2013年7月アーカイブ

 
外来精神療法
 治療者と治療同盟を築くのは根本的な目標です。
 支持的なスタンスは、患者に治療参加を促し、治療を継続するために必要です。
 治療関係は、患者がどのような問題を抱えているかを教える,患者の自己評価を高める,不安に対処することを援助する場となります。

精神力動的精神療法と精神分析
 精神力動的/精神分析的アプローチでは、意識的・無意識的なパターンに焦点が当てられます。
 転移に取り組んだり、治療関係そのものを対人関係のモデルに役立てたりします。

 BPD患者は長椅子に横たわる方法が合う人もいれば、困難な人もいます。

 表出的要素と支持的要素を組み合わせて行ないます。
 解釈を通して無意識の葛藤,思考,感情を明らかにしていく(表出的な介入)のが適切な場合もあれば、患者の対応能力を高めていく支持的アプローチが好ましい場合もあります。

 無意識についての話し合いは侵襲的なため、中には急激にパーソナリティの脆さを露呈させる人もいます。
 そこでは支持的で共感的なコミュニケーションによって、治療同盟を築いていくのが効果的でしょう。

 患者が表出的な介入に耐えられるようになるまで、相当の期間がかかるかもしれません。
 個々の状態に応じて、表出的介入と支持的介入を行ったり来たりしながら柔軟に対応することが求められます。

*「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」林直樹訳(星和書店)より

文責・稲本
 

BPDの要因

 
○性差
 DSM-Ⅳ-TRによると、BPDの男女比は1:3とされています。
 診断の偏りの可能性か、男女の生物的・社会的要因の違いの可能性があります。

 性差別のために、女性患者のほうにBPDの誤診が多いとしたら、診断的偏りが生じることになります。
 怒り以外のBPD診断基準が、若干女性に特徴的と見なされてしまいますが、男女の罹患率の違いを充分説明できていません。

 罹患率に性差があるとすると、生物的・社会的要因の結果でしょう。
 遺伝的影響による傾向(感情的であること,衝動性の強さ,ストレスに対する弱さ)は、女性において頻繁に見られます。
 性的虐待は、女性が男性より10倍多くあります。
 育てられ方の違いによって、ストレスに対して男の子は外向き・行動的に、女の子は内向き・感情的になるようになるのです。

○生まれと育ち
 BPDの確定診断が一致する確率は、一卵性双生児では35%ですが、二卵性双生児では7%です。
 感情的であることや衝動性も遺伝します。
 不安,感情不安定,認知的統制不全,同一性障害,不安定な愛着なども、かなりの遺伝性が認められます。
 これらから、BPDは遺伝的影響が強いことが窺えます。

 幼少期の不遇な経験(養育放棄,過剰なコントロール)も、BPDを含むパーソナリティ障害に関係があるとされます。
 しかしこれらはBPDだけに認められることではありません。
 幼少期の外傷的体験もBPD特有ではなく、虐待された体験のある成人の80%は何の精神障害も発症していないのです。

 遺伝的素質が環境的要因と相互に関係していると考えられます。
 脆弱性がある人は、ストレスに対してBPDを発症しやすくなります。
 また、素質的特性によってますます環境的ストレスに晒されることもあります。
 衝動性や感情不安定の気質があると、その子は虐待されたりし、衝動や感情の障害を生じる可能性が高まるのです。

*「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」林直樹訳(星和書店)より

文責・稲本
 

 
 2006年に星和書店から発刊された、「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」より要約・抜粋したものを、本日から紹介していきたいと思います。
 J・G・ガンダーソンとP・D・ホフマンによる編纂で、「BPD家族会」でもお世話になっている林直樹先生,および佐藤美奈子さんが訳されています。

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 境界性パーソナリティ障害の核心は、対人関係の障害,感情・情緒の統制不全,行動の統御不全または衝動性という、3つの基本障害からなっています。

 DSM-Ⅳの診断基準の他にも特徴があります。
 例えば、人から何を期待されているか分からないときに退行する傾向(子供じみた行動や期待を示す傾向)です。
 また、愛着関係を極めて不安定なものと感じており、現実の人間だけでなく、人間を連想させるもの(ぬいぐるみなどの移行対象)にもしがみつきます。

○何についての境界か? 

 BPDは非定型の(典型的ではない)感情障害ではないかという議論がありました。
 BPDに感情障害が合併することはありますが、感情障害だけでは、BPDの見捨てられ恐怖,特殊なタイプの対人関係,衝動性を説明できません。

 BPDの要因として幼少期の虐待や、PTSDの合併に関心が寄せられたこともあります。
 BPDとPTSDの共通性は明らかになっていますが、BPDの精神病理と機能障害は、PTSDの一種として理解するのは不可能だと考えられます。

 BPDが他の精神障害との境界に位置づけられるのではなく、独立した精神障害なら、「境界性」という名称はもはや有効ではありません。

 最もよく提唱されるのが、「感情統制不全障害」「感情統制障害」です。
 感情の不安定性がBPDの中心的な障害であるという考えです。
 この障害に、感情不安定性と衝動コントロール障害の両方があるという考えでは、「感情/衝動統制(不全)障害」が提案されています。

 しかしBPDの基本的な部分が把握されていないため、名称を決める科学的基盤がありません。
 BPDという名称はすぐには変わることはないでしょう。

*「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」林直樹訳(星和書店)より

文責・稲本
 

マインドフルネス・エクササイズ

 
(1)ひとつの対象に焦点を合わせる
 何か簡単な対象に心の焦点を合わせ、今この瞬間に留まるのに必要なエルギーに気付くことです。

 一人になることができて、テレビやラジオなど気が散るものがない場所を見つけます。
 くつろげる姿勢で、目は開けたまま、いつもと同じ呼吸を行なってください。
 はっきり見ることができる、近くのもの(強い感情を引き起こさないもの)を選んでください。

 3分間、その対象だけに注意を向けてください。
 あらゆる角度から見つめてください。
 手に取って、触れてみてください。
 においをかいでもいいでしょう。
 対象に関する様々な感覚的な情報を受け入れてください。

 心がさまよい始めたら、自分自身をつかまえて、対象に注意を戻してください。
 イライラしたり、自分を批判する必要はありません。
 ただ対象に戻ってくることを続けてください。

(2)自らの考えを監視する
 自分自身の心とその考えへの気付きを深めます。
 練習を重ねるにつれ、特定の考えに行き詰まったり、ストレスを感じたり、圧倒されることが少なくなるでしょう。

 気が散らない所で、楽な姿勢で椅子に座り、両足を床につけ、背筋を伸ばします。
 通常の呼吸を行ない、目は開けたままにします。
 5分間、考えることをやめてください。
 考えが浮かんできて、それが動き、流れ去るのを見つめてください。
 それにしがみついたり、押しのけようとしたり、判断したりしないでください。
 ただやって来て、去りゆくのに任せます。

 ある考えにとらわれてしまったら、ただそのことに気付いて、静かに心を観察してください。
 批判的になっていることに気付いたら、それに気付いたということだけで、心を観察する状態に戻ります。

 練習すれば、脅迫的な考えや心配事にとらわれなくなってくるでしょう。
 重要な関心事や活動に対して、より良く焦点を合わせることができるようになるのです。

*「境界性パーソナリティ障害=BPD」第2版(星和書店)より

文責・稲本

(以上)
 

マインドフルネス

 
 弁証法的行動療法(DBT)に欠かせないのがマインドフルネスです。
 このスキルはノン・ボーダの人にも有効です。

 マインドフルネスとは、判断を伴わない気付きです。
 判断したり、自分自身や自らの経験を批判することなく、自らの考え,感情,身体感覚,行動に--まさに今この瞬間に--気付いている能力」です。
 「中心いる」状態,「真の自己」との出会いと言う人もいます。

 マインドフルネスの目標は、強い感情と危険な振る舞いのパターンを認識し、より思慮深く、より衝動的でなく行動できるようにすることです。
 「賢明な心」、すなわち「理性的な心」と「感情的な心」のバランスが取れた状態を実践することです。
 人生をやってくるままに体験し、曖昧さやグレーの領域を良しとして認めることができます。

 理性的な心の状態では、感情は脇によけられ、計画に沿ったコントロールされた反応をします。
 感情的な心の状態では、事実は気持ちに合うように、または気持ちを承認する形で歪められてしまうかもしれません。

 懸命な心の状態では、感情と思考は共に働き、適切に、よりスムーズに行動します。
 マインドフルネスな状態にある時、人生のありのままに対して心を開き、それぞれの瞬間を、それが生じて過ぎ行くままに、完全に意識しています。

 自分自身や自分の状況や他人を批判しないことです。
 今ここに焦点を合わせ、将来や過去にとらわれるのを避けることができます。
 予測不能で混乱する行動に対処するのに役立ちます。

 マインドフルネスによって、白か黒かの考えによる感情のジェットコースターから離れられます。
 痛みに耐えたり、問題解決をよりうまく行ない、生活や人間関係で混乱したりストレスが少なくなるようです。

 ただし、マインドフルネスが目指すのは、深い幸福感や、ストレスや困難のない人生ではありません。

 マインドフルネスは誰もが身に付けられるスキルです。
 神秘的なことは何もありません。
 心が騒いでも、それが起こり、消え去るに任せます。
 繰り返し、今ここに戻ってくるのです。

 マインドフルネスにより、ストレスの多い状況に対して、よりバランスの取れた健全なやり方で、賢明に対処できるようになります。
 より良く決断し、人間関係を向上させ、リラックスする能力を最大限活用できるようになります。

*「境界性パーソナリティ障害=BPD」第2版(星和書店)より

文責・稲本
 

境界性パーソナリティ障害の治療

 
 BPDの新しい治療法が成功を収めています。
 ただし本人自身が、心から変わりたいと思うことが大切です。

○薬物治療
 薬物は、うつ,気分変動,解離,攻撃性,衝動性などの症状を緩和するのに役立ちます。
 医師には特別な訓練が必要です。
 抗精神病薬(ジプレキサ),抗うつ薬(ゾロフト,エフェクサー),気分安定剤(デパコート,ラミクタール)などがあります。

○心理療法
 自ら問題に取り組もうとするボーダーの人に、構造化されたプログラムが有効です。
 臨床家は特別な訓練が必要で、同じ障害を持つ仲間と交流の機会があることが、良い結果を生み出します。
(それは他の治療法も同様です。)

《弁証法的行動療法(DBT)》
 最も良く知られた、構造化されたBPDの治療法です。
 週1回のグループ・スキル・トレーニングに参加し、苦痛に耐えるスキル,感情を調節するスキル,対人関係のスキル,マインドフルネスを身に付けていきます。
 マインドフルネスはDBTの中核となるものです(後述)。

《メンタライゼーション(MBT)》
 一種の心理療法で、次のことに焦点を当てます。
・自らの思考と他者の思考を区別する
・思考,感情,願望,欲求が、いかに行動に繋がっているかを認識する

 患者とセラピストの交流を重視し、スキル・トレーニングを重視するDBTと異なる点です。
 目標は、他者との良い関係であり、感情や行動のコントロールを向上させます。

《スキーマ療法》
 「スキーマ」とは、子供時代に生存に関わるニーズが満たされなかった場合に起こりうる、自滅的で確立された生活パターンです。
 スキーマは生活の中で引き金を引かれ、その感情的引き金に過敏になり、自分を傷つけてしまいます。

 スキーマ療法の目標は、真の感情にアクセスし、自滅的なスキーマ・モードのスイッチを切り、対人関係の中で感情的なニーズが満たされるようにすることです。

《STEPPSグループ治療プログラム》
 「感情の予測と問題解決のためのシステムズ・トレーニング」で、伝統的な治療に追加して使われます。
 病気への気付き,感情を扱うスキル・トレーニング,行動を扱うスキル・トレーニングの3段階があり、家族が重要な役割を果たします。

*「境界性パーソナリティ障害=BPD」第2版(星和書店)より

文責・稲本
 

 
 BPDには単一の原因があるのではなく、幾つかの危険因子があります。
 生物学的な脆弱性に、問題の多い環境が組み合わされると、BPD発症の可能性が出てきます。

○生物学的な要因
 神経伝達物質レベルの機能不全は、衝動性や不安定な感情などの問題を引き起こすことがあります。

 脳の組織に障害が起こることもあります。
 扁桃体は感情のコントロールを司りますが、ボーダーの人はこの働きに支障があります。

 BPDを引き起こす単一の遺伝子があるわけではありません。
 BPDのリスクを高める遺伝子は、双極性障害,うつ病,物質使用障害,外傷後ストレス障害などを持つ人々の間で受け継がれているようです。

 BPDは脳の神経経路の不安定性によるものであり、問題行動は意図的でも計画的なものでもありません。

○環境的な要因
 BPDは子供時代に受けた虐待の結果だという神話があります。

 確かにボーダーの人の多くが、虐待,見捨てられ,ネグレクトなどの犠牲者である場合がありますが、全てのBPDの人ではありません。
 研究されているのは自殺や自傷傾向のあるBPDの人で、高機能の人々が抜け落ちています。

 また、虐待を受けたというのは自己報告であり、客観性が欠けています。

 しかし環境的な要因は、遺伝学的にBPDになりやすい人の、発症のきっかけとなるようです。
 これを「環境的な負荷」といいます。

 環境的負荷には以下のものが含まれます。
・効果的でない子育て
 不適切な育児スキルや精神疾患など、あらゆるもの
・安全でない、混沌とした家庭環境
・子供と親の気質が衝突すること
・養育者が突然いなくなったり、世話されなくなること
 新しい赤ちゃんが生まれることなども含む
 子供は自分が見捨てられたと感じる

*「境界性パーソナリティ障害=BPD」第2版(星和書店)より

文責・稲本
 

いま決断すること(5)

 
 「ここは私の居場所じゃない」のレイチェル・レイランド(BPD)が「ようこそオズへ」に投稿した文章を紹介します。

「セラピーなんて、受けないほうが良かったんじゃないかって思った。
 生まれつき不安定なアイデンティティに苦しんでいる人間にとって、自分の考えを一旦壊して、新しい考えが身に付かない間は、恐怖で押しつぶされそうになるの。

 何も存在しない闇の穴を覗き込んで、自分にはアイデンティティなんてあるのかと思った。
 幸い素晴らしいドクターや家族に支えられて、私はBPDから回復したの。

 この旅路を歩きたがらない人もいるでしょう。
 全てのノン・ボーダーの人が、ボーダーの人との関係を続けるべきだとも思わない。
 多くの場合は、自分を守って、人生を先に進むことが必要でしょう。
 でも、もっと親密で幸せな関係になれることもあるの。

 人には驚くほど優しくなれる能力がある。
 憎しみと同じくらい、愛情と優しさに満ちているわ。
 苦痛や葛藤にはすごく意味があったの。」

 知識を得るのは比較的たやすいことです。
 今度は、知恵です。
 以下のことや、様々なことが起こるでしょう。

・長年の信念や価値観に疑問を投げかける
・ずっと避けてきた問題に直面する
・ボーダーの人との間の暗黙の取り決めを見直す

 それらの過程で、あなたは自分が本当は何に価値を置いているのか,自分が本当はどういう人間なのか、見つけることができるでしょう。
 自分の気付かなかった強さを発見するでしょう。
 これ以上に大切なことは、人生にほとんどありません。

「自分自身に忠実になれば、必ずや人にも忠実になれる」(シェイクスピア)

*「境界性パーソナリティ障害=BPD」第2版(星和書店)より

文責・稲本
 

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