2016年9月アーカイブ

パーソナリティ障害の原因1

 生まれつきの気質、成育環境、社会状況など、様々な要因が絡んでパーソナリティ障害を発症すると考えられます。しかし、原因を突き止めることが、必ずしも治療に結びつくとは限らないことも念頭に置くべきでしょう。

 

複数の要因が絡む

 パーソナリティ障害を発症する原因は一つではありません。本人が生まれつき持っている気質、成育環境、親や周囲の接し方、時代特有の価値観や考え方など、様々な要素が関連しているのです。このことは、あらゆるパーソナリティ障害の発症に多かれ少なかれ関与しているのですが、パーソナリティ障害の種類によって、強く関与する要因には違いがみられます。例えば病前性格型のパーソナリティ障害や反社会性パーソナリティ障害の場合、生まれつきの気質が関わる割合が大きいのですが、未熟性格型のパーソナリティ障害では、成育環境や親子関係のあり方などに強く影響を及ぼすと考えられています。

 

生まれ持った気質

 人は誰でも、生まれつきながらの固有の気質を持っています。

 個人のパーソナリティが形成されるまでに、発達過程での親子関係などの影響も受けますが、基盤となる固有の気質は生まれつきのものなのです。生後間もない乳児でも、おとなしい子や活発な子、神経質な子や無頓着な子もいるのです。このような生まれつきの気質は、その人のパーソナリティの基盤になるものですから、その偏りがパーソナリティ障害の元になっている場合もあります。

 

育てられ方の影響

 自我が芽生える幼少期に、養育者にどのように育てられたかということは、パーソナリティの形成に大きく影響を与えます。親から十分な愛情を注がれたか、親子の愛着関係がスムーズに築けたか、虐待やネグレクトを受けなかったかといったところが重要なポイントとなります。

 幼少期に、親との愛着関係をしっかり築かれていない、または、主体性を形成し損なうと、パーソナリティが不安定になりがちで、成人してからも、些細なことで不安になったり、傷つきやすくなったりするのです。

 

遺伝子の関与

 パーソナリティ障害には、遺伝的な要因があることが指摘されています。全く同じ遺伝子を持つ一卵性双生児と、遺伝子が多少異なる二卵性双生児を比較し、双子の兄弟のどちらともパーソナリティ障害になる確率を調査した結果、一卵性双生児の方が確立が高いことがわかりました。このことは、パーソナリティ障害の発症に、なんらかの遺伝子が関与していることを裏付けています。

 パーソナリティ障害の関連遺伝子が幾つかあり、それを受け継いだ場合、パーソナリティ障害を発症しやすくなるということです。

 ただし、親がパーソナリティ障害であれば、子どもも必ずパーソナリティ障害になるというほど、強い因果関係があるわけではありません。遺伝のしやすさであれば、糖尿病や高血圧のほうが遺伝子の関与が大きいといわれています。

 

 

引用・参考文献:
「図解 やさしくわかるパーソナリティ障害」 牛島定信著 ナツメ社 2012110

 

文責:吉本

現代型パーソナリティ障害の分類

前回取り上げた現代型パーソナリティ障害の分類を、下表にまとめました。

.1 現代型パーソナリティ障害の分類

 

障害の程度

分類の特徴

当該パーソナリティ障害

病前性格型

他の精神疾患に移行しやすい。発症には生得的な性格による要因が大きい

・スキゾイド・パーソナリティ障害

・スキゾタイパル・パーソナリティ障害

・サイクロイド・パーソナリティ障害

・サイクロタイパル・パーソナリティ障害

・妄想性パーソナリティ障害

未熟性格型

発症は生得的な性格ではなく、発達過程の環境によるところが大きく、人格が未熟である

・境界性パーソナリティ障害

・自己愛性パーソナリティ障害

・回避性パーソナリティ障害

・反社会性パーソナリティ障害

神経症型

神経症に近い状態で、社会適応が保たれている

・演技性パーソナリティ障害

・依存性パーソナリティ障害

・強迫性パーソナリティ障害

 

時代錯誤となった演技性

 神経症型グループに含まれるパーソナリティ障害は、現代的な障害とはいえなくなってきています。

例えば、演技性パーソナリティ障害とは、派手な身なりや芝居がかった言動で異性にアピールし、不倫関係や三角関係を起こすタイプです。

 しかし、現代では奇抜な外見や不倫関係も日常的な現象になっていますから、誰も驚くことはないでしょう。このことは、演技性パーソナリティは、社会で寛容に受け止められやすくなり、このような特徴はあまり目立たなくなったといえます。このように社会に受容されれば、周囲の人に受け入れられ、社会に適応していくことが出来るようになります。

社会の変化によって、パーソナリティが障害になったり、ならなかったりすることもあるのでます。

 

 

引用・参考文献:
「図解 やさしくわかるパーソナリティ障害」 牛島定信著 ナツメ社 2012110

 

文責:吉本

 

現代型のパーソナリティ障害

 新たなパーソナリティ障害が登場する中で、従来型のパーソナリティ障害の中には、その患者さんが目立たなくなったものもあります。現代に即したパーソナリティ障害の分類を考えてみます。

 

重症度に応じた分類

 現在、パーソナリティ障害には、アメリカ精神医学会が作成したDSM--TR『精神疾患の分類と診断の手引き 新訂版』*に掲載されている10種類と、最近増加しつつあるサイクロイド・パーソナリティ障害、サイクロタイパル・パーソナリティ障害を含めた、全12種類があると考えられます。

 これらのパーソナリティ障害は、障害の重さ(精神病性のものから神経症性に移行する)に基づいて分類することができます。

*20169月現在、DSM-Ⅴが最新となります

 

病前性格型

 最も障害が重いのは、病前性格が元になっているパーソナリティ障害です。以下の5つが該当します。

統合失調症の病前性格

・スキゾイド・パーソナリティ障害

・スキゾタイパル・パーソナリティ障害

双極性障害の病前性格

・サイクロイド・パーソナリティ障害

・サイクロタイパル・パーソナリティ障害

・妄想性パーソナリティ障害

これらを病前性格型と分類します。

 

未熟性格型

 病前性格型と比較した場合、治療しやすく、他の精神疾患への進展のリスクが低いパーソナリティ障害のグループです。

 

 以下の4つのパーソナリティ障害が該当します。

・境界性パーソナリティ障害

・自己愛性パーソナリティ障害

・回避性パーソナリティ障害

・反社会性パーソナリティ障害

 これらのパーソナリティ障害は、生得的に本人が持ち合わせている性格に病的な要因があるわけではなく、発達過程に最近の文化的状況や、環境要因が関連し、人格が未熟なまま停滞している状態といえます。このことから、未熟性格型とします。

 

神経症型

 最も障害の程度が軽いグループに含まれるのが、以下の3つのパーソナリティ障害です。

・演技性パーソナリティ障害

・依存性パーソナリティ障害

・強迫性パーソナリティ障害

 これらのパーソナリティ障害は、神経症(ノイローゼ)と呼ばれる症状に近いものと捉えられます。ある程度の精神症状や身体症状が現れたとしても、現実社会への適応能力は比較的高く、社会生活における支障が小さいことも少なくありません。

 時代の変化と共に、現代の日本では、これら3つのパーソナリティ障害の患者さんは、あまり見かけなくなりました。こういった実態を踏まえた上で、病前性格型未熟性格型のパーソナリティ障害を中心に取り上げていきます。

 

 

引用・参考文献:
「図解 やさしくわかるパーソナリティ障害」 牛島定信著 ナツメ社 2012110

 

文責:吉本

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