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■展望

●向精神薬の適応外使用と適応拡大の問題点
石郷岡純  竹内尚子
 向精神薬の適応外使用および適応拡大に関する考え方と問題点について述べた。適応外使用は治療の進歩に伴い必然的に生じる現象であるが,わが国ではこれを経済的・社会的観点から規制しようとする傾向が強く,医学的・倫理的な観点から議論しようとはしない,特異な状況が続いている。近年,適応拡大を促進させる方向で行政も動き出しているが,十分な開発インセンティブが働かないので,まだ現実的に大きな開発動向には至っていない。現在ある医療資源を有効利用し,治療学上の進歩を社会に還元していくためには,経済的・技術的な制約を伴う適応拡大という手法だけでは不十分で,学会主導による信頼できる治療ガイドラインを作成し,医学的・倫理的観点に立ってそれを活用していくといった,発想を変えた新しいルールづくりが必要である。
Key words : psychotropic drug, off―label use, new indications, guidelines

■特集 向精神薬の適応外使用と臨床効果

●バルプロ酸製剤の双極性障害に対する臨床効果
樋口輝彦
 バルプロ酸製剤は抗躁薬として米国をはじめ欧米8ヵ国において承認され,臨床の場で広く用いられている。これまでにプラセボあるいはlithiumを対照とした二重盲検比較試験が10以上行われており,躁病についてはその有効性が証明されている。一方,うつ病に関しては,まだ十分な臨床試験が行われておらず,その有効性については結論が得られていない。病相予防効果についても比較試験は行われていないが数多くのオープン試験が行われており,その結果からは病相予防効果が期待されている。わが国では適応が認められていないが,症例報告を中心に20編ほどの報告があり,これらを総合すると99例中66例(66.7%)で有効であり,海外の比較試験の結果とほぼ一致するものであった。すでに米国をはじめ国際的な学会が編集するガイドラインやアルゴリズムにおいても躁病治療薬の第一選択薬の位置が確保されており,早期にわが国での適応取得が期待される。
Key words : valproate, bipolar disorder, acute mania, prophylactic treatment, depression

●Lithium,carbamazepineのうつ病に対する有効性
――抗うつ薬抵抗性うつ病に対する適応をめぐって――
寺尾 岳
 向精神薬の適応外使用の1つとして,抗うつ薬抵抗性うつ病に対するlithiumとcarbamazepineの有効性に焦点をあてて検討した。抗うつ薬抵抗性うつ病の増強作用に関しては,lithiumは充分なevidenceを有しており,carbamazepineはevidenceに乏しい。したがってlithiumに関しては,患者に対してその旨説明を行い同意を得れば,倫理的には適応外使用は可能と考えられる。さらに,lithium自体は既に抗躁薬としては保険診療で認められているので,抗うつ薬抵抗性うつ病に対する使用は医師の裁量に任せ保険診療の枠内で許容されることが公にされるべき(消極的認可)である。もしくは,多大な時間と労力を患者側にも医療側にも課することになる治験は免除された上でこの適応は早急に認められるべき(治験免除と積極的認可)である。
Key words : lithium, carbamazepine, depression, indication

●Haloperidol,mianserinのせん妄に対する有効性
遠藤太郎  細木俊宏  染矢俊幸
 せん妄は,入院患者の10〜30%が経験し,一般臨床においてよく遭遇する病態である。現在わが国では,せん妄の薬物治療において,「脳梗塞後遺症に伴うせん妄」に対するtiapride以外は保険適応となる薬剤は存在しない。しかし実際の臨床では,抗精神病薬,特にhaloperidolが多く使用されている。Haloperidolは,ドーパミンD2受容体拮抗作用が強く,覚醒レベルを比較的落とさずに鎮静を図れるため,せん妄における不穏,精神運動性興奮に対して選択される。また,四環系抗うつ薬であるmianserinは,せん妄治療に対してhaloperidolと同等の効果を持ち,特に睡眠障害,精神運動興奮に対して効果がある。重篤な副作用はほとんどなく,高齢者にも使いやすい。Risperidoneは,haloperidol,mianserin双方の薬理作用を併せ持つと考えられており,せん妄に対する有効性,安全性についての今後の研究ならびに臨床での適応に期待がかかる。
Key words : delirium, off―label use, haloperidol, mianserin

●β遮断薬の薬原性アカシジアに対する有効性
上村 誠
 薬原性急性アカシジアの治療には,抗コリン薬が最も一般的であるが,その奏効率は50%前後で,薬原性パーキンソニズムの80〜90%より明らかに低く,加えて抗コリン薬の副作用はQOLに重大な影響を及ぼす。β遮断薬の有効性について,1976年のpindololの国内報告,そして1983年のpropranololの報告以降,propranololを初めとする主に脂溶性β遮断薬の有効性が数多く報告され,また抗コリン薬抵抗性アカシジアに対する有効性も報告されている。しかしその一方で,心肺系の重大な副作用も少なからず報告されているが,水溶性β遮断薬carteololは有効性とともに高い安全性を認め,有用性は高いと考える。β遮断薬によるアカシジアの治療は,現在のところ国内外とも適応承認を受けていないが,多くの総説でβ遮断薬は抗コリン薬とほぼ同等の第1ないし第2選択薬に挙げられ,特に錐体外路症状を伴わない急性アカシジアの場合は第1選択薬として位置付けられる。
Key words : akathisia, beta―blocker, propranolol, carteolol

●Clonazepamの薬原性錐体外路症状に対する有効性
水野創一  前田孝弘  宮岡 剛  稲垣卓司  堀口 淳
 本邦ではてんかん治療薬としてのみ承認されているclonazepamの適応外使用の中で,薬原性錐体外路症状に焦点を当てて概説した。Clonazepamは強力な抗けいれん作用を持つ高力価のbenzodiazepine系薬剤で,GABA神経系を介して様々な薬理作用を発揮することが知られており,てんかん以外にも抑うつ状態や躁状態,パニック障害(米国では承認済み),抗精神病薬による錐体外路症状,神経内科疾患などに対して臨床的に使用されている。本邦では医薬品の適応枠に制限が加えられる傾向にあり,適応外使用は臨床上避けられない状況である。中枢神経系は他臓器に比べて構造や機能が複雑であるため薬効評価や臨床症状を把握することは困難であるが,今後は適切な治療研究によって薬剤が本来持っている効能を再評価し,医療に還元することが望まれる。
Key words : clonazepam, off―label use, drug―induced extrapyramidal symptoms

●抗うつ薬,SSRIの摂食障害に対する有効性
切池信夫
 神経性食思不振症(anorexia nervosa,AN)や神経性過食症(bulimia nervosa,BN)の薬物療法について,抗うつ薬,特にセロトニンの選択的な再取込み阻害作用を有する,selective serotonin reuptake inhibitor(SSRI)について海外における治験結果を概説した。そしてANの摂食行動異常に対する有効な薬物は,今のところないが,BNの過食や嘔吐に対して,抗うつ薬が短期間ではあるが有効で,そのうちSSRIであるfluoxetineが海外では認可され使用されており,過食を呈するが排出行動を認めないBinge eating disorderに対してfluvoxamineが有効であることが報告されている。この現況を考えて,これらの薬剤の適応外使用について若干の考察を加えた。
Key words : anorexia nervosa, bulimia nervosa, antidepressants, SSRIs

●ドーパミンアゴニストの治療抵抗性うつ病に対する有効性
井上 猛  泉  剛  小山 司
 治療抵抗性うつ病の頻度は10〜30%といわれ,その治療は重要な臨床的課題である。抗うつ薬に治療抵抗性のうつ病に対して,ドーパミンアゴニストと十分量の抗うつ薬の併用が有効であることが,オープン試験や症例報告で報告されてきた。ドーパミンアゴニストは単独でも抗うつ作用を有することが海外の二重盲検比較試験で明らかとなったが,治療抵抗性うつ病に対する有効性についての無作為化対照試験は報告されていない。ドーパミンアゴニストの副作用としては悪心,嘔吐がみられるが,安全性は高く,重篤な副作用はまれである。ドーパミンアゴニストは本邦でも海外でも抗うつ薬としては承認されておらず,本邦ではパーキンソン病,乳汁漏出症などに保険適応が認められている。ドーパミンアゴニストと抗うつ薬の併用は治療抵抗性うつ病の治療手段として有力な候補であり,今後無作為化対照試験による効果の確認が必要である。
Key words : dopamine agonist, bromocriptine, pergolide, pramipexole, treatment―resistant depression

■症例報告

●Olanzapineにより遅発性ジスキネジアが消失した精神分裂病の3症例
三由幸治
 症例1は53歳,女性,精神分裂病。頸部と表情筋に各々中等度の遅発性ジスキネジア(以下TD)が出現した。症例2は24歳,女性,精神分裂病。下肢と体幹に各々軽度のTDが出現した。症例1,2は抗精神病薬と抗パーキンソン病薬を漸減漸増法でolanzapineに切替えたところ,TDは徐々に軽減し,消失した。症例3は46歳,男性,精神分裂病。上肢と体幹に各々軽度のTDが出現した。抗精神病薬を漸減漸増法でolanzapineに切替えを図った。olanzapineを20mg/dayまで増量し,定型抗精神病薬をhaloperidol換算で17.8mg→12mg/dayまで減量したところ,TDは消失した。症例3は精神症状が持続するため,olanzapineを定型抗精神病薬と併用したが,TDの消失が得られた。OlanzapineはTDを有する精神分裂病の治療に非常に有用であると思われた。
Key words : tardive dyskinesia, olanzapine, schizophrenia, treatment