ジルは毎朝目覚めると自分自身に言います。「今日は過剰反応しないわ」。ジルは子どもたちの朝食を作るために一階に降り、すぐに子どもたちの学校に行く支度がはかどっていないことがわかり、イライラしだします。娘の教師と話をするために学校に立ち寄ります。教師から、娘がリーディングの授業で悪戦苦闘していると聞いてジルは非常に悲しくなります。すべて自分が悪いのだと思い始めます。恥と罪責感が高まって、気分を良くするために地元の百貨店に寄り、セール中の服を買います。家に帰って、どれほどお金を使ったか認識すると、屈辱感に打ちのめされてしまいます。自分のことを「間抜け、クズ」などとののしり始めます。テレビをつけ、トークショーを見ながらすすり泣き、しまいにはお酒を飲みだします。
ジルの例が示しているように、感情調整不全に苦しむ人たちは、いつでも高感度の感情のなすがままになっています。感情の調整不全というのは、他の皆はぬるいと主張するコーヒーを飲んで、煮え湯を飲んだように感じるようなものです。あなたならわずかないらだちを感じるだけかもしれないところで、感情調整不全の人は瞬時に激怒します。あなたが誰かに魅力を感じて気持ちが高ぶるところで、BPDを持つ人は抵抗し難い欲望を感じるでしょう。あなたにとっては少々困惑させられるだけのことでも、感情調整不全の人は押しつぶされそうな恥の感情を消し去るために急いでその場を去り、繰り返し自分を切りつけたり、お酒に浸ったりするのです。
感情の調整不全はBPDをもつ人の調整不全の主要領域です。他の4つのタイプの調整不全はBPDをもつ人の急速で極端な感情の結果であるか、または安堵感を求める試みや感情を回避する試みなのです。
BPDをもつ人の感情は急速に変化します。見るからに幸せそうな状態から、恥の感情でいっぱいの状態、それから怒りと悲しみに満ちた状態へ...。とても激しい感情は、あなたには予測不可能に見えるでしょう。
そして恥はBPDをもつ人にとって第一の敵です。恥がもたらす混乱と感情の壊滅的結末としてBPDをもつ人が感情を失くしたかのように見える時間があるかもしれません。それは、感情的に敏感なため人間関係や社会的なつながりを失うというこれまでの経験ゆえに「感情は悪いものだから、もつべきではない」と学習し、自分の感情を過度にコントロールするようになった結果です。もちろん問題は、その人が感情を封鎖あるいは抑制していることで、そのような感情は最終的には爆発し、大きな問題となります。
このような感情の激動はすべて、周りの人たちにとっては非常に不快ですし、次の噴火に備えていつも警戒しているのでは、自分の人生も振り回されているかのように感じるでしょう。しかし感情の過敏さを、性格の欠陥としてではなく特徴として認識するなら、あなたはそれほど常に愛する人の感情のなすがままになっているように感じなくてすむかもしれません。そして、愛する人が感情をコントロールしていないということへの怒りにそれほどとらわれずにすむかもしれません。
次回「他人とうまくやっていくうえでの問題(対人関係技能の欠如)」を紹介します。
星和書店
「境界性パーソナリティ障害を持つ人と良い関係を築くコツ」シャーリ・Y・マニング著