2014年10月アーカイブ
○対人関係上のストレスが気分変動を引き起こす
BPD患者の感情の強烈さ,不安定さ,触れ幅の大きさは厄介なものです。
特に恐怖,悲哀感といったマイナスの感情、とりわけ敵意に極端な変動がみられます。
そのためBPDは感情調節障害が基盤と考えた研究者もいました。
しかし抗うつ薬の効果は著しく乏しく、気分安定剤も充分な効果がありません。
BPD患者の感情不安定性を引き起こすのは、「他人からの拒絶」「孤独であること」「失敗すること」など、対人関係やコミュニケーションに関わるものが代表的です。
より短時間で一過性のものとして、双極性障害などとは区別されます。
○怒り・不安・空虚感
対人関係上のストレス、特に〈コミュニケーションのつまずき〉が生じたとき、患者は怒りをあらわにすることがあります。
怒りと並行して、不安感,悲哀感といったマイナスの感情にも悩まされています。
これらの感情は相互に移行し、怒りに先行するのは大抵、対人関係にまつわる不安感なのです。
「見捨てられ不安」と言われるように、BPD患者は、人が自分を拒絶している,要求を満たしてくれない,無視しているといった、対人関係にまつわる不安に極めて敏感です。
空虚感は、退屈さとは縁遠い感覚であり、むしろ絶望感や寂しさ,孤独感と密接に関連しています。
対人関係やコミュニケーションと関わる、情動に関する問題です。
自殺行動に先立ってみられる「空しい」という訴えを、軽く見ることは禁物です。
*「治療者と家族のための 境界性パーソナリティ障害治療ガイド」
黒田章史(岩崎学術出版社)より
文責・稲本
Ⅰ BPDとコミュニケーションの病理
BPDの「些細なきっかけで急に怒り出したり、大量服薬したりする」という問題行動は、ある特定の状況で、特定のメカニズムに従って生じると言ってよいものです。
周囲の人が最も困惑するのは、それらの症状がどういう状況,メカニズムで生じるかが分からないことです。
このメカニズムを明らかにするため、DSMの診断基準を、対人関係,情動,衝動性,認知という、4つの領域に分けて説明します。
これらの全ての症状は、対人関係の問題が最も大きく関わっています。
対人関係の問題を、「コミュニケーションの病理」という視点から捉え直したいと思います。
Ⅱ BPDの病理がみられる4つの領域
DSM-5では、以下の9つの診断項目のうち、5項目以上を満たせばBPDと診断するとされます。
1.現実に、または想像の中で見捨てられるのを避けようとするなりふりかまわない努力
2.理想化とこきおろしとの両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる、不安定で激しい対人関係
3.同一性障害:著明で持続する、不安定な自己像または自己感
4.自己を傷つける可能性がある衝動性で、少なくとも2つの領域にわたるもの。
たとえば浪費,性行為,物質(麻薬,覚醒剤,アルコールなど)乱用,無謀な運転,むちゃ食い
5.自殺の行動,そぶり,脅し,または自傷行為の繰り返し
6.顕著な気分反応性による感情不安定性(たとえばエピソード的に生じる強い不機嫌, イライラ,あるいは数時間続く不安など)
7.慢性的な空虚感
8.不適切で激しい怒り,または怒りの制御の困難
9.一過性のストレスに関連した妄想様観念,または重篤な解離性症状
*「治療者と家族のための 境界性パーソナリティ障害治療ガイド」
黒田章史(岩崎学術出版社)より
文責・稲本