本書では児童期虐待による複雑性PTSDの理解と効果的な治療が紹介されている。著者のクロアトル教授は、ICD-11で複雑性PTSDの診断基準を制定した委員長であると同時に、長年にわたって、児童期虐待のサバイバーの治療チームを率いてきた。複雑性PTSDの特徴とされている感情調節の障害、対人関係の障害、持続的な挫折と敗北感は、クロアトル教授らによる治療の中で取り組まれてきた重要項目である。クロアトル教授らが複雑性PTSDという診断基準の制定に努力したのは、その治療可能性を求めてのことである。本書の前半は児童期虐待がどのような心理的影響をもたらすのかについて、複雑性PTSDにとどまらず、広い視点から丁寧に解説されている。そして後半は、STAIR/NSTと呼ばれる治療法が詳しく紹介されている。その治療の効果は日本においても訳者らの研究によって示されている。本書はサバイバー自身が読むことができるような配慮のもとに書かれており、臨床に即した読みやすい内容になっている。複雑性PTSDを知る上で欠かすことのできない一冊と言える。
メリレーヌ・クロアトル、
リサ・R・コーエン、
カレスタン・C・ケーネン 著
金吉晴 監訳
河瀬さやか、
丹羽まどか、
中山未知、
田中宏美 訳
定価 3,960 円(本体3,600円 + 税) B5判 並製 376頁
ISBN978-4-7911-1053-7〔2020〕