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■特集 新しい時代の精神科デイケア

第1章 総論
●わが国における精神科デイケア等の利用者の現状
竹島正,長沼洋一
 わが国の精神科デイケア等の実施状況と利用者の現状について630 調査をもとに分析した。精神科病院における精神科デイケア等の設置数は着実に増加を続けており,精神科デイケア,精神科ナイトケア,精神科デイナイトケア,老人痴呆患者デイケアのいずれかを実施している病院数は57.9 %に達している。精神科診療所なども含めた精神科デイケア実施機関の総数も増加しており,いずれかの精神科デイケア等を実施している施設の総数は平成16 年度調査において約1,380 カ所と100 カ所以上の増加をみている。さまざまな疾患を抱えた患者が,その人のライフスタイルや状況に合わせて利用できる選択肢のひとつとして,精神科デイケア等の役割は引き続き重要な位置を占めるであろう。その果たしている役割を明らかにするためにも,630 調査等による精神科デイケア等の実態のモニタリング研究の継続と,そのデイケアの医療機能に関する分析が必要である。
キーワード:精神保健医療福祉の改革ビジョン,精神科デイケア,630 調査,モニタリング,医療機能の分析

●デイケアの概念と精神医療における位置づけ
池淵恵美
 在宅の慢性精神障害者に対して,外来治療では充分提供できない医学的・心理社会的治療を,包括的に実施する場がデイケアである。思春期や老年期,アルコール依存なども対象となる。米国では,1958 年より普及が進み,1970〜80 年代に効果研究も多く出され,入院から地域ケアへと移行する中で大きな貢献をしてきた。しかし1990 年代よりその有用性について議論され,学問的関心も薄れてきた。現在では地域ケアのシステム及び技法に援助の重心が移行していると思われる。わが国ではそれまでの入院治療と比較して,治療構造の点でも治療技術の点でも,デイケアは新たな視点を提出し,精神障害リハビリテーションを進める大きな原動力となってきた。多職種協働チームの実現,多様な心理社会的治療の提供,地域生活と医療との結節点,障害者の主体性の保証などに成功した。今後デイケアの果たすべき役割として,社会生活の目標のアセスメント,障害認識の援助,重度の精神障害を持つ人の活動の場,就労援助,集中的な集団プログラムの提供がある。そのためにはさらに地域ケアが充実して,デイケアとの併存が可能となること,個別ケアを行うにはマンパワーが不充分であること,治療ガイドラインの標準化が課題と思われる。
キーワード:デイケア,統合失調症,精神障害リハビリテーション,地域ケア,就労援助

●わが国における精神科デイケアの様々な形態と今後のありよう
大森まゆ,安西信雄
 わが国の精神科デイケアの動向を知るため,和文文献データベースで文献検索を行い,代表的な文献を収集して検討した。2006 年の精神神経学会シンポジウム「精神科デイケアの今日的課題と将来像」では,利用者のニーズの多様化,デイケアの機能分化,訪問型支援と就労支援の必要性などが指摘された。最近の文献から,デイケアの対象とプログラムおよび「復職デイケア」などの就労支援の新しい動きをまとめた。これらにもとづき,精神科デイケアの機能分化と,地域ケアにおける役割を考察した。
キーワード:精神科デイケア,機能分化,改革ビジョン,地域ケア,訪問型支援

●精神保健医療福祉施策の動向と精神科デイケアについて
鷲見学
 精神保健医療福祉施策における「入院医療中心から地域生活中心へ」というスローガンにおいて,精神科デイケアをはじめとする通院医療を充実させるべきではないかとの指摘がある一方,現在の精神科デイケアは本当に医療なのかという厳しい声がある。
 今後の精神科デイケアを考える際には,医療と福祉のベストミックスを達成する上での精神科デイケアの役割を認識しつつ,病床機能分化と同様に,従来の統合失調症型モデルを脱却した精神科デイケアの機能分化を検討する必要があるのではないかと考えられる。
キーワード:精神科デイケア,精神科救急,合併症,認知症,精神保健医療福祉施策

第2章 それぞれの施設のデイケアが担う機能――社会参加への道
●精神科病院附属のデイケアが担うべき機能について
羽原俊明,武田俊彦
 慈圭病院は病床数600,1日平均外来患者数約110 名の単科精神科病院である。当院デイケアは,認可を取得して26 年経過しており,定員140 名,登録者数218 名,1日平均通所者数約100 名である。メンバーの平均年齢は48.4 歳で徐々に上昇しており,単身生活者が40 %を占める。統合失調症圏が約9 割を占め,陽性症状が主体のメンバーが27 %,病状が不安定なメンバーが18 %存在する。現在,当院デイケアが果たしている機能としては,病状不安定者に対するデイホスピタル機能,居場所機能,保護的就労を中心とする就労援助機能,多施設利用に対するハブ機能,精神科リハビリテーションにおけるベースステーション機能がある。今後は,退院促進や福祉施設の充実の流れから,サービス面でこれまで以上に医療的側面が重要になってくることが予想される。
キーワード:デイケア,精神科病院,統合失調症

●精神科病院デイケアの役割
須藤浩一郎,畠山隆広
 (1)精神科デイケアが普及し,状況・背景・目的に応じて多様化するようになった。当院では短期入院者の退院率は21 年間ほとんど変化がないが,4カ月以上長期の退院率は年とともに上がってきており,この人たちの居場所としての役割が大きくなる。(2)現行診療報酬上では,実情に応じてスタッフ数を増やす自由裁量の余地があるので,治療効果,利用者満足度,収支状況などを考慮しながら特長あるデイケアを創造することが可能になる。(3)利用者の需要に応え治療効果を上げるには,単独で努力する自己完結型は今や困難で各機関が特徴に応じて協力しあうことが不可欠となる。(4)医療と福祉を分かつものは医師の関与であり,デイケアでの医師は「非常勤」で満足することなく積極的にティーム医療の一員となるべきである。(5)「開かれた」精神医療を充実するには外からの開放が必要で,医療の世界に外からの関わりを持てるデイケアの特異な役割がいっそう期待される。
キーワード:背景による多様化,特徴的デイケアの創造,関係機関との協力型,医師の積極的関与,精神医療へ外からの関与

●急性期入院治療の強化に対応した精神科デイケア
辻貴司
 公立精神科病院の精神科デイケアが,母体病院の病床削減や精神科救急入院料病棟の開設に伴う急性期入院治療の強化に対応して,規模の拡大と治療構造,プログラムの改編をおこなった。短期間の急性期入院治療に引き続き,小規模デイケア程度の小グループで早期からの積極的な介入を進めて,個別の治療目標を常に明確にしながら,治療期間・スケジュール,内容がパッケージ化された包括的な心理社会的治療プログラムを提供した。病状の安定,再発を予防するためのコーピングスキルの獲得がはかられ,社会資源の整備と連動し早期のステップアップが促進された。こうした取り組みは,統合失調症治療のエビデンスや早期介入などの実践と共通しており,急性期に対応した精神科デイケアはもちろんのこと,今後,福祉的なデイサービスとの機能分化を求められたときには,広く精神科デイケア全般で実施するべきプログラムになるのではないかと考える。
キーワード:精神科デイケア,統合失調症,精神科救急入院料病棟,早期介入,認知リハビリテーション

●街での精神科診療所デイケアの機能
窪田彰
 障害者自立支援法と障害者雇用率改定の施行に伴い,地域ケアの現場に微妙な変化が始まっている。障害者就労の道が広がると共に,就労支援も現実的課題になって来た。地域の場も多様化しており,それらの場の相互の許容性と適度な連携がより必要とされる。また,日本でもアウトリーチ型ケアが発展してきたが,精神科デイケアは訪問では得られない集団精神療法的機能があり訪問型と通所型ケアの両方が必要である。新たなデイケアの活動としては,金銭授受を伴う活動が認められ,新たなリハビリテーション機能が充実するようになった。今後の地域ケアにおいては通所型ケアとアウトリーチ型ケアと就労支援とがバランスよく提供される必要があると考える。
キーワード:デイケア,集団精神療法,就労支援,訪問看護,金銭授受

●社会参加への道――メンバーの希望を実現する精神科デイケア――
原敬造
 精神科デイケアの活動を様々なネットワークの中に位置づけ考えていく必要がある。ACT や職業リハビリテーション活動などと対比されるものではなく,精神科治療と密接に結びついた,個別と集団を程良く取り入れた複合的な治療・リハビリテーション活動に精神科デイケアの機能があると考える。
 精神科診療所での精神科デイケアの役割は,生活の場を中心にした活動を重視して実践され,(1)居場所の機能を内包したデイトリートメントとして,(2)個別と集団を組み合わせたかかわりとして,(3)施設内活動にとらわれることのない生活の場を重視した活動として,(4)様々な連携の要として,(5)リカバリーとメンタルヘルスの視点に立った活動をすることにある。
 メンバーの希望が実現できるような精神科デイケア活動を,枠にとらわれない活動によって実現していきたい。
キーワード:精神科診療所,精神科デイケア,リカバリー,精神科リハビリテーション,デイケアプログラム

●大学病院におけるデイケアの役割と課題――北大での実践から――
北川信樹,賀古勇輝,上野武治
 北海道大学病院精神科におけるデイケアでの取り組みとこれまでの成果を遡及的調査の結果から振り返って紹介し,大学病院でのデイケアの果たすべき機能と課題について考察した。罹病間もない青年期を中心とした若年層が多く,疾患も統合失調症以外のものが3分の1を占めていた。退会者のうち半数あまりが,次なるステップとしての種々の社会資源に-がって終了していたが,一方で中止・中断するものも43 %に上っていた。何らかの社会資源に継続した群は,中止・中断群に比べて有意に罹病期間が長く,男性に多く,その後の再入院率も低かった。これらに対応すべく大学病院でのデイケアには多機能性が求められるが,中でも,(1)発達促進的な関わりを中心としながら地域生活に-げるハブ機能を強化すること,(2)具体的なスキル獲得のための効果的なプログラムを開発し効果を検証すること,(3)精神科教育・研修の場としての機能などが重要と考えられた。
キーワード:デイケア,リハビリテーション,社会福祉資源,精神科研修,大学病院

●大学病院デイケアが担う機能についての一考察――福岡大学病院精神神経科デイケアにおける実践の報告をもとに――
矢野里佳,松嶋圭,高橋紀章,田中謙太郎,田中真理子,横山浩之,中宮優子,清水奈々,西村良二
 「障害者自立支援法」の施行をはじめとする,精神科医療をとりまく状況の大きな変化の中,これまでの精神科デイケアのあり方や役割も変化を求められていると言える。その中で大学病院デイケアは,地域の中核的医療機関として,また臨床,教育,研究を使命とする大学病院として特別な役割,機能を果たすべきであると考えられ,それらは,(1)新たな治療技法,アセスメント技法の導入と効果証明に基づく精神科デイケアの専門的治療技術の確立,(2)通所者の生活の質の向上に向けた精神科デイケア専門的援助技術の確立,(3)デイケア対象疾患の拡大と治療,援助技術の確立,(4)医療者の卒前・卒後精神医学教育,(5)地域とのネットワークづくり,の5点にまとめられると考える。大学病院としての医療的,専門的な機能を果たしつつ,通所者が地域の中で生活していくために,地域のさまざまな福祉的援助へとつなげていくような地域との連携が必要であると思われる。
キーワード:デイケア,社会参加,治療技法の確立,医学教育,地域ネットワーク

●東大病院リハビリテーション部精神科デイホスピタルとその役割
古川俊一,藤枝由美子,山崎修道,石橋綾,浅井久栄,笠井清登
 精神科デイホスピタル(以下DH )はその試み自体が研究であり,その結果として現在がある。ここでは臨床の視点からプログラム利用と社会参加までの道のりを,統合失調症とアスペルガー障害の症例を提示して紹介し,その評価指標の変化について示した。そして連携の実際について述べ,スタッフや学生・研修医への教育についても少し触れた。DH の特徴は精神障害者の社会復帰のために,主体性を尊重しメンバー中心のプログラム運営を行い,のびのびと過ごす中で個人に合わせた柔軟な働きかけによって,その能力を最大限に引き出すことである。一方で数多くの社会資源・スタッフとどのように連携し,開かれたシステムを作るのかはまだ試行錯誤の段階である。大学病院に限らず,医療デイケアとしての役割は精神障害者の回復可能性を引き出すことであり,その成果を次のメンバーに還元していくことであろう。
キーワード:デイケア,統合失調症,就労支援,アスペルガー障害,教育

●急性精神病状態からの回復過程におけるデイケアのありかたの考察――脳の構造特性からの考察――
浅野誠
 急性精神病状態が収束したのち,デイケアが有効となる時期やデイケアの内容などを考えるためには,健常な脳に有効な訓練や学習が病的な脳の回復にもなぜ役立つかについての,脳の構造特性からの説明が必要と考える。現在,自然の事象は不可逆的変化で成り立っていると考えられている。しかし,ニューロンのネットワーク構造は一定の可逆性を持っており,そのネットワーク構造が機能を発するか否かについてpercolation (浸透)現象の概念を導入することで説明できる。これにより,ネットワークの機能は臨界値をはさんで機能を発揮できる健常な相と機能が失われる病的な相とに移転することが説明でき,また相の移転は可逆的であることを示すことができる。脳の可逆性ゆえに,訓練や学習が機能を失った病的な脳にも有効であり,その内容についての検討も可能になる。
キーワード:ニューロンネットの密度変化,ネットワーク構造の可逆性,percolation 現象,相移転,見かけの回復と真の回復

第3章 特色のあるデイケア
●思春期青年期患者のデイケアのダイナミクス
衣笠隆幸
 思春期青年期のデイケアにおいては,その特有の発達課題が存在し,その時期に後発する慢性疾患の対象喪失の心理を理解することが重要である。さらにデイケアには重層的な治療機序およびリハビリテーション機能が存在している。その中でもグループ体験,無意識的グループ心性の変遷などについて理解していくことが,デイケア運営の要になる。
キーワード:思春期青年期の発達課題,対象喪失,サブグループ,無意識的グループ心性,小ウインドウ方式

●薬物依存症デイケアは現代社会の切実なニーズである
榎本稔,星島一太
 「パーティードラッグ」。この言葉をご存知だろうか。日本のクラブシーンには合法であれ非合法であれ,この怪しげなドラッグは今や欠かせない存在となっている。なぜ人と人が出会い,交流を深めるのにドラッグが必要なのか。現代人の素面での生きづらさが浮き彫りになってくる。こういった若者文化の波紋は小中学生などの若年層にまで及び,薬物使用の拡大と低年齢化は,現代社会を大きく揺るがせている。そして今,「薬物依存症者」が大幅に増加している。今後も増加の一途を辿るであろう。しかしながら,現段階では薬物依存症者を受け入れる医療機関は非常に少なく,ましてデイケアともなれば更に数が限られてくる。当院は「現代社会のニーズに応える必要がある」をモットーに運営しており,このニーズにいち早く反応した。今回は2000 年に開設され,7年目を迎えた日本で初めての薬物依存症デイケアについて紹介したい。
キーワード:薬物依存症,薬物乱用,デイナイトケア,外来,地域

●アルコール症とデイケア
小杉好弘
 アルコール症のデイケアは近年,大都市周辺のアルコール症専門クリニックや専門病院において盛んに行われている。しかし,アルコール症のデイケアとはどのような対象者に対し,何を目標にし,どのようなプログラムを提供することが望ましいのかについて,現状ではコンセンサスが得られているとはいえない。本論文ではアルコール症とはどのような病態であるかについて論じ,その治療について述べた。その中で,大阪市内の一専門診療所で現在行われているデイケアの実態について,対象者の選択基準やプログラム内容などの紹介を行った。著者は,専門医療機関で行われるアルコール症のデイケアは,自助集団やアルコール症専門作業所あるいはアルコール症のグループワークなどが行われている保健センターなど地域治療資源とのネットワークの中に,いかに組み込まれているかが重要と考えている。
キーワード:アルコール症,重複障害,自助集団,Cloninger ,大都市型ア症

●うつ病,不安障害を対象としたデイケア
五十嵐良雄
 うつ病,不安障害で休職する社員が増加していることが指摘されている。治療のために休職することは休養を取ることであると理解できるが,復職に際してはリハビリテーションが必要であると思われる。(1)規則正しい生活リズムを取り戻す,(2)休職に至った原因を自己分析する,(3)復職に備えてデイケアで体調を調整する,というようなプログラムをリワーク・カレッジと名づけて2年前より開始した。その結果,現在までにこのプログラムを終了した患者は200 名に達しているが,平成18 年6月時点で追跡可能であった100 例のうち,88 %が復職,8%が再休職していた。デイケアの役割としては復職へ向けての体調管理の場であると同時に,同じ病気の仲間という集団の果たす役割が重要である点でも考察を加えた。
キーワード:うつ病,不安障害,休職,復職,リハビリテーション

●ネットワークを活用する不登校対応
榎本稔,北澤彰
 不登校をテーマとして考える時,まずは学校を中心とした教育機関が中心となって解決していく問題として位置づけられる。しかし,近年の不登校問題は,教育機関だけでは解決することができない多種多様な問題を含んでいるケースが非常に多い。子ども本人の精神障害や軽度の発達障害はもちろんのこと,親をはじめとする関係者の誰かが起因となる問題を抱えており,子どもの不登校をきっかけに関係者の問題が表面化することもある。こういった場合,関係者の回復なくして子ども本人の回復にはつながらない。
キーワード:不登校,ひきこもり,デイナイトケア,フリースクール,ソーシャルネットワーク

●認知症高齢者への集団精神療法(生活リハビリ活動)
高橋幸男
 認知症高齢者を対象とした重度認知症患者デイケアの実践について報告した。精神症状や行動障害(BPSD )を持つ認知症高齢者のケアには,認知症高齢者が認知症をどのように生きているか,その社会精神病理を押さえた上での対応が肝要である。デイケアでは,お互いのもの忘れ(認知症)を認め合う中で,持っている能力を遺憾なく発揮できるような支援が必要であり,サイコドラマの考えを援用した集団精神療法(生活リハビリ活動)を行ってきた。重度認知症患者デイケアの効果は明白で,認知症高齢者は穏やかになりBPSD も軽快し,本人はもとよりその家族のQOL も高まった。しかし,精神症状の著しい認知症高齢者に対するケアも介護保険で可能であるとの誤った認識があり,「重度認知症患者デイケア」は近い将来医療保険から消滅する可能性がある。
キーワード:認知症,デイケア,集団精神療法,リハビリテーション

●思春期デイケアと発達障害
鈴村俊介,市川宏伸
 児童精神科,小児科や心療内科を訪れる発達障害患者が急激に増加している。知的障害を伴わない発達障害の一群では周囲が障害に気づかぬことが多く,医療機関受診は思春期以降となりやすい。精神科デイケアが受け皿となることもあるが,サービスを供給する側に知識や経験が不足していることが多く,現場は混乱しがちである。東京都立梅ヶ丘病院の思春期デイケアについて具体的に紹介したうえで,精神科デイケアで発達障害患者を受け入れる際に生じがちな問題について,(1)デイケア全体の雰囲気(2)メンバー・スタッフ間の関係(3)メンバー同士の関係(4)プログラムの見直し,という観点から報告した。最後に発達障害と精神科デイケアの今後のあり方について若干の考察を加えた。
キーワード:児童精神科,発達障害,広汎性発達障害,注意欠陥多動性障害,SST

●摂食障害のデイケア
上原徹
 摂食障害のデイホスピタルプログラムについて,海外での報告を概観し,その適応や限界について論じた。日本で摂食障害のデイホスピタルやデイケアを導入する際,問題となる点や可能性の広がりについて考察した。我々が試案として提唱している多面的多職種参加型デイホスピタルプログラムについて紹介し,全体の構造と認知行動モジュール,美容アプローチの概略を解説した。今後摂食障害の治療や支援の有力なオプションとして,多様な病態や病型に応じたデイケアプログラムの開発と試行が望まれる。
キーワード:神経性無食欲症,神経性大食症,デイホスピタル,認知行動療法,美容アプローチ

●「就労支援」を包含した新たな精神科医療デイケアの試み
向山晴子,星名仁,平川千鶴,熊代奈津子,水野徹,田中祐,益子茂,伊勢田堯
 都立多摩総合精神保健福祉センター(以下,当センターと言う)では,平成18年度に「就労支援を包含した思春期・青年期デイケア」を開設した。この取り組みは緒についたばかりで,評価の段階には至っていない。しかし,精神保健医療福祉の改革ビジョンに続く「障害者自立支援法の施行」「障害者雇用促進法の改正」等は精神科医療デイケアにも色濃く影響するものと受け止めなければならないだろう。地域医療の継続と障害福祉サービスの積極的な活用,ケアマネージメントと社会資源のネットワーク化を意識しながら,デイケア自体も利用者像を明確化し,新たな原点を設定する必要があるのではないだろうか。今回は,デイケアを「働く体験を含め,利用後の地域生活がより豊かで広い選択肢が持てる」ことに重きをなすツールとして捉え直した試みを報告する。
キーワード:精神科デイケア,就労支援,思春期・青年期,障害者自立支援法,グループ就労

第4章 各種の臨床技法のデイケアにおける生かし方
●IPS の活かし方
中原さとみ,中谷真樹
 精神障害者の就労支援に関して,IPS モデルが注目されている。当院デイケアでは2004 年度から就労支援プログラムを開始し,従来型のステップアップモデルからIPSモデルへと支援の方法を変えてきた。その実践の中で,ご本人のモチベーションに基づいて速やかに職探しをすることが,参加者の雇用可能性を増加させることが判明したが,デイケアにおける制限された資源の中でIPS を行うのには限界があるため,2007 年4 月より担当者がデイケアから独立して即応的な就労支援活動を行うことにした。今後は単なるIPS モデルによる支援ではなく,(1)認知機能障害の評価を行い,マッチングに生かしたトレーニングを行うこと(2) customized employment として,ご本人だけではなく企業の方のニーズも満たせるように支援すること(3)ご本人,ご家族,事業主に向けた実際の場面(in vivo )での症状-ストレスコーピング-認知機能障害への心理教育を就労支援担当者が行っていくことが重要だと考える。
キーワード:individual placement and support ,customized employment,on the job training ,認知機能障害,supported employment

●デイケアにおけるSST
納戸昌子,吉田久恵,條川佐和
 SST をデイケアでどう活用するかについて述べた。デイケア・メンバーが取り組むSST の課題は,集団適応の段階と同様に3つの段階((1)導入の時期,(2)生活上の困難を自覚して課題に取り組むことができるようになる時期,(3)デイケア卒業後のステップアップに合わせた課題に取り組む時期)を踏んで展開する。導入の時期には,自発的な課題はほとんど出ないので,デイケアの係の練習や気楽な会話,課題カードを促すなど,課題の工夫が必要となる。個々のメンバーの治療にそったSST を進めていくためには,個別面接,集団における達成課題,SST の課題を連携させることが重要であり,それによって相補的な改善効果が期待できる。人づき合いの機微や被害的傾向などを仲間で分かち合い相互学習するというSST ならではの学習場面が,障害の相互受容や集団の結びつきの強さを高めていくと考えられる。
キーワード:認知行動療法,SST ,デイケア,精神障害リハビリテーション,統合失調症

●デイケアにおける統合失調症への認知行動療法
舳松克代,水野雅文
 近年精神科リハビリテーション領域において認知行動療法のニーズが高まっている。薬物抵抗性の統合失調症の精神症状を軽減する報告も相次ぎますます発展が望まれる技法といえる。統合失調症に対する認知行動療法の特徴としては(1)病的体験を正常体験の延長上に捉える,(2)詳細なアセスメントとケースフォーミュレーション,(3)共同治療者としての関係樹立が成功の鍵となる。認知行動療法をデイケアの場において実施することは外来等で実施するよりも治療効果が見られやすい。その理由として,(1)日常生活を観察できる場があることで,豊富な情報をもとに十分なアセスメントが可能となる,(2)信頼関係の樹立がしやすい,(3)問題がデイケア場面で起こるため,早期介入が可能である,(4)効果がデイケアで観察できる,等が考えられる。小論では実際の介入について症例を提示し説明した。
キーワード:認知行動療法,デイケア,統合失調症,アセスメント,リハビリテーション

●ピアサポートの展望,ピアスペシャリストの可能性
磯田重行,久野恵理
 ここでは既存の精神保健サービス,専門家の提供するサービスにピアサポートがオルターナティブなサービスとなりうるのか,その可能性を考えたい。また,アメリカでのピアサポートの実践を考察し,将来的に日本において精神保健福祉分野でのピアスペシャリストの活躍する場を摸索していきたいと思う。
キーワード:ピアサポート,ピアスペシャリスト,リカヴァリー

●WRAP :元気回復行動プラン
坂本明子
 近年,リハビリテーション領域では利用者主導が原則として取り上げられ,リカバリー概念に基づいた支援も展開され始めている。本稿では,アメリカでMary EllenCopeland 氏ら当事者によって作られたWRAP を紹介した。WRAP はリカバリーを基盤とし,元気でいるために自分で出来る工夫をプランにしたプログラムである。利用者主導型プログラムであり,当事者自身の対処能力を高める上でも今後デイケアでの実践に期待したい。
キーワード:WRAP ,リカバリー,元気回復行動プラン,利用者主導

●デイケアにおける心理教育の意義と今後への期待
内野俊郎,牧田潔
 心理教育の実践にデイケアが果たしてきた役割は大きい。そのデイケアの役割が変わりつつある中,デイケアで心理教育を継続していくことは医療モデルを提供できる場所であることや精神科治療構造への波及といった意味からもまだまだ重要であると思われる。今後も心理教育が持つ特性を生かし,デイケアが求められる変化に応じて個別性やデイケア利用者のニーズに対応したアプローチを行うことでデイケアの役割に貢献することが期待できる。
キーワード:デイケア,心理教育,精神科リハビリテーション

●作業療法の臨床技法をデイケアで生かすには
大丸幸
 作業療法の臨床技法をデイケアで生かすには,通所目的を評価する作業療法評価(病気・障害・健康の割合評価)とプログラム点検が基本となる。また,家族も参加できる精神科デイケアのプログラムを設定することが,病者としての病気対応のレベルから障害または健康な部分への対応レベルまでの内容を含み,地域生活支援の対処技術を高めていける。
キーワード:作業療法評価,病気,健康,障害,プログラム点検

●集団精神療法の視点から
稲村茂
 デイケアは,統合失調症の地域リハビリテーションにとってきわめて重要な位置を占めている。デイケアでは,拠り所性と安全感が基盤にあることを述べた。その上で,認知障害を持つ患者が,具体的な学習体験を得るために実体験として様々な役割を演じることと,その言語化が必要であることを強調した。治療共同体的な患者によるリーダーシップも学習を促進し,デイケアを「全体としての集団」として見たグループプロセスを理解することの意義についても触れた。
キーワード:拠り所性と安全感,学習体験,リーダーシップと自発性,治療共同体的運営,グループプロセス

●精神科デイケアにおける認知機能リハビリテーションの生かし方
岩田和彦
 認知機能リハビリテーションは注意,記憶,実行機能などの特定の認知機能に焦点を当てたトレーニングプログラムである。社会機能や社会的スキルの獲得に認知機能が深く関連していることが明らかになるにつれて,認知機能は精神科リハビリテーションの治療ターゲットとして注目されるようになってきた。統合失調症に対してコンピュータソフトウェアを利用した認知機能トレーニングを実施し,記憶や問題解決能力が改善することが報告されている。現在デイケアで行われているレクリエーションや料理,SST などもその実施方法を工夫することで認知機能トレーニングの役割を果たしうるものである。重要なことはデイケアスタッフが,今行っている介入がどのような認知機能に焦点を当てているかを認識し,さらに対象者の生活上の困難がどのような認知機能障害によって生じているかを評価し,把握できているということである。
キーワード:デイケア,統合失調症,認知機能障害,社会機能,認知機能リハビリテーション


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