BPDとはの最近のブログ記事
○対人関係上のストレスが気分変動を引き起こす
BPD患者の感情の強烈さ,不安定さ,触れ幅の大きさは厄介なものです。
特に恐怖,悲哀感といったマイナスの感情、とりわけ敵意に極端な変動がみられます。
そのためBPDは感情調節障害が基盤と考えた研究者もいました。
しかし抗うつ薬の効果は著しく乏しく、気分安定剤も充分な効果がありません。
BPD患者の感情不安定性を引き起こすのは、「他人からの拒絶」「孤独であること」「失敗すること」など、対人関係やコミュニケーションに関わるものが代表的です。
より短時間で一過性のものとして、双極性障害などとは区別されます。
○怒り・不安・空虚感
対人関係上のストレス、特に〈コミュニケーションのつまずき〉が生じたとき、患者は怒りをあらわにすることがあります。
怒りと並行して、不安感,悲哀感といったマイナスの感情にも悩まされています。
これらの感情は相互に移行し、怒りに先行するのは大抵、対人関係にまつわる不安感なのです。
「見捨てられ不安」と言われるように、BPD患者は、人が自分を拒絶している,要求を満たしてくれない,無視しているといった、対人関係にまつわる不安に極めて敏感です。
空虚感は、退屈さとは縁遠い感覚であり、むしろ絶望感や寂しさ,孤独感と密接に関連しています。
対人関係やコミュニケーションと関わる、情動に関する問題です。
自殺行動に先立ってみられる「空しい」という訴えを、軽く見ることは禁物です。
*「治療者と家族のための 境界性パーソナリティ障害治療ガイド」
黒田章史(岩崎学術出版社)より
文責・稲本
Ⅰ BPDとコミュニケーションの病理
BPDの「些細なきっかけで急に怒り出したり、大量服薬したりする」という問題行動は、ある特定の状況で、特定のメカニズムに従って生じると言ってよいものです。
周囲の人が最も困惑するのは、それらの症状がどういう状況,メカニズムで生じるかが分からないことです。
このメカニズムを明らかにするため、DSMの診断基準を、対人関係,情動,衝動性,認知という、4つの領域に分けて説明します。
これらの全ての症状は、対人関係の問題が最も大きく関わっています。
対人関係の問題を、「コミュニケーションの病理」という視点から捉え直したいと思います。
Ⅱ BPDの病理がみられる4つの領域
DSM-5では、以下の9つの診断項目のうち、5項目以上を満たせばBPDと診断するとされます。
1.現実に、または想像の中で見捨てられるのを避けようとするなりふりかまわない努力
2.理想化とこきおろしとの両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる、不安定で激しい対人関係
3.同一性障害:著明で持続する、不安定な自己像または自己感
4.自己を傷つける可能性がある衝動性で、少なくとも2つの領域にわたるもの。
たとえば浪費,性行為,物質(麻薬,覚醒剤,アルコールなど)乱用,無謀な運転,むちゃ食い
5.自殺の行動,そぶり,脅し,または自傷行為の繰り返し
6.顕著な気分反応性による感情不安定性(たとえばエピソード的に生じる強い不機嫌, イライラ,あるいは数時間続く不安など)
7.慢性的な空虚感
8.不適切で激しい怒り,または怒りの制御の困難
9.一過性のストレスに関連した妄想様観念,または重篤な解離性症状
*「治療者と家族のための 境界性パーソナリティ障害治療ガイド」
黒田章史(岩崎学術出版社)より
文責・稲本
(前の記事からの続き)
o家族と仲間の影響
パーソナリティは全て、育った環境によって形作られます。
私たちが皆「正常な範囲内の機能不全」の中で育ってきてもいます。
BPD発症のリスクには次のようなものがあります。
・感情的,身体的,性的虐待
・効果的でない(とBPD本人が思っている)育て方
・無秩序な家庭状況
・親と子供の気質の不適合
・親,または親の関心の喪失
これは99%の家族に当てはまるかもしれません。
でも自らを咎めないでください。
BPDの人は対人的なやり取りを誤解したり、間違って記憶したりするかもしれません。
強い見捨てられ不安のため、友人関係をより多く求め、期待する可能性があります。
oBPDの一因としての「非承認的な環境」
BPDの原因に関する「生物社会的」モデルがあります。
BPDの人は生まれつきストレスに激しく反応し、感情的な頂点は際立っています。
落ち着くまでに普通より長い時間がかかります。
感情的に脆弱な子供が「非承認的な環境」で育てられると、BPDを発症するといいます。
非承認的な環境とは次のようなものです。
・養育者が、子供の感情や経験を間違っていると言う
・養育者が、子供の欠点を批判する
子供は自分の直感的な反応を信用しなくなり、自分がどう感じるべきか、他者に目を向けるようになります。
o親と子供の適合不良
リスクファクターのひとつが、生物学的に脆弱な子供と、子供の要求を負担に感じる養育者との不適合です。
家族が危機的状況にある場合,親が子供と過ごせる時間が制限されている場合などがあります。
*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー(星和書店)
〈監訳:遊佐安一郎〉より
文責・稲本
環境的なリスクファクターには、虐待,家族と仲間,非承認的な環境,親と子供の不適合があります。
o虐待:神話と現実
BPDの人の75%が虐待の経験があると言われています。
しかしそれには幾つかの問題があります。
まず、虐待がBPDの原因なら、BPDの人の4人に一人が虐待されていないのは何故でしょう。
次に、相関関係は必ずしも因果関係ではありません。
虐待,離別,ひどい子育てを受けた多くの人は、BPDを発症せず、BPDの人のなかには、これらのリスクファクターのどれも経験していない人もいるのです。
また75%という数字は、成人患者の自己報告に基づいていますが、BPDは知覚や論理に障害があるものです。
虐待という言葉の曖昧さやデータ収集の限界もあります。
75%という統計は絶対的なものではありません。
生物学的にBPDの要因がある人は、ほとんどの子供が耐えている侮辱,批判,懲罰に過敏です。
そして、親が扱いにくい子供には批判や懲罰が多くなり、のちに虐待的として思い出される可能性があります。
BPDの子供を持つ親のサポートグループ「NUTS」では、虐待,ネグレクト,トラウマが問題の家族は、ほとんどないといいます。
虐待的な親は恐らくグループに参加しないのでしょう。
でも虐待が関係なくても、BPDに取り組んでいる家族が多くいるのです。
(次の記事に続く)
文責・稲本