2014年11月アーカイブ

Ⅱ凡人として語る:周囲の人々の基本姿勢

 BPD当事者が話しかけてきたときや相談してきたときには、出来るだけ凡人として語ることです。私たちの多くは個性などを持たない凡人ですが、ここでふれていることはそのことではありません。BPD当事者と適切に関わるためには、凡人「普通のものだけが登場する普通の世界の住人」として関わるべきなのです。

 それでは、凡人として語る8つの方法について具体的に説明していきます。ここでのポイントは「小さな子供に言葉を教えるときに養育者の取る態度と基本的に同じであること」です。


凡人として関わる8つの方法
1.何かを描写したり、BPD当事者に指示や問いかけをするときは、「個性的で」「風変わり」な言い回しを避け、徹底的に素直に、正面から、真面目に、まっすぐに内容に対して適した言葉で語るように心がけること

2.皮肉や比喩的な表現を出来るだけ避け、どうしてもそれらを用いる必要があるときは、それらが皮肉や比喩であることを明らかにした言葉を付け加えること

3. BPD当事者の話し方が舌足らずであったり、不完全なときは、周囲の人々の側で寄り添って「理解してあげるのではなく」のではなく、BPD当事者の表現が周囲の人々に理解できるレベルに達するように「言葉で助け舟を出してあげる」こと。周囲の人々の助けを借り、そこまで達成できたのであれば正面から褒めること

4. BPD当事者の置かれた前後の状況やふるまいから判断して、「そのようなときに普通の人はどう感じるか」といこうとを婉曲な言い回しを用いつつも積極的に指摘すること
例:「こんなことがあったのだから、普通は悲しくなっちゃうものだけど~あなたはそうでもないかしら」「こういうときは、普通怒りたくなるものだけど、まああなたがどう感じるかわからないけど~」などの言い回しを多用すること

5. BPD当事者と会話するときは周囲の人々は呼び方や言い回しを、出来る限り言葉の意味のプロトタイプ*に沿ったものにするように心がけること*具体例は後日説明いたします
ポイント:「典型的でない」「個性的で」「風変わり」な呼び方や言い回しを出来る限り避けること

6. BPD当事者が「典型的でない」「個性的で」「風変わり」だと思える呼び方や言い回しをしたときに、周囲の人々は「面白い」と反応したり、「理解してあげる」よりも、それらが言葉のプロトタイプから脱線していることをやんわりと指摘するように心がけること

7.周囲の人々が自分自身のしていることについて、自分の置かれた文脈や状況から、自分が感じたり考えたりしてもおかしくない内容について、しばしばひとりごとを言うようにすること
例:「ああ、困っちゃったなあ」「あら間違えちゃった」「ああ、悲しくなっちゃった」など

8. BPD当事者がしていることについて、周囲の人々がその文脈や状況から、常識的に感じたり、考えたりしてもおかしくない内容を、やんわりと口に出していくこと
例:BPD当事者が怒鳴ったときに「おお怖い」「そんなに怒らなくても良いじゃない」など


参考文献:
「治療者と家族のための境界性パーソナリティ障害治療ガイド」 黒田章史著 岩崎学術出版社 2014310


 これらの共通のポイントは周囲の人間が常識的な反応ができる方向に当事者を導く手助けをしていること、やわらかく伝えることが挙げられます。個人的な意見ですが、DBT(弁証法的行動療法)の対人関係スキルの一つであるDEAR MANにも通じる部分があるように思えます。

文責:吉本

「豊かな語り口」で関わる3つの目的


1.互いにやりとりする言葉の情報量をできるだけ減らすこと

「BPD当事者にとっての言葉の意味把握や判断を助け、コミュニケーションにまつわるトラブルを減らすこと」が目的です。
具体的には話す速度を落とす、間を取る、オウム返しのように繰り返す、挨拶語を多用することを指します。

2.他人に対して働きかける社会的行為の側面を強調すること

家族やパートナーがBPD当事者に「何としてもコミュニケーションを取りたいという意志を伝えること」です。

3.話し手が伝えたい内容を副次情報から容易に分離すること
具体例として、「ありがとう」と伝える際には無表情で伝えるのではなく、顔の表情や口調(抑揚をつける)、身振り手振りで感謝している気持ちを表現することです。

「豊かな語り口」とは話し手(家族やパートナー)の側から一方的にしていくことを意味します。
通常の語り口だと、BPD当事者が急に怒り出したり、落ち込んでしまったりすることが起こりますが、「豊かな語り口」を用いることで比較的安全にコミュニケーション可能になるのです。
特に問題行動を改めるよう伝えるときや耳に痛いことを伝えるときにトラブルに陥りにくくなります。

家族やパートナーがこのような介入を行った場合、BPD当事者からの「気持ち悪い」、「馬鹿にするな」などの反発が予想されます。見た目の年齢に相応しくなく小さな子供に話しかけるように接するのですから無理もありません。
しかし、「そうかしら?」、「私も年をとったので早く喋れなくて」などと言い訳しながら、平然と続けることで彼らの状態が大人と話すように接するよりもはるかに落ち着く場合があるのです。

参考文献:
「治療者と家族のための境界性パーソナリティ障害治療ガイド」 黒田章史著 岩崎学術出版社 2014年3月10日


ここでも触れられているように、BPD当事者に振り回されるのではなく、家族が主導権を握って「豊かな語り口」を一方的に平然と実践していくことが重要だと思いました。


文責:
吉本

Ⅰ「豊かな語り口」で語りかける

 
 境界性パーソナリティ障害患者との関わり方の基本は、「凡人」として「豊かな語り口」で語る、という〈型〉に則って、定式化できるものです。

1.「豊かな語り口」とは
 「豊かな語り口」とは、以下のようなコミュニケーションスタイルです。

①話のテンポをゆっくりとし、言葉と言葉の間を区切るしゃべり方をする
②言葉の抑揚をつけ、声のトーンもわずかに上げる
③患者の言葉を丁寧におうむ返しにして確認する
④相手と関わりを持つような終助詞「ね」「なあ」「よ」「かな」を多く用いる
⑤挨拶語や、「ほら」「あのね」「ああ」,「あげる」「どうぞ」などを多く用いる
⑥「ありがとう」と言うなら感謝している表情や口調で、言葉と動作を一致させる
⑦主語・述語や、「だから」「しかし」などの順接・逆接関係を省略せず語りかける

 ①~③は、「幼児向けの話し方」「母親語」を適用したものです。
 聞き手は話し手の言葉により注目しやすくなり、プラスの感情も多く表す傾向があることが知られています。

 冗長かもしれませんが、良質な交流が成り立つ働きかけをするという意味で、「非常に豊か」なものです。

 ④~⑦は、「豊かさ」「冗長さ」を重視したもので、特に④⑤は相手に働きかける側面を重視しています。


*「治療者と家族のための 境界性パーソナリティ障害治療ガイド」
  黒田章史(岩崎学術出版社)より

文責・稲本
 

治療との関わり

 
 BPDには対人関係,情動制御,衝動性,認知に関する問題という、4つの病理が認められます。
 これらは、対人関係やコミュニケーションの問題が大きく与っています。

 コミュニケーションのつまずきに対して、以下の2つの問題が生じます。
・世間に参加するのに妨げになる、厄介な「反応傾向(癖)」を身に付けてしまうこと
・世間に参加するのに不可欠な能力を習得しそこねてしまうこと

 BPDを治療するには、単にDSM診断基準の症状に対応するだけでなく、こうした問題に治療的に取り組むことが不可欠です。
 BPDが難治とされてきたのは、こうした患者の心理社会的機能の不全に、適切な対応がなされてこなかったからでしょう。

 コミュニケーションのつまずきに対する脆弱さを改善することで、BPDの問題行動や症状を大きく減らすことが可能です。


【コミュニケーションのつまずきに対する脆弱さ(神経症傾向)】
     ↓↑
【BPDの症状】
 ・対人関係の問題
 ・衝動性
 ・感情不安定性
 ・認知症状
 ・同一性の障害
【世間に参加するのに必要な社会的能力の未習得】《治療の主目標》
 ・〈学び/学ばれる関係〉に耐えられる能力
 ・人の気持ちや考えをなぞる能力
【身に付けてしまった厄介なクセ】《治療の主目標》
 ・風変わりな反応傾向(癖)


*「治療者と家族のための 境界性パーソナリティ障害治療ガイド」
  黒田章史(岩崎学術出版社)より

文責・稲本
 

 
○認知に関する問題
 ストレスと関連した一過性の妄想様観念あるいは解離症状は、BPDの主な特徴です。
 見捨てられる恐れや、対人関係のストレスを感じた際に、疑い深くなり、誤った信念を抱いたり、他人の意図を歪曲したりしてしまいます。
 現実感を失ったり、感情が麻痺したり、離人症状を示すこともあります。

 これらの症状は日常生活で生じ、BPD患者のストレスに対する脆弱性は、他の精神疾患やパーソナリティ障害より際立っています。

 さらに妄想様観念だけでなく、幻覚(とりわけストレスと関連した一過性の幻聴)など、様々な精神病的症状が含まれています。

 ただしBPD患者の現実検討能力は、ストレス下で一時的に低下しても、持続的に失われることはありません。
 コミュニケーションの問題が改善すれば、速やかに回復するのが常です。

○同一性の障害
 自分の人生の方向をいともたやすく投げ捨てて、次から次へと乗り換えていく傾向は、BPD患者に最も多く認められる症状のひとつです。
 以下のような広い範囲に及びます。

 現実的な長期目標を立て、それを達成しようと努力し続ける能力の乏しさ。
 過去と現在と未来を主体的に統合する能力の乏しさ。
 自分が首尾一貫していないという感覚。
 自分を安定させるために、外部の対象に著しく依存してしまうこと。
 空虚感,無意味さ,疎外感を感じること。
 自己破壊的行動,自分のジェンダー,未来,価値観について深い混乱に陥ること。

 同一性の障害は、対人関係やコミュニケーション能力に関わる問題,記憶に関する機能不全,解離や衝動性などに関連しているとされてきましたが、明らかにされていません。

 現代社会は、社会のまとまりが弱くなり、個人の自由が極端に重視され、同一性の障害に陥りやすい人にとって、社会に適応するのは、かつてないほど難しいのかもしれません。


*「治療者と家族のための 境界性パーソナリティ障害治療ガイド」
  黒田章史(岩崎学術出版社)より

文責・稲本
 

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