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時折,精神科医は子どもが不安に対処するのを助けるためにベンゾジアゼピン系抗不安薬を処方することがあるでしょう。エチゾラム,アルプラゾラム,ジアゼパムなどといった薬は,すべて抗不安薬です。それらはたいてい、子どもの不安経験を軽減するのに非常に有効です。しかも圧倒されるような不安に対処する,手頃で一時的な解決策であることがしばしばです。
不安に圧倒されるというのは恐ろしい感覚です。しかも私たちが不安に思うものは,心配する理由がほとんどないか,あるいはその心配と状況とが不釣り合いな場合が多いのです。例えば,知っている人が二、三人しかいないであろうパーティーに行くことを不安に思うのは当然の範囲でしょう。しかし,心配にあまりにも圧倒されて家から出られなくなってしまうのは問題です。心配に圧倒されて抗不安薬を服用すれば20分で気分が改善し,そのパーティーへ行けるでしょう。
しかしながら次に同じ状況が生じたとき,再び薬を飲まなくてはなりません。私の個人的な治療哲学としては(これは全くの私見ですが),不安は人生の一部です。不安を管理するスキルを発達させることが重要です。これには認知療法が役立つでしょう。
激しい不安に駆られた時に抗不安薬が非常に有効となりうることは間違いありません。しかしこれらの薬には習慣性というマイナス面があるのです。したがって,これらの薬を長期にわたって定期的に用いることはできません。皆さんの子どもがこれらの薬の一つを処方された場合は,明確な終了計画が用意されているか,あるいはその薬が差し迫った必要時のみ服用するよう,制限されていることを確認してください。さらに,これらの薬は,脱抑制効果を持つ可能性もありますーーつまり,子どもによってはこの薬によってより衝動的になり,それが自傷の回数を増やす結果となりかねない場合があるということです。この副作用はアルコール依存の強い家族歴がある場合に,より生じやすくなるようです。
皆さんの子どもが精神科医から薬物療法を勧められ,皆さんの質問に対してもすべて納得のいく回答が得られたならば,それらの薬を試してみることをお勧めします。その際,皆さんと子供は,そのメリットとデメリット(副作用)を慎重に天秤にかける必要があります。例えば,子どもは過去に早まった判断をしたことで危険な行動を取ってしまった経歴があるとします。その場合,薬を使用するメリットはデメリットを上回るかもしれません。その一方で,子どもは学校、運動,友人関係に積極的に関わっており,自傷は対人的な衝突があったときに限られるとしたら,その場合は薬を使用するデメリットがメリットを上回ってしまうこともあります。
DBTと薬物療法を併用しても皆さんの子どもにとって十分な助けにはならない場合には,より集中的な入院または外来の治療プログラムを考慮すべきかもしれません。
皆さんの子どもがこのレベルの介入を必要としていると言われると動揺してしまうかもしれませんが,より集中的なプログラムはうまく利用すれば非常に有効となり得ます。
「自傷行為 救出ガイドブック ―弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著
気分調整薬は,まさに名前通りの作用を及ぼします。すなわちこの種の薬は,これらの子どもたちにしばしば見られがちな,気分の極度な変動を調整することで気分を安定させます。
「まるであの子はジキル博士とハイド氏のようなのです」
ブライアンの母親は私に言いました。
「ある瞬間には世界は何もかもが良いかと思うと,次の瞬間には,息子は自分自身とすべてのもの,他のすべての人々に恨みを抱いているのです」
気分調整薬として用いられる薬には基本的に三つの種類があります。最も長く使用されてきたのはリチウムです。痛風の患者をリチウムによって治療していた医師たちが,二百年前にその気分安定効果に最初に気づきました。しかしこの薬は,1970年代後半まで気分障害の治療に承認されませんでした。リチウムを服用している患者は,血中薬物濃度が高すぎないことを確認するために定期的な血液検査を行う必要があります。血中薬物濃度が高すぎると人体に有害となる恐れがあるからです。その他の副作用としては,顕著な体重の増加が見られます(残念ながら,これは子どもの気分を安定させるために用いられる薬の多くに存在する副作用です)。
第二の種類は,バルプロ酸ナトリウム,ラモトリギン,トピラマートといった抗けいれん薬です。定期的に血中薬物濃度を調べる必要があるものもありますが、その必要がないものもあります。これらの薬には体重の増加を引き起こす傾向が幾らか見られますが,トピラマートは例外で,食欲を抑制します。子どもたちに時折見られるトピラマートの副作用は,動作がゆっくりになる,あるいは思考が緩慢になることです。
第三の種類は,低用量の抗精神病薬です。特に比定型として知られている種類が用いられます。この種の薬には,リスペリドン,クエチアピン、オランザピンが含まれます。気分安定効果に加え,これらの薬は不安,睡眠困難,および衝動性の治療に用いることもできます。他の気分安定剤の場合と同様,非定型抗精神病薬も体重増加を引き起こす恐れがあります。また糖尿病の増加とも関連づけられてきました。低用量でも,これらの薬は子どもに一種の無気力と意欲のわかない気分を引き起こすことが時折あります。
次回は「抗不安薬」を紹介します。
「自傷行為 救出ガイドブック ―弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著
抗うつ薬にはいくつか種類がありますが、最も一般的に処方されるのは選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)です。SSRIにはフルオキセチン、パロキセチン、セルトラリンなどがあります。SSRIは不安を改善する効果があると考えられ、抑うつ状態と不安がある場合に処方される可能性があります。抑うつに苦しむ人々は脳内のセロトニンの量が十分でないと考えられることから、SSRIは、より多くのセロトニンを脳が利用できる状態にすることでこれを改善します。これらの薬は通常、効果が出始めるまでに4〜6週間かかりますので、即効的な結果を期待してはいけません。SSRIは抑うつの治療における非常に強力なツールとなり得ます。以下に二つの重要な副作用について簡単に説明しますが、それを除けば、比較的穏やかです。しかし最も重要なことは、皆さんと皆さんが一緒に取り組んでいる治療チームが、皆さんの子供が真の抑うつ状態にあるのか、それともありふれた深刻な不幸に包まれているのかを区別することです。
副作用はどのような薬物療法にもある問題です。SSRIも決して例外ではありません。副作用には不眠、嘔気、および軽い筋肉痛があります。これらの症状は一般に、穏やかで一時的なものです。注意すべきは、診断はされていなくても双極性障害を持っている子供がSSRIを服用すると、より深刻な問題に直面することになります。この種の薬は躁病エピソードを誘発することがあります。観念奔逸(考えが次から次へと浮かぶこと)、不眠、焦燥やイライラの高まり、誇大思考、そして過剰なエネルギーなどがその症状です。過剰なエネルギーなどは、最初は抑うつ気分と対照的で歓迎されるものと感じられるかもしれませんが、すぐにより多くの問題に至ります。皆さんの子供が抗うつ薬をほんの数回服用しただけでエネルギー過剰になってるように思われた場合には、処方医に連絡してください。
2番目の深刻な副作用はこれまで随分と議論され、今でも論争の的になっています。それはSSRIが自殺思考を増大されることがあるというものです。これらの薬には「ブラックボックス警告」【訳註:薬の外箱に印刷される黒枠付きの注意書き。米国食品医薬品局の要請による警告のこと】が添付されてさえいます。抗うつ薬はなんであれいくらかエネルギーを増すということは知られており、時折この新たに増したエネルギーが自殺的思考に向けられることもありますが、SSRIが大人よりも子供にしばしばこれをもたらすという根拠をめぐって議論が交わされています。自殺念慮を増すという副作用は、この種の処方される子供たちの2〜4%に存在するように思われます。皆さんの子供が抗うつ薬を服用し始めた後、自殺思考を経験しているように疑われたら、即座に医師に知らせてください。
次回は、「気分調整薬」を紹介します。
「自傷行為 救出ガイドブック ―弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著
一般的な青年期の子どものグループ心理療法では、4〜8人の子どもたちが一緒に、1人か2人のセラピストと定期的に会います。グループには時間制限が設けられるーーたとえば12セッションのみーーこともあれば、グループのメンバーが自分を価値あるものと感じるようになるまで継続されることもあります。グループによっては、現代の米国文化において男子であるというのは何を意味するのか、といったようにテーマを設けることもありますし、あるいは社会的なスキルを教えるといったように特定の目的を定める場合もあります。ほとんどの子どもたちにとってグループ療法はとても役立ちます。なぜなら、彼らは大人よりも同年代の仲間からの方がフィードバッグを受け入れやすいことが多いからです。しかし、自分の問題についてフィードバッグを受けるということは、それがどのようなものであれ感情的に負担のかかる経験であることに違いはなく、青年期の子どもたちのグループにおいても決して例外ではありません。
高度に構造化され、スキルに基盤を置き、感情表現を制限されたグループは、自傷を行う青年期の子どもたちにとって最も有益なものとなるでしょう。これこそがDBTグループ療法が行おうと努めることです(ときおり、DBTセラピスト以外のセラピストにかかっている子どもたちが、DBTのグループ療法に紹介されることがあります。これは何ら害はありませんが、このような子どもたちは、個人DBTとDBTグループ療法の両方を受けないと治療の恩恵を完全には得られないでしょう)。
次回は「薬物療法」をご紹介します。
「自傷行為 救出ガイドブック ―弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著
DBTは比較的新しい治療法であるため、トレーニングを受けたセラピストを見つけることは必ずしも容易ではありません。
皆さんが関わる医療機関や精神保健センターのソーシャルワーカーに、DBTセラピストを知っているかどうか尋ねることができます。時折、心理学者とソーシャルワーカーから成る地域の協会が良い情報源となってくれることがあります。また、皆さんの地元の精神科クリニックや、児童精神科外来を有する病院に尋ねることもできます。
DBTのセラピストとなってくれそうな人を見つけたら、皆さんが尋ねるべき、ある重要な鍵となる質問があります。
1、そのセラピストは集中トレーニングコースを受けたことがありますか?
2、全体的なコンサルテーション・チームが存在しますか?
3、治療時間外にスキル訓練のためのきちんとした機能が存在しますか?
4、そのセラピストは青年期の子どもに広範囲にわたって取り組んできましたか?
セラピストが集中トレーニングに出席したことがあると非常に有益ですが、そうでないからといって交渉決裂とすべきではありません。しかしこのような場合には、上に挙げた質問の2番目と3番目が皆さんの決断を下す際にいっそう重要となります。
ふさわしいセラピストを選択するためのガイドライン
まず間違いなく、子どもとセラピストとで行われる個人治療が中心的治療計画となるでしょう。
したがって、子どもと皆さんの両方がそのセラピストと良い関係を築き、満足に感じられるようにしてください。皆さんはその人物を信頼し、協力できると感じる必要があります。また、治療前にも治療中にも皆さんの質問に答えてくれる人物である必要があります。しかしながら、そのセラピストと良い関係を持つことだけでは十分ではありません。
■理論的志向
セラピストは、治療を導く助けとするための理論を持つ必要があります。自分は特定の理論的志向を持っていない、あるいは自分は「うまくいくことをするだけだ」と言うセラピストには、不安を覚えます。心理学的理論はセラピストが有効で関連のある介入をするために、自分の患者の行動を理解しようとする上で役立ちます。皆さんがDBTセラピストではない人と話をする際には、そのセラピストがどの理論的志向に基づいて自傷を行う子どもたちを理解するのか、尋ねてください。治療を行う上でそのセラピストが用いる心理学的理論が具体的にどのように実践されるか、皆さん自身ができるだけ完全に理解するようにしてください。
■学位と経験
私の経験では、学位は、次の事柄と比べたらさほど重要ではありません。
1、セラピストは自傷を行う人々に取り組んだ経験を少なくとも数年間は持っているべきです。
そしてその特定の治療が、子どもの自傷の問題に対してどのように取り組むことになるのかを説明できなくてはなりません。
2、セラピストは青年期の子どもの治療に熟練しているべきです。
3、セラピストは、治療における親の役割と、セラピストと患者間の秘密保持の範囲と限界について明確な考えを持っているべきです。
次回は「DBTを補完する治療」を紹介します。
「自傷行為救出ガイドブック ー弁証法的行動療法に基づく援助ー」マイケル・ホランダー著