格の中心を占めるものは支配観念を形成する。体験反応には原始反応と人格反応がある。原始反応は体験が中間回路を経由せず,直接衝動行為として現れるものをいう。人格全体が強力に関与しているのが人格反応である。人格反応には,強力性,無力性,および自閉性の性質がある。強力体験や無力体験が単純な人格反応であるのに対し,より複雑化したものが誇大性発展,敏感性発展,自閉性願望充足である。敏感関係妄想は性格・鍵体験・環境が関与して発現する。自閉性願望充足では夢や妄想的観念によって自己保存本能が満足される。彼の論考は,他者の心の動きを理解する際の参照枠として改めて読み解くことで,それまで気づかなかった視点を提供してくれる。
Key words:Erlebnisreaktion, überwertige Idee (overvalue idea), Primitivreaktion (primitive reaction),sensitiver Beziehungswahn( sensitive delusion of reference), autistische Wunscherfüllung

●Wernicke の精神病理学に学ぶ
松下 正明
 20世紀初頭,最高の臨床精神科医であり,また精神病理学者であったWernicke の精神医学について述べた。彼の精神医学思想は,脳局在論的立場,大脳連合系のSejunction仮説とネットワーク障害論,精神疾患における多様な症候学の確立,精神症状の心理的分析,精神疾患における運動機能障害,とくに精神運動性(psychomotor)障害の重視,精神疾患分類への消極的姿勢などの特徴を有していると考えられる。とくに,精神疾患を,症候論的立場から,Allopsychose,Somatopsychose,Autopsychose と分け,さらに,精神感覚路,精神内界路,精神運動路の3 つの連合系の障害として捉えるWernicke の独特な精神医学観が,Liepmann,Bonhoeffer,Gaupp,Schröder,Goldstein,Kleist などの弟子たちによって継承され,現代の精神医学の礎になっていることを指摘した。
Key words:Carl Wernicke, Sejunction theory, Hugo Liepmann, Kurt Goldstein, Karl Kleist

●内因性精神病を細かく分類したLeonhard, K. の観察眼
生田  孝
 Kraepelin, E. は内因性精神病を統合失調症と躁うつ病の2 つの大きな領域に二分した。この考えは,Krapelin─Bleuler─ Schneider の流れ,つまりKraepelin 学派を形成してドイツ精神医学の主流となり,それは今でも相当に単純化されながらも英米圏へと引き継がれてICD─10やDSM─5など現代精神医学の基本底流となっている。他方,Wernicke,C. は,この二分法には反対の立場をとった。その流れが,Wernicke─Kleist─Leonhard らのいわゆるWernicke 学派である。その考え方は,Kleist, K. に引き継がれ,第3 の独立した内因性精神病としての非定型精神病概念が主張された。さらにLeonhard, K. は,この考えを展開させて独自の詳細な分類体系をつくり上げた。この極めて精緻な体系をつくり上げたLeonhard の観察眼について彼の人生を手がかりに論じた。
Key words:Leonhard, Wernicke, Kleist, endogenous psychosis, nosology

●精神病の症状構成の理解に役立つジャクソニズム─Jackson, H. の陰性症状と陽性症状を知る(記述精神症候学的な陰性・陽性症状との違い)─
兼本 浩祐
 John Hughlings Jackson にとって陰性症状はより高次の神経系の機能不全であり,その結果,より低次の神経系が脱抑制を起こしたために出現した症状が陽性症状であった。これは陽性症状をドーパミン作動系の障害,陰性症状を一種の脳症による認知機能障害と考えるCrow の枠組みとは大きく異なる。Jackson の陽性症状・陰性症状の考えは,Freudを介して幻覚妄想を一次障害(Bleuler の場合は連合弛緩,Huber では基底障害)に対する一種のレジリアンスの試みであるとみなすBleuler─Huber の立場へと展開した。Ey はより直接的にJackson を受容しているが,階層間の関係はBleuler─Huber と通底しており,単一精神病論,均一性解体などの概念をJackson の思想から精神医学のために新たに創始した点に特徴がある。Jackson の陽性症状は,Penfield の大脳刺激実験によって産出されるような症状を厳密にいえば含まないはずであり,対話性幻聴のような幻聴が大脳刺激実験ではほとんど誘発できないことは,現在的な視点から見ても興味深いと思われる。
Key words:negative symptom, positive symptom, John Hughlings Jackson, Bleuler, Freud

●『自明性の喪失』にみるBlankenburg, W. の姿勢─単純型統合失調症か,それともアスペルガー症候群か─
和田 信
 Blankenburg は著作『自明性の喪失』において,幻覚妄想などの産出的症状に乏しい寡症状性統合失調症の患者1 例を詳述し,「自然な自明性の喪失」という特徴を抽出して,統合失調症の基礎障害として捉えた。この学説は,わが国の精神病理学にも大きな影響を及ぼしたが,その後アスペルガー症候群の概念が広まるにつれ,当該の症例が実はアスペルガー症候群だったのではないかとの批判が提出されるようになった。発達障害に関する現代の知見をふまえると,症例はアスペルガー症候群ないし高機能自閉症スペクトラム障害として捉えられる可能性があるが,ある時期以後は統合失調症を発症した可能性が大きい。Blankenburg が現象学的に分析した「自然な自明性の喪失」は,統合失調症の病理か,アスペルガー症候群ないし自閉症スペクトラム障害の特性であるかの問題は,さらなる精神病理学的および精神医学的究明を要する。
Key words:Blankenburg, loss of natural self-evidence, schizophrenia, autism, Asperger

●Kanner とAsperger の自閉はBleuler, E. のそれをプロトタイプとしている
広沢 正孝
 Kanner の「早期幼児自閉症」,Asperger の「小児期における自閉的精神病質者」の概念は,ともにBleule, E. のいう「自閉」の視点から提唱されたものである。このことは現在,発達障害に位置する自閉スペクトラム症(ASD)も,その原点においては,精神病理学的,人間学的視点から提唱されたものであったことを意味している。本稿では,この点を押さえつつ,どのように彼らの事例から発達障害というカテゴリーが誕生したかを簡潔に辿った。その上で,成人のASD 者が注目されている現在,改めて彼らの精神世界を,精神病理学的,人間学的に理解する視点が重要であることを述べ,同時に統合失調症とASD における「自閉」の相違にも触れた。そして最後に,「自閉」の概念自体が特定の文化や価値観に影響を受けた見方であり,現在の青年では「自閉」が一般化しつつあることを指摘した。
Key words:autism, Eugen Bleuler, Asperger, Kanner, autism spectrum disorder

●H. Ey の器質力動論─意識の病理と人格の病理─
鈴木 國文
 H. Ey の器質力動論が器質因的視点と心因的視点を対置させることなく,一元的にとらえようとするものであることに触れ,器質力動論における「意識」の概念と「人格」の概念の峻別,そして両者の分節化の意味について触れた。その後,「狭義の意識の病理」を列挙し,この考え方と非定型精神病概念との関係について論じた。その上で,「人格の病理」に触れ,そうした枠組みの中で,非定型精神病と統合失調症がどのように位置づけられるかについて論じた。最後に,H. Ey の器質力動論の根幹にある四つの考え方についてまとめた。
Key words:organodynamism, neojacksonism, consciousness, personality

●笠原・木村のうつ状態の分類
太田 敏男
 笠原・木村分類(KK 分類)は,病前性格─発病状況─病像─治療への反応─経過をセットとした類型(Ⅰ〜Ⅵ)であり,地図上に線引きされた国々よりも,山脈に突き出る峰々を同定する作業に近い。各類型で病前性格が重視されているが,症候の特徴がしっかり記載されていることも見逃すべきでない。KK 分類は,診断学的には,診断基準ではなく,診断行為によって到達される診断単位と考える方が適切である。第Ⅰ型は,メランコリー親和型性格または執着性格の持主が状況の変化に適応し得ずうつ状態を呈するものである。心的水準による亜型がある(以下同様)。第Ⅱ型は,循環性格を基礎とし,双極性障害と相覆う。第Ⅲ型は,未熟依存的自信欠如的な性格の上に持続的に葛藤状況が加わって生じるうつ状態である。第Ⅳ型は,分裂病質あるいは類似の性格者が青春期の困難を背景にして示す躁うつ状態である。各類型ごとにいくつかのポイントを挙げ,簡単に説明を加える。
Key words:multi-dimensional diagnosis, depressive states, Japanese, neo-Jacksonism, immodithym

●中井久夫の統合失調症の寛解過程論─医学の眼差し─
岩井 圭司
 中井久夫による統合失調症の寛解過程論について,その医学的背景と中井が発見した臨界期現象とを中心に概説した。中井の寛解過程論は,遠くヒポクラテスからSelye, H.のストレス学説,Laborit, H. の侵襲学に至る“全身医学”の成果を踏まえ,回復論的治療観と治療的精神病理学の地点に立つ。すなわち,統合失調症の回復は発病過程を逆行することにあるのではなく,回復期においては心身両面に現れてくる統合失調症非特異的症状の消長と推移を,「変化力」と「維持力」,あるいは病気の勢いと回復力といった「2 方向制御」の観点から見ていくことが,治療上重要である。また,寛解期にみられる臨界期現象の特徴と治療的意義についても言及した。
Key words:agressology, critical period, psychosomatic interaction, psychotherapy, recovery

●安永浩のファントム空間論─隠喩としてのスキー─
井原 裕
 ファントム空間論によれば,統合失調症の諸症状は,経験上の空間図式(「ファントム空間」)と,実際の物理的距離との差異から生じる錯覚として理解される。これを体験的に理解するために,スキーのコブ斜面を隠喩として用いる。コブ斜面では,空間図式と物理的距離との乖離が発生し,その差が秒単位でプラスとマイナスとに入れ替わる。スキーヤーはこの乖離を最小化するために,膝・腰の屈曲・伸展によって重心の微調整を繰り返す。一流スキーヤーにあっては,重心の調整可能範囲は大きい。素人スキーヤーはきわめて小さい。同じく,健常者にあっては,ファントム空間の調整可能範囲は大きい。統合失調症にあっては,きわめて小さい。その結果,至適距離を中心にその前後の遠近法的縦深を許す空間が極端に狭くなっいる。知覚対象の多くは主体にとって届かないほどに遠く,近づこうと代償努力を行えば,怖いほどに急接近するように感じられる。
Key words:Hiroshi Yasunaga, depersonalization, illusion, schizophrenia, O.S. Wauchope

●Lacan, J. の精神病論
松本 卓也
 本邦の精神病理学において1980年代から90年代にかけて大きな注目を集めたフランスの精神分析家Lacan, J. の精神病論を概観した。Lacan の理論は,「神経症と精神病の鑑別診断」,すなわち精神病(≒統合失調症)とそうでないものを峻別し,幻覚や妄想といった精神病様の症状を呈しうる雑多な疾患群から真の精神病を見分けようとする鑑別診断の欲望を精神病理学と共有しており,特に,言語と享楽という側面から精神病の診断を行うことを可能にする。また,70年代のLacan は,自らのそれまでの議論を例外に依拠する論理としてまとめあげ,例外に依拠しない論理の可能性を探求していった。そして近年のLacan 派では,目立たない症状しかもたない「普通精神病」と呼ばれる寡症状性の精神病の理解のために後者の論理が援用されていることを指摘した。
Key words:Jacques Lacan, psychosis, schizophrenia, differential diagnosis

■研究報告
●非行を発見した医療者が行う地域連携と守秘義務に関する法的研究
石川 博康  小野 貴 子
 非行傾向を伴う子どもの地域連携には児童福祉法,少年法,少年警察活動規則,精神保健福祉法など幅広い法令の知識が要求される。従来の地域連携スキームは少年警察活動規則や精神保健福祉法の規定を含まなかった。また,非行等を発見した一般人が守秘義務を負う場合に,守秘義務と専門機関への情報提供のいずれを優先させるべきかという問題は,行政通知等で明確にされていなかった。我々は医療者などの守秘義務を負う一般人が非行の第一発見者となる事態を念頭に,地域連携スキームの改編版を作成した。改編版スキームにおいて,非行傾向を伴う子どもを発見した一般人が自分自身に通告義務(少年法第6 条第1 項/児童福祉法第25条)を確信しにくい場合,児童相談のみならず少年相談も利用することができること,などを示した。子どもの福祉のために必要な範囲内で利用されるこれらの相談は,プライバシー権侵害に関する相談者の免責が確立される必要がある。
Key words:delinquency, duty of confidentiality, ethical dilemma, Aid Requiring Child, Juvenile Act

■臨床経験
●プレキュラリゼーションによってsuxamethonium によるCPK 上昇や高カリウム血症を呈することなく電気けいれん療法を施行できた一例
青木 岳也  磯村 信治  角田 武久  中木村和彦  兼行 浩史
 電気けいれん療法(ECT)施行の際には脱分極性筋弛緩薬であるsuxamethoniumが使用されることが多い。それは筋線維束攣縮による通電タイミングの可視化などいくつかの利点を有しているからである。しかし同薬には悪性高熱症やミオグロビン血症,高カリウム血症などの副作用があり,悪性症候群の既往がある患者に対しては相対的禁忌とする報告もある。今回われわれは,悪性症候群の疑いの既往があった患者に対してECT を施行した際,rocuronium の先行投与(プレキュラリゼーション)によって,suxamethoniumを使用してもcreatine phosphokinase や血中カリウム濃度の上昇を認めることなくECT が施行可能であった症例を経験した。ECT 施行におけるsuxamethonium 使用の利点を損なうことなく,同薬の有害作用を回避しながら安全にECT が施行できる可能性を示唆する症例と考えた。
Key words:creatine phosphokinase, ECT, potassium, pretreatment, rocuronium


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