精神に疾患は存在するか《電子書籍版》
「精神現象に疾患が存在する」ことは当然の事実なのか? 環境との相互作用の中で機能不全を呈するようになった心理状態は、はたして疾患なのだろうか。
本書では40年にわたり精神科診断学の研究に携わる著者が、心理状態の正常・異常を区分する根拠を探り、心理状態の病理性の確認方法や診断方法の弊害について考察する。疾患ではないが心理的不調を抱えた人々を個としての尊厳を守りつつ援助するという本当の精神科医療を追求すべく、今、精神科診断について改めて批判的考察を投げかける。
北村俊則 著
定価 2,970 円(本体2,700円 + 税)
Contents
第 1章 はじめに
反精神医学と疾患概念
操作的診断基準と疾患概念
心理状態の連続性と疾患概念
第 2章 連続量的分布傾向を示す生命現象は病理的か?
連続量を示す症状における疾患の妥当性
精神症状数の分布
すべての精神症状は連続量を示すか
精神疾患の生物学的指標
遺伝と精神疾患
連続量の現象に病理性は存在しないのか
測定する尺度をどのように決めるのか
範疇的カテゴリーの確認:クラスター分析
範疇的カテゴリーの確認:Toxometrics
まとめ
第 3章 精神疾患は社会的に不適応か?
精神疾患と社会的不適応 悲哀反応
うつ病
不安とその後の死亡率
恐怖性障害
妄想性障害
統合失調症
心的外傷後ストレス障害と外傷後成長
創造性と精神疾患
精神性と精神疾患
精神症状と社会的不適応
まとめ
第 4章 統計的少数が精神疾患か?
統計的に頻度の少ない状態が疾患か
同性愛
性同一性障害
発達障害
統計的少数と疾患性
正常・異常の多様性
幸福は精神疾患か?
高知能は精神疾患か?
精神疾患における価値の混入
まとめ
第 5章 精神科診断が偏見を誘導するか?
精神疾患への偏見
症状への偏見か病名への偏見か
偏見と道徳感情
脳科学から見た道徳感情
精神科診断と社会コントロール
疾患のレッテルの弊害
了解可能性と偏見
第 6章 法と精神疾患の診断
医療における患者の自己決定権と治療同意判断能力
強制医療のあるべきすがた
自殺と安楽死
精神疾患と訴訟能力
精神疾患と刑事責任能力
精神疾患と裁判後の処遇
第 7章 臨床への反映
疾患でなければ治療は行えないのか
精神疾患の病名と利益相反
生物学的治療の効果
生物学的仮説の弊害
第 8章 結論にかえて
こころの痛みの医学化(medicalization)
精神疾患の病名と帰無仮説
精神科における疾病分類学と症状学
精神科診断学の今後
まとめにかえて