一般に、自傷行為は人の関心を集めるため,人を操作するためにすると思われています。
しかし自傷行為は隠されることがしばしばで、患者は自傷行為を深く恥じていることがよくあります。
自傷行為を図る前には、患者はほとんど孤立しています。
自傷行為の意図とその影響は区別すべきです。
患者は感情に圧倒され、人に与える影響を気付いていないことも多いのです。
けれども結果的に人の注目が集まると、元々感情の統制が目的だったのに、得られる関心が望ましくなり、自傷行為がやめられなくなることはあり得ます。
以下は、患者から報告される自傷行為のプラスの作用です。
・感情統制
極度の感情の緊張がほぐれて気分が良くなるように感じられます。
・注意をそらすこと
精神的苦痛を紛らわすために行なわれることがあります。
患者は自己陶酔に類似した体験として自傷行為に没頭します。
・自己懲罰
激しい羞恥心,後悔,自分が疎外されているという、耐えがたい状態からの救いになるのです。
・精神的苦しみの具体的な確認
目に見える証拠もないのに、自分が恐ろしく感じているのは信じがたいことです。
傷痕やあざは自分の精神状態を具体的に証明するものになります。
・感情を制御すること
患者は自傷をすると、でき事や感情を制御できると感じます。
他者の行動やでき事から生じる苦痛を制御しようとします。
・感覚麻痺と離人感の緩和
この働きを「現実回避」と呼びます。
BPDの人は、感情的に過剰な負担を抱くと、感覚麻痺や離人感の状態に陥るかもしれません。
自傷行為はそれを緩和させてくれる数少ない行為です。
・怒りのはけ口
自分を傷つけることで、怒りの感情を行動に移すのは、他人に向けて怒るより安全で、罪悪感が生じにくいと感じられます。
自傷行為のプラスの面として次のものがあります。
感情的な辛さを具体的な辛さに代える(59%),自分を罰する(49%),不安と絶望感を和らげる(39%),感情を制御できると感じる(22%),怒りを表出する(22%),感覚麻痺や離人感の緩和(20%),人に助けを求める(17%),嫌な記憶を消し去る(15%)
*「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」林直樹訳(星和書店)より
文責・稲本