■展望 ●統合失調症の認知機能障害の診断と治療をめぐる課題と展望
池澤 聰
統合失調症の認知機能障害は,就労,対人関係,日常生活などの社会的機能に影響を及ぼす基本症状の1つである。これまでに認知機能障害の改善を目指して,薬物療法,認知機能リハビリテーション,ニューロモデュレーションなど様々な介入が試みられた。しかし,その改善効果の大きさは,統合失調症の認知機能障害を回復させるには十分とは言えない。認知機能の改善を通して,社会的機能の改善にまでその効果を般化させるには,社会認知機能や内発的動機づけなども治療ターゲットとするなど,より包括的なリハビリテーションを提供することが望ましい。認知機能を増強しうる介入法については臨床実践から基礎研究まで幅広く行われている。これらの取り組みに携わる研究者や臨床家が集い,意見交換することで,患者のリカバリー獲得の一助となることが期待される。
Key words : cognitive function, functional capacity, real world functioning, intrinsic motivation, social cognition
●Lamotrigineとlevetiracetamの基礎
川村哲朗
てんかんの薬物療法の目標は患者のQOLを向上させることである。新規抗てんかん薬lamotrigine(LTG)とlevetiracetam(LEV)のてんかん発作抑制効果は同程度であり,従来の薬剤と比べても優位性が認められないことから,患者のQOLに影響を及ぼす副作用に留意して使用することが重要である。主要作用機序はLTGが電位依存性Na+チャネルの阻害,LEVがシナプス小胞蛋白2Aへの結合である。LTGは主に肝でグルクロン酸転移酵素により代謝され,薬物相互作用を起こしやすい。またLTGの血漿中濃度は妊娠中や出産後に大きく変化するので注意が必要である。LEVは肝代謝されず,薬物相互作用を起こしにくいが,クリアランスが腎機能の影響を受けやすい。LTGとLEVでは忍容性において有意差は認められていないが,LTGによる皮疹,LEVによる精神症状には注意すべきである。催奇形性に関しては,LTGとLEVの単剤療法において差はないと考えられている。
Key words : lamotrigine, levetiracetam, mechanisms of action, pharmacokinetics, drug interactions
●Levetiracetamの単剤療法
茂木太一 小笠原久美子 兼子 直
新たにてんかんと診断され,抗てんかん薬の単剤療法を受けた患者の約60%が2剤目までの抗てんかん薬治療で発作が抑制されることから,てんかんの薬物治療では単剤治療が推奨されている。Levetiracetam(LEV)は,2015年2月20日付で,てんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む)に対して併用療法とともに単剤療法も可能となった。LEVは,神経終末のシナプス小胞たん白2A(SV2A)に結合し抗てんかん作用を示すユニークな作用機序を有すること,作用発現が速やかで広い発作型に対して有効であること,さらに薬物動態学的な相互作用が少ないことなどの特徴を持つ薬剤である。国内外のデータから,LEVはこれまでの抗てんかん薬と比較し効果は劣らず,副作用による中断率が少なく,特に認知機能に悪影響を及ぼす可能性が少ないというメリットを持つ。使用にあたっては,特に攻撃性や自殺念慮などの精神症状に注意することが肝要である。
Key words : levetiracetam, monotherapy, antiepileptic drug, partial seizure, behavioral side effects