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展望
●第2世代抗精神病薬の副作用最小化をめざすストラテジー
三宅誕実  荻野  信  宮本聖也
 最近の大規模な有用性試験や有効性試験のメタ解析の結果より,第2世代抗精神病薬(second-generation antipsychotics : SGA)は,第1世代抗精神病薬(first-generation antipsychotics : FGA)と比較して有効性や有用性に大きな差はないが,安全性に明確な違いが存在することが判明した。すなわち,SGAはFGAよりも急性や慢性の錐体外路症状(extrapyramidal symptoms : EPS)の発現頻度は低いが,体重増加や脂質代謝異常などの代謝性副作用を懸念すべき薬剤が多い。またSGAの中には,高プロラクチン血症,過鎮静,起立性低血圧やQTc延長といった副作用を生じるものがあり,副作用プロフィールは一律ではない。したがって患者個々の薬物治療において,いかにSGAの副作用を最小化していくかは,生活の質やアドヒアランスを高める上でも重要な課題である。本稿では,SGAの副作用,特にEPSに焦点を当てて最小化のためのストラテジー,すなわち薬剤選択,用量設定,剤型選択,服薬回数,併用薬物治療や薬剤の切り替えなどを概括し,今後の課題について考察した。
Key words : effectiveness, extrapyramidal symptoms, second-generation antipsychotics, atypicality, side effect

特集 第2世代抗精神病薬の副作用最小化をめざして
●第二世代抗精神病薬の代謝系副作用の最小化
村下眞理  久住一郎  小山  司
 2003年にFood and Drug Administration (FDA)から第二世代抗精神病薬治療中の糖尿病悪化に対する安全性警告が発動されたが,警告後でも米国では糖脂質代謝異常に対する検査率はきわめて低い。耐糖能異常や脂質異常は冠動脈疾患を発症するリスクを高めるため,予防・早期発見,早期治療が必要である。統合失調症患者の精神症状の改善は言うまでもないが,薬剤による糖脂質代謝異常という副作用の軽減が,患者自身のquality of life (QOL)を高めることにつながる。そのため今回は,第二世代抗精神病薬による糖脂質代謝異常の最小化を目指して,体重増加,脂質異常,耐糖能異常の特徴と対策についてまとめた。
Key words : second generation antipsychotics, weight gain, lipid abnormality, glucose intolerance, minimize side effects

●第2世代抗精神病薬の減量・低用量治療の可能性
竹内啓善  内田裕之
 抗精神病薬はドパミンD2受容体を遮断することにより抗精神病効果を発現するが,遮断が過剰になると副作用が出現する。第2世代抗精神病薬であってもドパミンD2受容体遮断が主要な作用機序であることに変わりはない。また,用量依存性である心血管系の副作用のリスクについては第1世代抗精神病薬と同程度であり,用量依存性は明らかでないが代謝系の副作用のリスクはより多い。よって,少なくとも統合失調症の維持期において第2世代抗精神病薬は必要最小限の用量にする必要がある。第2世代抗精神病薬の減量・低用量治療は,今後維持期における治療戦略の1つとなる可能性はあるが,現時点でエビデンスが不足しており,結論を出すことはできない。
Key words : antipsychotics, dose reduction, low dose, maintenance, schizophrenia

●抗精神病薬作用の変動は統合失調症治療に影響するか?
藤井康男
 抗精神病薬作用の変動を考えるにあたって,一過性で短時間のかなり大きなピーク,数日~数週単位でのトラフ,そして毎日の変動における小さなピークやトラフの3つが重要である。一過性で短時間のかなり大きいピークは,デポ剤の投与後に生じる可能性があり,安全性の観点からも検証すべき課題である。次に,数日~数週単位でのトラフは,drug holidayやデポ剤投与間隔の延長などで抗精神病薬への暴露を少なくして再発防止をめざす際に生じる。ここでは再発防止効果が担保されるかどうかに加えて,このようなトラフが繰り返されることによって,D2受容体に離脱性過感受性が生じて遅発性ジスキネジアのリスクが高まるかどうかが問題になる。最後の,毎日の変動における小さなピークやトラフであるが,lithiumについてはいくつかの検証によって,ピークは副作用に関連せず,むしろトラフが長期投与における腎濃縮力障害の減弱に関係することが分かっている。抗精神病薬では1日1回投与と多数回投与の比較の検討から,繰り返されるピークやトラフは少なくとも短期的には効果や副作用に大きな影響を与えない可能性が高い。近年,抗精神病薬のfixed intermittent dosingが提唱されており,これにはトラフを定期的に生じさせることによってD2受容体の過感受性を防止し,抗精神病薬への反応性を保とうという発想が込められている。これが正しい方向性なのかどうかは分からないが,我々の抗精神病薬治療戦略をさらに精密なものにするために,D2受容体における抗精神病薬レベルの変動とその臨床への影響についての検討が必要と思われる。
Key words : depot antipsychotics, dopamine D2 receptor occupancy, tardive dyskinesia, post-injection delirium/sedation syndrome, fixed intermittent dosing

●抗精神病薬切り替えの際の有害事象の最小化
宮田量治
 抗精神病薬の切り替えの際には病状悪化や副作用増悪などが見られるが,本稿ではまず第二世代抗精神病薬への切り替えによるベネフィットについて整理し,さらに切り替え時に特に注意すべき離脱症候群〔Lambertによる離脱三徴:コリン受容体離脱に関連したコリンリバウンド,ドパミン受容体離脱に関連した超過敏性精神病(supersensitivity psychosis)および中止後錐体外路症状〕について詳しく解説した。切り替え時の有害事象を最小化するには,切り替え前後の薬剤の薬力学的特性や薬物動態について理解することが大切であり,この知識を応用することで比較的安全な切り替え戦略が立案できる。現在,切り替えに際しもっとも安全と言われている方法は「プラトー漸減漸増法(Plateau Cross-Taper Switch)」であるが,臨床場面では状況に応じた切り替え戦略を用いることが大切となる。切り替えに伴う有害事象について患者によく説明し理解を得ることも大切である。
Key words : antipsychotics, switching, side effects, withdrawal syndrome, rebound

●児童・青年に対する第二世代抗精神病薬の有効性と副作用
岡田 俊
 従来型抗精神病薬に比べて副作用の少ない第二世代抗精神病薬が導入されたことで,児童・青年期における抗精神病薬のリスク・ベネフィットのバランスは大いに改善した。そして,児童・青年期におけるエビデンスも蓄積しつつあり,第二世代抗精神病薬の使用は統合失調症から双極性障害,広汎性発達障害,破壊的行動障害,トゥレット障害へと拡大している。しかし,安全性についてのエビデンスはまだ十分とはいえず,児童・青年の副作用への脆弱性を示唆する所見も見出される。今後,第二世代抗精神病薬の適応と長期的なリスクについて,臨床知見の蓄積が求められる。
Key words : second generation antipsychotics, efficacy, safety, side effects

●認知症患者への第二世代抗精神病薬投与と注意点
北村 立  森 京子
 認知症の行動・心理症状(BPSD)の中でも,幻覚妄想やagitationに対しては第二世代抗精神病薬(SGA)が投与される機会が多い。しかしBPSDに保険適応のあるSGAはなく,2005年のFDAの警告からもBPSDに対するSGA投与は極めて慎重に行われる必要がある。本稿ではレビー小体型認知症における抗精神病薬への過敏性を例示し,BPSD治療におけるSGA投与上の注意点を概説した。BPSDの治療の目的は,本人および家族・介護者の苦痛を軽減し,QOLを維持・向上させることにある。したがって薬剤選択においては「有効性」よりも「副作用のないこと」が重要となる。同様に投与量は「必要な量より耐えられる量」とするのが原則であり,減量や中止のタイミングを見逃してはいけない。BPSDの治療において,SGAを投与することは絶対的な治療法ではないので,場当たり的なSGA投与は慎むべきである。
Key words : dementia, BPSD, antipsychotics, DLB, neuroleptic sensitivity reaction

●抗精神病薬内服中の慢性期統合失調症患者における便秘について
藤野純也  谷口典男  竹村有由  田伏 薫
 抗精神病薬内服中の統合失調症患者では,従来から便秘の頻度が高いといわれている。しかし,実臨床下での特に抗精神病薬の種類と便秘との関係の報告は稀である。我々は,浅香山病院の慢性期病棟に入院中の統合失調症および統合失調感情障害の患者における2009年4月1日の処方内容から,便秘治療薬投与量と患者背景や抗精神病薬の使用状況などとの関係を後方視的に調査した。結果,解析対象405例において便秘治療薬高用量群では,フェノチアジン系を内服している患者の割合が高かった。また,女性,長い罹病期間,抗精神病薬および抗不安薬/睡眠薬の高用量投与も便秘の危険因子と考えられた。便秘は患者のQOLを損なうだけでなく,重症になると麻痺性イレウスを発症し,生命にかかわる危険もある。第2世代抗精神病薬が主流となった今日,改めて統合失調症患者の便秘やイレウスのリスクを最小限にするための薬物療法や生活指導を検討する必要性を強調したい。
Key words : constipation, ileus, laxative, antipsychotics, schizophrenia

原著論文
●抗精神病薬の散剤処方による抗精神病薬の投与量・剤数への影響
坂田 睦  野田幸裕  藤田純一  西田淳志  三澤史斉  野田寿恵  伊藤弘人
 本邦では,諸外国では発売されていない抗精神病薬の散剤が存在する。本研究では抗精神病薬の散剤処方が投与剤数・投与量に与える影響について解析した。対象は,本研究に同意を得た9病院における18の精神科病棟で,2008年1月の調査日に在院していた統合失調症と診断された428名とした。対象者の定期処方を抗精神病薬散剤の有無に分けて分析した。抗精神病薬散剤の処方率は,24.1%であった。抗精神病薬の投与量がchlorpromazine換算値で1000mgを超え,そのうち散剤を含む群の方が含まない群に比較して有意に高かった。また,抗精神病薬の投与剤数も散剤を含む群の方が含まない群に比較して有意に多かった。本研究結果は,抗精神病薬散剤の選択が投与量,投与剤数の増加に関連することを示唆している。抗精神病薬散剤の選択は必要最低限にとどめるべきである。
Key words : schizophrenia, polypharmacy, powder prescriptions, antipsychotics

症例報告
●小児自閉性障害の興奮性に対してaripiprazoleが奏効した2症例
加藤晃司  山田桂吾  赤間史明  齋藤 舞  木本啓太郎  木本幸佑  高橋有紀  松本英夫
 自閉性障害(autistic disorder : AD)の行動上の障害として興奮性があり,他者への攻撃性,意図的な自傷行為,癇癪,気分の易変性などの症状として出現する場合がある。Risperidoneとaripiprazole(APZ)は小児(6~17歳)のADにおける興奮性の治療に対して米国で承認を受けた。しかし本邦においては,ADの患者を対象としたAPZの有効性や安全性について検討した研究は行われていない。今回筆者らは,興奮性を主訴に当院児童精神科を受診しADと診断された2名の患者に対し,APZの投与を行い奏効した症例を経験したので報告する。治療の評価スケールにはAberrant Behavior Checklist-Irritability subscale(ABC-I)スコアを使用している。その結果,2症例共にABC-Iスコアの改善が認められた。また,重篤な副作用を認めなかった。今後小児ADに対するAPZの有効性を証明するためには,症例の蓄積が必要である。
Key words : aripiprazole, second-generation antipsychotics, autistic disorder, irritability, case report

総説
●Adrenaline受容体の精密構造の解明は抗精神病薬の薬理に何をもたらすか?――鍵(ligand)と鍵穴(受容体pocket)の概念の修正――
諸岡良彦  平井憲次  渡部勇信
 2007年,Stanford大学の研究グループにより,Gタンパク質に連動するadrenaline受容体の精密な構造がantagonist付で解明された。受容体pocketの構造はligandのサイズによって柔軟に変化し,受容体とligandの相互作用は従来漠然と考えられてきた鍵(ligand)と鍵穴(受容体pocket)のような強く立体的に規制された関係ではないことが示唆された。現在,定説化されている精神薬理には,鍵と鍵穴思想を背景に成立したものが少なくなく,これらは多少の修正が必要になろう。薬のmultireceptor action,dopamine agonistの薬理,SSRI,SNRI,覚醒剤に見られる逆耐性現象,定型および非定型抗精神病薬の薬理などについて,修正すべき問題点を取り上げ,検討した。
Key words : receptor structure, ligand receptor interaction, antipsychotics, multireceptor action, psychopharmacology

資料
●「カラダのチェックシート」を用いた外来統合失調症患者における副作用と医師への報告状況に関する実態調査
髙橋結花  橋本美和  望月佐知子  志田真佑美  大下隆司 長谷川大輔 石郷岡 純 木村利美
 服薬アドヒアランスを正確にチェックすることは困難であり,再発を繰り返して初めてアドヒアランス不良が明らかになる場合も多い。そこで副作用の実態把握を薬剤師による聞き取り調査から検証した。副作用項目を選択するチェックシートと東京女子医科大学病院精神科薬剤部で作成した聞き取り表を用いて,副作用,その頻度,医師への報告状況を調査した。副作用項目の頻度は,(1)昼間でも眠気がある,(2)朝,なかなか起きられないに次いで,(6)~(11)性機能障害が3番目に多く,それ以外の副作用と比べ,医師へ話したことが無い患者が多い傾向であった。副作用によって日常生活への支障を感じていた患者は30~40%であり,また60~70%の患者はその副作用に我慢できないと回答した。薬剤師は,患者が医師に訴えることができない副作用等を積極的に聞き取り,医師へフィードバックし,服薬を継続していけるような薬剤選択を提案していく必要があると思われた。
Key words : schizophrenia, medication adherence, side effects, sexual dysfunction, drug administration guidance


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