発達障害の精神病理 I
発達障害の概念は、20世紀から21世紀に変わるころ、精神科医の間に浸透し始め、それはかなりのスピードで精神医学の様々な領域に広がっていった。まさに精神医学のパラダイムを覆すほどの影響をもたらしたのである。
それから20年、発達障害、特に自閉症スペクトラム障害(ASD)に関する研究は、精神病理学の中でも大きな柱をなす重要な領域となっている。
ではなぜ発達障害の概念がこの時点で急速に精神医学に影響を与えることになったのだろうか。
このような疑問から、2018年3月、精神科医や心理学者など総勢18人が集まり,2日間にわたる相互討論ワークショップを開催した。
本書には、そこでの徹底した議論を踏まえ書き下ろされた9編の論考が収められている。精神病理学や精神分析の論考だけでなく、児童精神医学,発達心理学の論考も俊逸である。
発達障害の臨床現場で、これまでの目の粗い診断基準や記述ではすくい取ることのできない現象に光をあて、発達障害を持つ人の苦しみや生きづらさに対するより繊細な理解を提供することを目指して行われたワークショップの成果が今ここに結実。
鈴木國文、
内海健、
清水光恵 編著
菅原誠一、
松本卓也、
内藤美加、
本田秀夫、
杉山登志郎、
福本修 著
定価 3,740 円(本体3,400円 + 税) A5判 並製 232頁
ISBN978-4-7911-0988-3〔2018〕
Contents
第I部
第1章 他者の顔,わたしの顔――顔が存在するための条件とは 清水 光恵
第2章 見られるとはどういうことか――自閉症スペクトラムにおける,「目と眼差しの分裂」(ラカン)の不成立について 菅原 誠一
第3章 自閉症スペクトラムと〈この〉性 松本 卓也
第Ⅱ部
第4章 記憶の発達と心的時間移動:自閉スペクトラム症の未解決課題再考 内藤 美加
第5章 選好性(preference)の観点からみた自閉スペクトラムの特性および生活の支障 本田 秀夫
第6章 知覚過敏性を巡る諸問題 杉山 登志郎
第Ⅲ部
第7章 差異と同一性――ドゥルーズ的変奏によるASDの精神病理 内海 健
第8章 猫を抱いて象と泳げ 盤下の世界との共生可能性 福本 修
第9章 自閉症スペクトラム障害の思春期,統合失調症の発症 ―― インファンティアと言語活動 鈴木 國文
関連書